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ハクレン防衛戦③
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一筋の槍となって敵を貫いた我らが姫がタンっと地面に降り立つ。
そして、振り替えって得意気に「ふふん」と髪をふぁさりとした。
さて、厄介な敵は倒したもののここは敵地の後方。
先程まで暴れまわっていた巨大蠍が倒されたからか、巨大蠍を恐れて近寄って来なかった下級の魔物たちが俺たちへにじりよってきた。
「囲まれる前に本陣へもどらないと」
双剣を構えながら魔物へ鋭い視線をなげるオトハ。
「トーノ」
アルミ嬢へ頷き返して、俺は腰の道具箱から拳大の青白く透き通った宝石を取り出す。
とっておきの高純度の魔力石だ。
帰り道をつくる為に温存していたそれをしっかりと握りしめ、魔力を練っていく。
そして、力ある言葉を紡いでいく、詠唱だ。
詠唱なしでも魔法は発動できる、そう訓練はしてきた。
けれども詠唱をして時間をかけて魔力を練り、イメージを補強し魔力に指向性を持たせることで威力が上がる。
無詠唱より発動時間がかかり、隙もできるが、大丈夫、俺は一人じゃない。
背中をオトハが、左右をそれぞれ、アルミ嬢とチグサ嬢が固めてくれている。
ただ信じて、詠唱を続ける。……あと少し。
「くぅッ」
!?
呻き声と、ぺちゃりと頬に伝う生暖かさ、
「チグサッ!!」
アルミ嬢の悲鳴。
……なにが起きた?
横目に見ると倒れ蹲るチグサ嬢、彼女の左肩から流れる血。
必死に回復魔法をかけるアルミ嬢。
なんだこれ?この状況を産み出した元凶は?
……あれは蠍の魔物?なんで?さっき倒したのに、
違う大きさが、あれは見上げるほどの巨大さはない、せいぜい人間サイズ。
別の魔物なのか?警戒していたチグサ嬢を、俺たちのなかで一番強い彼女の隙をつけた?
その尻尾には見覚えがあった。先程の二尾を持つ巨大蠍の最初に切り落とした方の尻尾だ。
二本の尻尾を持つ巨大な蠍の魔物ではなく、一体の巨大な蠍の魔物にもう一体の小さな蠍の魔物が融合していた?
「うあぁぁ!!!」
叫びながらオトハがその蠍を切り裂く。
俺は混乱しながらも詠唱を終え魔法の発動体勢にはいる。
深く息を吸って
「ーーー【極光】!!!」
煮えたぎる怒りと共に叫んだ。
役目を終えた魔力石が砕ける音と共に、光の奔流が前方の魔物を焼き尽くした。
城門までの道が拓けた。
「二人ともッチグサ様を連れて走って!」
俺はそう言うと反転し、門に背を向けて剣を抜く。
「トーノ!何を」
「殿は俺が!」
「何言ってるの!貴方も撤退するのよ!」
駄目だ、最大戦力のチグサ嬢が倒れた今、動けない人1人抱えて魔物の群の中を突破できない。
城門付近の魔物なら城からの援護があるが、後方から囲まれたら終わる。
だから誰かがこの魔物たちを引き付けないといけない。
「早く行って下さい、チグサ様は治療が必要です」
「で、でも」
「いいから、早くいけ!走れッ!!」
はじめて声をあらげた俺にビクッとしながらもキッと睨んで
「嫌です!絶対!」
俺はもう一度、アルミ嬢に強く言い聞かせようと、口を開いたとこで、
「わかったわ、行きますよアルミ様」
冷静な声でオトハが告げた。
「なっ!?」っとオトハを睨み付けるアルミ嬢を一瞥してからオトハは俺を見つめて
「後でお説教だから、逃げずにちゃんと受けにきなさい」
と冷たい声で言った、けれどその口調とは裏腹に彼女の拳は血が滲むほどに握りしめられていた。それにアルミ嬢も気がついたようで、静かにチグサ嬢を抱えて
「オトハさんお願いします」
二人は走り出した。
前方を走るオトハに続いてチグサ嬢を抱えたアルミ嬢が続く。
そして俺も彼女達に背を向けて走り出す。
俺は走りながら独り静かに呟く。
「……念のため、持ってきていて良かったな」
魔香、魔物の好む香りがする香水だ、覚悟を決めて自らに振りかける。
「うぉぉォォ!!!」
恐怖をおし殺すために雄叫びをあげ魔物へと突っ込んだ。
そして、振り替えって得意気に「ふふん」と髪をふぁさりとした。
さて、厄介な敵は倒したもののここは敵地の後方。
先程まで暴れまわっていた巨大蠍が倒されたからか、巨大蠍を恐れて近寄って来なかった下級の魔物たちが俺たちへにじりよってきた。
「囲まれる前に本陣へもどらないと」
双剣を構えながら魔物へ鋭い視線をなげるオトハ。
「トーノ」
アルミ嬢へ頷き返して、俺は腰の道具箱から拳大の青白く透き通った宝石を取り出す。
とっておきの高純度の魔力石だ。
帰り道をつくる為に温存していたそれをしっかりと握りしめ、魔力を練っていく。
そして、力ある言葉を紡いでいく、詠唱だ。
詠唱なしでも魔法は発動できる、そう訓練はしてきた。
けれども詠唱をして時間をかけて魔力を練り、イメージを補強し魔力に指向性を持たせることで威力が上がる。
無詠唱より発動時間がかかり、隙もできるが、大丈夫、俺は一人じゃない。
背中をオトハが、左右をそれぞれ、アルミ嬢とチグサ嬢が固めてくれている。
ただ信じて、詠唱を続ける。……あと少し。
「くぅッ」
!?
