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第21話 初めての口論
〇
茶会から数日が経った。屋敷は平穏で、殿下と過ごす日々は穏やかに流れていた。けれど、安らぎの中にも小さな波は訪れる。
ある朝、私は庭で花を摘んでいた。雨上がりの空気は澄んでいて、花々は鮮やかに咲き誇っている。髪飾りに添える花を探していると、背後から殿下の声がした。
「リリアナ、また一人で外に出ていたのか。」
振り返ると、灰色の瞳がわずかに険しさを帯びていた。
「はい……庭ですし、少しの時間だけです。」
「侍女を連れずに出歩くのは危険だ。」
その言葉に、胸が小さくざわめいた。
「でも、ここは殿下のお屋敷です。外の通りではありませんし……」
私の反論に殿下の眉がわずかに寄る。
「それでも、万が一がある。俺は君を失いたくない。」
真剣な声音に心が揺れる。けれど同時に、守られてばかりでいいのかという戸惑いも込み上げてきた。
◇
その日の午後。刺繍をしていると、殿下が再びやってきた。彼は少しためらうように立ち止まり、低い声で言った。
「……君が危険に晒されるのが怖い。だから口うるさく言ってしまう。」
私は針を置き、顔を上げた。
「殿下のお気持ちは分かっています。けれど……私は殿下の隣に立つ妻です。守られるだけの存在ではいたくありません。」
殿下の瞳が大きく揺れ、言葉を失った。
「私だって、殿下を守りたいのです。」
その一言に、沈黙が落ちた。殿下の灰色の瞳は深い影を宿し、やがてゆっくりと口を開く。
「……俺は、不器用だな。」
その自嘲めいた言葉に胸が痛み、思わず手を伸ばして彼の手を取った。
「殿下の不器用さが、私は好きです。だから……もっと信じてください。」
殿下は目を伏せ、深く息を吐いた。
「……分かった。君を信じる。」
その答えに涙が溢れ、胸が甘く震えた。
――初めての口論は、互いの想いをぶつけ合い、絆をさらに深めるものとなっていた。
△
口論のあと、部屋の中には少しぎこちない沈黙が漂っていた。殿下は窓辺に立ち、外を眺めたまま言葉を探しているようだった。私は彼の背を見つめながら、胸の奥に残る痛みと温もりの両方を感じていた。
「……殿下。」
勇気を振り絞って声をかけると、彼はゆっくりと振り返った。灰色の瞳がわずかに揺れ、低い声で告げられる。
「君を縛るつもりはなかった。ただ……怖かったんだ。」
「怖い……?」
「君がいなくなることが。俺はそれに耐えられない。」
その不器用な言葉に胸が熱くなり、涙が滲んだ。私は立ち上がり、彼に歩み寄る。
「殿下……私も同じです。だから、互いに縛り合うのではなく、支え合いたいのです。」
殿下はしばし沈黙し、それから小さく頷いた。
「……支え合う、か。」
◇
夜になり、寝室の灯火が揺れる中、私は殿下の隣に腰を下ろしていた。口論の余韻がまだ残っているものの、互いの距離は確かに縮まっている。
殿下はしばらく沈黙を守った後、ぽつりと呟いた。
「君とぶつかるのは初めてだな。」
「はい。でも、嫌ではありませんでした。殿下と本音を言い合えたから。」
そう答えると、殿下は驚いたように目を瞬かせ、やがて不器用に笑った。
「……俺にはもったいない妻だ。」
「そんなことありません。殿下だからこそ、私はここまで強くなれました。」
互いの言葉が重なり、胸が甘く震える。殿下の手が私の指を探し、絡めてくる。その温もりが、何よりの和解の証だった。
◇
夜が更けるにつれて、私たちは互いの腕の中で静かに寄り添った。言葉は少なくても、心は確かに通じ合っている。
「……これからも時に言い合うだろう。それでも、君を手放すことはない。」
「はい。私も殿下の隣に居続けます。」
小さな誓いを交わし、雨上がりのように澄んだ安らぎが胸に広がった。
――初めての口論は、決して溝を作るものではなく、互いの絆を深める試練となったのだった。
◇
寄り添ったまま迎えた深夜、殿下はまだ眠らずに私の髪を撫でていた。静かな寝室には雨音もなく、ただ互いの呼吸だけが響いている。私はまどろみの中で瞼を開き、彼の灰色の瞳を見つめた。
「……殿下。」
呼びかけると、殿下は小さく頷いた。
「眠れないのか。」
「はい……でも、殿下が隣にいてくださるから、大丈夫です。」
そう告げると、彼は少し眉を寄せ、ためらうように唇を動かした。
「……君と初めて言い合って、怖くなった。君を傷つけたのではないかと。」
その不器用な心情に胸が締め付けられ、私は慌てて首を振った。
「違います。殿下とだからこそ、本音をぶつけられたのです。むしろ……嬉しかったくらいです。」
涙が滲み、殿下の胸に顔を埋めた。彼の腕がすぐに私を抱き寄せ、力強く背を撫でる。
◇
「……リリアナ。」
名を呼ばれ、顔を上げると唇が重なった。短く、けれど深い口づけ。互いの想いを確かめ合うように、重ねられた。
唇が離れると、殿下の瞳が真剣に揺れる。
「俺は不器用だが……君となら、どんな困難も越えられると信じている。」
その告白に胸が甘く震え、私は涙をこぼしながら微笑んだ。
「私もです。殿下と共になら、どんな未来も恐れません。」
強く頷き合い、互いの手を握る。温もりが重なり、夜の静寂が祝福のように感じられた。
◇
やがて殿下の呼吸が穏やかになり、私の瞼も重くなっていく。眠りに落ちる直前、胸元のネックレスにそっと触れた。冷たい銀の感触が、彼と交わした誓いを刻んでいるようだった。
――初めての口論を経て、私たちはさらに強い絆で結ばれた。愛は不安を越え、互いを支える力へと変わっていったのだ。
第22話 ささやかな日常の幸せ
〇
朝の光が差し込む食堂で、私はいつものように殿下と向かい合って朝食をとっていた。銀の食器が小さく音を立て、外では小鳥の声が響いている。日々の喧騒から離れ、こうして二人きりで食卓を囲めることが、何よりの贅沢に思えた。
殿下はパンを口に運びながら、不意に視線を上げる。
「……今日の予定は?」
「刺繍の続きをしようと思っております。それから庭に出て花を摘んで……殿下のお部屋にも飾りたいです。」
答えると、灰色の瞳がわずかに柔らかく揺れた。
「なら……午後は俺も一緒に庭に出よう。」
胸が甘く震え、思わず微笑みがこぼれる。
「はい。とても楽しみです。」
◇
昼下がり、庭は穏やかな日差しに包まれていた。花壇には色とりどりの花が咲き誇り、風に揺れる花弁が光を反射してきらめいている。私は籠を片手に花を摘み、殿下は黙ってその隣を歩いていた。
花を一輪差し出すと、殿下は少し戸惑いながらも受け取る。
「……俺が持っていていいのか。」
「もちろんです。殿下の机の上に飾っていただければ、私も嬉しいですから。」
殿下の耳がわずかに赤くなり、口元が緩む。
「そうか……なら、そうしよう。」
その不器用なやり取りに胸が甘く満たされ、私は静かに笑った。
◇
夕暮れ、花を飾り終えた殿下の書斎は、柔らかな彩りで満ちていた。机に置かれた花が部屋の雰囲気を変え、窓から射す光と溶け合っている。
殿下はしばらく黙って花を見つめ、それから小さな声で囁いた。
「……部屋が明るくなったな。君のおかげだ。」
その一言に胸が熱くなり、頬が染まる。
「私も……殿下の隣にいられるからこそ、幸せでいられるのです。」
殿下の瞳が揺れ、静かに私の手を取った。温もりが指先から広がり、胸が甘く震える。
――ささやかな日常の幸せ。それは豪奢な宴や贈り物よりも、心を深く満たすものだった。
△
花に彩られた殿下の書斎は、まるで別の場所のように穏やかだった。いつもは重々しい空気が漂っていた机も、今は柔らかな雰囲気に包まれている。殿下は椅子に腰を下ろし、机に肘をつきながら花を見つめていた。
「……香りが心地よいな。」
彼の低い声が響く。私は窓辺に立ちながら微笑んだ。
「ええ。殿下の疲れを少しでも和らげられるなら、それが何より嬉しいです。」
殿下はわずかに目を細め、灰色の瞳を私に向ける。
「君は、いつも俺に安らぎをくれる。」
その言葉に胸が甘く震え、思わず視線を落とした。指先で胸元のネックレスを撫でながら、静かに答える。
「殿下こそ、私にとっての安らぎです。」
◇
夕食を終え、夜の帳が下りると、殿下は私を庭へと誘った。月明かりに照らされた花々は昼とは違う表情を見せ、白や淡い色の花弁が淡く光を放っている。
「……夜の花も悪くない。」
「はい。まるで月に祝福されているようです。」
並んで歩くうちに、殿下は足を止め、じっと私を見つめた。
「リリアナ。……俺は君と過ごす時間が一番好きだ。」
唐突な告白に胸が甘く震え、頬が熱くなる。
「わ、私もです。殿下と過ごす日常が、何よりも幸せです。」
殿下は小さく息を吐き、不器用に微笑んだ。
「なら……これからも、ずっと。」
その言葉に涙が滲み、私は深く頷いた。
◇
夜風が頬を撫で、庭の木々がざわめいた。殿下が差し出した手を握り返すと、静かに影が重なる。
――ささやかな日常は、互いの心を満たし、これから続く未来への誓いを確かなものにしていった。
◇
月明かりに照らされた庭で、殿下と手を繋いだまま立ち尽くしていた。指先から伝わる温もりは確かな絆となり、胸の奥を甘く満たしていく。夜風に揺れる花々の香りが漂い、世界が二人だけのものに感じられた。
「……リリアナ。」
名を呼ばれるたび、胸が震える。私は殿下の灰色の瞳を見上げ、小さな声で応えた。
「はい、殿下。」
彼は少しためらうように唇を動かし、それから低く囁いた。
「こうして君と過ごす時間が……何よりも幸せだ。」
不器用で真っすぐな言葉に涙が込み上げ、視界が滲む。私は笑みを浮かべながら首を振った。
「殿下。私も同じです。豪華な宴や贈り物よりも……こうして日常を共にできることが、何よりも嬉しいのです。」
殿下の瞳が揺れ、強く私の手を握り返す。
◇
やがて屋敷に戻り、寝室の灯火を落とすと、殿下は静かに私を抱き寄せた。腕の中は温かく、互いの鼓動が重なり合う。
「……君が隣にいるだけで、俺は救われる。」
「私もです。殿下と一緒にいられるから、どんな明日も恐れません。」
灰色の瞳が深い光を帯び、唇が触れる。柔らかく、長い口づけ。心臓が甘く震え、全身が熱を帯びる。
唇が離れたあと、殿下は耳元で囁いた。
「これが俺たちの日常なら……永遠に続いてほしい。」
その告白に涙が溢れ、私は震える声で答えた。
「ええ……殿下となら、永遠に。」
◇
その夜、互いの温もりを確かめ合いながら眠りについた。夢の中でも殿下の手は離れず、目覚めてもきっと同じ温もりがそこにあると信じられた。
――ささやかな日常の幸せ。それは決して当たり前ではなく、互いが共にあるからこそ輝きを増すものだった。
第23話 王妃陛下からの呼び出し
〇
翌朝、食堂での朝食を終えた頃、侍女が慌ただしく駆け込んできた。手にした封蝋付きの文を差し出され、私は胸がざわめく。開封すると、そこには王妃陛下の直筆の署名があり、私に王城へ参内するよう記されていた。
「……王妃陛下から、です。」
声が震える。殿下は文を受け取り、黙って目を走らせた。灰色の瞳がわずかに細められ、短く息を吐く。
「……俺も同行する。」
「で、殿下……」
「君を一人で行かせるつもりはない。」
力強い声音に胸が熱くなり、涙がにじむ。私は深く頷き、震える声で答えた。
「……はい。ご一緒させてください。」
◇
王城の廊下を歩くと、華やかな装飾と冷たい視線が同時に押し寄せてきた。すれ違う貴族たちが一様に私を見つめ、ひそひそと囁く声が背中を追う。
「……あれが噂の。」
「王弟殿下の妻だというが……」
耳に入る声に胸が締め付けられそうになる。だが、殿下の手がしっかりと私の指を握っていて、勇気が湧いてきた。
やがて案内された広間に入ると、王妃陛下が優雅に玉座に座していた。豊かな金髪を結い上げ、宝石を散りばめた衣を纏った姿は、威厳と慈愛を併せ持っている。
「よく来ましたね、リリアナ。」
柔らかな声に胸が震える。私は深く膝を折り、声を震わせて答えた。
「王妃陛下のお呼びに応じ、参上いたしました。」
◇
王妃陛下はしばらく私を見つめ、それから穏やかに微笑んだ。
「あなたのことは耳にしておりました。けれど……こうして見ると、噂とは随分違うようですね。」
その言葉の真意を測りかねて息を呑む。殿下は私の肩に手を置き、低く告げた。
「リリアナは俺の妻です。誰にどう言われようと、変わりません。」
その強い言葉に、王妃陛下の瞳がわずかに揺れた。
「……ふふ。あなたにそう言わせるほどの方なのですね。」
王妃陛下の微笑みが深まり、胸の奥にわずかな安堵が広がる。だが同時に、何か新たな試練の予感が静かに影を落としていた。
