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ハクレン防衛戦②
しおりを挟む俺とアルミ嬢が前線にでる決意をしていると、
「仕方ない人は姫様もですよ、当然私もお供しますから」
「私も行きます!」
チグサ嬢とオトハも名乗りをあげた。
「もうッ二人とも」
俺たち四人は決意を込めた瞳でハイド副団長を見つめた。
彼ははぁ~と深くため息をつくと
「情けないことにそれが今できる最善に思えてしまいます、……頼みます」
俺たちは静かに頷いた。
改めて装備を整え幾つかの魔道具と治癒薬などを鞄に詰めて城門からでる。
隊列はチグサ嬢とオトハが前衛、中衛にアルミ嬢、後衛が俺だ。
身体強化をかけた肉体で駆けていく。
狙いは最後尾の巨大なサソリのみ、消耗しないようなるべく戦闘は避ける。
城壁からの射撃による援護のもと最小限の戦闘で前えと進んでいった。
騎士仲間たちが奏でる剣激と舞い散る粉塵のなか、魔物の群れをかき分けて前へと進む。
誰もが必死で闘っていた、守るために。
自分達の街を、大切な人を魔物なんかに蹂躙させないと、重く響く鋼の音に、叫ぶような詠唱、気高い雄叫びから伝わってくる。
そこに込められた力強い意志に背中を押されるように、魔物の群れを前にすくみそうになる足が一歩一歩前へと動く。
駆けて駆けて駆けて、迫り来る魔物を斬り、魔法で撃ち抜き、蹴散らして、遂に辿り着いた。
二本の尻尾を持つ巨大な蠍の魔物のもとへと。
俺達の接近に気がついたのだろう、目障りな羽虫を払うかのように鋏が振るわれる。
それは巨大蠍にとっては攻撃と呼ぶものでさえないだろう、しかし、その巨体故に俺達にとっては必殺であった。
氷の障壁を生成して俺達と巨体蠍の間にはる。
鋏とぶつかりギュインと不快な音が響く。
稼げた時間はほんの数秒。
パリンっと音をたてて氷壁が砕け散った。
煌めく氷が降り注ぐこんな状況でなければ幻想的な光景のなか、氷よりも美しい髪を靡かせた三人の戦乙女が閃光をはしらせる。
しかしその斬激は外骨格に阻まれてしまう。
「くっ、硬いッ」
「関節、外骨格の隙間を狙わないとダメね」
「じゃあ、もう一度」
攻撃を阻まれても闘志を燃やし続ける三人娘に俺も次の詠唱を開始する。
舞い上がる土埃の中、殺意の鋏を掻い潜り、斬激を与えていく。
全身に淀みなく流した魔力が常人には不可能な動きを可能にする。
俺は、轟音を伴い襲いかかってくる右の鋏による凪ぎ払いをバックスッテプでかわしながら、氷の槍を巨大蠍の眼球目掛けて放つ。
巨大蠍も二本の尻尾のうち一本を前に出して盾とする。
しかし、巨大蠍の尻尾と俺の氷の槍がぶつかった瞬間、氷の槍は霧散してしまった。
やはり、あの針には魔法を無効化する能力があるのか?
「くっ」
もう一本の尻尾が伸びて俺を貫かんと迫り来る。
その毒針を《硬化》をかけた剣の腹で受けるが吹っ飛ばされてしまう。
されど俺を攻撃するために伸びきった尻尾の付け根を狙いチグサ嬢がすかさず攻撃に撃ってでた。
チグサ嬢の攻撃に合わせて左右からアルミ嬢とオトハが中距離魔法で牽制をする。
「アイゼンフィート流剣術【水蓮】」
チグサ嬢は淡い蒼色の光を纏った剣で尻尾を切り裂いた。
GyiaaaAa!!!
怒り狂いチグサ嬢に狙いを定めた巨大蠍。
襲いくる両腕の挟みと毒針の嵐を、かわし時に剣で受け流し舞うように捌いていくチグサ嬢。
彼女が引き付けている間に三人で絶え間なく斬激を与えていくが、その硬い外骨格に阻まれ、決定打には至らない。
動き回る巨大蠍から、その外骨格の隙間を狙うのは困難だ。
だから、
「脚をとめる!【 水球 】」
水属性の初級魔法、空気中の水分を集めて球状にして打ち出すだけの魔法、巨大蠍にはダメージを与えることはおろか、気を引く事もできないものを巨大蠍の足元、地面へ向かって放つ。
何度も、何度も。
俺の意図に気付いたオトハが叫ぶ。
「私が尻尾を抑える!!」
オトハは斬激を放ちながらも並行して詠唱にはいった。
アルミ嬢の魔力が練られていくのを感じる。
チグサ嬢も俺に何か意図があるのだと、
巨大蠍を俺の魔法の範囲内に留める為の立ち回りをする。
猛攻の中で大きな回避もせず、移動を最小限に掻い潜り受け流していくチグサ嬢の傷が増えていく。
……チグサ嬢、あと少しだから、耐えてくれ
…… 水球 ッ……よしっ準備は整った!
十分に地面が水分を含んだところで俺は叫んだ。
「よし!行きますよッ!ーーー【深沼】」
土属性上級魔法【深沼】により巨大蠍の脚が泥に沈んでいく。
巨大蠍が泥に脚をとられてバランスを崩したところをオトハが側面から放った暴風の槍が襲う。
暴れ狂った風が渦を巻きその外骨格を穿かんとする。
そして彼女の狙い通り、尻尾が防御に回った。
……そして、正面に回っていたアルミ嬢の手には一本の槍が握られていた。
剣を媒介に練り上げた魔力を槍状に形成したものだ。
自らの身の丈を優に越える桜色の長槍を構えた彼女から放たれる闘気とその槍のエネルギーに死を感じた巨大蠍はアルミ嬢を殺さんと両腕の鋏で襲いかかる。
矮小な人間などかすっただけで死に至るだろう凶鋏に対してアルミ嬢は動じない。
何故ならば、彼女には最強の護衛がついているから。
露払いは私の役目ですと姫の前に躍り出たチグサ嬢がその凶鋏を弾く。
そして無防備に晒された巨大蠍の頸。
俺達が繋いだ一瞬の好機道。
我らがお姫様が悠然と歩む。
桜色の槍が閃光となり貫く。
その王者の一撃に、巨大蠍は頭を垂れたのであった。
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