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一章
三話 敵か味方か
しおりを挟むーーーーくるなら来い……!
私はうしろに下がりつつ、アザーズの手元に集中した。
自然の摂理に逆らう雷のごとく、男の手のひらから発せられた電気がこちらに向かって伸びてくる。
「…………ッ!」
横に飛んで、どうにか回避。
つづいて二発目も、床に転がってよけることに成功した。
「チッ、ちょこまかと鬱陶しい!」
襲いかかる雷をかわすたび、かわりに攻撃が直撃した壁やら天井やらが音を立てて崩れる。
ボロボロになっていく店内は、いつ崩れてもおかしくない。
ちらり、裏口の方を見ると瑞樹だけが残っていた。
ーーーあの子……まだいたの!?
カップルが見つかったのかはわからないけれど、今は私を心配そうに見ている。
このままじゃ彼女も危ない。
『私はいいから、アンタは早く逃げなさい』
目でそう告げる。
瑞樹はためらった様子を見せたあと、迷いを振り切るようにして店を出て行った。
ほっとしたのもつかの間。
アザーズの男が三発目の雷撃を繰りだす。
瑞樹に気を取られていたせいで、つい反応が遅くなってしまった。
今から動いても、たぶんよけきれないだろう――。
ああ、一瞬でも気を抜いた自分が恨めしい。
家族のために、ぜったい死なない。
そう決意したのに……!
迫りくる黄色い閃光が、まるでスローモーションのようにゆっくりと見える。
――――もう、ダメだ。
闘志に燃えていた心がぽっきりと折られ、絶望感と恐怖心がこみ上げてきた。
たえきれずに思わず目をつむる。
数秒。
いや十秒以上たっても、痛みはおとずれなかった。
「あれ?」
おそるおそる目を開けると、長い黒髪が視界にうつる。
「……怪我はありませんか?」
整った顔に冷や汗を浮かべ、こちらを振り返る女はーーーー例の美形カップルのひとりだった。
血だらけの腹を抑えている女を見つめながら、私はぼんやりと呟く。私はぼんやりと呟く。
「どう、して」
状況がのみ込めない。
いつの間にか姿を消したと思ったら、いきなり現れて私を庇った。
しかも……。
即死してもおかしくない怪我を負っているにもかかわらず。
意識があるままで。
私とアザーズの男の間に立ちふさがる形で立っている。
――――いったい、何がどうなってるの……!?
狼狽する私を安心させるように、黒髪の美女はふっと笑む。
「もう大丈夫ですよ」
彼女は優しい声音で言うと、動揺しているアザーズの男に向き直った。
そして先ほどとはうって変わって、凛とした声を響かせる。
「――――吉田聡。通称“サンダー”。貴方はここでお仕舞いです」
サンダーと呼ばれたアザーズの男は、女の発したひとことに合点がいったらしい。青ざめた顔でうしろずさった。
「『メイト』……!」
本気で相手しなければ負ける。そう思ったのか、両手に電気をまとうサンダー。
「……さっきの攻撃で生きているってことは、『不死』の能力者ってところか?」
「ええ」
彼は短く答えた女に軽蔑の眼差しを向け、嘲笑するかのように言った。
「……俺たちと同じく特殊能力を持ちながら、凡人の味方をしている異端者の集まりがいるって噂は本当だったんだな」
(特殊能力…………)
そうか。だから、瀕死の重傷でも立っていられるんだ。
ようやく、ひとつ謎が解けた。
でもまだまだわからないことだらけ。
味方になってくれる超能者の存在を、なぜ誰も知らないのだろう?
不思議な力を使える人は、もれなく『アザーズ』なのだと皆が思っている。
特殊能力を持つ者=悪。
それが今の日本において常識。
……なのに、そうではなかったというの?
「無駄な抵抗はやめて、大人しく…………っ」
歩こうとしてよろめいた黒髪の女に、警戒していたサンダーに余裕が戻る。
は……手ごわいと聞いてたからビビっちまったが、大したことないみたいだな。
再生力も遅いし、そんなんでどうやって俺を捕まえる気だ?
