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第7章:あなたとの未来
カイル
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「……リディ!」
その声が、張りつめた静寂を裂いて響いた。
リディアが振り向き、手を伸ばした先。
白い空間の裂け目の向こうから、力強い大きな手が伸びてきた。
2人の手が触れ、世界ごと引き戻されるような衝撃が走った。次の瞬間、リディアは固い胸の中に包みこまれていた。
「カイル……来てくれたの……?」
呆然と呟くリディアの声が、かすれる。
強張っていた心が、彼の熱で一気に解けていった。
「よかった……」
低い声でつぶやかれる。
「お前、消えたりしないよな? どっか遠くへ行っちまうんじゃ、ないよな……?」
カイルの声も低くかすれていた。肩がわずかに、震えている。
その腕は力強くリディアを抱きしめていた。片手がリディアの後頭部を、もう片方の手がその背中を引き寄せる。胸が押しつぶされるような圧迫感。しかしそれが心地よく感じられた。
「リディ……」
名前をささやく声が、どんな言葉よりも痛々しく、切実に響いた。
「言っただろ。お前が……もし、どっかへ行っちまうなら、俺も一緒に行くから、って」
その声は彼の心の一番奥から絞り出されるようだった。気持ちをぶつけるように、彼の言葉が紡がれる。
「勝手にどっか行っちまうんなら、何があっても追いかけるからな。離したくないんだよ……!」
その時、カイルの脳裏にはある光景がよぎっていた。それは卒業式で星縁幕から放たれた光の中で見た、夢とも幻ともつかないもの。
光の中でカイルは“リディア”と“カイル”が織りなす人生を見た。まるで物語を読むような、他人事のような世界。自分の知っているようで知らない世界。
王太子妃候補となった彼女が、次第に傲慢な態度を見せ、わがまま令嬢として眉をひそめられ、孤立していく姿。
そんな彼女に、もう“幼馴染のリディ”はどこにもいないんだ、と背を向けてしまった自分。
最後に、学園からもこの国からも追放されることになったリディアの姿が、白いもやの中へ呑まれていく。
物語の外側から、カイルは彼女の名を叫んだ。だが、その声は音になることはなく、誰にも届かず消えていった。追放され、去っていく彼女の背中を見送ることしかできなかった。
その世界には、カイル一人しかいなかった。
消えていくリディアの姿が、カイルの心に“救えなかった”後悔となって突き刺さった。
(どうして、声をかけてやれなかった……!)
(どうして、信じてやれなかったんだ……!)
(自分だけは、あの優しくて頑固で、真っ直ぐなリディを知っていたのに……!)
目の前で繰り広げられた、幻のような“もしもの未来”が、恐怖となって心臓を鷲掴みにした。
(こんなの……受け入れられるわけ、ないだろ!)
リディアの笑顔が、声が、姿そのものが、自身の中からこぼれ落ちていくことだけは、どうしても容認できなかった。
あんな未来、あんな“幕引き”だけは、許せない。絶対にあっちゃならない——
そんなカイルの想いがリディアを抱きしめる力強さになった。リディアはそんな彼の温度に包まれ、ほっと息を吐く。
(あぁ、どうして彼の温もりはこんなにも安らげるんだろう)
「……カイル、ごめんなさい。心配、かけたよね」
リディアのつぶやきが、あの幻で喪失感しかなかったカイルの胸に、穏やかで確かな温もりとなって沁みわたる。
ぎゅっと背中へ回される彼女の細い腕の力が、カイルの身体を一瞬強張らせた。
しかしその直後、カイル自身も力を増してその身を包みこんでいた。
「……謝んなよ、リディ」
吐息まじりの声が、耳元で低く響く。
「お前がお前で、俺の腕の中にいてくれれば、それだけでいい」
そしてほんの少しだけ身を離し、リディアと目線を合わせ笑った。
彼の瞳は強く、澄み渡って輝いていた。
「俺、やっとわかった」
そう言って、真っ直ぐリディアを見つめる。
「お前が笑うだけで、どんな未来も乗り越えられるから」
その言葉と共に、笑うカイルの表情が、リディアの心を締めつけた。
「リディ。俺……お前が好きだ」
彼の声は低く、確かだった。
「子どもの頃からこの気持ちだけは、変わらなかった。ずっと、ずっと——」
低い、確かな安心できる声がリディアの胸に沁み込んできた。
「これからも、絶対に好きでいる。だから……一緒にいてくれ、リディ。俺、もうお前を見失わない。もう、離さないから」
その言葉が、リディアの胸をぎゅうっと締めつけた。
(やっぱり彼は彼だ。どんなルートであっても、どんな未来であっても、カイルの優しさと真っ直ぐさだけは、きっと、ずっと変わらない。それが嬉しくて、愛おしい)
