蘇生チートは都合が良い

秋鷺 照

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4章 子供たち

4-6 影Ⅳ

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 ◇

 古代。まだエルフの島と妖精の島が陸続きだった頃。
 ケットシーと〈海神〉が出会ったのは、〈海神〉が海底神殿から出て地上を散歩している時だった。
 1柱と1匹はすぐに仲良くなり、ケットシーは〈海神〉に飼われることになった。
 ケットシーは名前も種族名も持っていなかったが、〈神の飼い猫〉または単に〈飼い猫〉と呼ばれるようになった。
 海底神殿には、〈海神〉以外に暮らしている者が1人いた。それは〈影〉と呼ばれていた。〈感情を喰らう影〉と呼ばれる種族の者だった。
 〈影〉とケットシーが仲良くなるのに時間はかからなかった。3者は、地上と海底神殿を自由に行き来しながら楽しく暮らしていた。
 ある時、海底神殿に最高神が訪れた。ケットシーが地上に出ている時だった。
 〈海神〉は、最高神を迎え入れた。まさか最高神が自分を滅ぼそうとしているなど、思いもよらずに。
 ケットシーが風の噂を聞いて海底神殿の前に戻った時、〈海神〉と最高神は神殿の中で戦っていた。溢れ出る神気を感じながら、早く神殿の中へ、早く、とケットシーは走り、走り、走り……入ることが出来なかった。
 邪魔が入らないよう、最高神が結界を張っていたのだ。
 戦いは終わり、〈海神〉は消えた。
 ケットシーを襲ったのは絶望感と喪失感。きっと、〈影〉も同じだった。
 最高神はケットシーの力――神に匹敵するほど強大な力のほとんどを奪い、記憶を封じて地上に戻した。そして〈影〉を島の地中で眠りにつかせた。理由は分からない。最高神の御心など、誰にも推し量れない。

 ◇



 轍夜、リィラ、ヒュレアクラがリムネロエたちのもとに来た時、ケットシーと〈影〉は言い争っていた。
「いい加減にしろにゃー!」
「〈飼い猫〉! 何故、こんな世界で平気なんだ! 唯一神なんぞを認めているんだ!」
「みーはケットシーとして、唯一神の時代をずっと生きてきたにゃー! 起きたばかりのお前には、今の世界の良さは分からないにゃー!」
「望まないというのか⁉ 〈海神〉の復活を!」
「みーだって、〈海神〉が復活したら嬉しいにゃー。でも、こんな儀式のもとでの復活なんて望んでいないにゃー!」
 古代種族の言い争いに、人間たちは蚊帳の外。
 〈影〉は新たに来た人間たちに気付き、言い放った。
「天に仇なす外敵よ、疾く去れ、或いは贄となれ!」
「天に仇なしてるのはお前にゃー!」
「認めるものか、唯一神など!」
 話は堂々巡りである。互いに説得しようとし、互いの言葉を認められずに。
「……テツヤ、頼むにゃー。あいつに協力している悪魔を倒してほしいにゃー」
「何故だ……何故! 悪魔の助力が無くなれば、儀式自体が出来なくなるのに!」
「そうすれば、諦めもつくにゃー?」
「……! させるか!」
 〈影〉は慌てた。慌てて、悪魔のいる場所に目を向けた。
「あそこにゃー!」
「よし」
 轍夜は剣を構える。雑に強くなる呪具が「余裕」と判断した。
 悪魔は神剣の力に弱い。
 〈影〉が悪魔を守ろうと茨を伸ばした時には、既に金色の斬撃が走っていた。じゅわっと音を立て、悪魔が消失する。
「う……うわあああああああ!」
 悲痛な叫びを上げる〈影〉に、ケットシーは飛び乗った。
「もう諦めるにゃー。こうもあっさりやられるようでは、最高神に抗うなんて土台無理な話にゃー」
「ううううううう!」
 ケットシーはしっぽで〈影〉をなでる。なだめるように。励ますように。
「いつか……最高神の気が変わったら、〈海神〉も復活するにゃー。みーたちに出来るのは、待つことだけにゃー」
 そんな日が来るかは分からない。それでも、希望を抱くくらいは良いだろう。
「……そういえばにゃー。お前が集めた呪具、〈海神〉の力の欠片なら、回復の力を持つ物もあるはずにゃー?」
「うう……呪具は渡さん。せめて、この力とともにありたい」
「渡さなくて良いにゃー。あの2人を回復させてほしいだけにゃー」
 ケットシーはしっぽでリムネロエとミューレを指した。2人とも眠っている。このままでも自然に回復するが、すぐに回復させられるならその方が良い。
「……良いだろう」
 〈影〉は少し考えてから了承した。


 転移魔法で海底神殿から地上に戻り、子供たちを送り届けた頃にはすっかり日が沈んでいた。5人と1匹は城へと歩く。もう転移魔法が使えないほど、魔力を消費してしまっていた。
「ねえ、お母さま」
 ミューレがリィラに話しかける。
「わたしにも、仕事とか教えてほしいの。それと、もし、わたしと結婚して次の王になっても良いって言う人が現れたら、リムネロエとヒュレアクラが魔術師になって西の大陸に住むのを認めて」
 リィラは面食らった。
「……あなたたちは、魔術師になりたいのですか?」
 リムネロエとヒュレアクラに確認すると、2人は遠慮がちに頷く。
「そんなこと、一言も言っていなかったではありませんか」
「だって……」
 リムネロエは目を逸らす。思いを抱いて、すぐに無理だと諦めた。口に出すまでも無いと思った。
 リィラは嘆息する。
「話し過ぎたでしょうか……」
 魔術師について。西の大陸について。憧れを抱かせてしまうほどに。自らの未練ゆえに。
「分かりました、ミューレ。あなたにも厳しく指導します。ただ……そんな人が本当に現れるかは分かりませんよ」
「うん。頑張って、お父さまみたいな人を射止めるわ」
「それはダメ! オレみてーな人と結婚するなんて絶対認めねーからな!」
 轍夜は慌てて言った。ミューレは不思議そうな顔をする。
「どうして? 頭が悪いから?」
「そう!」
「その分、わたしが頑張れば良いだけじゃない。お母さまみたいに」
「お姉さまには無理じゃないかな……」
 リムネロエは思わず呟いた。ミューレはむっとする。
「何よー、せっかくわたしがやる気を出してるのに」
「にゃー……そんなに簡単に、王族じゃないのに王になっても良いと言ってくれる人が見つかるなら、リィラは苦労していないにゃー」
「ケットシーの言う通りです。ミューレがこれから頑張っても、全て無駄になるかもしれません」
 リィラは言う。
「本当に、それでも頑張りますか?」
「うん。弟にばっかり良い格好させられない!」
「お姉さまは、ぼくを庇ってくれたじゃない。格好良かったよ」
 柔らかく笑うリムネロエの言葉に、ミューレはますます「弟のために頑張ろう」という思いを強くするのであった。




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