私も聞きたい。
傷口が塞がる気配はまったくないし、今にも倒れそうに見える。
勝算があるようには思えない。
おっしゃる通り、わたしひとりなら勝ち目はないでしょうね。
ですが、頼れる相棒がいますので問題ありません
そのセリフではっとする。
驚きの連続で、一瞬忘れてしまっていた。
――――彼女には連れがいたことを。
「何が相棒だ。作戦を無視して飛び出したクセに」
不機嫌な声とともに、粉塵の中から外国人が姿をあらわす。
(わ……)
近くで見ると、ずいぶんと背が高い。
おまけにスタイルも完璧で、金色の髪がきらきらと輝いて。
この世のものと思えないほど美しい外見は、異性に興味のない私をも圧倒するほどだった。
「ごめんなさい、ハルさん。やっぱり見殺しになんてできなくて……身体が勝手に動いてしまいました」
「まったく君というやつは」
おかげで奇襲作戦が台無しじゃないか」
って、ちょっと待って。
今のセリフもしかして……私を囮にしようとした!?
――――なんてヤツ!
見た目は最高だけど、中身は最悪だな!
雷野郎がさっき、『メイト』は人間に味方する超能力者といっていたけれど、少なくともこの外国人は違うようだ。
金髪男を恨めしげに見る私をよそに、黒髪の美女が言いにくそうに口を開く。
「あの……でもハルさん。不意打ちを狙うなら、わたしがアザーズを相手にしている隙に攻撃をすればよかったのでは?」
「君が僕の存在をほのめかしたりしなければ、成功していただろうな」
「はっ!
そ、そうですよね!
もうひとりいるなんて言ったら、よけいに敵が警戒しちゃいますよね……すみません」
黒髪の女はいい人だけれど、抜けたところがあるらしい。
金髪男も呆れ顔で天然ボケを炸裂した相棒に告げる。
「もういい。
君はオレンジ頭の娘と一緒に離れていろ。
そこまでの深手だと、まともに動けるまで数時間はかかるだろうしな。あとは僕ひとりでやる」
「お願いします。……さあ、貴女はわたしとこちらに」
そう言った黒髪の女に手をひかれて、少し離れた場所へと移動する。
店から出ないのは、仲間を置いていくわけには行かないだろうけれど……私は部外者。
ただ巻き込まれただけだ。
「……さっきは庇ってくれてありがとう。アナタには感謝してるけど、私にできることはないしもう外に避難してもいい?」
尋ねると、
「いいえ、それは困ります。ここにいてください」
という返答が。
「何で!?」
「わたしたちのことを知られてしまったからです」
「どうして知られちゃまずいわけ。
よくわからないけど、まさか口封じに殺すとかじゃないよね?」
「え!?
そんなことしませんよ!」
片方の手で腹の傷を抑え、空いている方の手をぱたぱたと顔の前で振る黒髪の女。
たしかに、命がけで(死なない体質のようだけど)助けておきながら、殺すなんて理屈に合わない。
「じゃあ、何でここにいなきゃいけないの?
「ハルさんに記憶を消してもらうためですよ。……彼の能力は、特殊な銃弾によって相手の記憶操作をすることなんです」
信じがたいことを口にしながら、黒髪の女は彼女の相棒に視線をうつす。
私のことを囮にしようとしたいけすかない外国人は、一丁の小型銃を手にしながらアザーズの男の攻撃を器用によけていた。
「えーと、つまり……あいつがアザーズを倒すのをここで待って、そのあと私も撃たれろと」
「はい」
穏やかに微笑んだあと、女は慌てて言葉をつけ足す。
「あ。撃たれるといっても、ほとんど痛くありませんから怖くないですよ。
消せる記憶もごく短時間なので、脳への影響も心配ありませんし!」
ーーーーなるほど。
先に私の記憶を消さなかったのは、戦闘が長引いた時のことを考えてのことだったのか。
必死に安心させようとする女の言葉から、さっさと記憶を消さなかった事情を察した。
あの外人の方はともかく、こっちの人は信用しても大丈夫そうだけれど……
何の確証もなく、撃たれるのはあまりにリスクが高すぎる。
「誰にも言わないって約束しても、見逃してくれない?」
「こちら側の都合で申し訳ありませんが、どうしても必要な手続きなので無理です」
「もし逃げたら?」
「力づくで止めるしかありません」
力づくって……そんなふらふらな状態じゃ無理だ。
逃げることは難しくないだろう。
でも。
ーーーー怪我をしたのは、私のせいでもあるんだよね……。
命の恩人を困らせるわけにはいかないし…………仕方ないか。
彼女の言葉にしたがえば解放されるという ならば、このまま大人しくしていよう。
私はあきらめの息を吐いて、近くのソファ席に腰をおろした。
「ちょっとこっちきて」
自分の隣を叩き、女に座るよう促がす。
「えっと……?」