――王妃陛下からの呼び出しは、私たちの関係をさらに試す出来事の始まりとなろうとしていた。
△
王妃陛下の微笑みに安堵を覚えながらも、胸の奥はざわついていた。広間に漂う空気は張りつめており、周囲に控える侍女や侍従たちの視線も痛いほどに突き刺さる。私は膝をついたまま深呼吸し、震える心を抑え込んだ。
「リリアナ。」
王妃陛下が静かに名を呼ぶ。穏やかでありながらも、その声は広間全体に響き渡った。
「あなたが殿下の妻となった経緯について、多くの者が口をそろえて囁いています。けれど私が見たいのは噂ではなく、実際のあなたの姿。――本当に殿下を支えるに足る人物なのかどうか。」
その問いに胸が強く締め付けられる。言葉を返そうとしたとき、殿下が一歩前に出た。
「陛下。彼女以上に俺を理解し、支えてくれる者はいません。」
低く力強い声が響き、王妃陛下は一瞬驚いたように瞳を見開いた。だがすぐに表情を和らげ、再び私を見つめた。
「……あなた自身の口からも聞かせてちょうだい。リリアナ。あなたは、彼の隣に立つ覚悟がありますか?」
◇
私は深く息を吸い込み、震える膝を強く押さえた。視線を上げると、王妃陛下の眼差しは真剣そのものだった。
「はい。私は殿下の妻として……殿下の隣に生涯寄り添う覚悟でございます。」
声は震えていたが、心に偽りはなかった。胸元のネックレスにそっと触れ、誓いを込めて告げる。
「どんな困難があろうとも、私は殿下を支え続けます。」
広間に沈黙が落ちた。王妃陛下はしばらく私を見つめ、やがてゆっくりと微笑んだ。
「……よいでしょう。あなたの言葉、確かに聞き届けました。」
安堵の息が漏れ、胸が熱くなる。殿下の手がそっと私の肩に触れ、その温もりが背中を支えてくれた。
◇
王妃陛下は立ち上がり、玉座の階段をゆっくりと降りてきた。私の前に立つと、手を差し伸べてくださる。
「立ちなさい。これからは堂々と、彼の隣に立つのですよ。」
その手を取った瞬間、胸に込み上げるものがあり、涙が零れそうになった。
「……はい、王妃陛下。」
声を震わせながら答えると、王妃陛下は優雅に頷いた。
――王妃陛下からの呼び出しは、私にとって試練であると同時に、殿下の妻としての第一歩を刻む大切な瞬間となった。
◇
王妃陛下の手を取って立ち上がった瞬間、広間の空気が少しだけ柔らかくなった。だが、周囲の視線が完全に和らいだわけではない。貴族たちの間にはまだざわめきが残り、私を測るような眼差しがいくつも注がれていた。
その気配を感じ取ったのか、殿下が一歩前に出て、私の背に手を添える。灰色の瞳が冷ややかに広間を見渡し、低い声が響いた。
「彼女に対する侮りは、すなわち俺に対する侮りだ。……忘れるな。」
その一言に場は静まり返った。誰もが息を呑み、言葉を失ったように口を閉ざす。殿下の存在感と宣言の重みが、広間全体を圧倒していた。
私はその背に守られながら、胸の奥が熱く震えるのを感じた。――この人が隣にいてくれる限り、私は恐れることはない。
◇
謁見が終わり、広間を後にした私たちは、長い廊下を並んで歩いていた。高い天井に足音が反響し、背後からの視線がまだ追いかけてくる気がして肩が強張る。
そんな私の手を、殿下は黙って握りしめた。強く、けれど優しく。
「……よくやったな。」
その一言に胸が溢れ、私は涙を堪えながら笑った。
「殿下がいてくださったからです。もし一人だったら……きっと、声も出せませんでした。」
殿下はしばらく黙ったまま私を見つめ、やがて小さく頷いた。
「君はもう、俺の隣に立つに足る人間だ。」
その不器用な賛辞に胸が甘く震え、涙が頬を伝った。
◇
屋敷へ戻る馬車の中、私は殿下の肩にもたれて窓の外を眺めていた。夕陽が城壁を黄金色に染め、影が長く伸びていく。
「……王妃陛下にお会いして、ようやく認めていただけた気がします。」
私の呟きに、殿下は低く応えた。
「君は最初から俺の妻として十分だった。だが今日で、それを他の誰にも否定させない。」
その言葉に胸が熱くなり、目を閉じて頬を寄せた。殿下の肩の温もりが心を満たし、涙がまた零れそうになった。
――王妃陛下からの呼び出しは、試練であると同時に祝福でもあった。私たちは互いの絆を胸に刻み、より揺るぎない未来へと歩みを進めていた。
第24話 手を取り合う未来
〇
王妃陛下に認められたその夜、屋敷に戻った私は鏡台の前に座り、胸元のネックレスを指でそっとなぞっていた。銀の鎖の冷たさと、殿下の手の温もりが重なって思い出され、胸の奥が甘く震える。
扉が静かに開き、殿下が入ってきた。執務を終えたばかりなのだろう、肩には疲労が滲んでいる。けれど灰色の瞳はいつもより柔らかく光っていた。
「……今日のこと、よく耐えてくれたな。」
低い声に顔を上げ、微笑んだ。
「殿下が隣にいてくださったから、私は強くいられました。」
その答えに殿下は視線を逸らし、耳の端を赤く染める。不器用な仕草が愛おしくて、胸が甘く満たされた。
◇
やがて殿下は机の引き出しから紙束を取り出し、私に差し出した。
「……これは、将来のための覚え書きだ。」
恐る恐る手に取ると、そこには屋敷の管理や領地の運営に関する詳細が記されていた。
「こんな大切なものを、私に?」
「ああ。俺一人では不安だ。……共に考えてほしい。」
殿下の真剣な瞳に胸が震え、涙が溢れそうになった。
「殿下……私に務まるでしょうか。」
「君だからこそ、頼める。」
その言葉に涙が頬を伝い、私は深く頷いた。
「……はい。殿下と共に未来を歩みます。」
◇
夜更け、寝室で寄り添ったまま灯火を落とす。殿下は私の手を握り、低く囁いた。
「君となら、どんな未来も恐れない。」
「私もです。殿下となら……」
互いの言葉が溶け合い、唇が重なった。長く、温かい口づけ。胸が甘く震え、涙が滲む。
――手を取り合う未来。それはまだ形のない道だが、二人でなら確かに歩んでいけると信じられた。
△
翌朝、殿下の書斎で二人並んで座っていた。机の上には昨夜受け取った覚え書きが広げられており、羊皮紙に記された文字が淡い陽光を受けて光っている。私は指先で文字を追いながら、胸の奥にじんわりと広がる緊張を抑え込んだ。
「……領地の税収や倉庫の管理、ここまで細かく……」
思わず呟くと、殿下は低い声で答えた。
「不備があれば指摘してほしい。俺だけでは見落とすこともある。」
「殿下が……私の意見を?」
驚いて顔を上げると、灰色の瞳が真っすぐにこちらを捉えていた。
「君は俺の妻だ。共に未来を歩むなら、君の声も必要だ。」
胸が甘く震え、涙が滲む。私は小さく頷き、紙に視線を戻した。
◇
昼下がり、庭に出ると風が心地よく頬を撫でた。殿下と並んで歩きながら、未来について語るのは不思議なほど自然で、胸を温かく満たしていった。
「殿下は……どんな未来を思い描いておられるのですか?」
問いかけると、殿下は少し視線を宙に彷徨わせ、やがて低く答えた。
「静かな未来だ。……戦や争いとは無縁で、君と穏やかに過ごせる日々。」
その言葉に涙が込み上げ、私は笑みを浮かべて頷いた。
「私も同じです。殿下の隣で、ただ平穏な日常を重ねたい。」
殿下はしばらく私を見つめ、それから小さく息を吐いた。
「なら、そのために俺は強くあらねばならないな。」
灰色の瞳に決意の光が宿り、胸が熱くなる。私は殿下の手を取って強く握った。
「私も支えます。殿下となら、どんな未来も築けます。」
◇
夕暮れが訪れ、赤く染まる空の下で二人肩を並べた。沈みゆく太陽が私たちを照らし、影がひとつに重なる。
殿下はふと私の名を呼び、囁いた。
「リリアナ……これからも俺の隣に。」
「ええ、ずっと。」
胸が震え、涙が溢れる。互いの影を重ね合わせながら、未来への誓いを胸に刻んだ。
――手を取り合う未来はまだ形を持たない。けれど確かなのは、殿下と共に歩むと決めたこの道こそ、私にとって最も輝かしいものだということだった。
◇
夜。寝室に灯した蝋燭の炎が静かに揺れ、壁に映る二人の影が重なっていた。昼間に交わした未来の話が胸に残り、眠りにつくには惜しいほど心が熱を帯びていた。私は胸元のネックレスに触れながら、殿下の横顔を見つめる。
「……殿下、本当に私でよかったのですか?」
思わず漏れた問いに、殿下はゆっくりとこちらを向いた。灰色の瞳が真っすぐに私を射抜き、低く静かな声が響く。
「リリアナ。俺にとって君以外はいない。……何度でも言おう。君は俺の妻であり、心そのものだ。」
その言葉に胸が甘く震え、視界が滲む。私は涙を拭い、微笑みながら頷いた。
「殿下……ありがとうございます。私も、殿下と共に未来を築きたいのです。」
唇が重なる。長く、深い口づけ。互いの想いを確かめ合い、鼓動がひとつに溶けていく。
◇
口づけのあと、殿下は私を強く抱きしめた。背に回された腕が熱を宿し、全身を包み込む。
「俺は不器用で、言葉も足りない。それでも……君を幸せにしたい気持ちだけは誰にも負けない。」
耳元に落とされた声が胸に響き、涙がまた溢れる。
「殿下がいてくださるだけで、私はもう十分に幸せです。」
互いの吐息が重なり、夜の静寂が甘く満ちていく。
◇
やがて灯火が消され、闇の中で互いの温もりを確かめ合った。指先が触れ合い、鼓動が重なる。言葉はなくとも、未来を共に歩む誓いが確かにそこにあった。
――手を取り合う未来は、まだ遠い先のことかもしれない。けれど、その夜の抱擁と口づけが、二人にとって何よりも確かな道標となった。
第25話 初めての外泊
〇
王妃陛下への謁見から数日後、殿下は珍しく旅支度を整えていた。控えめな外套に、必要最低限の荷を詰めた鞄。私は侍女からその準備を耳にし、胸がざわめく。
「……殿下、どこかへ行かれるのですか?」
恐る恐る問いかけると、殿下は少し迷うように視線を揺らし、低く答えた。
「君を連れて、小さな別邸へ行こうと思う。……二人だけで過ごせる場所だ。」
その言葉に胸が甘く震える。王城や貴族たちの視線から解き放たれ、ただ殿下と二人きりで過ごせる。想像しただけで頬が熱くなり、声が震えた。
「……本当に、私もご一緒してよろしいのですか?」
「当然だ。君なしで行く意味はない。」
灰色の瞳が真剣に揺れ、私は涙が込み上げるのを必死に堪えた。
◇
馬車に揺られて半日。辿り着いたのは森に囲まれた静かな別邸だった。石造りの外壁は年月を経て落ち着いた風合いを帯び、窓辺には花が飾られている。人影は少なく、ただ鳥の声と風のざわめきが響いていた。
「ここなら誰にも邪魔されない。」
殿下の言葉に胸が満ち、私は思わず微笑んだ。
「まるで秘密の隠れ家のようですね。」
彼は短く頷き、外套を脱いで私の肩にかけてくれる。
「冷えるといけない。中に入ろう。」
◇
暖炉の火がぱちぱちと音を立てる広間に腰を下ろすと、殿下は珍しく寛いだ様子を見せていた。外套を椅子に掛け、私の隣に座ると、肩が触れ合う距離で囁く。
「……こうして誰の目もない場所で、君と過ごしたかった。」
胸が甘く震え、頬が熱を帯びる。私は小さな声で答えた。
「私もです。殿下と二人きりで過ごせるなんて、夢のようです。」
殿下の瞳が柔らかく揺れ、私の手を取る。暖炉の炎に照らされるその温もりは、まるで未来を照らす灯火のようだった。
――初めての外泊は、二人だけの静かな時間を紡ぐ、かけがえのない始まりとなった。
△
別邸で迎えた初めての夜。窓の外には森の闇が広がり、遠くで梟の声が響いていた。暖炉の火が部屋をやわらかく照らし、炎の揺らめきが壁に影を踊らせている。私は厚手の毛布を膝にかけながら、隣に腰を下ろした殿下をちらりと見た。
「……こうしていると、まるで別の世界に来たようです。」
呟くと、殿下は静かに頷いた。
「城や屋敷では、どうしても視線がつきまとう。だがここなら……俺たちだけだ。」
その言葉に胸が震え、頬が熱くなる。二人きり、という響きが甘く心を揺らす。
◇
やがて殿下が立ち上がり、暖炉に薪をくべた。ぱちぱちと音を立てて火が勢いを増し、部屋の空気が温かさを増す。殿下は椅子に戻ると、少し迷うように視線を泳がせ、それから不器用に告げた。
「……君と、もっと語り合いたい。普段は言葉が足りず、思いを伝えきれないから。」
灰色の瞳に真剣な光が宿っていた。私は胸が甘く震え、笑みを浮かべて頷く。
「私もです。殿下のお気持ちを、もっと知りたいです。」
そう言うと、殿下はわずかに耳を赤くしながらも私を見つめ続けた。
◇
その夜は、取り留めもない話をした。子どもの頃の思い出や、好きな食べ物のこと。殿下が意外にも甘い菓子を好むと知って驚き、思わず笑ってしまう。殿下は少し不機嫌そうに眉を寄せながらも、私の笑い声に釣られて口元を緩めた。
