蒼き風の突騎兵

北条丈太郎

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序章

最強のまま引退する突風ジャック

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 ジャック・リンゼイはRBレーサーとしては背の高い男だった。
 頬に切りつけられたような傷があったため、二四歳という年齢よりも老けて見られた。茶色の長髪は常にぼさぼさで、ヘルメット着脱の際にはいつも苦労していた。
「いいか、ハルマン。俺の最後のレースを見せてやる。このVTでぶっちぎりの一着をとるぞ。そうしたら引退だ。このVTはお前にくれてやる。よく見てろよ」
 ハルマンの頭を叩いてにかっと笑ったジャックの表情は晴れ晴れとしていた。
「ジャックさん、本当に引退するんですか? まだまだジャックさんが最強なのに……」
「言っただろ。突騎兵適性試験とやらに合格しちまったからよ。遊びは終わりだ」
 ジャックは愛車VTのエンジンを吹かし、車庫からレース場へと出て行った。
「……これでジャックさんは引退して軍人になっちまうのか、寂しいな」
 ジャックの後ろ姿を見送った誰かがぽつりと言った。レース場には観客の歓声が響き、RBレースの王者であるジャックを熱気で出迎えていた。
「なあハルマン。RBレースで勝ち続けると突騎兵になれるってのは本当なのか? 本来なら正式な適性試験を受けるんだろ? 一〇〇人に一人しか受からないってな」
「俺はよく知らないけど、ジャックさんが言ってることが本当ならそうなんだろ」
 レーサー仲間の質問にそっけなく答えたハルマンは車庫を出てレース場に行った。
「……先頭集団が4コーナーを回ってホームストレートに来ました。注目のジャック・リンゼイはいつもどおり中段からやや前方。三番手あたりをキープ!」
レース実況アナウンサーのテンションが次第に上がる中でレースは終盤を迎えた。
「来ました! 突風ジャック来ました! 直線一気! 一着でゴールイン!」
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