ふふっ、と笑ってリディアは彼を見上げた。
涙が溢れてきたけれど、これは悲しみじゃない。あたたかい涙だった。
「あなたってほんとに、子どもの頃から変わらない。不器用で単純で呆れるくらい真っ直ぐで……でも、あたたかい」
「それ、褒めてるのか?」
カイルが目を細め、笑いながら聞く。
「えぇ、7:3くらいで褒めてるわ」
まるでいつかの仕返しのようなやり取り。そのやり取りに、互いの肩から力が抜けていく。
“ここが帰る場所なんだ”と思えた瞬間だった。彼の鼓動に触れて、胸の奥の不安がひとつずつ溶けてくのが感じられる。
(そんなあなただから、私はあなたのことが——)
リディアもカイルを真っ直ぐに見つめ、口を開いた。
「ありがとう……カイル。私も、あなたが好き。あなたの隣が、私は一番自然でいられるの。ここが私の居場所だって。ここにいて、いいんだって。そう思えるの」
それを聞いた瞬間、カイルの中で張り詰めていたものが、静かに、優しく解けていった。
ただ“リディ”と共にある未来が、カイルの中で確かな輪郭となる。
カイルの瞳がふっと緩み、リディアの頬にそっと触れた。彼の唇が額へ、次いで頬へ。彼に触れられるたびに安心が広がる。
そして最後にゆっくりとリディアの唇に重なった。
それは、優しくて、熱くて。どんな未来も共に生きていこうという、誓いのキスだった。
唇が離れた後、カイルの瞳の中で、未来が静かに芽吹き、きらめいているのがわかる。
「リディ、これからも一緒にいよう」
そう呟く声が、春先のやわらかな風のように、リディアの心へと穏やかに満ちていった。再び抱きしめてくる彼の腕の力強さが確かな未来を示しているように感じられた。
(これが私の幸せ。この腕に包まれてなら、どんな未来だって怖くない。ただ……、少し苦しいかも?)
「あの……カイル? ちょーっと力緩めてくれる? 流石に息できない……」
「えっ! あっ! わっ、悪い!」
慌てて身を離そうとする彼の姿にリディアは思わず吹き出してしまった。そんな彼女の笑う顔にカイルの顔も自然と優しく微笑んでいた。
「リディ、笑い過ぎ」
「ふふっ、ごめんなさい。でも、嬉しくて」
(なんか締まらないけど……でも、こんなやりとりが私たちらしくて、幸せで。それに彼の腕の温もりとキスが、何よりの約束の証)
世界が再び息を吹き返すように、白い空間に光が差し込む。光の向こうに見慣れた学園の校舎が見えた。
2人の歩む未来が、ここから静かに始まっていく。
その声が、張りつめた静寂を裂いて響いた。
リディアが振り向き、手を伸ばした先。
白い空間の裂け目の向こうから、力強い大きな手が伸びてきた。
2人の手が触れ、世界ごと引き戻されるような衝撃が走った。次の瞬間、リディアは固い胸の中に包みこまれていた。
「カイル……来てくれたの……?」
呆然と呟くリディアの声が、かすれる。
強張っていた心が、彼の熱で一気に解けていった。
「よかった……」
低い声でつぶやかれる。
「お前、消えたりしないよな? どっか遠くへ行っちまうんじゃ、ないよな……?」
カイルの声も低くかすれていた。肩がわずかに、震えている。
その腕は力強くリディアを抱きしめていた。片手がリディアの後頭部を、もう片方の手がその背中を引き寄せる。胸が押しつぶされるような圧迫感。しかしそれが心地よく感じられた。
「リディ……」
名前をささやく声が、どんな言葉よりも痛々しく、切実に響いた。
「言っただろ。お前が……もし、どっかへ行っちまうなら、俺も一緒に行くから、って」
その声は彼の心の一番奥から絞り出されるようだった。気持ちをぶつけるように、彼の言葉が紡がれる。
「勝手にどっか行っちまうんなら、何があっても追いかけるからな。離したくないんだよ……!」
その時、カイルの脳裏にはある光景がよぎっていた。それは卒業式で星縁幕から放たれた光の中で見た、夢とも幻ともつかないもの。
光の中でカイルは“リディア”と“カイル”が織りなす人生を見た。まるで物語を読むような、他人事のような世界。自分の知っているようで知らない世界。
王太子妃候補となった彼女が、次第に傲慢な態度を見せ、わがまま令嬢として眉をひそめられ、孤立していく姿。
そんな彼女に、もう“幼馴染のリディ”はどこにもいないんだ、と背を向けてしまった自分。
最後に、学園からもこの国からも追放されることになったリディアの姿が、白いもやの中へ呑まれていく。
物語の外側から、カイルは彼女の名を叫んだ。だが、その声は音になることはなく、誰にも届かず消えていった。追放され、去っていく彼女の背中を見送ることしかできなかった。
その世界には、カイル一人しかいなかった。
消えていくリディアの姿が、カイルの心に“救えなかった”後悔となって突き刺さった。
(どうして、声をかけてやれなかった……!)