「……君に笑われると、悪い気はしない。」
不器用な言葉に胸が熱くなり、私は手を伸ばして彼の指を握った。
「殿下……私も、殿下とこうして笑い合えるのが幸せです。」
指先の温もりが重なり、胸の奥にじんわりと広がっていく。
◇
外泊の初めての夜は、豪奢な宴ではなく、ただ火の前で語り合い、寄り添い合うだけの時間だった。けれど、それこそが何よりも甘く、心を満たすひとときだった。
――殿下と過ごす静かな夜は、私にとって永遠に忘れられない宝物となっていった。
◇
夜が更け、蝋燭の灯りも小さく揺れ始めたころ。殿下と私は並んでソファに腰掛けたまま、互いの手を握っていた。暖炉の炎がぱちぱちと弾け、静寂の中で鼓動だけが重なって聞こえる。
「……殿下。」
名前を呼ぶと、灰色の瞳がこちらを見た。その視線に包まれるだけで胸が震え、言葉が喉に詰まる。けれど勇気を振り絞り、微笑みながら続けた。
「この時間が、ずっと続けばいいのにと思ってしまいます。」
殿下は目を細め、少しの間黙っていた。やがて低く、けれど確かな声で応える。
「続けよう。……君となら、永遠に。」
その不器用な告白に涙がこぼれそうになり、私は慌てて俯いた。けれど殿下の指が頬に触れ、そっと上を向かされる。
◇
唇が重なった。静かで、けれど熱を帯びた口づけ。初めて交わしたときよりも深く、確かなもの。世界が揺らぎ、胸の奥が甘く痺れる。
唇が離れると、殿下は私の額に口づけを落とした。
「君といると……自分が変われる気がする。」
「殿下は、もう十分に優しい方です。」
思わずそう告げると、殿下の目が驚いたように揺れ、次いで穏やかに細められた。
「……そう言ってくれるのは、君だけだな。」
◇
その夜、私たちは同じ寝台に身を横たえた。森に囲まれた別邸は静寂に包まれ、遠くで風が木々を揺らす音だけが響く。殿下の腕の中で目を閉じると、胸の奥に確かな安堵が広がった。
「殿下……」
まどろみの中で名前を呼ぶと、彼は強く抱きしめてくれる。
「俺のそばに、ずっといてくれ。」
「はい。永遠に……」
――初めての外泊の夜は、互いの未来を確かめ合う誓いの夜となった。眠りに落ちてもなお、温もりは決して離れなかった。
第26話 秘密の朝食
〇
森に囲まれた別邸で迎える初めての朝。鳥のさえずりが窓の外から聞こえ、やわらかな陽光がカーテン越しに差し込んでいた。目を覚ました私は、隣で眠る殿下の横顔をそっと見つめた。整った眉、穏やかな寝息。その姿が愛おしくて胸が温かく満たされる。
やがて殿下がゆっくりと瞼を開いた。灰色の瞳が私を映し、低い声で囁かれる。
「……おはよう、リリアナ。」
「おはようございます、殿下。」
朝の挨拶を交わすだけで頬が熱くなる。殿下は腕を伸ばし、まだ眠気を含んだ声で続けた。
「君の顔を最初に見られる朝は……悪くないな。」
その言葉に胸が甘く震え、思わず笑みがこぼれた。
◇
身支度を整えたあと、私は台所に足を運んだ。別邸は侍女も少なく、簡素な造りになっている。そこで私は、殿下と二人だけの朝食を用意してみようと思い立った。
籠に入っていた卵やパン、果物を並べ、不慣れな手つきで調理を始める。卵を割る音、パンを焼く香ばしい匂いが広がり、心が躍った。
「……何をしている?」
背後から声がして振り返ると、殿下が立っていた。驚きと戸惑いが入り混じった表情で、私の手元を見つめている。
「朝食を。殿下と二人きりでいただきたくて……」
恥ずかしさに頬が熱くなる。けれど殿下は黙って近づき、私の手からナイフを受け取った。
「俺にも手伝わせろ。」
◇
ぎこちないながらも、二人で協力して作った食卓は、驚くほど温かい雰囲気を纏っていた。焼き立てのパンに卵、果物を添えた簡素な朝食。
殿下はパンを口にし、少し驚いたように目を瞬かせた。
「……悪くないな。」
その一言に胸が甘く満たされ、思わず笑みがこぼれる。
「殿下と一緒に作ったから、美味しいのだと思います。」
殿下の灰色の瞳がやわらかく揺れ、互いに視線を交わした。
――秘密の朝食は、誰に見せることもできないけれど、確かな幸せを刻むひとときとなった。
△
質素なはずの朝食が、こんなにも胸を満たすものになるとは思わなかった。殿下は黙々と卵を口に運び、ときおり私の方をちらりと見る。その灰色の瞳に映る自分の姿が恥ずかしくもあり、同時に嬉しくもあった。
「……殿下のお口に合いましたか?」
恐る恐る尋ねると、殿下は小さく頷いた。
「君が用意してくれたものだ。それだけで十分だ。」
不器用ながらもまっすぐな言葉に、胸が甘く震える。私は微笑み、カップを手に取った。温かい香りが広がり、心まで安らぐ。
◇
食後、片付けをしようと立ち上がると、殿下が私の手首を取った。
「リリアナ。……無理はするな。」
「無理などしておりません。ただ……殿下に喜んでいただきたくて。」
そう告げると、殿下は言葉を失い、しばらく私を見つめた。そして静かに吐息を漏らし、頬に触れる。
「……どうして君は、そんなにも俺を想ってくれるのだろう。」
問いかけというより、独白に近い声音だった。私は頬を赤らめ、俯きながら答える。
「理由なんてありません。殿下だから、です。」
その一言に、殿下の瞳が揺れた。
◇
台所の窓から差し込む朝日が、二人を包み込んでいた。殿下は小さく首を振り、口元にかすかな笑みを浮かべる。
「……俺には過ぎた妻だな。」
「いいえ。私は殿下の妻だからこそ、この幸せを感じられるのです。」
言葉を重ね合ううちに、胸が甘く熱くなっていく。互いの視線が絡み合い、朝の光に照らされる中、指先が自然と触れ合った。
――秘密の朝食は、ただの食事ではなく、互いの心を確かめ合うひとときとなっていた。
◇
朝食を終え、窓から差し込む光が床に長い影を落としていた。殿下は黙って椅子を引き、私の前に立つと手を差し出した。
「……リリアナ。来てほしい場所がある。」
差し出された手を取ると、殿下は私を中庭へと導いた。別邸の裏手には、小さな菜園と花壇が広がっていた。朝露をまとった花々がきらめき、柔らかな風が頬を撫でる。
「ここは、俺がまだ幼い頃に母上と過ごした場所だ。誰にも話したことはない。」
殿下の声は低く、少し震えていた。私は驚きながらも、そっと彼の横顔を見つめた。
「……大切な場所を、私に見せてくださるのですか?」
「ああ。君だからだ。」
その一言に胸が熱くなり、涙がこぼれそうになる。
◇
殿下は花壇の前に立ち止まり、そっと手を伸ばした。指先が花弁に触れると、遠い記憶を呼び覚ますように目を閉じる。
「母上は……優しい方だった。人前では強く振る舞っていたが、俺の前ではよく笑ってくれた。」
語られる思い出に、胸が締め付けられる。私は静かに殿下の手を握った。
「殿下の想い出を、こうして聞かせていただけて……光栄です。」
殿下は目を開き、灰色の瞳を私に向けた。
「君となら……この先の未来も分かち合える気がする。」
その真剣な言葉に涙が溢れ、頬を伝った。
◇
殿下はそっと私を抱き寄せ、額を重ねた。花々の香りに包まれながら、互いの鼓動がひとつに重なる。
「……リリアナ。これからも、俺の隣に。」
「ええ。ずっと……殿下の隣におります。」
誓いを交わした瞬間、朝の光が花壇を照らし、白い花が一層輝いて見えた。
――秘密の朝食から始まった一日は、大切な記憶と未来を重ね合わせる、永遠の約束の朝となった。
第27話 帰路の誓い
〇
別邸で過ごした数日は、まるで夢のようだった。朝は二人で支度を整え、昼は庭を散歩し、夜は暖炉の前で語り合う。誰の目もなく、ただ殿下と私だけで紡ぐ時間。胸の奥に刻まれたその温もりを、永遠に忘れたくないと思った。
しかし、帰路につく日がやってきた。馬車の前で荷を積む従者を眺めながら、胸に小さな寂しさが広がる。殿下はそんな私の表情を見て、低い声で囁いた。
「名残惜しいか。」
「……はい。殿下と二人きりの時間が、あまりにも幸せでしたから。」
正直な思いを伝えると、殿下の灰色の瞳がやわらかく揺れた。
「また来ればいい。君となら、何度でも。」
その言葉に胸が甘く震え、涙が込み上げる。私は強く頷き、微笑んだ。
◇
馬車の中、殿下は珍しく窓の外を見つめたまま沈黙していた。森を抜け、道が開けると、空は澄み渡り、遠くに城の影が見えてきた。
殿下は静かに口を開いた。
「リリアナ。俺は今まで、未来を語ることを避けてきた。……だが、君と過ごすうちに、考えるようになった。」
真剣な声音に息を呑み、彼を見つめる。
「どんな未来を……お考えですか?」
殿下は一瞬言葉を探すように視線を逸らし、やがて低く告げた。
「君と共に生きる未来だ。……城の喧騒の中でも、領地の務めの中でも、君となら歩いていける。」
その不器用な告白に胸が甘く痺れ、頬を伝う涙を止められなかった。
◇
殿下は私の手を取って強く握り、静かに続けた。
「約束しよう。俺はどんなときも君を守り、君と共に歩む。」
灰色の瞳に宿る決意が、胸を射抜くように響いた。私は震える声で応えた。
「……私も誓います。殿下となら、どんな未来も恐れません。」
馬車はゆっくりと進み、城へと近づいていく。帰路は別れではなく、誓いの始まりだった。
――帰路の誓いは、私たちをさらに強く結びつけるものとなった。
△
馬車の車輪が石畳を軋ませながら進むたび、窓の外の景色は少しずつ変わっていった。森の静けさから遠ざかり、城下町の喧噪が近づいてくる。活気ある人々の声や市場の賑わいが耳に届き、別邸で過ごした穏やかな日々が夢のように思えた。
けれど、隣に殿下がいる。その事実があれば、どんな喧騒も恐ろしくはなかった。
「……人々の視線が、また君を苦しめるかもしれない。」
殿下が低く呟いた。窓越しに見える町人たちが馬車を振り返り、ひそひそと声を交わしている。胸が締め付けられたが、私は殿下の手を強く握った。
「大丈夫です。殿下と共にいる限り、私は恐れません。」
そう言うと、殿下の瞳が驚いたように揺れ、やがて柔らかに細められた。
「……君は強くなったな。」
◇
馬車が王城へと近づくにつれ、胸の奥に緊張が広がる。かつて妹に婚約者を奪われた日の痛みが一瞬よぎったが、すぐに殿下の温もりがそれを打ち消した。
「リリアナ。」
名前を呼ばれ、顔を上げると、殿下は真剣な瞳でこちらを見つめていた。
「君を妻として迎えたことを、誰よりも誇りに思っている。」
その不器用でまっすぐな言葉に、胸が甘く震えた。涙が頬を伝い、声が震える。
「……殿下。私も、殿下の妻であることを誇りに思っています。」
殿下の手がそっと頬を拭い、灰色の瞳が深く揺れた。
◇
やがて馬車が王城の門をくぐると、兵士や侍女たちが頭を下げて出迎えた。視線は依然として好奇の色を帯びていたが、もう怯えることはなかった。殿下が隣に立ち、私の手を固く握ってくれているから。
「……帰ってきたな。」
「はい。ですが、もう以前とは違います。殿下と共に、胸を張って歩きます。」
互いの瞳を見つめ合い、小さく頷き合った。
――帰路の誓いは、決して言葉だけのものではなく、王城の石畳に刻まれる確かな歩みとなっていた。
◇
城に戻ったその夜、私は殿下と並んで窓辺に立っていた。高い塔から眺める街は灯火で彩られ、遠くの市場まで賑わいの声が届いてくる。別邸の静寂とはまるで異なる景色だったが、不思議と胸に恐れはなかった。殿下の手が確かに私の手を包んでいるからだ。
「……ここに戻ると、いつも胸が重くなる。けれど今は違う。」
殿下がぽつりと漏らした言葉に振り向くと、灰色の瞳が深く揺れていた。
「君がいるだけで、この城も……居場所に変わる。」
胸が熱くなり、涙が滲む。私はそっと彼の胸に顔を埋め、小さく答えた。
「私もです。殿下と共にある限り、どんな場所も怖くありません。」
◇
寝室に移り、静かに灯を落とした。殿下は椅子に腰掛けたまま、しばらく何かを考えるように沈黙していた。やがて立ち上がり、私の前に歩み寄る。
「リリアナ。……帰路で交わした誓いは、言葉だけに終わらせない。」
「殿下……?」
「俺は必ず、君を守り続ける。それが俺の生きる意味だ。」
真剣な声音に胸が甘く震え、涙が頬を伝った。私は両手で殿下の手を包み込み、震える声で答える。
「私も誓います。殿下と共に……どんな未来も歩みます。」
唇が重なり、互いの鼓動がひとつに溶ける。
◇
その夜、眠りにつくまで何度も互いの名前を呼び合った。呼ぶたびに絆は強くなり、誓いは確かなものとなっていく。
――帰路で交わした約束は、城へ戻っても揺らぐことなく、二人の未来を導く灯火となった。
第28話 妹との再会
〇
王城に戻って数日後、思いがけない知らせが舞い込んだ。侍女が戸口でおずおずと告げた名に、私は一瞬息を呑んだ。
