彼女の危機と何とか彼女を守りたかった僕の話

河内ひつじ

文字の大きさ
19 / 52
1984年(昭和59年)11月25日(日曜日)

しおりを挟む
暖かなベッドの中で微かに目覚めてうっすらと目を開けると窓の外に寒気に包まれた街を冷たく覆っていた闇が次第に青く染まり白み始めているのがみえた。
目覚めたばかりの温かい泥の様な意識の中でやがて昨夜に起こった出来事が思い出されて、はっきりと目が覚めた。
目覚まし時計を見るとまだ6時になってはいなかった。
ベッドに入ったまま、薄暗い部屋の中で隣の部屋との間を隔てている壁の方に意識を集中して耳を澄ませてみたけれども、壁の向こうからは何の気配も物音も無かった。
恐らく福沢加奈という名の昨夜出会ったばかりの未来少女はまだ眠っているのだろう。
思いも掛けず遭遇する事になった、余りに現実離れし過ぎた出来事からは一晩が経ち、もうすぐ夜が明けようとしているけれどもまだそれは紛れもない現実の出来事として今もまだ続いている。
いずれベッドから脱け出しドアを開いて部屋の外に出ていけば、やがて目を覚まして隣の部屋から出て来た彼女と顔を合わせる事になり、挨拶を交わす事になる。
その後の今日一日の始まりを、そしてその後の時間を彼女と一体どの様に過ごせばいいのだろう。
今の僕には、まず取り合えず彼女と2人で朝食を摂るという事位しか思い浮かばない。
その後の事は今の所、全くの白紙状態だ。
けれども現在の彼女が置かれている容易ではない状況を考えると、今日一日を何もせずに気楽にのんびりと過ごしたり、気晴らしに2人で何処かに遊びに出掛けるという訳にはいかないだろう。
仮に今日一日、彼女の今の状況に何の変化も進展も無く(今の所、変化や進展がある見込みは全く無い)彼女にとって残酷で悲惨な一日のまま終わる事になってしまったとしても(今の所そうなる可能性の方が遥かに高い)今晩も行く場所の無い彼女をウチに泊めて束の間の忘却の眠りに就かせてあげる事位は出来る。
しかし火曜日になれば母がこの家に帰って来る。
その時母に彼女は実は訳あってこの時代に来てしまった未来人で等と話せる訳がない。
そんな事をすれば母を意味もなく混乱させ、いずれは周囲で大騒動が起こる事になってしまう。
僕はベッドの中から薄暗い天井をぼんやりと眺めた。
今のままでは彼女の正体を何時までも隠し続ける事は僕の力では、どう考えても困難になって来る。
今後、彼女がこのまま1984年の世界に留まって行き続けるしか無いとなると一体どうなってしまうのだろう。
天井を睨みながら、この時代で一番最初に彼女とコンタクトする事になってしまった僕は一体どうすればいいのかを考えてみたけどさっぱり見当が付かなかった。
何はともあれ昨夜の出来事の続きのままに、今日これから新たな一日が始まろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わり、転校してきたのは、初恋の相手だった——。 鬱々とした気分で二学期の初日を迎えた高須明希は、忘れかけていた記憶と向き合うことになる。 名前を変えて戻ってきたかつての幼馴染、立石麻美。そして、昔から気になっていたクラスメイト、河西栞。 親友の田中浩大が麻美に一目惚れしたことで、この再会が静かに波紋を広げていく。 性と欲の狭間で、歪み出す日常。 無邪気な笑顔の裏に隠された想いと、揺れ動く心。 そのすべてに触れたとき、明希は何を守り、何を選ぶのか。 青春の光と影を描く、"遅れてきた"ひと夏の物語。   前編 「恋愛譚」 : 序章〜第5章 後編 「青春譚」 : 第6章〜

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...