蘇生チートは都合が良い

秋鷺 照

文字の大きさ
34 / 39
6章 呪術師と暗殺者

6-2 不穏な気配

しおりを挟む
 その日の夕食中に、ミューレは路地での出来事を話した。
「婚約者⁉」
 家族全員が驚きの声を上げた。
 轍夜は驚いているだけだったが、他はすぐに話し合いを始める。
「じゃあ、ぼくたち、魔術院に行って良いの?」
「気が変わる可能性もあると思いますが……その場合は、リムネロエを呼び戻せば良いだけですね」
「お姉さま、頑張ってね」
「もちろんよ。頑張って、彼が心変わりしないようにするわ」
「ふにゃー。ミューレ、なかなか凄いにゃー」
「明日にでも出立したいな」
「明日、ですか。随分と早急ですね」
 リィラは少し寂しげに微笑んだ。リムネロエとヒュレアクラは顔を見合わせ、そして改めて言う。
「ぼくたちは、明日、西の大陸へ発ちます」
「分かりました。元気に頑張ってください。……連絡も、時々してくださいね」
「うん、もちろん」
 とんとん拍子に話が進んでいく。轍夜は妙な心地になった。嬉しいような、寂しいような、よく分からない気持ちだ。
 複雑な表情で黙っている轍夜の顔を、ケットシーがしっぽで叩く。
「にゃー。今生の別れって訳でもあるまいし、そんな顔するなにゃー」
「そうだよ、お父さま。応援してて。ぼくたち、凄い魔術師になってみせるから」
 リムネロエの言葉に、轍夜は
「そうだなぁ」
 と呟いた。
 巣立つ息子にかけるべき言葉を考えるが、何と言っていいのか分からない。難しい顔で黙りこくってしまった。
 リムネロエとヒュレアクラは、何だか可笑しくなって笑い声を上げる。
「ふふっ、お父さま、しんみりしてるの似合わないね」
「うるせー」
 轍夜はすねたような声を上げた。




 翌日。北の船着き場で双子は船を待つ。リィラと共に転移魔法で来た。
 リィラは、仕事があるからと、さっさと帰ってしまった。一緒に船を待つ気はない、と。別れを惜しむ気持ちを断ち切るためでもあったのだろう。
 船着き場の西には街が見える。ペトアモスの城がある街だ。
 船は東から来るので、東を見ていれば良いのだが、どうしても街が気になった。
「何だろう、何か……」
「うん、何か……何だろう……」
 2人は、街に感じた「何か」を言語化できずに困惑の表情を浮かべた。
 確かめに行こうかと思った時、船が来てしまった。
「……大丈夫だよね?」
 言いようのない不安を覚えつつ、2人は船に乗り込んだ。



 ペトアモスは4人の男に告げる。
「お前はこっちの2人にお金を返すように。で、お前たちはこの2人にちゃんと謝ること」
「分かりました。ありがとうございます、王……じゃなかった、領主様」
 4人の代表の男が言った。
 ペトアモスは頷いて立ち去る。次の依頼主のもとへ行くために。
 領民のもめごとの仲裁もペトアモスの仕事だ。街の外に住む者には城へ来てもらうが、街の者に依頼された場合は依頼主のもとへ出向く。それがペトアモスのやり方だった。
 ふと、潮風に乗って声が聞こえた気がした。子供の悲鳴のような声が。
「む……?」
 海を臨む街の北端は、子供たちの遊び場になっている。どうにも嫌な予感がし、ペトアモスは方向転換。北へ駆ける。
 そうして街の北端に着いたペトアモスは、眼前の光景に息を呑んだ。
 檻。捕らえられた子供たち。見たことの無い種族が2体。それに引きずられている子供。
「余の領地で何をしている!」
 怒りの声をぶつけると、謎の種族は振り返った。その2体は、筋骨隆々とした体躯と恐ろしい形相をもつ男だ。子供を引きずっているのとは逆の手に、大きく先端へいくほど太い棒のような武器を握っている。
 ペトアモスの姿を見た2体は、ニィと笑い、再び子供を引きずり始める。檻へ運んでいるのだ。容易く抱えることが出来るのにも関わらず、わざわざ引きずっている。
「何をしていると、言っておるのだ!」
 ペトアモスは怒鳴りながら、1体の男に斬りかかった。背中ががら空きであったのだ。
 ガキンッ
 金属がぶつかる音。防がれた、とペトアモスが思った時には、その体が宙に浮いていた。棒で弾き飛ばされたのだ。
(なんという膂力……!)
 空中で体勢を立て直し、着地。
 2体の男は、ペトアモスに向き直る。そして、言葉を投げかけた。
「目的は子供だけだ」
「おっさんを食べても美味しくないからなァ」
「食べる、だと! もしや、食べるために子供を……!」
 目を見開くペトアモスを、2体は嘲笑った。
「それ以外に何がある。後はコレを檻に入れるだけだ。そうしたら、元いた国に帰る。だから、さっさとどこかへ行け」
「さもないと、邪魔者と判断して殺すぞ」
 棒を掲げ、脅すように振っている。そんな2体の様子を見て、ペトアモスは悟った。
(……勝てぬ、な)
 降参を示すように手を振り、ペトアモスは後ろに1歩下がった。
 2体は、それで良いとでも言うように頷き、子供を引きずり始める。
 ビュッと短剣が宙を駆けた。
「……はんっ、馬鹿め」
「殺すと言ったよなァ?」
 短剣を防いだ2体が、再びペトアモスを——短剣を投げてきた邪魔者を、見る。
(勝てぬとはいえ、見過ごすことも出来ん)
 ペトアモスは冷や汗をかきながら、2体を見据えた。隙を突いたつもりだったが、あの反応。後ろに目でも付いているかのようだ。
(騒ぎに気付いた家臣たちが駆けつけて来る……というのを期待したいところだな)
 だが、それは難しい。仮に家臣が来たとしても、勝てるわけではない。目の前の種族からは、何人でも何十人でもまとめてぶち殺しそうな圧を感じるのだ。
 どうにか子供たちを逃がしたい。そのために出来るのは、時間稼ぎのみである。来るかどうかも分からない助けを待つ、無意味に終わるかもしれない、運任せの時間稼ぎ。家臣を呼びに行っては、その間に子供たちが連れ去られるのだから。
(運任せでも、このまま引き下がるよりはマシであろう!)
 かかってこいとばかりに剣を構える。リィラに敗れたあの日から、剣の鍛練に励んでいた。おかげで、呪具などなくとも、家臣たちには勝てるくらいになった。
「意外と楽しめそうかもなァ」
「最初のは本気じゃなかったってか?」
 2体は引きずっていた子供を放り投げ、棒を構えた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...