10 / 33
第6章
ステージの上の彼
しおりを挟む
公開実況当選を握りしめ、私は小さく跳びはねた。
「うそ、ほんとに!?えっ、これって、同伴者1名までOK?……誰、誘おう?」
友人の夏美が浮かんだけど、彼女はゲームにあまり興味がない。
そこで、弟の拓実を誘うことにした。
彼はうちの病院の研修医。今は整形外科ローテ中。姉弟で同じ病棟にいるのは正直、ちょっとやり難い。
でも拓実もゲーム好きだし、GG4のファンだったはず。
動物園の日以来、日辻さんとはたまにLINEを送り合っていた。
気持ちよさそうに日向ぼっこする猫の写真が送られてきた時は、夜勤明けでへとへとの心もほっこり暖かくなった。
贈ってもらったチンチラは私の部屋の特等席に鎮座している。見るたびにあの日の楽しさを思い出させてくれる、私の癒しとなってくれていた。
Game Geek4公開実況の当日、会場に入ると、そこは熱気に満ちた別世界だった。
「すげぇな…まるでアイドルのライブじゃん。登録者数200万人って、伊達じゃないんだな」
拓実が感心したように言う。
ちなみに、拓実の推しはぐっちさん。天然でポンコツな一面と、鬼のようなゲームスキルのギャップがクセになるらしい。
そして歓声と共に始まったステージに登場したのは——Renさん、セイさん、ぐっちさん、そして……羊さん。
(うわぁ……やっぱり、生で見るとすごいな……)
会場の熱気は最高潮。四人のやりとりはテンポがよく、どの瞬間も笑いが途切れない。
ただ、4人で実況しているわけではない。1+1+1+1が10にも100にもなることを、彼らを観ていると感じられた。
大画面でのゲームを観戦し、セイさんのハイテンションに乗せられ、リアルイケメンのRenさんがスマートに進行、ぐっちさんの天然発言で皆、大盛り上がりだ。
そして羊さんのコメント回収力、言葉選びのセンス、時に刺すような鋭さに、観客全員が引き込まれていった。
そんな中、ふと、動物の話題になった時。
羊さんの表情が一瞬、跳ね上がるように見えた。
その笑い方、トーン、言い回し。
(……あれ?この感じ……どこかで……)
そう感じた次の瞬間、まさか、と思いながらも、ドクンと胸が鳴った。
あの日、動物園で夢中で語っていた日辻さんの顔がステージの上の羊さんに重なった。
自分の中で、信じられないような、でもどこか納得するような気持ちが広がっていく。
そして最後のコーナー「観客参加型•人狼」。
羊さんが、ステージの上に立った。私の席から3メートルの距離。セイさんとマイクで会話している。
(……やっぱり……)
黒縁眼鏡の奥の瞳も、落ち着いた口調も、笑い方も。たった一日だったけど、一緒に過ごしたから、覚えてる。
——あれは、間違いなく日辻智士さんだ。
信じられなかった。
信じたくないわけじゃない。
むしろ、どこか誇らしい気持ち。でも、ステージの上で堂々と話す彼の姿は、手が届かない人のように感じて、胸がギュッと苦しくなる。
不意に彼が観客席の方に顔を向けた。
目が合った——気がした。
一瞬、時間が止まったような感覚。
でも彼の表情は変わらない。
「羊くーん、なんか音声来てないよー?」
「……あぁ、悪い悪い。観客さんの札見るのに集中しちゃったわ!」
そして何事もなかったように、公開実況は進行し、大歓声の中、幕を閉じた。
私は彼から目が離せなかった。彼を見つめたまま、気がついたら、ペンギンのキーホルダーを強く、強く握りしめていた。
「うそ、ほんとに!?えっ、これって、同伴者1名までOK?……誰、誘おう?」
友人の夏美が浮かんだけど、彼女はゲームにあまり興味がない。
そこで、弟の拓実を誘うことにした。
彼はうちの病院の研修医。今は整形外科ローテ中。姉弟で同じ病棟にいるのは正直、ちょっとやり難い。
でも拓実もゲーム好きだし、GG4のファンだったはず。
動物園の日以来、日辻さんとはたまにLINEを送り合っていた。