「……アメリア様が、こちらにお越しです。」
妹の名を聞いた瞬間、胸の奥に封じ込めていた痛みが鋭く疼いた。かつての婚約者を奪い、私を陰で嘲笑った存在――。忘れようとしても、あの日の傷はまだ癒えてはいなかった。
けれど、この屋敷に来るということは、避けては通れない。私は深く息を吸い込み、震える心を押さえつけた。
「……分かりました。お通しください。」
扉が開き、妹が姿を現した。相変わらず華やかな衣を纏い、紅い唇をわずかに吊り上げている。けれどその瞳には、かつて見たことのない焦りが滲んでいた。
「お姉様……」
その呼びかけに、胸がざわめく。かつては響き合っていたはずの言葉が、今は遠い他人の声のように感じられた。
◇
応接室に移り、向かい合って座る。殿下は黙って私の隣に腰掛け、灰色の瞳で妹を静かに見つめている。その存在が心強く、背中を支えてくれる。
アメリアは視線を逸らし、唇を噛みしめるようにして言葉を探していた。
「……あのときのことは、私が悪かったわ。」
意外な言葉に、胸が大きく揺れた。謝罪――それは一度も聞けるとは思わなかったものだ。
しかし、その奥に何が隠れているのか、容易には信じられない。私は慎重に問い返した。
「今さら、どうしてそのような言葉を?」
妹は小さく肩を震わせ、そして搾り出すように告げた。
「私……今はもう、幸せではないの。」
◇
その声に嘘はなかった。華やかな衣の下に、疲れ切った表情が透けて見える。あの誇らしげだった妹が、今はどこか壊れそうに見えた。
私は返す言葉を見失い、ただ殿下の手を強く握った。灰色の瞳が私を見つめ、「大丈夫だ」と無言で告げてくれているようだった。
――妹との再会は、過去の傷を抉ると同時に、新たな真実を突きつけてきたのだった。
△
アメリアは俯いたまま、震える指先でスカートの裾を握りしめていた。いつも自信に満ち、私を見下すように笑っていたあの妹とはまるで別人のようだった。
「……彼は、私を愛してはくれなかったの。」
掠れた声で放たれた告白に、私は思わず息を呑んだ。奪われたときには見せつけるように幸福を語っていたはずの妹が、今は痛みに顔を歪めている。
「最初は甘い言葉をかけてくれた。でも、時間が経つにつれて……私のことをただの飾りのように扱い、やがては冷たく突き放した。」
アメリアの瞳から涙がこぼれ落ち、テーブルに落ちる。私はその姿を見つめながら、胸の奥に複雑な感情が渦巻くのを感じた。
◇
憎しみ、哀れみ、そしてかすかな同情――。混ざり合った感情に、心は大きく揺れ動いた。あの日の痛みを忘れたわけではない。けれど、目の前の妹は確かに苦しんでいた。
殿下は沈黙を守ったまま、ただ私の手を包み込んでくれている。その温もりが、私の心を支えた。
「アメリア……」
私は絞り出すように妹の名を呼んだ。
「あなたがしたことを、簡単に許すことはできないわ。けれど……今のあなたを見ていると、憎しみだけでは胸が押しつぶされてしまう。」
アメリアは顔を上げ、濡れた瞳で私を見た。
「お姉様……私、どうすればいいの?」
◇
妹の問いはあまりにも弱々しく、かつての高慢さは微塵も残っていなかった。私は言葉を探し、ふと殿下の横顔に視線を向ける。
灰色の瞳が私を見つめ、静かに頷いた。まるで「君の選ぶ言葉を、俺は受け止める」と告げているようだった。
胸に勇気が満ち、私は静かに答えた。
「まずは、自分の過ちと向き合うこと。そこから始めるしかないと思うわ。」
アメリアは涙を拭い、震える肩を抱きしめながら小さく頷いた。
――妹との再会は、過去の因縁を呼び覚ますだけでなく、彼女自身の痛みを知る時間でもあった。
◇
アメリアは深く息を吐き、震える手で涙を拭った。その姿は、かつて私が知る妹ではなかった。華やかで自信に満ち、私を影に追いやった少女はもういない。代わりに目の前にいるのは、過ちに傷つき、居場所を見失った一人の女性だった。
「……お姉様。あなたは強いわ。私にはなかったものを、ちゃんと持っている。」
弱々しい笑みを浮かべる妹の言葉に、胸が締め付けられる。私は無意識に殿下の手を握り直し、温もりに勇気をもらった。
「強いなんてことはありません。ただ、殿下が隣にいてくださるから……立ち続けられるのです。」
そう告げると、アメリアの瞳に一瞬驚きが浮かんだ。
「……本当に愛されているのね。」
その呟きに頬が熱くなり、視線を逸らした。殿下は何も言わず、ただ私の手を優しく包み込む。
◇
しばしの沈黙のあと、アメリアは小さく頭を下げた。
「ありがとう……お姉様。私の話を聞いてくれて。」
その声は震えていたが、確かに本心からのものに聞こえた。私は複雑な思いを抱えながらも、静かに頷いた。
「これからどうするかは、あなた自身が決めることよ。逃げずに、きちんと自分の道を歩んで。」
アメリアは涙をこらえ、震える声で「分かった」と答えた。その瞳には、かすかな光が宿っていた。
◇
妹が去ったあと、応接室には静寂が戻った。私は深く息をつき、肩から力が抜けるのを感じた。殿下がそっと背に手を添え、低く囁く。
「……辛かったな。」
その優しさに胸が震え、思わず殿下に身を預けた。
「はい。でも、殿下がいてくださったから……私は自分の言葉を伝えられました。」
殿下の腕が強く私を抱き寄せ、灰色の瞳が真剣に揺れた。
「君はもう過去に縛られてはいない。俺と共に、未来だけを見ていこう。」
その言葉に涙が溢れ、私は深く頷いた。
――妹との再会は痛みを伴ったが、それでも新しい一歩を踏み出すきっかけとなったのだった。
第29話 未来への歩み
〇
妹との再会から数日。胸に残るざわめきは完全に消えたわけではなかったが、殿下と過ごす日々がその痛みを少しずつ癒してくれていた。彼の屋敷の庭には季節の花が咲き誇り、陽光を浴びるたびに色彩を増していく。それはまるで、私たちの関係のように思えた。
ある午後、殿下と共に庭を歩いていると、彼は足を止め、空を仰いだ。
「……君と過ごすようになってから、俺は未来を考えることが増えた。」
その言葉に胸が震える。私は殿下の横顔を見つめ、小さく問いかけた。
「どんな未来を思い描いておられるのですか?」
殿下は少しの間黙し、それから私に視線を戻した。
「君と共に歩む未来だ。……どこにいても、何をしていても、君となら乗り越えられる。」
その真剣な瞳に、涙が込み上げる。私は頬を赤らめながら微笑んだ。
「私もです。殿下となら、どんな未来も恐れません。」
◇
夕暮れ、書斎で並んで座っていると、殿下が机の引き出しから一通の封筒を取り出した。そこには領地からの書簡が入っていた。
「領地の人々が、近く祭りを開くそうだ。……君にも来てほしいと頼まれた。」
驚きと共に胸が温かくなる。人々が私を受け入れようとしている――そう思えたからだ。
「……私でよろしいのでしょうか。」
殿下は強く頷き、私の手を握った。
「当然だ。君は俺の妻であり、この家の未来を共に担う存在だから。」
灰色の瞳に宿る決意が胸を射抜き、私は涙を堪えきれずに頬を濡らした。
「殿下……ありがとうございます。」
◇
夜になり、寝室で寄り添いながら殿下が囁いた。
「リリアナ。……君となら、どんな困難も受け入れられる。」
「ええ。殿下と共になら。」
互いに言葉を重ね、唇を寄せ合う。温もりが胸を満たし、涙と笑みが溶け合った。
――未来への歩みはまだ始まったばかり。けれど殿下と共になら、どんな道も輝きに満ちていると信じられた。
△
祭りの知らせを受け取った日から、屋敷の空気はどこか華やいでいた。侍女たちが衣装の準備に取りかかり、料理長は郷土の食材を用いた献立を考えている。私は窓辺でその様子を眺めながら、胸の奥がそわそわと高鳴るのを抑えきれなかった。
「……殿下と人々の前に立つのは、初めてですね。」
思わず口にすると、殿下は執務の手を止め、静かにこちらを見た。
「ああ。だが心配はいらない。君は堂々としていればいい。」
「堂々と、ですか……」
私は自分の指をぎゅっと握った。過去に妹の影に隠されていた自分が、人々の前でどのように映るのか。不安は消えなかった。だが、殿下の灰色の瞳に見つめられると、不思議と背筋が伸びる気がした。
◇
祭りの準備が進む中、殿下は私を庭に呼び出した。夕暮れの光が花壇を照らし、花々が柔らかに揺れている。
「リリアナ。」
名を呼ばれ、振り返ると殿下はまっすぐに立っていた。
「人前で君が不安を覚えるのは当然だ。だが――」
彼は私の手を取り、力強く握った。
「君は俺の妻だ。それだけで十分だ。何も恐れる必要はない。」
その言葉に胸が甘く痺れ、涙が滲む。私は強く頷き、彼の手を握り返した。
「はい。殿下と共になら、胸を張って歩けます。」
◇
夜、寝室で眠りにつく前、殿下が再び私に向き直った。
「君が隣にいる未来を、俺は誇りに思う。祭りも、その先も。」
不器用な告白に胸が熱くなり、私は微笑んだ。
「私も誇りに思っています。殿下の妻であることを。」
静かな口づけが交わされ、胸に刻まれる。
――未来への歩みは、もう迷いのないものとなりつつあった。殿下と共に見据える先に、どんな困難があっても輝きがあると信じられた。
◇
祭りの日は、快晴だった。澄み渡る空に色鮮やかな旗がはためき、広場は人々の歓声で溢れていた。屋台には果実酒や焼き菓子が並び、子どもたちの笑い声が響く。その賑わいの中、私は殿下と馬車で広場へ向かっていた。
車窓越しに人々の顔が見える。好奇と期待、さまざまな視線が一斉に注がれ、胸が高鳴る。だが、殿下の手が私の指をしっかりと握っていて、不思議と恐れは薄れていった。
「……大丈夫だ。俺が隣にいる。」
殿下の低い声に頷き、深呼吸をする。扉が開かれ、二人で外へ降り立った。
◇
群衆の中から拍手が起こり、歓声が広がった。驚きと共に、胸に温かさが満ちていく。人々が私を受け入れようとしている――その事実が涙を誘った。
殿下は手を差し伸べ、堂々と歩き出す。私はその隣に並び、一歩一歩を大切に踏みしめた。
「殿下……皆さまが、笑ってくださっています。」
私の声に殿下は頷き、短く答える。
「ああ。君を見て、安心しているのだろう。」
彼の言葉に胸が甘く震え、涙がこぼれそうになる。
◇
その後、祭りの広場で振る舞われた果実酒を人々と共に口にした。子どもたちが花を差し出してくれ、私は胸に抱きしめる。殿下はその様子を黙って見守り、灰色の瞳に柔らかな光を宿していた。
「……これが君と歩む未来の始まりだ。」
殿下の囁きに涙が頬を伝い、私は強く頷いた。
「はい。殿下と共に歩みます。」
祭りの喧騒の中、互いの誓いは人々の祝福に包まれて、確かなものとなった。
――未来への歩みは、過去の痛みを超えて、多くの温かな光に照らされていた。
第30話 揺るぎない愛
〇
祭りから戻った夜、屋敷は静けさに包まれていた。外の喧騒が夢のように感じられるほど、穏やかな闇が広がっている。私は寝室の窓辺に立ち、月明かりに照らされた庭を見下ろしていた。胸にはまだ祭りの余韻が残っていて、人々の笑顔や差し伸べられた花の温もりが蘇る。
背後から足音が近づき、殿下がそっと腕を回してきた。背中に伝わる体温に、心臓が甘く跳ねる。
「……人々は君を受け入れたな。」
「はい。皆さまが微笑んでくださって……とても嬉しかったです。」
そう告げると、殿下の顎が私の肩に触れ、低い声が耳元をくすぐった。
「俺は最初から分かっていた。君なら大丈夫だと。」
その確信に満ちた声に、胸が熱くなる。私は殿下の腕にそっと手を添え、瞳を閉じた。
◇
やがて殿下は私を振り返らせ、真剣な眼差しで見つめてきた。灰色の瞳が月光を受け、深い光を宿している。
「リリアナ。君と過ごしたこの日々は……俺の宝だ。」
胸が震え、涙が溢れそうになる。私は震える声で問い返した。
「殿下……本当に、私でよかったのですか?」
殿下は一歩近づき、私の両手を包み込むように握った。
「君以外はいない。……俺の妻は、君だけだ。」
その言葉に涙がこぼれ、頬を伝った。
◇
唇が触れ合い、長く深い口づけが交わされる。互いの想いが混ざり合い、鼓動がひとつに溶けていく。離れたとき、殿下の瞳は熱を帯びながらも、どこまでも優しかった。
「これからも、不器用な俺に呆れることがあるだろう。それでも……君を愛し続ける。」
「私もです。殿下だけを、ずっと。」
互いの言葉が重なり、再び唇が触れる。今度は涙と笑みが混ざり合い、胸に甘い痛みが広がった。
――揺るぎない愛。それは誓いではなく、すでに日々の中で確かな形となっていた。私たちは共に過去を乗り越え、未来へと歩む。
そしてその夜、月明かりの下で交わした抱擁は、永遠の愛を刻むものとなった。
