蘇生チートは都合が良い

秋鷺 照

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5章 判明

5-1 閑話 浮島

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 ある日の昼前。轍夜はケットシーとともに、街の外を散歩していた。
 人通りは無く閑散としており、前方には農地、その奥には森が広がっている。その農地と森の間には数件の民家。石造りの小さな平家だ。
 雲一つ無い青空の下、明るい陽光を受けて、石の一部がきらめく。
「ふにゃー」
 ケットシーは気持ちよさそうに鳴いた。爽やかな風に毛が揺れて、金色の光を華やかに散らす。
 そんな穏やかな散歩を、遮るものがあった。
 突如として日の光が遮られたのだ。まるで、唐突に雲が湧いて出たかのように。
「にゃー⁉」
 ケットシーが驚いて上を見ると、そこには巨大な岩があった。農地よりも大きい岩が。
「でけー……」
 轍夜が呟くと、雑に強くなる呪具が「上に行ってみよう、上に。浮遊靴で」と主張する。
「そーだな」
 ケットシーを抱え上げ、轍夜は跳んだ。タンッ、タンッ、と音がしそうな勢いで、ぐんぐん宙を駆け上がり、岩の上空にたどり着く。その岩の上には、森があった。
 森といっても、農地に隣接した森とは生えている木が全く違う。岩上の森に生えているのは、竹のような木だ。
 轍夜が森に降り立つと、そこには老人がいた。生えている木に斧をぶつけ、懸命に斬っている。
「じーさん、手伝おーか?」
 轍夜が声をかけると、その老人は驚いて振り返る。
「な、なんじゃぁ⁉ どうやってここに来た⁉」
「この靴で、ぴょーんって」
「ふむ、なるほど」
「それで分かるのかにゃー⁉」
 ケットシーが驚きの声を上げると、老人はカラカラと笑った。
「長く生きておるからのう」
 はきはきとした、やや早口にも聞こえる口調である。
「で、手伝ってくれるとか言うとったのう。頼むわ、わしゃ疲れた。何せ、この森の木を全部刈らんといかん」
「全部って、まじで全部?」
「おうよ、全部じゃ。なに、心配いらん。根っこを残しときゃあ、またすぐに伸びる」
「よーし」
 轍夜は剣を抜き、木の下部めがけて一閃。斬撃が煌めきながら飛んでいき、直線上の木々を貫いていく。一瞬で10本近い木が斬られ、音を立てて倒れてた。
「凄いのう。その調子で頼むわ」
「ほーい」
 老人は剣の威力に感心した様子で、楽しそうに笑っている。轍夜は調子に乗って剣を振りまくり、次々とでたらめに木を斬っていった。
 ケットシーは呆れたようにその様子を見ていた。


「説明してほしいにゃー」
 全ての木が斬り倒されたのを見計らって、ケットシーは老人に言った。轍夜が剣を振っている間、木が倒れる音がうるさくて、話どころではなかったのだ。
「説明とな? 何が聞きたいんじゃ?」
 すっとぼけた顔で言う老人を、ケットシーはしっぽで叩いた。
「そういうのはリィラの方が上手いにゃー」
「はて、知らぬ存ぜぬを通すのが、わし以上に上手いやつがおるのか?」
「いるにゃー。言っていることが嘘か本当か、全っ然、分からないのにゃー」
 リィラの言動を思い浮かべて嘆息しながら、ケットシーは言う。
「それに比べたら、お前は分かりやすいにゃー」
「仕方ないのう。この浮き島は呪具で動いておるんじゃ」
 老人は観念したように喋り始める。
「わしがまだ若かった頃にな、ここの南の大陸よりも更にずっと南の海で、新しい島が現れたんじゃ。それが、これじゃ」
 老人がぽんっと地面を叩いた時、轍夜が歩いてきた。
「何かあっちに家あったけど」
「わしの家じゃな。中で話すか」
 そう言って、老人は歩き出した。