呻き声と、ぺちゃりと頬に伝う生暖かさ、
「チグサッ!!」
アルミ嬢の悲鳴。
……なにが起きた?
横目に見ると倒れ蹲るチグサ嬢、彼女の左肩から流れる血。
必死に回復魔法をかけるアルミ嬢。
なんだこれ?この状況を産み出した元凶は?
……あれは蠍の魔物?なんで?さっき倒したのに、
違う大きさが、あれは見上げるほどの巨大さはない、せいぜい人間サイズ。
別の魔物なのか?警戒していたチグサ嬢を、俺たちのなかで一番強い彼女の隙をつけた?
その尻尾には見覚えがあった。先程の二尾を持つ巨大蠍の最初に切り落とした方の尻尾だ。
二本の尻尾を持つ巨大な蠍の魔物ではなく、一体の巨大な蠍の魔物にもう一体の小さな蠍の魔物が融合していた?
「うあぁぁ!!!」
叫びながらオトハがその蠍を切り裂く。
俺は混乱しながらも詠唱を終え魔法の発動体勢にはいる。
深く息を吸って
「ーーー【極光】!!!」
煮えたぎる怒りと共に叫んだ。
役目を終えた魔力石が砕ける音と共に、光の奔流が前方の魔物を焼き尽くした。
城門までの道が拓けた。
「二人ともッチグサ様を連れて走って!」
俺はそう言うと反転し、門に背を向けて剣を抜く。
「トーノ!何を」
「殿は俺が!」
「何言ってるの!貴方も撤退するのよ!」
駄目だ、最大戦力のチグサ嬢が倒れた今、動けない人1人抱えて魔物の群の中を突破できない。
城門付近の魔物なら城からの援護があるが、後方から囲まれたら終わる。
だから誰かがこの魔物たちを引き付けないといけない。
「早く行って下さい、チグサ様は治療が必要です」
「で、でも」
「いいから、早くいけ!走れッ!!」
はじめて声をあらげた俺にビクッとしながらもキッと睨んで
「嫌です!絶対!」
俺はもう一度、アルミ嬢に強く言い聞かせようと、口を開いたとこで、
「わかったわ、行きますよアルミ様」
冷静な声でオトハが告げた。
「なっ!?」っとオトハを睨み付けるアルミ嬢を一瞥してからオトハは俺を見つめて
「後でお説教だから、逃げずにちゃんと受けにきなさい」
と冷たい声で言った、けれどその口調とは裏腹に彼女の拳は血が滲むほどに握りしめられていた。それにアルミ嬢も気がついたようで、静かにチグサ嬢を抱えて
「オトハさんお願いします」
二人は走り出した。
前方を走るオトハに続いてチグサ嬢を抱えたアルミ嬢が続く。
そして俺も彼女達に背を向けて走り出す。
俺は走りながら独り静かに呟く。
「……念のため、持ってきていて良かったな」
魔香、魔物の好む香りがする香水だ、覚悟を決めて自らに振りかける。
「うぉぉォォ!!!」
恐怖をおし殺すために雄叫びをあげ魔物へと突っ込んだ。
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