(どうして、信じてやれなかったんだ……!)
(自分だけは、あの優しくて頑固で、真っ直ぐなリディを知っていたのに……!)
目の前で繰り広げられた、幻のような“もしもの未来”が、恐怖となって心臓を鷲掴みにした。
(こんなの……受け入れられるわけ、ないだろ!)
リディアの笑顔が、声が、姿そのものが、自身の中からこぼれ落ちていくことだけは、どうしても容認できなかった。
あんな未来、あんな“幕引き”だけは、許せない。絶対にあっちゃならない——
そんなカイルの想いがリディアを抱きしめる力強さになった。リディアはそんな彼の温度に包まれ、ほっと息を吐く。
(あぁ、どうして彼の温もりはこんなにも安らげるんだろう)
「……カイル、ごめんなさい。心配、かけたよね」
リディアのつぶやきが、あの幻で喪失感しかなかったカイルの胸に、穏やかで確かな温もりとなって沁みわたる。
ぎゅっと背中へ回される彼女の細い腕の力が、カイルの身体を一瞬強張らせた。
しかしその直後、カイル自身も力を増してその身を包みこんでいた。
「……謝んなよ、リディ」
吐息まじりの声が、耳元で低く響く。
「お前がお前で、俺の腕の中にいてくれれば、それだけでいい」
そしてほんの少しだけ身を離し、リディアと目線を合わせ笑った。
彼の瞳は強く、澄み渡って輝いていた。
「俺、やっとわかった」
そう言って、真っ直ぐリディアを見つめる。
「お前が笑うだけで、どんな未来も乗り越えられるから」
その言葉と共に、笑うカイルの表情が、リディアの心を締めつけた。
「リディ。俺……お前が好きだ」
彼の声は低く、確かだった。
「子どもの頃からこの気持ちだけは、変わらなかった。ずっと、ずっと——」
低い、確かな安心できる声がリディアの胸に沁み込んできた。
「これからも、絶対に好きでいる。だから……一緒にいてくれ、リディ。俺、もうお前を見失わない。もう、離さないから」
その言葉が、リディアの胸をぎゅうっと締めつけた。
(やっぱり彼は彼だ。どんなルートであっても、どんな未来であっても、カイルの優しさと真っ直ぐさだけは、きっと、ずっと変わらない。それが嬉しくて、愛おしい)
ふふっ、と笑ってリディアは彼を見上げた。
涙が溢れてきたけれど、これは悲しみじゃない。あたたかい涙だった。
「あなたってほんとに、子どもの頃から変わらない。不器用で単純で呆れるくらい真っ直ぐで……でも、あたたかい」
「それ、褒めてるのか?」
カイルが目を細め、笑いながら聞く。
「えぇ、7:3くらいで褒めてるわ」
まるでいつかの仕返しのようなやり取り。そのやり取りに、互いの肩から力が抜けていく。
“ここが帰る場所なんだ”と思えた瞬間だった。彼の鼓動に触れて、胸の奥の不安がひとつずつ溶けてくのが感じられる。
(そんなあなただから、私はあなたのことが——)
リディアもカイルを真っ直ぐに見つめ、口を開いた。
「ありがとう……カイル。私も、あなたが好き。あなたの隣が、私は一番自然でいられるの。ここが私の居場所だって。ここにいて、いいんだって。そう思えるの」
それを聞いた瞬間、カイルの中で張り詰めていたものが、静かに、優しく解けていった。
ただ“リディ”と共にある未来が、カイルの中で確かな輪郭となる。
カイルの瞳がふっと緩み、リディアの頬にそっと触れた。彼の唇が額へ、次いで頬へ。彼に触れられるたびに安心が広がる。
そして最後にゆっくりとリディアの唇に重なった。
それは、優しくて、熱くて。どんな未来も共に生きていこうという、誓いのキスだった。
唇が離れた後、カイルの瞳の中で、未来が静かに芽吹き、きらめいているのがわかる。
「リディ、これからも一緒にいよう」
そう呟く声が、春先のやわらかな風のように、リディアの心へと穏やかに満ちていった。再び抱きしめてくる彼の腕の力強さが確かな未来を示しているように感じられた。
(これが私の幸せ。この腕に包まれてなら、どんな未来だって怖くない。ただ……、少し苦しいかも?)
「あの……カイル? ちょーっと力緩めてくれる? 流石に息できない……」
「えっ! あっ! わっ、悪い!」
慌てて身を離そうとする彼の姿にリディアは思わず吹き出してしまった。そんな彼女の笑う顔にカイルの顔も自然と優しく微笑んでいた。
「リディ、笑い過ぎ」
「ふふっ、ごめんなさい。でも、嬉しくて」
(なんか締まらないけど……でも、こんなやりとりが私たちらしくて、幸せで。それに彼の腕の温もりとキスが、何よりの約束の証)
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