【完結】月と羊 〜その声に恋をしていた〜

西宮裕華

文字の大きさ
11 / 33
第7章

親友(仮)のお節介(1)

しおりを挟む
「んで、どーいうことかなぁ?」

 公開実況の幕が下りた直後。
 控室のソファでペットボトルの水を一口飲んだ瞬間、四宮の顔が間近に迫ってきた。

「……近い。……なにが。」

「俺のカン、舐めんなよ? どんだけ一緒に実況やってると思ってんの。ラストの人狼、完全に上の空だったじゃん。あれ、集中してる顔じゃなくて“フリーズしてる”顔だからね。で? 何があったの、羊くん?」


 井口さんの所には奥さんとお子さんが来ている。
 齊藤さんは会場スタッフと談笑中だ。
 逃げ場はない。
 観念して、俺は静かに言葉を継いだ。


「……俺のセクションに、知ってる人がいて。目、あったんだ。……この前、動物園で……ちょっと、話した人」

「ふぅん?」

 四宮の目がぎらっと光る。
「“ちょっと”で、あの動揺はないっしょ?んで?」

「いや、だから……思ってもなかったっていうか……まさか来てるとは思わなくて。しかも隣に……男がいて…」

「……おっと。なんか話が見えてきたぞ。ってことはさ、もしかして、その“知ってる人”って……お名前は?」

「……月平さん――」

「はっ!よし、追おう!」

「は???」

「羊くんの担当セクションの観客は混雑対策で出口Cしか使わないって裏方さんが言ってた。行くよ、Cゲート!」


 そう言うや否や、四宮は俺の腕を引っ張って立ち上がらせる。こいつ、やたら行動が早い。

 四宮の素早い判断と行動力に背中を押され、俺たちは控室を飛び出した。


 関係者用通路を抜け、Cゲートへ急ぐ。
 出口のちょっと手前で、月平さんを見つけた。
 知らない男に話しかけられている。距離が近い。彼女が少し後退り、男が彼女の肩に触れようとしたのを見た瞬間、

「——月平さん!」

 ——無意識に声が出ていた。


 振り返った彼女の顔が、一瞬で緩む。驚きと安堵の入り混じった、なんとも形容しがたい表情。


「今日はありがとうございましたー!月平ちゃん、探したよー」と、四宮が笑顔で彼女の腕を自然に取り、こちらに引き寄せる。

(……俺だってまだ触れたことないのに)

 妙に場違いな感情が湧き上がるのを、苦笑いでごまかした。


「行こっか。こっち、関係者通路」

 相手の男は何も言えず、立ち尽くしていたが、俺と四宮はそのままスタッフ用の通路へと彼女を誘導した。


「初めまして!羊くんの大・親友の、セイでっす!」
 四宮がいつものテンションで自己紹介する。

「……いつから大親友だよ。何時何分何秒にそうなったんだ」

「もうぅ~、照れなくてもいいのにぃ?」

 彼女はまだ混乱しているようだったが、少しして状況を理解したのか、
「あの、ありがとうございます。助かりました。」と言ってぺこりと頭を下げた。

 目は合わない。
 でも、明らかにホッとした空気が伝わってくる。


「女の子が困ってたら助けるのが紳士ってもんでしょ~?それに俺、菜緒ちゃんには会ってみたかったんだよね! なんたって羊くんのひとめb——」

 ダンっ!!

「いったぁ!羊くん、足!踏んでる踏んでる!!」

「……あぁ、わりぃ。気づかなかったわ」

 口調は淡々と答えたが、内心は真っ赤だった。
 お前、今“一目惚れ”って言おうとしたよな。
 あと、「菜緒ちゃん」って。俺だってまだ名前呼びしたことないのに!!


 ふと、彼女が一人でいることに気づいた。

「あれ? 一緒に来てた人、いませんでしたっけ?」

「あぁ…、弟のことですか?……当直の時間が近くて、先に出ましたけど」

「……弟?」

 思わず言葉を漏らしてしまったが、なんとなく、胸が、少しだけ軽くなった。

 そこに、四宮が明るく切り出してきた。

「でさ!菜緒ちゃん、この後用事ある?」

「いえ、特には……」

「じゃあさ、打ち上げ、来ようよ! ぐっちさんの奥さんや娘さんもいるし、内輪だけの飲み会だから!気軽に!」

「えっ、でも……」

「いいのいいの! 来ちゃいなよ!ね、羊くん!」

「……ああ」


 そうして俺たちは気がつけば、彼女と共に打ち上げ会場の居酒屋の個室にいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎ 倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。 栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。 「責任、取って?」 噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。 手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。 けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。 看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。 それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...