【R18】剣と魔法とおみ足と

華菱

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魔術符

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「ぁぁ~暑い~」
この暑さはきっと夏のせいだけではないだろう。
先ほどまで一緒にいたいたずらっ子の様な笑みを浮かべた彼女を思い出す。
はじめて会ったときは綺麗な人だと思った。
凛として大人びた印象だった。
今はかわいい人だなって思う。
チグサ嬢は最初の印象とは違って表情豊かな人だった。ころころと表情を変えるんだ。
ずるいと思う。
さっきもそうだ。照れて顔を真っ赤にしたと思ったら不意打ちでキスしてきて、いたずらが成功したかのような笑みを浮かべて……ドキドキしない訳がないだろう。

「ああ、もう可愛いな!」
シャワーを浴びながらが声にだしてみる。
シャワーの水音にかき消される声。高鳴る心臓の音も消えていくようだ。
そうやって心を落ち着かせる。教室で顔を会わせた際に真っ赤になってしまわないように。

朝練でかいた汗を流したあと軽く髪を拭いて制服に身を包んで寮の食堂へと向かう。

学生寮には各部屋に簡易的なキッチンが備え付けられており部屋で朝食をとることができるのだが、俺はいつも食堂を利用している。
無料だからだ。
朝食はビュッフェ形式だ。流石にメニューはそこまで多くないがそれでも何種類かの焼きたてのパンにスクランブルエッグやソーセージ、ポテト、サラダ等から好きなものを選べるうえに量も自由だ。
俺は朝食はガッツリ食べるタイプだから嬉しい。
それに朝練をはじめてからと言うものお腹がよく空くようになった。
俺はサラダにソーセージにスクランブルエッグ、皿にのせられるだけのせて席につく。
うん、美味い。
お腹もふくれたところで今日も頑張っていこうか。



今日は魔道具作成の授業だ。
通常の座学を行う教室の4倍はあるだろう広い教室だ。一人一人に与えられた作業スペースも広い。

「今日は中級攻撃魔法の魔術符スクロールをつくってもらう」



魔術符スクロールとは魔道具の一種である。簡単に言うと魔法を符に封じたものだ。
通常、魔法は上級にいくにつれて発動時間と必要魔力が多くなる。
そのため強力な魔法ほど戦いにおいて使うことは難しい。
そこであらかじめ媒体に術式を刻み魔力を込めておくことで戦いの際に僅かな魔力と起動言語を発するだけで魔法を発動できるようにしておくのだ。
魔法を封じる媒体に木製の符や羊皮紙が用いられているものを魔術符スクロールという。

課題は中級攻撃魔法ならなんでもいいとのことだったので参考書をパラパラとめくってどれにしようか考える。
おっ、これにするか。俺が選んだのは攻撃魔法【氷槍アイシクルランス】、文字通り氷の槍を形成し前方へと射出する中距離魔法だ。
その難易度はもちろん中級に位置する。

槍系統の魔法は氷以外に炎など他の属性もあるが何故氷槍にしたのかというとそこら辺は好みだ。
やっぱり氷属性ってカッコいいよね。

俺は参考書を見ながら羊皮紙に術式を刻んでいく。
あ、この回路、こないだ研究会でイサネ先輩に教わったところだ。
研究会で予習済みということもあってすらすらと描ける。

氷槍アイシクルランス】に必要な工程は3つ、氷を精製すること、槍を形作ること、前方へと射出することだ。
それぞれ意味のある魔法言語や図形を描いていく。
書き終わったところで一度ほんの少しだけ魔力を流してみて回路がちゃんと繋がっているか確認してみる。
よし大丈夫そうだ。あとは発動に必要な魔力を流し込んで完成だ。
額につたう汗を拭って一息ついているとチグサ嬢がトコトコっとやってきた。

「トーノさん、もうできたのですか?」
「はい、あとは魔力を籠めれば完成です」
「はやいですね、手先器用なんですね」

そう言って俺の背後から覗きこんでくる。
チグサ嬢の髪の毛が頬にあたって少しくすぐったい、それにシャンプーの香りだろうか?薔薇のような薫りがふわりと広がる。

「私、こういうのちょっと苦手でして……教えてくださいませんか?」
「いいですよ」
「ありがとうございます!ここなんですけど……」

チグサ嬢はそういって自分の作成途中の魔術符
スクロール
をみせてくる。するとさらに密着する訳で背中にふよんと柔らかなものがあたった。
俺は努めて冷静さを装いながら、席をずれてこちらへどうぞと椅子をトントンと叩く。チグサ嬢は微笑んで横に腰かけた。
作業台は広く二人で座ってもまだ余裕があったが教わりやすくするためだろうかチグサ嬢は膝と膝が当たるくらい密着して座った。


「ああ、これはですね……つまり、ここをこうして……」
「ああ、なるほど……ではここは?」
「はい、ここの射出の魔法言語が違いますね」
「あ、ほんとですね、では、ここをなおして……」



「よし!できました!ありがとうございます!」

チグサ嬢の魔術符が完成して、やりましたね、なんて笑いあっていると視線を感じた。

周りを見渡すとアルミ嬢がジドーとした目を俺たちに向けていた。
そんなアルミ嬢と目があうと、彼女はすたすたとこちらにやってきて、

「トーノ、私にも教えてくれないかしら?」

彼女はとびきりの笑顔でそう言った。しかし何故だろうか、心なしか笑顔がひきつっているようにも見える。

「ええ、もちろんです」
俺はそう答えた。

「ところで、二人ともちょっと距離近すぎないかしら?」
アルミ嬢は俺と俺の横にすわるチグサ嬢をみてそう尋ねる。

「そうでしょうか?私はいま、トーノさんから教わっていたので、このくらいの距離は普通では?」
「いえ、チグサ、ものを教わるのにそんなに密着する必要はないですよ、胸だってあたってるじゃないですか」
「私は気になりませんでした」
「淑女として慎みをもった方がいいですよ、ですから離れてください」
「申し訳ありません、姫様、嫌でごさいます」
「い・い・か・ら、離・れ・な・さ・い」

この授業では友達同し教え合うことは認められているが私語はダメだ。
二人もそのことはわかっているのだろう、あくまでも静かな声だが火花が散った気がして、胃が痛くなる。
ここにオトハまで加わったら大変だなとオトハを探すが彼女は自分の作業に集中していてこちらには気づいていないようでほっとする。

「それにいつの間にそんなに距離感が縮まったのですか、昨日まではそこまでではなかったですよね?」
アルミ嬢の言葉にチグサ嬢は頬を染めて、首筋に手をあてた。
そこで、何かに気づいたのだろう、アルミ嬢はスッとチグサ嬢の手をどけて首筋を覗く。
そこにはくっきりと残ったキスマークがあるのだろう。

「トーノ、これはどういうことかしら?放課後、しっかり説明してもらいますよ」

その言葉に俺はひきつった笑顔を浮かべるだけで精一杯だった。
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