追放された多武器使い、一人で邪神を倒しに行く

秋鷺 照

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2章 加護を得ていく

2-5 邪神討伐隊と巫女

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 翌日、邪神討伐隊は夕方に村へ入った。目的の遺跡がある村だ。
「ここで一泊しようか」
 アレアが提案し、皆は賛同を示した。
 この道中、隊長はずっと話を切り出すタイミングに悩んでいた。そして、未だに話せずにいる。レイスに呆れていた自分のなんと滑稽なことか、と自嘲した。
 村の周りを流れる川沿いに歩く。なかなか大きな村だ。家は少ないが、広大な農地がある。中心には小さな森があった。
 川は夕焼けを映し、薄らと赤くなっている。夜の訪れを逃すまいとするかのように、ゆっくり静かに流れていく。
 そんな川の土手に、幼い少女が座っていた。邪神討伐隊のいる場所の前方、歩いて50歩くらいの位置だ。
「危ねーなぁ」
 ジャンが呟いた時。
 少女の体が、ぐらりと前に傾ぎ……そのまま、川へと吸い込まれた。
「っ⁉」
 ジャンは瞠目し、駆け出した。

 少女が落ちたあたりに着いたジャンは、迷わず川へ飛び込んだ。土手からの高さはかなりあり、水面に当たった衝撃が体を打ち据える。
(くっ……)
 水中で目を開けると、沈んでいく少女の体が見えた。川は予想以上に深く、自分の身長の倍はある。
 泳いで少女を抱え、浮き上がろうとするが、上手くいかない。
(槍が邪魔だ!)
 川底を蹴って水面に出るつもりだったが、この深さではそうはいかないだろう。
「ジャン!」
 上の方からフィリーの声がした。かと思うと、目の前に鞭が垂れ提げられた。
(掴めってことか⁉)
 この鞭は、レイスのものだ。やたらと丈夫で、切れない鞭。
 少女を左手に抱え直し、右手で鞭を掴んだ。

 土手の上では、隊長とアレアが鞭を持ち、その腰をフィリーとレイスが持っていた。
「せーの!」
 アレアの掛け声で、4人同時に引っ張る。そのまま後ろへ下がり続けていると、土手の下から
「もう大丈夫だ!」
 と声がした。同時に抵抗が無くなり、4人は後ろへずっこける。
 そんな4人のところに、30歳くらいの女が近付いてきた。きょろきょろと辺りを見回している。誰かを捜しているように、不安そうな表情で。
 その女は、川に落ちた少女と同じ、烏の濡れ羽色の髪をしていた。

 川縁に上がり、鞭から手を離したジャンは、少女の背中を叩いた。少女は大きく咳き込み、水を吐き出す。
 少女は気を失ったままだが、大丈夫そうだ。ジャンは少女を背負い、階段を上がって土手に出た。
 そこでは、邪神討伐隊の皆と、1人の女が待ち構えていた。女は言う。
「娘を助けて頂きありがとうございます。私は冥府の巫女、名をエフェルレメリアと申します」