終わり
〇
茶会から数日が経った。屋敷は平穏で、殿下と過ごす日々は穏やかに流れていた。けれど、安らぎの中にも小さな波は訪れる。
ある朝、私は庭で花を摘んでいた。雨上がりの空気は澄んでいて、花々は鮮やかに咲き誇っている。髪飾りに添える花を探していると、背後から殿下の声がした。
「リリアナ、また一人で外に出ていたのか。」
振り返ると、灰色の瞳がわずかに険しさを帯びていた。
「はい……庭ですし、少しの時間だけです。」
「侍女を連れずに出歩くのは危険だ。」
その言葉に、胸が小さくざわめいた。
「でも、ここは殿下のお屋敷です。外の通りではありませんし……」
私の反論に殿下の眉がわずかに寄る。
「それでも、万が一がある。俺は君を失いたくない。」
真剣な声音に心が揺れる。けれど同時に、守られてばかりでいいのかという戸惑いも込み上げてきた。
◇
その日の午後。刺繍をしていると、殿下が再びやってきた。彼は少しためらうように立ち止まり、低い声で言った。
「……君が危険に晒されるのが怖い。だから口うるさく言ってしまう。」
私は針を置き、顔を上げた。
「殿下のお気持ちは分かっています。けれど……私は殿下の隣に立つ妻です。守られるだけの存在ではいたくありません。」
殿下の瞳が大きく揺れ、言葉を失った。
「私だって、殿下を守りたいのです。」
その一言に、沈黙が落ちた。殿下の灰色の瞳は深い影を宿し、やがてゆっくりと口を開く。
「……俺は、不器用だな。」
その自嘲めいた言葉に胸が痛み、思わず手を伸ばして彼の手を取った。
「殿下の不器用さが、私は好きです。だから……もっと信じてください。」
殿下は目を伏せ、深く息を吐いた。
「……分かった。君を信じる。」
その答えに涙が溢れ、胸が甘く震えた。
――初めての口論は、互いの想いをぶつけ合い、絆をさらに深めるものとなっていた。
△
口論のあと、部屋の中には少しぎこちない沈黙が漂っていた。殿下は窓辺に立ち、外を眺めたまま言葉を探しているようだった。私は彼の背を見つめながら、胸の奥に残る痛みと温もりの両方を感じていた。
「……殿下。」
勇気を振り絞って声をかけると、彼はゆっくりと振り返った。灰色の瞳がわずかに揺れ、低い声で告げられる。
「君を縛るつもりはなかった。ただ……怖かったんだ。」
「怖い……?」
「君がいなくなることが。俺はそれに耐えられない。」
その不器用な言葉に胸が熱くなり、涙が滲んだ。私は立ち上がり、彼に歩み寄る。
「殿下……私も同じです。だから、互いに縛り合うのではなく、支え合いたいのです。」
殿下はしばし沈黙し、それから小さく頷いた。
「……支え合う、か。」
◇
夜になり、寝室の灯火が揺れる中、私は殿下の隣に腰を下ろしていた。口論の余韻がまだ残っているものの、互いの距離は確かに縮まっている。
殿下はしばらく沈黙を守った後、ぽつりと呟いた。
「君とぶつかるのは初めてだな。」
「はい。でも、嫌ではありませんでした。殿下と本音を言い合えたから。」
そう答えると、殿下は驚いたように目を瞬かせ、やがて不器用に笑った。
「……俺にはもったいない妻だ。」
「そんなことありません。殿下だからこそ、私はここまで強くなれました。」
互いの言葉が重なり、胸が甘く震える。殿下の手が私の指を探し、絡めてくる。その温もりが、何よりの和解の証だった。
◇
夜が更けるにつれて、私たちは互いの腕の中で静かに寄り添った。言葉は少なくても、心は確かに通じ合っている。
「……これからも時に言い合うだろう。それでも、君を手放すことはない。」
「はい。私も殿下の隣に居続けます。」
小さな誓いを交わし、雨上がりのように澄んだ安らぎが胸に広がった。
――初めての口論は、決して溝を作るものではなく、互いの絆を深める試練となったのだった。
◇
寄り添ったまま迎えた深夜、殿下はまだ眠らずに私の髪を撫でていた。静かな寝室には雨音もなく、ただ互いの呼吸だけが響いている。私はまどろみの中で瞼を開き、彼の灰色の瞳を見つめた。
「……殿下。」
呼びかけると、殿下は小さく頷いた。
「眠れないのか。」
「はい……でも、殿下が隣にいてくださるから、大丈夫です。」
そう告げると、彼は少し眉を寄せ、ためらうように唇を動かした。
「……君と初めて言い合って、怖くなった。君を傷つけたのではないかと。」
その不器用な心情に胸が締め付けられ、私は慌てて首を振った。
「違います。殿下とだからこそ、本音をぶつけられたのです。むしろ……嬉しかったくらいです。」
涙が滲み、殿下の胸に顔を埋めた。彼の腕がすぐに私を抱き寄せ、力強く背を撫でる。
◇
「……リリアナ。」
名を呼ばれ、顔を上げると唇が重なった。短く、けれど深い口づけ。互いの想いを確かめ合うように、重ねられた。
唇が離れると、殿下の瞳が真剣に揺れる。
「俺は不器用だが……君となら、どんな困難も越えられると信じている。」
その告白に胸が甘く震え、私は涙をこぼしながら微笑んだ。
「私もです。殿下と共になら、どんな未来も恐れません。」
強く頷き合い、互いの手を握る。温もりが重なり、夜の静寂が祝福のように感じられた。
◇
やがて殿下の呼吸が穏やかになり、私の瞼も重くなっていく。眠りに落ちる直前、胸元のネックレスにそっと触れた。冷たい銀の感触が、彼と交わした誓いを刻んでいるようだった。
――初めての口論を経て、私たちはさらに強い絆で結ばれた。愛は不安を越え、互いを支える力へと変わっていったのだ。
第22話 ささやかな日常の幸せ
〇
朝の光が差し込む食堂で、私はいつものように殿下と向かい合って朝食をとっていた。銀の食器が小さく音を立て、外では小鳥の声が響いている。日々の喧騒から離れ、こうして二人きりで食卓を囲めることが、何よりの贅沢に思えた。
殿下はパンを口に運びながら、不意に視線を上げる。
「……今日の予定は?」
「刺繍の続きをしようと思っております。それから庭に出て花を摘んで……殿下のお部屋にも飾りたいです。」
答えると、灰色の瞳がわずかに柔らかく揺れた。
「なら……午後は俺も一緒に庭に出よう。」
胸が甘く震え、思わず微笑みがこぼれる。
「はい。とても楽しみです。」
◇
昼下がり、庭は穏やかな日差しに包まれていた。花壇には色とりどりの花が咲き誇り、風に揺れる花弁が光を反射してきらめいている。私は籠を片手に花を摘み、殿下は黙ってその隣を歩いていた。
花を一輪差し出すと、殿下は少し戸惑いながらも受け取る。
「……俺が持っていていいのか。」
「もちろんです。殿下の机の上に飾っていただければ、私も嬉しいですから。」
殿下の耳がわずかに赤くなり、口元が緩む。
「そうか……なら、そうしよう。」
その不器用なやり取りに胸が甘く満たされ、私は静かに笑った。
◇
夕暮れ、花を飾り終えた殿下の書斎は、柔らかな彩りで満ちていた。机に置かれた花が部屋の雰囲気を変え、窓から射す光と溶け合っている。
殿下はしばらく黙って花を見つめ、それから小さな声で囁いた。
「……部屋が明るくなったな。君のおかげだ。」
その一言に胸が熱くなり、頬が染まる。
「私も……殿下の隣にいられるからこそ、幸せでいられるのです。」
殿下の瞳が揺れ、静かに私の手を取った。温もりが指先から広がり、胸が甘く震える。
――ささやかな日常の幸せ。それは豪奢な宴や贈り物よりも、心を深く満たすものだった。
△
花に彩られた殿下の書斎は、まるで別の場所のように穏やかだった。いつもは重々しい空気が漂っていた机も、今は柔らかな雰囲気に包まれている。殿下は椅子に腰を下ろし、机に肘をつきながら花を見つめていた。
「……香りが心地よいな。」
彼の低い声が響く。私は窓辺に立ちながら微笑んだ。
「ええ。殿下の疲れを少しでも和らげられるなら、それが何より嬉しいです。」
殿下はわずかに目を細め、灰色の瞳を私に向ける。
「君は、いつも俺に安らぎをくれる。」
その言葉に胸が甘く震え、思わず視線を落とした。指先で胸元のネックレスを撫でながら、静かに答える。
「殿下こそ、私にとっての安らぎです。」
◇
夕食を終え、夜の帳が下りると、殿下は私を庭へと誘った。月明かりに照らされた花々は昼とは違う表情を見せ、白や淡い色の花弁が淡く光を放っている。
「……夜の花も悪くない。」
「はい。まるで月に祝福されているようです。」
並んで歩くうちに、殿下は足を止め、じっと私を見つめた。
「リリアナ。……俺は君と過ごす時間が一番好きだ。」
唐突な告白に胸が甘く震え、頬が熱くなる。
「わ、私もです。殿下と過ごす日常が、何よりも幸せです。」
殿下は小さく息を吐き、不器用に微笑んだ。
「なら……これからも、ずっと。」
その言葉に涙が滲み、私は深く頷いた。
◇
夜風が頬を撫で、庭の木々がざわめいた。殿下が差し出した手を握り返すと、静かに影が重なる。
――ささやかな日常は、互いの心を満たし、これから続く未来への誓いを確かなものにしていった。
◇
月明かりに照らされた庭で、殿下と手を繋いだまま立ち尽くしていた。指先から伝わる温もりは確かな絆となり、胸の奥を甘く満たしていく。夜風に揺れる花々の香りが漂い、世界が二人だけのものに感じられた。
「……リリアナ。」
名を呼ばれるたび、胸が震える。私は殿下の灰色の瞳を見上げ、小さな声で応えた。
「はい、殿下。」
彼は少しためらうように唇を動かし、それから低く囁いた。
「こうして君と過ごす時間が……何よりも幸せだ。」
不器用で真っすぐな言葉に涙が込み上げ、視界が滲む。私は笑みを浮かべながら首を振った。
「殿下。私も同じです。豪華な宴や贈り物よりも……こうして日常を共にできることが、何よりも嬉しいのです。」
殿下の瞳が揺れ、強く私の手を握り返す。
◇
やがて屋敷に戻り、寝室の灯火を落とすと、殿下は静かに私を抱き寄せた。腕の中は温かく、互いの鼓動が重なり合う。
「……君が隣にいるだけで、俺は救われる。」
「私もです。殿下と一緒にいられるから、どんな明日も恐れません。」
灰色の瞳が深い光を帯び、唇が触れる。柔らかく、長い口づけ。心臓が甘く震え、全身が熱を帯びる。
唇が離れたあと、殿下は耳元で囁いた。
「これが俺たちの日常なら……永遠に続いてほしい。」
その告白に涙が溢れ、私は震える声で答えた。
「ええ……殿下となら、永遠に。」
◇
その夜、互いの温もりを確かめ合いながら眠りについた。夢の中でも殿下の手は離れず、目覚めてもきっと同じ温もりがそこにあると信じられた。
――ささやかな日常の幸せ。それは決して当たり前ではなく、互いが共にあるからこそ輝きを増すものだった。
第23話 王妃陛下からの呼び出し
〇
翌朝、食堂での朝食を終えた頃、侍女が慌ただしく駆け込んできた。手にした封蝋付きの文を差し出され、私は胸がざわめく。開封すると、そこには王妃陛下の直筆の署名があり、私に王城へ参内するよう記されていた。
「……王妃陛下から、です。」
声が震える。殿下は文を受け取り、黙って目を走らせた。灰色の瞳がわずかに細められ、短く息を吐く。
「……俺も同行する。」
「で、殿下……」
「君を一人で行かせるつもりはない。」
力強い声音に胸が熱くなり、涙がにじむ。私は深く頷き、震える声で答えた。
「……はい。ご一緒させてください。」
◇
王城の廊下を歩くと、華やかな装飾と冷たい視線が同時に押し寄せてきた。すれ違う貴族たちが一様に私を見つめ、ひそひそと囁く声が背中を追う。
「……あれが噂の。」
「王弟殿下の妻だというが……」
耳に入る声に胸が締め付けられそうになる。だが、殿下の手がしっかりと私の指を握っていて、勇気が湧いてきた。
やがて案内された広間に入ると、王妃陛下が優雅に玉座に座していた。豊かな金髪を結い上げ、宝石を散りばめた衣を纏った姿は、威厳と慈愛を併せ持っている。
「よく来ましたね、リリアナ。」
柔らかな声に胸が震える。私は深く膝を折り、声を震わせて答えた。
「王妃陛下のお呼びに応じ、参上いたしました。」
◇
王妃陛下はしばらく私を見つめ、それから穏やかに微笑んだ。
「あなたのことは耳にしておりました。けれど……こうして見ると、噂とは随分違うようですね。」
その言葉の真意を測りかねて息を呑む。殿下は私の肩に手を置き、低く告げた。
「リリアナは俺の妻です。誰にどう言われようと、変わりません。」
その強い言葉に、王妃陛下の瞳がわずかに揺れた。
「……ふふ。あなたにそう言わせるほどの方なのですね。」
王妃陛下の微笑みが深まり、胸の奥にわずかな安堵が広がる。だが同時に、何か新たな試練の予感が静かに影を落としていた。
――王妃陛下からの呼び出しは、私たちの関係をさらに試す出来事の始まりとなろうとしていた。
△
