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15 とりあえず浜を歩く。

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ずっと立ち尽くしている訳にもいかないので夏の陽射しが降り注ぐ中、僕は目の前の波打ち際に向かってゆっくりと歩き出した。
僕が歩き出したので龍雄も横に並んで付いて来る。
それにしても。

(アナタにはそのもう一人と二人でその場所に行って貰う事になる)

僕より歳上の謎の美女は僕にそう言った。

(その場所で暮らしていく為にはアナタとそのもう一人はお互いにとても必要な存在になる)

僕が見知らぬ場所で暮らしていく上で必要となる存在。
謎の彼女に言われた後で僕の頭に最初に浮かんで来たのは同じクラスの杉原真衣子の姿だった。
今にして思えば淡い希望だったと言うよりは、独りよがりの強い願望だったと言う他ない。
今、現実に未知の場所の浜辺を一緒に並んで歩いているのは、ショートカットの髪がサラサラとして夏制服が太陽の下で目に眩しかった杉原真衣子ではなく、ガッシリとしたゴツい体の上にイカつい坊主頭を載せた三好龍雄だった。
謎の美女によれば将来は闇の世界に生きて裏社会の首領(ドン)にまで登りつめるらしい男。
僕は波打ち際に向かって歩きながら大きな溜息を吐いた。
僕は龍雄と波打ち際の砂が波に洗われて濡れている辺り迄歩いてそこで足を止めてそこから波が届かない所に沿って歩いた。
波が絶え間なく打ち寄せては引いている辺りの所々には打ち上げられた貝殻が散らばっている。
波が引いている時に何気なく落ちている貝殻を一つ一つ眺めている内に何だか奇妙な気がした。
どうも浜に転がっている貝殻の多くは僕が今まで見た事の無い種類のモノだという気がする。
僕は龍雄と同じく生まれてからずっと海から離れた山間部で暮らしているけれど、小学生の頃は毎年の様に何処かの
海に海水浴に連れて行って貰っていたし、他にも何かの機会に浜辺で貝殻を拾った様な記憶はある。
けれど僕が今目にしているのは黄緑色のハマグリ大の貝殻や、ルビーみたいな色の小さくて細長い二枚貝の貝殻はまだともかく、赤、白、青とまるでフランス国旗の様な模様のアンモナイトともオウム貝ともつかない奇妙な形をした巻貝や生物の教科書か何かでみたチョッカク貝の様に長い殻だとか今まで見た事の無いモノが殆どだった。
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