「あの子はしょっちゅう家を抜け出すのです」
 村の中心にある森の中央には、大きな平家があった。そこがエフェルレメリアの家である。邪神討伐隊の5人は、礼としてその家に招待された。
 娘を奥の部屋で寝かせ、エフェルレメリアは夕食を人数分用意した。食べながら事情を話そうと。
「川は危ないから近付かないよう、言ってはいるのですが……務めがあるため、見張っている訳にもいかず」
「あの子が川に行く理由は分かっているのかい?」
 アレアが尋ねた。エフェルレメリアは言い辛そうにしていたが、意を決したように口を開いた。
「私には、娘が2人いました。20日ほど前、1人が……あの子の妹が、消えたのです」
「消えた?」
 フィリーの困惑の声に、エフェルレメリアは頷く。
「そう、消えたのです。あの子は、妹が儀式に失敗したのだと言っていました。そのせいで、空間が歪み、そこに吸い込まれたのだと……」
 5人はぽかんとした。突拍子もない話だ。意味がよく分からない。
 ジャンは苛立ったように舌打ちする。
「儀式って何だ?」
「儀式については話せません。ただ、あの川でおこなっていたはずです。だからあの子は川に行くのでしょう」
「ジャン、何をそんなにイライラしてるの?」
 フィリーが怪訝そうに聞いた。エフェルレメリアと会ってからずっと、ジャンはこんな調子である。
 尚、フィリーは機嫌が良い。夕食が美味しいのだ。柔らかな肉がごろっと入ったスープ、ふわふわのパン。野菜サラダはスパイスが効いて、とても好みの味だ。
 だから余計に、ジャンの態度が不思議だった。他の隊員も同様に、ジャンの態度を訝しんだ。
 ジャンは嘆息し、パンを口に放り込む。
「……おいらの妹も、川で溺れかけたことがあるんだ。だから、ちゃんと見張っとけよって思って……ちょっと過敏になった。悪いな」
「こちらこそ、申し訳ありません。……儀式については話せませんが、折角なので私の仕事をお話ししますね」
「待ってくれ」
 隊長が口を挟んだ。
「まず、巫女とは何かから説明してほしい」
「……知らないのですか?」
 意外そうに言うエフェルレメリアに、隊長は大きく頷いた。
「初めて聞いた」
 そんな隊長をジャンは呆れたような目で見て、フィリーとアレアは苦笑した。
 エフェルレメリアは説明を始める。

 この国には、「巫女」と呼ばれる一族がいくつか存在する。「冥府の巫女」はその中のひとつだ。
 巫女は神と交信することができ、神の仕事の一部を肩代わりしている。
 冥府の巫女の仕事は、主に冥府の維持管理。冥府を作ったり、死者を生き返らせたりする。

「えっ⁉」
 フィリーが驚きの声を上げた。アレアも
「生き返らせるだって……⁉」
 と驚愕している。
「誰でも生き返らせられるのかい⁉」
「いえ、強者または清い魂かつ、死後5年以内でないと……それに、生き返らせるためには代償と本人の死体が必要です」
「なぁんだ」
 アレアは少しがっかりした声で言った。ジャンも残念そうに
「……駄目だろうなぁ」
 と呟いた。
「……5年、か。無理ね。残念だわ」
 フィリーは指で何かを数えた後、苦笑を浮かべて言った。
 そんな3人の様子を、隊長は複雑な思いで眺める。ふと視線を移すと、レイスは黙々と料理を食べていた。その表情は悲しげだ。
「代償について聞いても良いだろうか」
 隊長の言葉に、エフェルレメリアは首を振る。
「その都度違います。神に尋ねなければ分かりません。ただ、普通の人間1人に賄えるものではないのは確かです」
「それにしてもさ」
 アレアがエフェルレメリアを見て言う。
「そんな力が知れ渡ったら、人が殺到して大変じゃないかい?」
「あまり知られないようにしています。知っているのは、国の要人くらいでしょう」
 その言葉に、ジャンは目を丸くした。
「……それって、国家機密ってやつじゃ……おいら達に言って良かったのかよ」
「娘の命の恩人ですから、このくらいは」
 エフェルレメリアは平然と答えた。


 邪神討伐隊はこの家で一泊することになった。大きな部屋で、5人は雑魚寝する。
「そういやさ、おいら達の知名度ってどれくらいかな」
 ジャンが呟いた。フィリーは目を瞬かせる。
「知名度? そんなの無いんじゃない?」
「ああ、おいら達っていうか、邪神討伐隊の、だな。どういう隊か知られてるのかなって、ふと思ってさ」
「んー……邪神を倒すってくらいかな?」
「いいや、そうでもないね」
 アレアが口を挟んだ。
「あーしの叔父は、邪神討伐隊が遺跡で神の加護を得るってことも知っていたよ。あと、それに選ばれるのは強者ばかりだってことも」
「強者ばかりなのは当たり前だろ。知ってるうちに入るかよ」
 不満げに言うジャンを蹴り飛ばし、フィリーは
「へぇ、意外と知られてるのね」
 と呟いた。
 隊長は、会話を聞きながらノーシュの件を話し出すタイミングを計っていたが、とうとう話せぬまま寝ようということになってしまった。
 尚、レイスは既に寝ていた。




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