王妃陛下の微笑みに安堵を覚えながらも、胸の奥はざわついていた。広間に漂う空気は張りつめており、周囲に控える侍女や侍従たちの視線も痛いほどに突き刺さる。私は膝をついたまま深呼吸し、震える心を抑え込んだ。
「リリアナ。」
王妃陛下が静かに名を呼ぶ。穏やかでありながらも、その声は広間全体に響き渡った。
「あなたが殿下の妻となった経緯について、多くの者が口をそろえて囁いています。けれど私が見たいのは噂ではなく、実際のあなたの姿。――本当に殿下を支えるに足る人物なのかどうか。」
その問いに胸が強く締め付けられる。言葉を返そうとしたとき、殿下が一歩前に出た。
「陛下。彼女以上に俺を理解し、支えてくれる者はいません。」
低く力強い声が響き、王妃陛下は一瞬驚いたように瞳を見開いた。だがすぐに表情を和らげ、再び私を見つめた。
「……あなた自身の口からも聞かせてちょうだい。リリアナ。あなたは、彼の隣に立つ覚悟がありますか?」
◇
私は深く息を吸い込み、震える膝を強く押さえた。視線を上げると、王妃陛下の眼差しは真剣そのものだった。
「はい。私は殿下の妻として……殿下の隣に生涯寄り添う覚悟でございます。」
声は震えていたが、心に偽りはなかった。胸元のネックレスにそっと触れ、誓いを込めて告げる。
「どんな困難があろうとも、私は殿下を支え続けます。」
広間に沈黙が落ちた。王妃陛下はしばらく私を見つめ、やがてゆっくりと微笑んだ。
「……よいでしょう。あなたの言葉、確かに聞き届けました。」
安堵の息が漏れ、胸が熱くなる。殿下の手がそっと私の肩に触れ、その温もりが背中を支えてくれた。
◇
王妃陛下は立ち上がり、玉座の階段をゆっくりと降りてきた。私の前に立つと、手を差し伸べてくださる。
「立ちなさい。これからは堂々と、彼の隣に立つのですよ。」
その手を取った瞬間、胸に込み上げるものがあり、涙が零れそうになった。
「……はい、王妃陛下。」
声を震わせながら答えると、王妃陛下は優雅に頷いた。
――王妃陛下からの呼び出しは、私にとって試練であると同時に、殿下の妻としての第一歩を刻む大切な瞬間となった。
◇
王妃陛下の手を取って立ち上がった瞬間、広間の空気が少しだけ柔らかくなった。だが、周囲の視線が完全に和らいだわけではない。貴族たちの間にはまだざわめきが残り、私を測るような眼差しがいくつも注がれていた。
その気配を感じ取ったのか、殿下が一歩前に出て、私の背に手を添える。灰色の瞳が冷ややかに広間を見渡し、低い声が響いた。
「彼女に対する侮りは、すなわち俺に対する侮りだ。……忘れるな。」
その一言に場は静まり返った。誰もが息を呑み、言葉を失ったように口を閉ざす。殿下の存在感と宣言の重みが、広間全体を圧倒していた。
私はその背に守られながら、胸の奥が熱く震えるのを感じた。――この人が隣にいてくれる限り、私は恐れることはない。
◇
謁見が終わり、広間を後にした私たちは、長い廊下を並んで歩いていた。高い天井に足音が反響し、背後からの視線がまだ追いかけてくる気がして肩が強張る。
そんな私の手を、殿下は黙って握りしめた。強く、けれど優しく。
「……よくやったな。」
その一言に胸が溢れ、私は涙を堪えながら笑った。
「殿下がいてくださったからです。もし一人だったら……きっと、声も出せませんでした。」
殿下はしばらく黙ったまま私を見つめ、やがて小さく頷いた。
「君はもう、俺の隣に立つに足る人間だ。」
その不器用な賛辞に胸が甘く震え、涙が頬を伝った。
◇
屋敷へ戻る馬車の中、私は殿下の肩にもたれて窓の外を眺めていた。夕陽が城壁を黄金色に染め、影が長く伸びていく。
「……王妃陛下にお会いして、ようやく認めていただけた気がします。」
私の呟きに、殿下は低く応えた。
「君は最初から俺の妻として十分だった。だが今日で、それを他の誰にも否定させない。」
その言葉に胸が熱くなり、目を閉じて頬を寄せた。殿下の肩の温もりが心を満たし、涙がまた零れそうになった。
――王妃陛下からの呼び出しは、試練であると同時に祝福でもあった。私たちは互いの絆を胸に刻み、より揺るぎない未来へと歩みを進めていた。
第24話 手を取り合う未来
〇
王妃陛下に認められたその夜、屋敷に戻った私は鏡台の前に座り、胸元のネックレスを指でそっとなぞっていた。銀の鎖の冷たさと、殿下の手の温もりが重なって思い出され、胸の奥が甘く震える。
扉が静かに開き、殿下が入ってきた。執務を終えたばかりなのだろう、肩には疲労が滲んでいる。けれど灰色の瞳はいつもより柔らかく光っていた。
「……今日のこと、よく耐えてくれたな。」
低い声に顔を上げ、微笑んだ。
「殿下が隣にいてくださったから、私は強くいられました。」
その答えに殿下は視線を逸らし、耳の端を赤く染める。不器用な仕草が愛おしくて、胸が甘く満たされた。
◇
やがて殿下は机の引き出しから紙束を取り出し、私に差し出した。
「……これは、将来のための覚え書きだ。」
恐る恐る手に取ると、そこには屋敷の管理や領地の運営に関する詳細が記されていた。
「こんな大切なものを、私に?」
「ああ。俺一人では不安だ。……共に考えてほしい。」
殿下の真剣な瞳に胸が震え、涙が溢れそうになった。
「殿下……私に務まるでしょうか。」
「君だからこそ、頼める。」
その言葉に涙が頬を伝い、私は深く頷いた。
「……はい。殿下と共に未来を歩みます。」
◇
夜更け、寝室で寄り添ったまま灯火を落とす。殿下は私の手を握り、低く囁いた。
「君となら、どんな未来も恐れない。」
「私もです。殿下となら……」
互いの言葉が溶け合い、唇が重なった。長く、温かい口づけ。胸が甘く震え、涙が滲む。
――手を取り合う未来。それはまだ形のない道だが、二人でなら確かに歩んでいけると信じられた。
△
翌朝、殿下の書斎で二人並んで座っていた。机の上には昨夜受け取った覚え書きが広げられており、羊皮紙に記された文字が淡い陽光を受けて光っている。私は指先で文字を追いながら、胸の奥にじんわりと広がる緊張を抑え込んだ。
「……領地の税収や倉庫の管理、ここまで細かく……」
思わず呟くと、殿下は低い声で答えた。
「不備があれば指摘してほしい。俺だけでは見落とすこともある。」
「殿下が……私の意見を?」
驚いて顔を上げると、灰色の瞳が真っすぐにこちらを捉えていた。
「君は俺の妻だ。共に未来を歩むなら、君の声も必要だ。」
胸が甘く震え、涙が滲む。私は小さく頷き、紙に視線を戻した。
◇
昼下がり、庭に出ると風が心地よく頬を撫でた。殿下と並んで歩きながら、未来について語るのは不思議なほど自然で、胸を温かく満たしていった。
「殿下は……どんな未来を思い描いておられるのですか?」
問いかけると、殿下は少し視線を宙に彷徨わせ、やがて低く答えた。
「静かな未来だ。……戦や争いとは無縁で、君と穏やかに過ごせる日々。」
その言葉に涙が込み上げ、私は笑みを浮かべて頷いた。
「私も同じです。殿下の隣で、ただ平穏な日常を重ねたい。」
殿下はしばらく私を見つめ、それから小さく息を吐いた。
「なら、そのために俺は強くあらねばならないな。」
灰色の瞳に決意の光が宿り、胸が熱くなる。私は殿下の手を取って強く握った。
「私も支えます。殿下となら、どんな未来も築けます。」
◇
夕暮れが訪れ、赤く染まる空の下で二人肩を並べた。沈みゆく太陽が私たちを照らし、影がひとつに重なる。
殿下はふと私の名を呼び、囁いた。
「リリアナ……これからも俺の隣に。」
「ええ、ずっと。」
胸が震え、涙が溢れる。互いの影を重ね合わせながら、未来への誓いを胸に刻んだ。
――手を取り合う未来はまだ形を持たない。けれど確かなのは、殿下と共に歩むと決めたこの道こそ、私にとって最も輝かしいものだということだった。
◇
夜。寝室に灯した蝋燭の炎が静かに揺れ、壁に映る二人の影が重なっていた。昼間に交わした未来の話が胸に残り、眠りにつくには惜しいほど心が熱を帯びていた。私は胸元のネックレスに触れながら、殿下の横顔を見つめる。
「……殿下、本当に私でよかったのですか?」
思わず漏れた問いに、殿下はゆっくりとこちらを向いた。灰色の瞳が真っすぐに私を射抜き、低く静かな声が響く。
「リリアナ。俺にとって君以外はいない。……何度でも言おう。君は俺の妻であり、心そのものだ。」
その言葉に胸が甘く震え、視界が滲む。私は涙を拭い、微笑みながら頷いた。
「殿下……ありがとうございます。私も、殿下と共に未来を築きたいのです。」
唇が重なる。長く、深い口づけ。互いの想いを確かめ合い、鼓動がひとつに溶けていく。
◇
口づけのあと、殿下は私を強く抱きしめた。背に回された腕が熱を宿し、全身を包み込む。
「俺は不器用で、言葉も足りない。それでも……君を幸せにしたい気持ちだけは誰にも負けない。」
耳元に落とされた声が胸に響き、涙がまた溢れる。
「殿下がいてくださるだけで、私はもう十分に幸せです。」
互いの吐息が重なり、夜の静寂が甘く満ちていく。
◇
やがて灯火が消され、闇の中で互いの温もりを確かめ合った。指先が触れ合い、鼓動が重なる。言葉はなくとも、未来を共に歩む誓いが確かにそこにあった。
――手を取り合う未来は、まだ遠い先のことかもしれない。けれど、その夜の抱擁と口づけが、二人にとって何よりも確かな道標となった。
第25話 初めての外泊
〇
王妃陛下への謁見から数日後、殿下は珍しく旅支度を整えていた。控えめな外套に、必要最低限の荷を詰めた鞄。私は侍女からその準備を耳にし、胸がざわめく。
「……殿下、どこかへ行かれるのですか?」
恐る恐る問いかけると、殿下は少し迷うように視線を揺らし、低く答えた。
「君を連れて、小さな別邸へ行こうと思う。……二人だけで過ごせる場所だ。」
その言葉に胸が甘く震える。王城や貴族たちの視線から解き放たれ、ただ殿下と二人きりで過ごせる。想像しただけで頬が熱くなり、声が震えた。
「……本当に、私もご一緒してよろしいのですか?」
「当然だ。君なしで行く意味はない。」
灰色の瞳が真剣に揺れ、私は涙が込み上げるのを必死に堪えた。
◇
馬車に揺られて半日。辿り着いたのは森に囲まれた静かな別邸だった。石造りの外壁は年月を経て落ち着いた風合いを帯び、窓辺には花が飾られている。人影は少なく、ただ鳥の声と風のざわめきが響いていた。
「ここなら誰にも邪魔されない。」
殿下の言葉に胸が満ち、私は思わず微笑んだ。
「まるで秘密の隠れ家のようですね。」
彼は短く頷き、外套を脱いで私の肩にかけてくれる。
「冷えるといけない。中に入ろう。」
◇
暖炉の火がぱちぱちと音を立てる広間に腰を下ろすと、殿下は珍しく寛いだ様子を見せていた。外套を椅子に掛け、私の隣に座ると、肩が触れ合う距離で囁く。
「……こうして誰の目もない場所で、君と過ごしたかった。」
胸が甘く震え、頬が熱を帯びる。私は小さな声で答えた。
「私もです。殿下と二人きりで過ごせるなんて、夢のようです。」
殿下の瞳が柔らかく揺れ、私の手を取る。暖炉の炎に照らされるその温もりは、まるで未来を照らす灯火のようだった。
――初めての外泊は、二人だけの静かな時間を紡ぐ、かけがえのない始まりとなった。
△
別邸で迎えた初めての夜。窓の外には森の闇が広がり、遠くで梟の声が響いていた。暖炉の火が部屋をやわらかく照らし、炎の揺らめきが壁に影を踊らせている。私は厚手の毛布を膝にかけながら、隣に腰を下ろした殿下をちらりと見た。
「……こうしていると、まるで別の世界に来たようです。」
呟くと、殿下は静かに頷いた。
「城や屋敷では、どうしても視線がつきまとう。だがここなら……俺たちだけだ。」
その言葉に胸が震え、頬が熱くなる。二人きり、という響きが甘く心を揺らす。
◇
やがて殿下が立ち上がり、暖炉に薪をくべた。ぱちぱちと音を立てて火が勢いを増し、部屋の空気が温かさを増す。殿下は椅子に戻ると、少し迷うように視線を泳がせ、それから不器用に告げた。
「……君と、もっと語り合いたい。普段は言葉が足りず、思いを伝えきれないから。」
灰色の瞳に真剣な光が宿っていた。私は胸が甘く震え、笑みを浮かべて頷く。
「私もです。殿下のお気持ちを、もっと知りたいです。」
そう言うと、殿下はわずかに耳を赤くしながらも私を見つめ続けた。
◇
その夜は、取り留めもない話をした。子どもの頃の思い出や、好きな食べ物のこと。殿下が意外にも甘い菓子を好むと知って驚き、思わず笑ってしまう。殿下は少し不機嫌そうに眉を寄せながらも、私の笑い声に釣られて口元を緩めた。
「……君に笑われると、悪い気はしない。」
不器用な言葉に胸が熱くなり、私は手を伸ばして彼の指を握った。
