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第11章
抜け殻の心
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あの、波乱の公開実況から一週間が経った。
月平さんには——連絡できてない。連絡も来ない。
実況配信者にとって、投稿を落とすことは致命的だ。それだけは守っていた。毎日の動画アップは、もう歯磨きみたいなものだから。手が勝手に動く。でも、心は——抜け殻だった。
水族館にも、動物園にも行っていない。
あの日の、驚いた彼女の目が、今でも瞼に焼きついている。
「どうして教えてくれなかったの?」
もしそう問われたら、俺は——何と答えられる?
怖かった。でも、本当は——会いたかった。
彼女の顔が、見たかった。ただ、他愛もない話をして、一緒に笑っていたかった。
彼女のことが、どうしようもなく愛おしかった。
けれども日々は過ぎていく。
今日も動画を収録して、簡単な編集を終え、ふと気づく。今日はGG4の打ち合わせの日だった。次の公開実況に向けての、企画会議。身体をなんとか持ち上げて、ファミレスへと向かった。
「で、やっぱボードゲーム企画は強いよね」
「協力系も捨てがたいよなぁ、この前の公開実況でも評判よかったし」
「カード系は企画通すには弱いか?でもグダグダになるのもそれはそれでウケそう」
四人でテーブルを囲んで、あーでもないこーでもないと意見を交わす。
俺は明らかに普段より口数が少なかったと思うが、誰もそれを責めなかった。むしろ、他の三人が自然に空気を作ってくれていたのが、居心地がよかった。
「じゃあ、その方向で一旦台本組んでみるわ」
「助かる」
「ごめん、俺このあと娘の習い事あるから先に出るわ」
「俺はちょっと寄りたいとこあるんで」
井口さんと四宮が先に出ていき、駅へ向かう道を、齊藤さんと二人で歩いていた。
この人と二人になると正直、ちょっと緊張する。
何故って、この人、見た目が良すぎる。イケメンオーラが強すぎるのだ。ただ歩いてるだけで女性たちが、(老若問わず)振り返る。
(この人、実はホタルの化身で、光で女性を引き寄せてるのか?もしくは発情期のシカみたいに色気をフェロモンとして漂わせてるんじゃ?)
そんな発想さえ浮かんでくる。
「……今、なんか失礼なこと考えてただろ」
図星すぎて返す言葉もない。
「いや、別に……」
「顔に“絶対なんかおかしい”って書いてあった。まぁいいけど」
駅のホームで電車を待ちながら、齊藤さんが不意に口を開いた。
「……あのさ、俺、明日、月平さんと会うんだ」
その名前を聞いた瞬間、俺の中でなにかが跳ねた。心臓が音を立てた。
「あの打ち上げで会ったときにさ、いい子だなって思って。……で、明日、告白しようと思う」
——え?
一瞬、聞き間違えたかと思った。
「アシタ、コクハクシヨウトオモウ」
その音の羅列を、意味として捉えるまでに、かなりのタイムラグがあった。
いや、捉えたくなかったのかもしれない。
「羊くんが最初に見つけたのは知ってる。でも、こういうのって早さじゃないでしょ。大事なのは、お互いの気持ちだから」
齊藤さんは続けた。
「一応、羊くんには伝えておこうと思って」
そう言って、俺が乗るのとは反対方向の電車に、あっさりと乗って行ってしまった。
……取り残された。
しばらく立ち尽くしていた。何をどう考えていいかわからないまま。電車の音、アナウンス、周囲の話し声——すべてが遠くに感じた。
気がついたら、家のドアの前だった。帰ってきたらしい。記憶があいまいだ。
スマホを手に取ってみる。彼女に連絡したい。けど、何を言えばいい?