 石造りの家の中には、同じ材質のテーブルと2つの長椅子、それから暖炉があった。暖炉に火は入っていない。
「さて、どこまで話したかのう」
「この島が現れたところにゃー」
 長椅子に座った老人と轍夜は向かい合う位置になっている。ケットシーは轍夜に抱えられ、老人を正面から見据えた。
「そうじゃった。で、何とこの島、無人島でのう」
「現れたばかりなら当然にゃー」
「わしはこの島に住むことにしたんじゃ。何しろこの島は、他の誰よりも先にわしが見つけたんじゃからな」
 ケットシーのツッコミを無視し、老人は誇らしげに話す。
「しかしのう、問題発生じゃ。自給自足をしようにも、動物はおらんし植物は無いしで、どうにもならんかった」
「今は木が生えてるにゃー?」
「そう、その木を植えたんじゃ。呪具の燃料にするためにのう」
「話が飛んだにゃー」
「わしは元々、船で旅をしとった。旅の途中で、いくつか呪具を手に入れたんじゃ。その一つが、モノを浮かび上げる呪具――この島を浮かべておる呪具じゃ。ただ、この呪具は効果を発揮するために燃料が必要でのう。おっと、燃料と言っても燃やすわけじゃあない。人間にとっての食糧のことを燃料とも言うだろう、それと同じじゃ」
「その呪具は木を食べるのかにゃー?」
 老人は頷く。
「そうして、わしは船を捨て、この島で旅するようになったんじゃ」
「にゃー? その呪具は移動もできるにゃー?」
「いいや、移動は別の呪具じゃ。ランダムな位置にぱっと移動する呪具でのう」
「それで偶然、みーたちの国の上に出たのかにゃー」
「そういうことじゃ。この呪具、1日1回しか使えんから、退くのは明日まで待っとくれ」
「……仕方ないにゃー」
 嘆息したケットシーは、不意に後ろを見る。そして半眼になった。
「テツヤ、みーの毛で遊ぶのやめろにゃー」
 ケットシーの背中の毛は、ねじられ、いくつもの細い束になっていた。轍夜は悪びれる様子も無く笑う。
「話なげーから……それより腹減った」
「ほれ、ドボ芋だ」
 老人が、握りこぶしくらいの大きさの芋を放り投げてきた。轍夜がキャッチすると、
「そのままかじれるぞ」
 と教えてくる。言われた通りかじってみると、ゆでたジャガイモのような食感だった。味はほとんど無い。
「どこから出したにゃー? まさか、また呪具かにゃー?」
「正解じゃ。ドボ芋を出す呪具といってのう」
「何でドボ芋なのにゃー……ドボ芋にまつわる神でもいたのかにゃー?」
「わしの生まれ故郷じゃあ、ドボ芋の神を祀っとったぞ」
「豊作の神なら分かるけどにゃー。ドボ芋限定にゃー?」
 怪訝そうに言うケットシー。それに対し、老人は面白そうに笑った。
「皮もむかず調理もせず、そのまま食える芋、といえばドボ芋だけじゃろ」
「デロ芋もあるにゃー」
 反論したケットシーであったが、ふと思い出す。
「確かに古代はドボ芋だけだったにゃー」
「まあ、ドボ芋だけちゅうのも飽きるし、地上で食糧調達することもあるがのう」
「どうやって地上に行くにゃー? 島ごと下りるにゃー?」
 ケットシーは首を傾げて尋ねる。
「安心せい。昇降できる呪具も持っとるからのう。島はこのままで、わしだけが行き来するんじゃ」
「ふにゃー……随分たくさん呪具を持っているのにゃー」
「言ったじゃろ、長く生きておると。300から数えるのをやめたわい」
「お前、人間じゃないのかにゃー」
 ケットシーは不思議そうに言った。老人はカラカラ笑い、
「人間に偽装する呪具を使っとるんじゃ。ほれ」
 呪具の効果を解除した。見た目は変わっていない。しかし、明らかに人間のものではない力を発している。
「ふにゃー……お前、竜人かにゃー」
「正解じゃ」
 竜人の外見は人間と変わらない。しかし、人間より遥かに長寿であり、魔力ではなく竜力を持つ。
 老人はふと轍夜に目を向ける。夢中でドボ芋を食べている様子は、外見年齢より幼く見えた。
「そういやあ、歳はいくつじゃ? 18くらいか?」
 問われた轍夜は目を瞬かせる。
「え、20は超えてるけど」
「リィラの話では24のはずにゃー」
 自分の年齢を把握していない轍夜の代わりに、ケットシーが答えた。
「童顔じゃのう」
「よく言われる」
 高校生の時は中学生に間違えられたものだ。
 ドボ芋を食べ終え満腹になった轍夜は、帰って昼寝でもしようと思った。ケットシーも同じなようで、
「帰ろうにゃー」
 あくびをしながら言った。
 轍夜が立ち上がると、ケットシーは轍夜の頭に乗って丸まる。
「じゃあな、じーさん」
「達者での」
 笑顔で手を振り合い、轍夜は帰路についた。




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