「殿下……私も、殿下とこうして笑い合えるのが幸せです。」
指先の温もりが重なり、胸の奥にじんわりと広がっていく。
◇
外泊の初めての夜は、豪奢な宴ではなく、ただ火の前で語り合い、寄り添い合うだけの時間だった。けれど、それこそが何よりも甘く、心を満たすひとときだった。
――殿下と過ごす静かな夜は、私にとって永遠に忘れられない宝物となっていった。
◇
夜が更け、蝋燭の灯りも小さく揺れ始めたころ。殿下と私は並んでソファに腰掛けたまま、互いの手を握っていた。暖炉の炎がぱちぱちと弾け、静寂の中で鼓動だけが重なって聞こえる。
「……殿下。」
名前を呼ぶと、灰色の瞳がこちらを見た。その視線に包まれるだけで胸が震え、言葉が喉に詰まる。けれど勇気を振り絞り、微笑みながら続けた。
「この時間が、ずっと続けばいいのにと思ってしまいます。」
殿下は目を細め、少しの間黙っていた。やがて低く、けれど確かな声で応える。
「続けよう。……君となら、永遠に。」
その不器用な告白に涙がこぼれそうになり、私は慌てて俯いた。けれど殿下の指が頬に触れ、そっと上を向かされる。
◇
唇が重なった。静かで、けれど熱を帯びた口づけ。初めて交わしたときよりも深く、確かなもの。世界が揺らぎ、胸の奥が甘く痺れる。
唇が離れると、殿下は私の額に口づけを落とした。
「君といると……自分が変われる気がする。」
「殿下は、もう十分に優しい方です。」
思わずそう告げると、殿下の目が驚いたように揺れ、次いで穏やかに細められた。
「……そう言ってくれるのは、君だけだな。」
◇
その夜、私たちは同じ寝台に身を横たえた。森に囲まれた別邸は静寂に包まれ、遠くで風が木々を揺らす音だけが響く。殿下の腕の中で目を閉じると、胸の奥に確かな安堵が広がった。
「殿下……」
まどろみの中で名前を呼ぶと、彼は強く抱きしめてくれる。
「俺のそばに、ずっといてくれ。」
「はい。永遠に……」
――初めての外泊の夜は、互いの未来を確かめ合う誓いの夜となった。眠りに落ちてもなお、温もりは決して離れなかった。
第26話 秘密の朝食
〇
森に囲まれた別邸で迎える初めての朝。鳥のさえずりが窓の外から聞こえ、やわらかな陽光がカーテン越しに差し込んでいた。目を覚ました私は、隣で眠る殿下の横顔をそっと見つめた。整った眉、穏やかな寝息。その姿が愛おしくて胸が温かく満たされる。
やがて殿下がゆっくりと瞼を開いた。灰色の瞳が私を映し、低い声で囁かれる。
「……おはよう、リリアナ。」
「おはようございます、殿下。」
朝の挨拶を交わすだけで頬が熱くなる。殿下は腕を伸ばし、まだ眠気を含んだ声で続けた。
「君の顔を最初に見られる朝は……悪くないな。」
その言葉に胸が甘く震え、思わず笑みがこぼれた。
◇
身支度を整えたあと、私は台所に足を運んだ。別邸は侍女も少なく、簡素な造りになっている。そこで私は、殿下と二人だけの朝食を用意してみようと思い立った。
籠に入っていた卵やパン、果物を並べ、不慣れな手つきで調理を始める。卵を割る音、パンを焼く香ばしい匂いが広がり、心が躍った。
「……何をしている?」
背後から声がして振り返ると、殿下が立っていた。驚きと戸惑いが入り混じった表情で、私の手元を見つめている。
「朝食を。殿下と二人きりでいただきたくて……」
恥ずかしさに頬が熱くなる。けれど殿下は黙って近づき、私の手からナイフを受け取った。
「俺にも手伝わせろ。」
◇
ぎこちないながらも、二人で協力して作った食卓は、驚くほど温かい雰囲気を纏っていた。焼き立てのパンに卵、果物を添えた簡素な朝食。
殿下はパンを口にし、少し驚いたように目を瞬かせた。
「……悪くないな。」
その一言に胸が甘く満たされ、思わず笑みがこぼれる。
「殿下と一緒に作ったから、美味しいのだと思います。」
殿下の灰色の瞳がやわらかく揺れ、互いに視線を交わした。
――秘密の朝食は、誰に見せることもできないけれど、確かな幸せを刻むひとときとなった。
△
質素なはずの朝食が、こんなにも胸を満たすものになるとは思わなかった。殿下は黙々と卵を口に運び、ときおり私の方をちらりと見る。その灰色の瞳に映る自分の姿が恥ずかしくもあり、同時に嬉しくもあった。
「……殿下のお口に合いましたか?」
恐る恐る尋ねると、殿下は小さく頷いた。
「君が用意してくれたものだ。それだけで十分だ。」
不器用ながらもまっすぐな言葉に、胸が甘く震える。私は微笑み、カップを手に取った。温かい香りが広がり、心まで安らぐ。
◇
食後、片付けをしようと立ち上がると、殿下が私の手首を取った。
「リリアナ。……無理はするな。」
「無理などしておりません。ただ……殿下に喜んでいただきたくて。」
そう告げると、殿下は言葉を失い、しばらく私を見つめた。そして静かに吐息を漏らし、頬に触れる。
「……どうして君は、そんなにも俺を想ってくれるのだろう。」
問いかけというより、独白に近い声音だった。私は頬を赤らめ、俯きながら答える。
「理由なんてありません。殿下だから、です。」
その一言に、殿下の瞳が揺れた。
◇
台所の窓から差し込む朝日が、二人を包み込んでいた。殿下は小さく首を振り、口元にかすかな笑みを浮かべる。
「……俺には過ぎた妻だな。」
「いいえ。私は殿下の妻だからこそ、この幸せを感じられるのです。」
言葉を重ね合ううちに、胸が甘く熱くなっていく。互いの視線が絡み合い、朝の光に照らされる中、指先が自然と触れ合った。
――秘密の朝食は、ただの食事ではなく、互いの心を確かめ合うひとときとなっていた。
◇
朝食を終え、窓から差し込む光が床に長い影を落としていた。殿下は黙って椅子を引き、私の前に立つと手を差し出した。
「……リリアナ。来てほしい場所がある。」
差し出された手を取ると、殿下は私を中庭へと導いた。別邸の裏手には、小さな菜園と花壇が広がっていた。朝露をまとった花々がきらめき、柔らかな風が頬を撫でる。
「ここは、俺がまだ幼い頃に母上と過ごした場所だ。誰にも話したことはない。」
殿下の声は低く、少し震えていた。私は驚きながらも、そっと彼の横顔を見つめた。
「……大切な場所を、私に見せてくださるのですか?」
「ああ。君だからだ。」
その一言に胸が熱くなり、涙がこぼれそうになる。
◇
殿下は花壇の前に立ち止まり、そっと手を伸ばした。指先が花弁に触れると、遠い記憶を呼び覚ますように目を閉じる。
「母上は……優しい方だった。人前では強く振る舞っていたが、俺の前ではよく笑ってくれた。」
語られる思い出に、胸が締め付けられる。私は静かに殿下の手を握った。
「殿下の想い出を、こうして聞かせていただけて……光栄です。」
殿下は目を開き、灰色の瞳を私に向けた。
「君となら……この先の未来も分かち合える気がする。」
その真剣な言葉に涙が溢れ、頬を伝った。
◇
殿下はそっと私を抱き寄せ、額を重ねた。花々の香りに包まれながら、互いの鼓動がひとつに重なる。
「……リリアナ。これからも、俺の隣に。」
「ええ。ずっと……殿下の隣におります。」
誓いを交わした瞬間、朝の光が花壇を照らし、白い花が一層輝いて見えた。
――秘密の朝食から始まった一日は、大切な記憶と未来を重ね合わせる、永遠の約束の朝となった。
第27話 帰路の誓い
〇
別邸で過ごした数日は、まるで夢のようだった。朝は二人で支度を整え、昼は庭を散歩し、夜は暖炉の前で語り合う。誰の目もなく、ただ殿下と私だけで紡ぐ時間。胸の奥に刻まれたその温もりを、永遠に忘れたくないと思った。
しかし、帰路につく日がやってきた。馬車の前で荷を積む従者を眺めながら、胸に小さな寂しさが広がる。殿下はそんな私の表情を見て、低い声で囁いた。
「名残惜しいか。」
「……はい。殿下と二人きりの時間が、あまりにも幸せでしたから。」
正直な思いを伝えると、殿下の灰色の瞳がやわらかく揺れた。
「また来ればいい。君となら、何度でも。」
その言葉に胸が甘く震え、涙が込み上げる。私は強く頷き、微笑んだ。
◇
馬車の中、殿下は珍しく窓の外を見つめたまま沈黙していた。森を抜け、道が開けると、空は澄み渡り、遠くに城の影が見えてきた。
殿下は静かに口を開いた。
「リリアナ。俺は今まで、未来を語ることを避けてきた。……だが、君と過ごすうちに、考えるようになった。」
真剣な声音に息を呑み、彼を見つめる。
「どんな未来を……お考えですか?」
殿下は一瞬言葉を探すように視線を逸らし、やがて低く告げた。
「君と共に生きる未来だ。……城の喧騒の中でも、領地の務めの中でも、君となら歩いていける。」
その不器用な告白に胸が甘く痺れ、頬を伝う涙を止められなかった。
◇
殿下は私の手を取って強く握り、静かに続けた。
「約束しよう。俺はどんなときも君を守り、君と共に歩む。」
灰色の瞳に宿る決意が、胸を射抜くように響いた。私は震える声で応えた。
「……私も誓います。殿下となら、どんな未来も恐れません。」
馬車はゆっくりと進み、城へと近づいていく。帰路は別れではなく、誓いの始まりだった。
――帰路の誓いは、私たちをさらに強く結びつけるものとなった。
△
馬車の車輪が石畳を軋ませながら進むたび、窓の外の景色は少しずつ変わっていった。森の静けさから遠ざかり、城下町の喧噪が近づいてくる。活気ある人々の声や市場の賑わいが耳に届き、別邸で過ごした穏やかな日々が夢のように思えた。
けれど、隣に殿下がいる。その事実があれば、どんな喧騒も恐ろしくはなかった。
「……人々の視線が、また君を苦しめるかもしれない。」
殿下が低く呟いた。窓越しに見える町人たちが馬車を振り返り、ひそひそと声を交わしている。胸が締め付けられたが、私は殿下の手を強く握った。
「大丈夫です。殿下と共にいる限り、私は恐れません。」
そう言うと、殿下の瞳が驚いたように揺れ、やがて柔らかに細められた。
「……君は強くなったな。」
◇
馬車が王城へと近づくにつれ、胸の奥に緊張が広がる。かつて妹に婚約者を奪われた日の痛みが一瞬よぎったが、すぐに殿下の温もりがそれを打ち消した。
「リリアナ。」
名前を呼ばれ、顔を上げると、殿下は真剣な瞳でこちらを見つめていた。
「君を妻として迎えたことを、誰よりも誇りに思っている。」
その不器用でまっすぐな言葉に、胸が甘く震えた。涙が頬を伝い、声が震える。
「……殿下。私も、殿下の妻であることを誇りに思っています。」
殿下の手がそっと頬を拭い、灰色の瞳が深く揺れた。
◇
やがて馬車が王城の門をくぐると、兵士や侍女たちが頭を下げて出迎えた。視線は依然として好奇の色を帯びていたが、もう怯えることはなかった。殿下が隣に立ち、私の手を固く握ってくれているから。
「……帰ってきたな。」
「はい。ですが、もう以前とは違います。殿下と共に、胸を張って歩きます。」
互いの瞳を見つめ合い、小さく頷き合った。
――帰路の誓いは、決して言葉だけのものではなく、王城の石畳に刻まれる確かな歩みとなっていた。
◇
城に戻ったその夜、私は殿下と並んで窓辺に立っていた。高い塔から眺める街は灯火で彩られ、遠くの市場まで賑わいの声が届いてくる。別邸の静寂とはまるで異なる景色だったが、不思議と胸に恐れはなかった。殿下の手が確かに私の手を包んでいるからだ。
「……ここに戻ると、いつも胸が重くなる。けれど今は違う。」
殿下がぽつりと漏らした言葉に振り向くと、灰色の瞳が深く揺れていた。
「君がいるだけで、この城も……居場所に変わる。」
胸が熱くなり、涙が滲む。私はそっと彼の胸に顔を埋め、小さく答えた。
「私もです。殿下と共にある限り、どんな場所も怖くありません。」
◇
寝室に移り、静かに灯を落とした。殿下は椅子に腰掛けたまま、しばらく何かを考えるように沈黙していた。やがて立ち上がり、私の前に歩み寄る。
「リリアナ。……帰路で交わした誓いは、言葉だけに終わらせない。」
「殿下……?」
「俺は必ず、君を守り続ける。それが俺の生きる意味だ。」
真剣な声音に胸が甘く震え、涙が頬を伝った。私は両手で殿下の手を包み込み、震える声で答える。
「私も誓います。殿下と共に……どんな未来も歩みます。」
唇が重なり、互いの鼓動がひとつに溶ける。
◇
その夜、眠りにつくまで何度も互いの名前を呼び合った。呼ぶたびに絆は強くなり、誓いは確かなものとなっていく。
――帰路で交わした約束は、城へ戻っても揺らぐことなく、二人の未来を導く灯火となった。
第28話 妹との再会
〇
王城に戻って数日後、思いがけない知らせが舞い込んだ。侍女が戸口でおずおずと告げた名に、私は一瞬息を呑んだ。
「……アメリア様が、こちらにお越しです。」