「Renさんと会うって本当ですか?」
「Renさんのこと、どう思ってますか?」
そんなこと聞いて、「好きですよ」なんて返ってきたら、きっと自分は——立ち直れない。
そのまま、ベッドに倒れ込み、眠りに逃げた。
月平さんには——連絡できてない。連絡も来ない。
実況配信者にとって、投稿を落とすことは致命的だ。それだけは守っていた。毎日の動画アップは、もう歯磨きみたいなものだから。手が勝手に動く。でも、心は——抜け殻だった。
水族館にも、動物園にも行っていない。
あの日の、驚いた彼女の目が、今でも瞼に焼きついている。
「どうして教えてくれなかったの?」
もしそう問われたら、俺は——何と答えられる?
怖かった。でも、本当は——会いたかった。
彼女の顔が、見たかった。ただ、他愛もない話をして、一緒に笑っていたかった。
彼女のことが、どうしようもなく愛おしかった。
けれども日々は過ぎていく。
今日も動画を収録して、簡単な編集を終え、ふと気づく。今日はGG4の打ち合わせの日だった。次の公開実況に向けての、企画会議。身体をなんとか持ち上げて、ファミレスへと向かった。
「で、やっぱボードゲーム企画は強いよね」
「協力系も捨てがたいよなぁ、この前の公開実況でも評判よかったし」
「カード系は企画通すには弱いか?でもグダグダになるのもそれはそれでウケそう」
四人でテーブルを囲んで、あーでもないこーでもないと意見を交わす。
俺は明らかに普段より口数が少なかったと思うが、誰もそれを責めなかった。むしろ、他の三人が自然に空気を作ってくれていたのが、居心地がよかった。
「じゃあ、その方向で一旦台本組んでみるわ」
「助かる」
「ごめん、俺このあと娘の習い事あるから先に出るわ」
「俺はちょっと寄りたいとこあるんで」
井口さんと四宮が先に出ていき、駅へ向かう道を、齊藤さんと二人で歩いていた。
この人と二人になると正直、ちょっと緊張する。
何故って、この人、見た目が良すぎる。イケメンオーラが強すぎるのだ。ただ歩いてるだけで女性たちが、(老若問わず)振り返る。
(この人、実はホタルの化身で、光で女性を引き寄せてるのか?もしくは発情期のシカみたいに色気をフェロモンとして漂わせてるんじゃ?)
そんな発想さえ浮かんでくる。
「……今、なんか失礼なこと考えてただろ」
図星すぎて返す言葉もない。
「いや、別に……」
「顔に“絶対なんかおかしい”って書いてあった。まぁいいけど」
駅のホームで電車を待ちながら、齊藤さんが不意に口を開いた。
「……あのさ、俺、明日、月平さんと会うんだ」
その名前を聞いた瞬間、俺の中でなにかが跳ねた。心臓が音を立てた。
「あの打ち上げで会ったときにさ、いい子だなって思って。……で、明日、告白しようと思う」
——え?
一瞬、聞き間違えたかと思った。
「アシタ、コクハクシヨウトオモウ」
その音の羅列を、意味として捉えるまでに、かなりのタイムラグがあった。
いや、捉えたくなかったのかもしれない。
「羊くんが最初に見つけたのは知ってる。でも、こういうのって早さじゃないでしょ。大事なのは、お互いの気持ちだから」
齊藤さんは続けた。
「一応、羊くんには伝えておこうと思って」
そう言って、俺が乗るのとは反対方向の電車に、あっさりと乗って行ってしまった。
……取り残された。
しばらく立ち尽くしていた。何をどう考えていいかわからないまま。電車の音、アナウンス、周囲の話し声——すべてが遠くに感じた。
気がついたら、家のドアの前だった。帰ってきたらしい。記憶があいまいだ。
スマホを手に取ってみる。彼女に連絡したい。けど、何を言えばいい?
「Renさんと会うって本当ですか?」
「Renさんのこと、どう思ってますか?」
そんなこと聞いて、「好きですよ」なんて返ってきたら、きっと自分は——立ち直れない。
そのまま、ベッドに倒れ込み、眠りに逃げた。
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