【R18】剣と魔法とおみ足と

華菱

文字の大きさ
42 / 45

ハクレン防衛戦②

しおりを挟む

俺とアルミ嬢が前線にでる決意をしていると、

「仕方ない人は姫様もですよ、当然私もお供しますから」

「私も行きます!」

チグサ嬢とオトハも名乗りをあげた。



「もうッ二人とも」



俺たち四人は決意を込めた瞳でハイド副団長を見つめた。

彼ははぁ~と深くため息をつくと

「情けないことにそれが今できる最善に思えてしまいます、……頼みます」



俺たちは静かに頷いた。






改めて装備を整え幾つかの魔道具と治癒薬などを鞄に詰めて城門からでる。

隊列はチグサ嬢とオトハが前衛、中衛にアルミ嬢、後衛が俺だ。

身体強化をかけた肉体で駆けていく。

狙いは最後尾の巨大なサソリのみ、消耗しないようなるべく戦闘は避ける。

城壁からの射撃による援護のもと最小限の戦闘で前えと進んでいった。





騎士仲間たちが奏でる剣激と舞い散る粉塵のなか、魔物の群れをかき分けて前へと進む。

誰もが必死で闘っていた、守るために。

自分達の街を、大切な人を魔物なんかに蹂躙させないと、重く響く鋼の音に、叫ぶような詠唱、気高い雄叫びから伝わってくる。



そこに込められた力強い意志に背中を押されるように、魔物の群れを前にすくみそうになる足が一歩一歩前へと動く。



駆けて駆けて駆けて、迫り来る魔物を斬り、魔法で撃ち抜き、蹴散らして、遂に辿り着いた。



二本の尻尾を持つ巨大な蠍の魔物のもとへと。



俺達の接近に気がついたのだろう、目障りな羽虫を払うかのように鋏が振るわれる。

それは巨大蠍にとっては攻撃と呼ぶものでさえないだろう、しかし、その巨体故に俺達にとっては必殺であった。



氷の障壁を生成して俺達と巨体蠍の間にはる。

鋏とぶつかりギュインと不快な音が響く。

稼げた時間はほんの数秒。

パリンっと音をたてて氷壁が砕け散った。



煌めく氷が降り注ぐこんな状況でなければ幻想的な光景のなか、氷よりも美しい髪を靡かせた三人の戦乙女が閃光をはしらせる。



しかしその斬激は外骨格に阻まれてしまう。

「くっ、硬いッ」

「関節、外骨格の隙間を狙わないとダメね」

「じゃあ、もう一度」



攻撃を阻まれても闘志を燃やし続ける三人娘に俺も次の詠唱を開始する。



舞い上がる土埃の中、殺意の鋏を掻い潜り、斬激を与えていく。

全身に淀みなく流した魔力が常人には不可能な動きを可能にする。



俺は、轟音を伴い襲いかかってくる右の鋏による凪ぎ払いをバックスッテプでかわしながら、氷の槍を巨大蠍の眼球目掛けて放つ。

巨大蠍も二本の尻尾のうち一本を前に出して盾とする。

しかし、巨大蠍の尻尾と俺の氷の槍がぶつかった瞬間、氷の槍は霧散してしまった。



やはり、あの針には魔法を無効化する能力があるのか?



「くっ」

もう一本の尻尾が伸びて俺を貫かんと迫り来る。

その毒針を《硬化》をかけた剣の腹で受けるが吹っ飛ばされてしまう。



されど俺を攻撃するために伸びきった尻尾の付け根を狙いチグサ嬢がすかさず攻撃に撃ってでた。

チグサ嬢の攻撃に合わせて左右からアルミ嬢とオトハが中距離魔法で牽制をする。



「アイゼンフィート流剣術【水蓮】」

チグサ嬢は淡い蒼色の光を纏った剣で尻尾を切り裂いた。



GyiaaaAa!!!



怒り狂いチグサ嬢に狙いを定めた巨大蠍。

襲いくる両腕の挟みと毒針の嵐を、かわし時に剣で受け流し舞うように捌いていくチグサ嬢。



彼女が引き付けている間に三人で絶え間なく斬激を与えていくが、その硬い外骨格に阻まれ、決定打には至らない。

動き回る巨大蠍から、その外骨格の隙間を狙うのは困難だ。

だから、

「脚をとめる!【 水球アクアボール    】」

水属性の初級魔法、空気中の水分を集めて球状にして打ち出すだけの魔法、巨大蠍にはダメージを与えることはおろか、気を引く事もできないものを巨大蠍の足元、地面へ向かって放つ。

何度も、何度も。



俺の意図に気付いたオトハが叫ぶ。

「私が尻尾を抑える!!」

オトハは斬激を放ちながらも並行して詠唱にはいった。



アルミ嬢の魔力が練られていくのを感じる。



チグサ嬢も俺に何か意図があるのだと、

巨大蠍を俺の魔法の範囲内に留める為の立ち回りをする。

猛攻の中で大きな回避もせず、移動を最小限に掻い潜り受け流していくチグサ嬢の傷が増えていく。

……チグサ嬢、あと少しだから、耐えてくれ



…… 水球アクアボール  ッ……よしっ準備は整った!

十分に地面が水分を含んだところで俺は叫んだ。

「よし!行きますよッ!ーーー【深沼インスタントアビス】」

土属性上級魔法【深沼】により巨大蠍の脚が泥に沈んでいく。



巨大蠍が泥に脚をとられてバランスを崩したところをオトハが側面から放った暴風の槍が襲う。

暴れ狂った風が渦を巻きその外骨格を穿かんとする。

そして彼女の狙い通り、尻尾が防御に回った。





……そして、正面に回っていたアルミ嬢の手には一本の槍が握られていた。

剣を媒介に練り上げた魔力を槍状に形成したものだ。

自らの身の丈を優に越える桜色の長槍を構えた彼女から放たれる闘気とその槍のエネルギーに死を感じた巨大蠍はアルミ嬢を殺さんと両腕の鋏で襲いかかる。



矮小な人間などかすっただけで死に至るだろう凶鋏に対してアルミ嬢は動じない。

何故ならば、彼女には最強の護衛がついているから。

露払いは私の役目ですと姫の前に躍り出たチグサ嬢がその凶鋏を弾く。



そして無防備に晒された巨大蠍の頸。



俺達が繋いだ一瞬の好機道。

我らがお姫様が悠然と歩む。

桜色の槍が閃光となり貫く。



その王者の一撃に、巨大蠍は頭を垂れたのであった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...