妹の名を聞いた瞬間、胸の奥に封じ込めていた痛みが鋭く疼いた。かつての婚約者を奪い、私を陰で嘲笑った存在――。忘れようとしても、あの日の傷はまだ癒えてはいなかった。
けれど、この屋敷に来るということは、避けては通れない。私は深く息を吸い込み、震える心を押さえつけた。
「……分かりました。お通しください。」
扉が開き、妹が姿を現した。相変わらず華やかな衣を纏い、紅い唇をわずかに吊り上げている。けれどその瞳には、かつて見たことのない焦りが滲んでいた。
「お姉様……」
その呼びかけに、胸がざわめく。かつては響き合っていたはずの言葉が、今は遠い他人の声のように感じられた。
◇
応接室に移り、向かい合って座る。殿下は黙って私の隣に腰掛け、灰色の瞳で妹を静かに見つめている。その存在が心強く、背中を支えてくれる。
アメリアは視線を逸らし、唇を噛みしめるようにして言葉を探していた。
「……あのときのことは、私が悪かったわ。」
意外な言葉に、胸が大きく揺れた。謝罪――それは一度も聞けるとは思わなかったものだ。
しかし、その奥に何が隠れているのか、容易には信じられない。私は慎重に問い返した。
「今さら、どうしてそのような言葉を?」
妹は小さく肩を震わせ、そして搾り出すように告げた。
「私……今はもう、幸せではないの。」
◇
その声に嘘はなかった。華やかな衣の下に、疲れ切った表情が透けて見える。あの誇らしげだった妹が、今はどこか壊れそうに見えた。
私は返す言葉を見失い、ただ殿下の手を強く握った。灰色の瞳が私を見つめ、「大丈夫だ」と無言で告げてくれているようだった。
――妹との再会は、過去の傷を抉ると同時に、新たな真実を突きつけてきたのだった。
△
アメリアは俯いたまま、震える指先でスカートの裾を握りしめていた。いつも自信に満ち、私を見下すように笑っていたあの妹とはまるで別人のようだった。
「……彼は、私を愛してはくれなかったの。」
掠れた声で放たれた告白に、私は思わず息を呑んだ。奪われたときには見せつけるように幸福を語っていたはずの妹が、今は痛みに顔を歪めている。
「最初は甘い言葉をかけてくれた。でも、時間が経つにつれて……私のことをただの飾りのように扱い、やがては冷たく突き放した。」
アメリアの瞳から涙がこぼれ落ち、テーブルに落ちる。私はその姿を見つめながら、胸の奥に複雑な感情が渦巻くのを感じた。
◇
憎しみ、哀れみ、そしてかすかな同情――。混ざり合った感情に、心は大きく揺れ動いた。あの日の痛みを忘れたわけではない。けれど、目の前の妹は確かに苦しんでいた。
殿下は沈黙を守ったまま、ただ私の手を包み込んでくれている。その温もりが、私の心を支えた。
「アメリア……」
私は絞り出すように妹の名を呼んだ。
「あなたがしたことを、簡単に許すことはできないわ。けれど……今のあなたを見ていると、憎しみだけでは胸が押しつぶされてしまう。」
アメリアは顔を上げ、濡れた瞳で私を見た。
「お姉様……私、どうすればいいの?」
◇
妹の問いはあまりにも弱々しく、かつての高慢さは微塵も残っていなかった。私は言葉を探し、ふと殿下の横顔に視線を向ける。
灰色の瞳が私を見つめ、静かに頷いた。まるで「君の選ぶ言葉を、俺は受け止める」と告げているようだった。
胸に勇気が満ち、私は静かに答えた。
「まずは、自分の過ちと向き合うこと。そこから始めるしかないと思うわ。」
アメリアは涙を拭い、震える肩を抱きしめながら小さく頷いた。
――妹との再会は、過去の因縁を呼び覚ますだけでなく、彼女自身の痛みを知る時間でもあった。
◇
アメリアは深く息を吐き、震える手で涙を拭った。その姿は、かつて私が知る妹ではなかった。華やかで自信に満ち、私を影に追いやった少女はもういない。代わりに目の前にいるのは、過ちに傷つき、居場所を見失った一人の女性だった。
「……お姉様。あなたは強いわ。私にはなかったものを、ちゃんと持っている。」
弱々しい笑みを浮かべる妹の言葉に、胸が締め付けられる。私は無意識に殿下の手を握り直し、温もりに勇気をもらった。
「強いなんてことはありません。ただ、殿下が隣にいてくださるから……立ち続けられるのです。」
そう告げると、アメリアの瞳に一瞬驚きが浮かんだ。
「……本当に愛されているのね。」
その呟きに頬が熱くなり、視線を逸らした。殿下は何も言わず、ただ私の手を優しく包み込む。
◇
しばしの沈黙のあと、アメリアは小さく頭を下げた。
「ありがとう……お姉様。私の話を聞いてくれて。」
その声は震えていたが、確かに本心からのものに聞こえた。私は複雑な思いを抱えながらも、静かに頷いた。
「これからどうするかは、あなた自身が決めることよ。逃げずに、きちんと自分の道を歩んで。」
アメリアは涙をこらえ、震える声で「分かった」と答えた。その瞳には、かすかな光が宿っていた。
◇
妹が去ったあと、応接室には静寂が戻った。私は深く息をつき、肩から力が抜けるのを感じた。殿下がそっと背に手を添え、低く囁く。
「……辛かったな。」
その優しさに胸が震え、思わず殿下に身を預けた。
「はい。でも、殿下がいてくださったから……私は自分の言葉を伝えられました。」
殿下の腕が強く私を抱き寄せ、灰色の瞳が真剣に揺れた。
「君はもう過去に縛られてはいない。俺と共に、未来だけを見ていこう。」
その言葉に涙が溢れ、私は深く頷いた。
――妹との再会は痛みを伴ったが、それでも新しい一歩を踏み出すきっかけとなったのだった。
第29話 未来への歩み
〇
妹との再会から数日。胸に残るざわめきは完全に消えたわけではなかったが、殿下と過ごす日々がその痛みを少しずつ癒してくれていた。彼の屋敷の庭には季節の花が咲き誇り、陽光を浴びるたびに色彩を増していく。それはまるで、私たちの関係のように思えた。
ある午後、殿下と共に庭を歩いていると、彼は足を止め、空を仰いだ。
「……君と過ごすようになってから、俺は未来を考えることが増えた。」
その言葉に胸が震える。私は殿下の横顔を見つめ、小さく問いかけた。
「どんな未来を思い描いておられるのですか?」
殿下は少しの間黙し、それから私に視線を戻した。
「君と共に歩む未来だ。……どこにいても、何をしていても、君となら乗り越えられる。」
その真剣な瞳に、涙が込み上げる。私は頬を赤らめながら微笑んだ。
「私もです。殿下となら、どんな未来も恐れません。」
◇
夕暮れ、書斎で並んで座っていると、殿下が机の引き出しから一通の封筒を取り出した。そこには領地からの書簡が入っていた。
「領地の人々が、近く祭りを開くそうだ。……君にも来てほしいと頼まれた。」
驚きと共に胸が温かくなる。人々が私を受け入れようとしている――そう思えたからだ。
「……私でよろしいのでしょうか。」
殿下は強く頷き、私の手を握った。
「当然だ。君は俺の妻であり、この家の未来を共に担う存在だから。」
灰色の瞳に宿る決意が胸を射抜き、私は涙を堪えきれずに頬を濡らした。
「殿下……ありがとうございます。」
◇
夜になり、寝室で寄り添いながら殿下が囁いた。
「リリアナ。……君となら、どんな困難も受け入れられる。」
「ええ。殿下と共になら。」
互いに言葉を重ね、唇を寄せ合う。温もりが胸を満たし、涙と笑みが溶け合った。
――未来への歩みはまだ始まったばかり。けれど殿下と共になら、どんな道も輝きに満ちていると信じられた。
△
祭りの知らせを受け取った日から、屋敷の空気はどこか華やいでいた。侍女たちが衣装の準備に取りかかり、料理長は郷土の食材を用いた献立を考えている。私は窓辺でその様子を眺めながら、胸の奥がそわそわと高鳴るのを抑えきれなかった。
「……殿下と人々の前に立つのは、初めてですね。」
思わず口にすると、殿下は執務の手を止め、静かにこちらを見た。
「ああ。だが心配はいらない。君は堂々としていればいい。」
「堂々と、ですか……」
私は自分の指をぎゅっと握った。過去に妹の影に隠されていた自分が、人々の前でどのように映るのか。不安は消えなかった。だが、殿下の灰色の瞳に見つめられると、不思議と背筋が伸びる気がした。
◇
祭りの準備が進む中、殿下は私を庭に呼び出した。夕暮れの光が花壇を照らし、花々が柔らかに揺れている。
「リリアナ。」
名を呼ばれ、振り返ると殿下はまっすぐに立っていた。
「人前で君が不安を覚えるのは当然だ。だが――」
彼は私の手を取り、力強く握った。
「君は俺の妻だ。それだけで十分だ。何も恐れる必要はない。」
その言葉に胸が甘く痺れ、涙が滲む。私は強く頷き、彼の手を握り返した。
「はい。殿下と共になら、胸を張って歩けます。」
◇
夜、寝室で眠りにつく前、殿下が再び私に向き直った。
「君が隣にいる未来を、俺は誇りに思う。祭りも、その先も。」
不器用な告白に胸が熱くなり、私は微笑んだ。
「私も誇りに思っています。殿下の妻であることを。」
静かな口づけが交わされ、胸に刻まれる。
――未来への歩みは、もう迷いのないものとなりつつあった。殿下と共に見据える先に、どんな困難があっても輝きがあると信じられた。
◇
祭りの日は、快晴だった。澄み渡る空に色鮮やかな旗がはためき、広場は人々の歓声で溢れていた。屋台には果実酒や焼き菓子が並び、子どもたちの笑い声が響く。その賑わいの中、私は殿下と馬車で広場へ向かっていた。
車窓越しに人々の顔が見える。好奇と期待、さまざまな視線が一斉に注がれ、胸が高鳴る。だが、殿下の手が私の指をしっかりと握っていて、不思議と恐れは薄れていった。
「……大丈夫だ。俺が隣にいる。」
殿下の低い声に頷き、深呼吸をする。扉が開かれ、二人で外へ降り立った。
◇
群衆の中から拍手が起こり、歓声が広がった。驚きと共に、胸に温かさが満ちていく。人々が私を受け入れようとしている――その事実が涙を誘った。
殿下は手を差し伸べ、堂々と歩き出す。私はその隣に並び、一歩一歩を大切に踏みしめた。
「殿下……皆さまが、笑ってくださっています。」
私の声に殿下は頷き、短く答える。
「ああ。君を見て、安心しているのだろう。」
彼の言葉に胸が甘く震え、涙がこぼれそうになる。
◇
その後、祭りの広場で振る舞われた果実酒を人々と共に口にした。子どもたちが花を差し出してくれ、私は胸に抱きしめる。殿下はその様子を黙って見守り、灰色の瞳に柔らかな光を宿していた。
「……これが君と歩む未来の始まりだ。」
殿下の囁きに涙が頬を伝い、私は強く頷いた。
「はい。殿下と共に歩みます。」
祭りの喧騒の中、互いの誓いは人々の祝福に包まれて、確かなものとなった。
――未来への歩みは、過去の痛みを超えて、多くの温かな光に照らされていた。
第30話 揺るぎない愛
〇
祭りから戻った夜、屋敷は静けさに包まれていた。外の喧騒が夢のように感じられるほど、穏やかな闇が広がっている。私は寝室の窓辺に立ち、月明かりに照らされた庭を見下ろしていた。胸にはまだ祭りの余韻が残っていて、人々の笑顔や差し伸べられた花の温もりが蘇る。
背後から足音が近づき、殿下がそっと腕を回してきた。背中に伝わる体温に、心臓が甘く跳ねる。
「……人々は君を受け入れたな。」
「はい。皆さまが微笑んでくださって……とても嬉しかったです。」
そう告げると、殿下の顎が私の肩に触れ、低い声が耳元をくすぐった。
「俺は最初から分かっていた。君なら大丈夫だと。」
その確信に満ちた声に、胸が熱くなる。私は殿下の腕にそっと手を添え、瞳を閉じた。
◇
やがて殿下は私を振り返らせ、真剣な眼差しで見つめてきた。灰色の瞳が月光を受け、深い光を宿している。
「リリアナ。君と過ごしたこの日々は……俺の宝だ。」
胸が震え、涙が溢れそうになる。私は震える声で問い返した。
「殿下……本当に、私でよかったのですか?」
殿下は一歩近づき、私の両手を包み込むように握った。
「君以外はいない。……俺の妻は、君だけだ。」
その言葉に涙がこぼれ、頬を伝った。
◇
唇が触れ合い、長く深い口づけが交わされる。互いの想いが混ざり合い、鼓動がひとつに溶けていく。離れたとき、殿下の瞳は熱を帯びながらも、どこまでも優しかった。
「これからも、不器用な俺に呆れることがあるだろう。それでも……君を愛し続ける。」
「私もです。殿下だけを、ずっと。」
互いの言葉が重なり、再び唇が触れる。今度は涙と笑みが混ざり合い、胸に甘い痛みが広がった。
――揺るぎない愛。それは誓いではなく、すでに日々の中で確かな形となっていた。私たちは共に過去を乗り越え、未来へと歩む。
そしてその夜、月明かりの下で交わした抱擁は、永遠の愛を刻むものとなった。
終わり
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