気持ちよさそうに日向ぼっこする猫の写真が送られてきた時は、夜勤明けでへとへとの心もほっこり暖かくなった。
贈ってもらったチンチラは私の部屋の特等席に鎮座している。見るたびにあの日の楽しさを思い出させてくれる、私の癒しとなってくれていた。
Game Geek4公開実況の当日、会場に入ると、そこは熱気に満ちた別世界だった。
「すげぇな…まるでアイドルのライブじゃん。登録者数200万人って、伊達じゃないんだな」
拓実が感心したように言う。
ちなみに、拓実の推しはぐっちさん。天然でポンコツな一面と、鬼のようなゲームスキルのギャップがクセになるらしい。
そして歓声と共に始まったステージに登場したのは——Renさん、セイさん、ぐっちさん、そして……羊さん。
(うわぁ……やっぱり、生で見るとすごいな……)
会場の熱気は最高潮。四人のやりとりはテンポがよく、どの瞬間も笑いが途切れない。
ただ、4人で実況しているわけではない。1+1+1+1が10にも100にもなることを、彼らを観ていると感じられた。
大画面でのゲームを観戦し、セイさんのハイテンションに乗せられ、リアルイケメンのRenさんがスマートに進行、ぐっちさんの天然発言で皆、大盛り上がりだ。
そして羊さんのコメント回収力、言葉選びのセンス、時に刺すような鋭さに、観客全員が引き込まれていった。
そんな中、ふと、動物の話題になった時。
羊さんの表情が一瞬、跳ね上がるように見えた。
その笑い方、トーン、言い回し。
(……あれ?この感じ……どこかで……)
そう感じた次の瞬間、まさか、と思いながらも、ドクンと胸が鳴った。
あの日、動物園で夢中で語っていた日辻さんの顔がステージの上の羊さんに重なった。
自分の中で、信じられないような、でもどこか納得するような気持ちが広がっていく。
そして最後のコーナー「観客参加型•人狼」。
羊さんが、ステージの上に立った。私の席から3メートルの距離。セイさんとマイクで会話している。
(……やっぱり……)
黒縁眼鏡の奥の瞳も、落ち着いた口調も、笑い方も。たった一日だったけど、一緒に過ごしたから、覚えてる。
——あれは、間違いなく日辻智士さんだ。
信じられなかった。
信じたくないわけじゃない。
むしろ、どこか誇らしい気持ち。でも、ステージの上で堂々と話す彼の姿は、手が届かない人のように感じて、胸がギュッと苦しくなる。
不意に彼が観客席の方に顔を向けた。
目が合った——気がした。
一瞬、時間が止まったような感覚。
でも彼の表情は変わらない。
「羊くーん、なんか音声来てないよー?」
「……あぁ、悪い悪い。観客さんの札見るのに集中しちゃったわ!」
そして何事もなかったように、公開実況は進行し、大歓声の中、幕を閉じた。
私は彼から目が離せなかった。彼を見つめたまま、気がついたら、ペンギンのキーホルダーを強く、強く握りしめていた。
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
看病しに行ったら、当主の“眠り”になってしまった
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全36話⭐︎
倒れた当主を看病する役目を振られた使用人リィナは、彼の部屋へ通うことになる。
栄養、灯り、静かな時間、話し相手――“眠れる夜”を整えていく。そして、回復していく当主アレクシス。けれど彼は、ある夜そっと手を握り返し、低い声で囁く。
「責任、取って?」
噂が燃える屋敷で、ふたりが守るのは“枠(ルール)”。
手だけ、時間だけ、理由にしない――鍵はリィナが握ったまま。
けれど、守ろうとするほど情は育ち、合図の灯りはいつしか「帰る」ではなく「眠る」へ変わっていく。
看病から始まった優しい夜は、静かな執着に捕まっていく。
それでも、捕獲の鍵は彼ではなく――彼女の手にある。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる