無能と笑われ王城を追放された私、冷徹公爵様に才能を見出され寵愛されていたら、今さら元婚約者が後悔して縋ってきましたが、もう遅いです――

さくら

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第7話 寵愛の証

 王都の空気は冷たく、そして重かった。
 感染者が溢れ、街路には沈黙と恐怖だけが漂っている。
 私は医療棟へ向かう途中、次々と担ぎ込まれる人々の姿に息を呑んだ。
 小さな子どもを抱く母親、必死に呼吸を繰り返す老人――彼らの命の灯は今にも消えそうだった。
 喉の奥が締めつけられ、歩みが自然と速くなる。

 セドリック公爵が隣を歩いていた。
 彼の長い外套が風に揺れ、雪を払うたびに低い声が響く。
「無理はするな。症状を確かめるだけでいい」
「はい……でも、一刻も早く原因を見つけないと」
「君の手を借りたいのは理解している。だが、倒れては意味がない」

 その言葉に、胸が温かくなった。
 王都でこんなふうに気遣われたことなど一度もなかった。
 それでも、ここでは――彼が、私を支えてくれる。

 ◇

 医療棟の奥。
 そこには十数名の患者が横たわっていた。
 高熱にうなされる声と、薬草を煎じる匂いが入り混じっている。
 私は袖をまくり、震える手で患者の額に触れた。

 彼らの体から感じるのは、まるで命の流れそのものが滞っているような違和感。
 魔力を流しても反応が薄い――まるで、何かに“生命力”を吸い取られているようだ。

「……これは、ただの病ではありません」
 私の言葉に、セドリックが眉をひそめた。
「どういう意味だ?」
「何者かの魔力が、この街全体に作用しています。まるで命を奪う呪いのように……」

 静まり返る室内。
 医師たちがざわめき始める。
「そんな……呪い、だと?」
「馬鹿な、誰がそんなことを……」

「誰かが、ではありません」
 私は首を振った。
「これは“場所”に染みついた絶望の魔力。
 長年、王城の中で積み重ねられた歪みが、病という形で現れているんです」

 その言葉に、セドリックの瞳が鋭く光った。
「つまり――王都そのものが病んでいる、ということか」
「はい。だから、癒すには“王都の心”を満たさなければ」
「王都の……心?」

 私は両手を胸の前で重ねた。
「人々が希望を取り戻せば、この病は鎮まります。
 でも、それには多くの“命の花”が必要です」

 ◇

 その日から、私は城内の温室を借り受けて作業を始めた。
 ロウズ領から持ってきた薬草の種をまき、魔力を注ぎながら育てる。
 夜になっても手を止めることはなかった。
 セドリックはそんな私を、毎晩見守るようにそばで見ていた。

「食事は取ったか?」
「ええ、少しだけ。……ごめんなさい、つい夢中になってしまって」
「夢中になるのは構わんが、倒れたら意味がない」
「ふふ、公爵様は心配性ですね」
「当然だ。君を守ると決めたのは私だからな」

 短い沈黙のあと、彼がゆっくりと言葉を足す。
「――もう二度と、君を誰にも奪わせない」

 その言葉が胸に響き、息が詰まった。
 彼の視線が私の指先から顔へと移る。
 その青い瞳の奥に、炎のような熱が潜んでいた。

「リリアーナ」
「……はい」
「この城を癒すための花を、共に咲かせよう」
「ええ。公爵様となら、きっと」

 私が笑うと、彼の表情がわずかに和らいだ。
 氷が溶けていくように、静かに。

 ◇

 数日後、王都の各地に“命の花”が植えられた。
 それを見つめる人々の顔には、少しずつ笑顔が戻り始める。
 花の香りが風に乗り、街に希望を運んでいた。

 けれど、その光景を見下ろす王宮の一室では、別の空気が流れていた。
 アランとソフィアが、焦りの色を隠せずに言い争っていた。

「なぜだ、なぜリリアーナがあそこまで称えられている!」
「わたくしだって分からないわ! でも公爵様がついている限り、誰も逆らえないわ!」
「俺の立場が……すべて奪われる……!」

 彼らの叫びなど知らず、私は花々に囲まれていた。
 セドリックがそっと背後に立ち、私の肩越しに花を見つめる。
「見ろ。王都に春が来た」
「……本当に、咲きましたね」
「君のおかげだ」
「いえ、公爵様が守ってくださったからです」

 彼が一歩近づく。
 距離が近い。息が触れるほどの距離。
 花の香りが漂い、時間が止まったようだった。

「リリアーナ」
 名を呼ばれるたび、心臓が高鳴る。
「君の力が、私の世界を変えた」
「私の方こそ……公爵様に出会えて、変われました」

 青い瞳と視線が交わる。
 その刹那、彼の指が私の頬を撫でた。
 そして――唇に、わずかに触れた。

 触れるだけの、優しい口づけ。
 花の香りとともに、世界が音を失った。

 彼が囁く。
「――これが、私の“寵愛の証”だ」

 頬が熱くなり、涙がこぼれそうになる。
 けれど、それは悲しみではなかった。

「ありがとうございます……公爵様」
「これからも、私のそばにいてくれ」
「……はい」

 王都に咲く花々が風に揺れ、その香りが夜空へと昇っていく。
 その光景の中で、私は初めて“幸福”というものを理解した。



 夜が更け、王都の空は雲に覆われていた。
 けれど宮廷の温室だけは、まるで小さな春が宿ったように暖かかった。
 花々が咲き誇り、薄い魔力の光がふわりと漂う。
 私は両手で苗を支え、土に指を沈めた。
 掌から流れる魔力が、土の奥に小さな命を灯していく。

 セドリック公爵がすぐそばに立っていた。
 背の高い影が、炎のように伸びて私を包む。
 その視線を感じるだけで、鼓動が早くなる。

「……君の魔力は、やはり不思議だ」
「そうでしょうか?」
「温かい。炎でもなく、光でもなく……命そのもののようだ」

 彼の声は低く、穏やかで、それだけで胸の奥が震えた。
 私はそっと笑いながら苗を撫でる。
「この子たちも、きっと生きたくて頑張っているんです。
 私は、ただそれを手伝っているだけ」

「君は、命に優しい」
「公爵様こそ、人に優しいです」
「私が?」
「ええ。領民のことも、ここで働く人のことも、誰より大切にしておられます」

 セドリックはわずかに眉を動かし、口元に淡い笑みを浮かべた。
「……そんなことを言われたのは、初めてだ」
「意外です。きっと皆、感謝してますよ」
「感謝されるためにやっているわけではない」
「分かっています。でも、誰かを守ろうとする姿勢は、それだけで救いになります」

 私はそう言って立ち上がると、彼の目の前で両手を胸に重ねた。
「公爵様に出会って、初めて“生きる意味”を見つけました。
 今まで私は、人に役立つためだけに存在していると思っていました。
 でも違うんですね。――誰かと笑うために、生きていいんです」

 セドリックが静かに私を見つめた。
 その瞳の奥に、今まで見たことのないほど優しい光が宿っている。
 彼が歩み寄る音が、心臓の鼓動と重なった。

「……リリアーナ」
 名前を呼ばれた瞬間、息が止まった。
 その声は、今まで聞いたどんな言葉よりも甘く、そして真っ直ぐだった。

「君がいると、私の世界が静かになる。
 戦も、過去の傷も、すべてが遠ざかる。
 私はこの感情の名を知らなかったが……ようやく分かる」

 彼は手を伸ばし、私の指先に触れた。
 氷のように冷たい手。けれど、その震えが人間らしくて、胸が締めつけられる。

「君を失いたくない」
 その一言に、胸が熱くなる。
 私はそっと彼の手を握り返した。
「失いません。どんなことがあっても、私は公爵様のそばにいます」

 彼の目が見開かれ、そしてわずかに柔らいだ。
「……危険な言葉だな」
「ふふ、危険でも、構いません」

 静かな笑いが重なる。
 ふたりの間の空気がゆっくりと溶けていくようだった。

 そのとき、外から雪混じりの風が吹き込んだ。
 花弁が舞い上がり、淡い光を反射する。
 まるで夜の中に星が降るように、美しい光景だった。

 セドリックが小さく息を吐いた。
「この光景を見たら、誰も“無能”などと言わぬだろう」
「そんな過去、もうどうでもいいです」
「君は強いな」
「公爵様が強くしてくださったんです」

 花弁がひとつ、彼の肩に落ちた。
 それを摘み取りながら、私は小さな声で呟いた。
「この花の力が届けば、きっと王都の人々も元気になりますね」
「ああ。君の力は希望だ。――そして、私の希望でもある」

 その言葉に、心がふわりと浮く。
 彼の瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。
 青い氷のような光が、やさしい炎の色へと変わっていった。

「リリアーナ」
「はい」
「この王都の騒ぎが終わったら、ロウズ領に戻ろう。
 そして……あの庭を、君の好きな花で満たそう」

 胸が熱くなり、言葉が出なかった。
 あの灰色の庭が、今では私にとってかけがえのない場所だ。
 そこに花を咲かせる――それは、この上ない願いだった。

「はい……約束です」
「約束だ」

 互いに笑い合うと、彼は少し身を屈め、額に軽く唇を寄せた。
 それは祈りのような、誓いのような口づけだった。

「私の領に春が来たのは、君が現れたからだ」
「私にとっての春は、公爵様です」

 その瞬間、温室の灯りが一段と強くなり、まるで花々が祝福するように輝いた。
 私たちは静かに微笑み合い、再び花を見つめた。
 王都の夜が明けるころ、すべての花が光を放ちながら一斉に開く。
 その光が病に苦しむ人々の部屋へ差し込み、奇跡のように熱を鎮めていった。

 外では、誰かが泣き声まじりに「助かった」と叫んでいる。
 希望の声が、夜空を震わせて広がっていく。
 私はセドリックの肩に手を置き、涙をこぼした。

「これで……救われますね」
「いや、救ったのは君だ。私はただ見守っていただけだ」
「そんなこと……」
「いいや、確かに君がこの国を救った」

 セドリックがそっと私の頬を撫でた。
 優しい手が、頬の涙を拭う。
「君こそ、この国に咲いた最も美しい花だ」

 その言葉に、心が震えた。
 涙の奥で見えた彼の微笑みは、これまで見たどんな景色よりも温かかった。
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