「アナタの身体の仕組みがどうなってるのかわからないけど、止血くらいはしておいた方がいいでしょ。
手当てするからこっちきて」
制服のエプロンを脱ぎながら告げると、女はためらいがちに私の横に座った。
「あ、ありがとうございます……」
「礼なんていいよ、もともと私のために怪我したんだし。
っていうか、顔色が悪いわりに平気そうにしてるけど……痛くないの?」
細く折ったエプロンを、腹の傷にきつく巻きつけながら尋ねると、
「慣れてしまったのでしょうね。あまり痛くは感じません」
何とも恐ろしい答えが返ってきた。
きっと、過去に数えきれないほどの大怪我を負ってきたのだろう。
「死なないからって、あまり無茶しちゃダメだよ」
私はじんわりと血のにじむ布から目を離し、女の顔を見て告げる。
「いくら自分が大丈夫でも、アナタを大事に思っている人はきっと悲しむ。
だからお願い。自分のことをもっと大事にして」
「え?」
戸惑っているような声。私は苦笑してからつづけた。
「……なんて、初対面の人間にいきなり言われても困るよね。
今の言葉、弟の受け売りなんだ」
「弟さんの……」
「うん。
私も結構無茶しちゃうタイプで、あまり自分を顧みなかったんだけど、そう叱られてから考えをあらためたの」
あれは昔、弟の風船を取るために木登りした時のこと。
うっかり落ちて大怪我した私に、あの子が泣きながら言った。
『風船があったって、お姉ちゃんが元気じゃなきゃ嬉しくない』
『お姉ちゃんが痛くないって言ったって、僕の心は痛いよ……!』
――――と。
たったひとりだけど、私にでさえ心から愛してくれる存在がいるのだ。
こんなに綺麗で、優しい彼女なら、大事にしてくれている人がたくさんいるに違いない。
恵まれているからこそ、そういう人たちの気持ちを大切にしてほしいと思った。
「…………そうですね。気をつけます」
誰かを思い出すような間をあけてから、女がにっこりと笑う。
ちょうどその時、
「おい、終わったぞ」
気絶しているアザーズを引きずりながら、外国人が私たちのところへやってきた。
「そいつ、どうするの?」
「君には関係ない。
説明したところで、どうせ忘れることになるんだからな。
“詠”から話は聞いているんだろう?」
「聞いてるけど……」
何もそんな言い方しなくたっていいじゃない。
心の中で文句をたれる私を尻目に、腹の立つ外人はアザーズの襟首から手を離す。
そして、片手に持っている銃をこちらに向けてきた。
「なら、今から君を撃とうとしている意味も理解しているな?」
「してる。本当は嫌だけど、どうしてもそうする必要があるんでしょ」
「そうだ」
無愛想に返事をして、男が撃鉄を起こす。
ガチャリ、音がして弾倉が回転する。
「う、うっかり間違って殺したりしないでよね」
「心配するな。僕の腕はたしかだ」
言葉と裏腹に、思いやりのかけらもない無表情。
男が冷たい瞳で私を捕らえ――――
――――引き金を引く。
パン!
乾いた音が聞こえると同時に、鈍い痛みを額に感じた。
次の瞬間、身体から力が抜けて、隣にいた女――――詠の方に倒れる。
「……っと」
優しく私を受け止めた詠が、そっとソファに横たえてくれた。
「あの……手当してくださってありがとうございました。色々気にかけてくれて嬉しかったです」
返事をしようとするも、上手く口を動かせない。
それに、まぶたがひどく重たい。
ゆっくり目を閉じると、誰かと電話をしている外人男の声が聞こえてきた。
「ああ、僕だ。ターゲットを倒したから、早いところ引き取りに来てくれ。
……それと、記憶を消した民間人をおいて行く。目が覚めたら家まで送ってやってほしい」
――――相手は誰だろう。
『メイト』の仲間だろうか。
「一般人を巻き込むなだと?
ふん。僕のやり方に不満があるなら、自力でアザーズを倒すことだな――――『COT』の隊長さん」
『COT』?
対アザーズ特殊部隊と連絡してるの?
協力関係にあるみたいだけど……どうして『メイト』は、世間に存在を隠していのだろう。
まったく意味がわからない。
難しいことを考えるのは苦手だし……何より無性に眠い。
まあ――――どうせ忘れるんだし、どうでもいいか。
薄れゆく意識の中、私の耳に届いたのは。
「すぐ助けが来ますから、安心して眠っていてください」
という詠の言葉と、
「おい。『COT』の奴らが来る前にさっさと引き上げるぞ、詠」
外人男の冷たい声。
それから、店を出て行くふたり分の足音だった。
……to be continued
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