長いタイトル、くそ喰らえ。

mimikan

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ケンタウロスの善行14

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ミナトによって両脚を失い、血の海に倒れ伏したギルを囲むように、ミナト、ゴウキ、クロエ、そしてシズクがゆっくりと近づいた。

部屋には、血の匂いと、ギルの苦悶のうめき声だけが満ちている。

ゴウキとミナトに見下ろされ、ギルは虚ろな目で宙を見つめ、微かに震える声で呟いた。

「何故、俺ばかり……不幸なんだ……」

その声には、殺意ではなく、人生を呪うような悲哀が滲んでいた。

「皆、不幸になれ……俺だって必死だったんだ。俺は正しい……弱い奴が悪い……」

彼の言葉は支離滅裂になり始めている。

やがて、彼は視線をシズクに向け、血を飛ばしながら、最後の悪意を吐き出した。

「俺も死ぬが、お前も死ぬ。俺の解毒剤があっても、もう手遅れだ。ハイヒールポーションが無いと、お前は死ぬぞ!」

「お前はそんな高価なものは買えない。結局は金持ちが勝つんだ。金だ……」

彼は、シズクの母親の記憶を引っ張り出し、最後の力を振り絞って呪いをかけた。

「お前は、お前の馬鹿な母親を恨め……」

シズクは、その血に塗れた醜い姿を、ただ黙って見つめることしかできなかった。

その時、ゴウキの腕から離れていたクロエが、壁に突き刺さっていたギルのナイフを抜き、血塗れの手でそれを握り締めた。

クロエの瞳には、怒りと悲しみ、そして復讐心が燃え上がっていた。

「……お父さんとお母さんの仇をっ!」

クロエは、そのナイフをギルの心臓目掛けて、振り下ろそうとした!

「止めろ、クロエ!」

ミナトの冷徹な制止の声が響く。彼は、クロエの腕を掴み、その動きを止めた。

「放っておいても死ぬ。人を殺した後悔をするには若すぎる。後悔で苦しむよりも、恨み続けた方が、お前には少しはましだ」

彼女は力が抜け、ナイフを床に落とすと、その場に崩れ落ち、声を上げて泣き始めた。

その時、青白い光と共に、アイが静かに空間に出現した。

アイは、この緊迫した状況を気に留めることなく、合理的かつ事務的な口調で話し始めた。

「雰囲気を壊すようで申し訳ありませんが」

「解析結果は、避妊薬に混入していた毒の解毒剤として完璧です。この男はそれなりに知識もあり優秀だったようです」

彼女は、クロエの方向へその薬を投げる。クロエは反射的にそれを受け取った。

「いつ状態が急変するか分かりませんので、シズクさんは早く飲むべきです」

アイはさらに続ける。

「それにハイヒールポーションは、そこの飲んだくれ共のおかげで、ここにあるようです」

アイは、ゴウキのカバンからハイヒールポーションを取り出す

アイはそれをゴウキに投げつけた。

ギルは、もはや意識が途切れ途切れで、ハイヒールポーションの存在すら認識しているか分からない。彼の目には、血と涙と泥で汚れたシズクだけが映っていた。

「寒い……寒い……」

彼は、支離滅裂な言葉と寒い。を繰り返すだけだった。

シズクは、アイに渡された解毒剤と、ゴウキが受け取ったハイヒールポーションの二つを、震える手で掴んだ。

そして、ギルの最後の言葉を無視するように、ハイヒールポーションを飲み込んだ。

その姿を見たギルの表情が、一瞬だけ安堵と、何らかの達成感のようなもので歪んだ。

「シズク、体調は……どうだ?」

彼は、血の泡を吹きながら、最期の言葉を紡いだ。

「クロエには飯持ってきたぞ……金だ…強くならないと。強く……兄さん……」

ギルは、最期の瞬間に、彼自身の「守るべき存在」の幻を見たのだろうか。

彼の体は、その言葉を最後に、ピクリとも動かなくなった。彼の体から、命の熱が完全に失われた。

ギルは動かなくなった。

彼の最期の言葉は、シズクの体調を気遣うもの、そしてクロエに食事を、誰かを「兄さん」と呼ぶ、支離滅裂な、しかしどこか人間的な響きを持つものだった。

ゴウキは、自身の血で濡れた拳を力強く握りしめていた。

その腕のすぐそばでは、シズクがハイヒールポーションを飲み込み、静かに息を整えている。

ゴウキは、ミナトによって切断され、血の海に倒れ伏すギルの無残な遺体に視線を向けた。

そして、次に、同じくこの「下層」という闇に飲み込まれながらも、自分たちに出会うことで、かろうじて生き延びたシズクに視線を移した。

(チッ……)

ゴウキの胸には、強い怒りとは違う、鉛のような重い感情が澱んでいた。

(ギル……お前も、元は誰かに優しくしたかっただけなのか?)

ギルが最後に吐き出した、「俺だって必死だった」「弱い奴が悪い」という言葉、そして最期の瞬間に「兄さん」と呼び、クロエの心配をしたこと。

それが全て、彼が陥った悪意と絶望の深さを物語っていた。

もし、ギルがクロエとシズクに出会った場所が、この腐敗した下層ではなく、光の当たる場所であったなら。

もし、彼が最初に手を差し伸べたのが、犯罪組織ではなく、ギルドや自警団であったなら。

(出会う場所が、境遇が違えば……)

ゴウキは、思わずにはいられなかった。

ギルも、シズクも、クロエも、全てはこの国と、この街の「闇」が生み出した、似て非なる被害者であることに変わりはない。

ゴウキの心は、憎しみと、そして深い同情が交錯していた。しかし、その感情を表に出すことはない。

人の事をとやかく言える筋合いはないか。

ゴウキは深く息を吸い込み、思考を切り替えた。もう感傷に浸る時間は無い。

彼はシズクとクロエに向け、いつもの豪快さを取り戻すように、強い口調で声をかけた。

「もう、大丈夫だ。」
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