パーティーから追放され、ギルドから追放され、国からも追放された俺は、追放者ギルドをつくってスローライフを送ることにしました。

第31話 黒鉄の騎士ドラン

　戦場の喧騒の中、その姿は異様なほど際立っていた。
　全身を黒鉄の鎧で覆い、長大な斧槍を携えた巨躯。歩みのたびに地面が震え、兵士たちが自然と道を空ける。

「……あれが、王都最強……」リナが息を呑む。
「黒鉄の騎士ドラン」セリウスが名を口にした瞬間、緊張が走った。

　グレンが大剣を担ぎ、獰猛に笑う。
「いいじゃねぇか！　相手にとっちゃ最高だ！」

「グレン、待て！」俺が制したが、すでに彼は突進していた。

◇

　ドランの斧槍が一閃。
　――ガギィンッ！
　大剣ごと弾き飛ばされ、グレンの巨体が土煙を巻き上げて吹き飛ぶ。

「ぐはっ……！　こいつ……重ぇ！」

　その一撃は岩を砕き、大地を抉るほどの威力。圧倒的だった。

◇

「フィオ！」
「う、うん！」

　炎の矢が放たれ、ドランを襲う。しかし彼は盾で受け、傷ひとつ負わない。次の瞬間、盾を叩きつけて衝撃波を生み出し、周囲の兵ごと炎を掻き消した。

「……魔法も通じない!?」フィオの顔が青ざめる。

◇

「セリウス！」
「毒霧で……！」

　瓶が破裂し、紫の煙がドランを包む。だが彼は一歩も揺るがず、鎧の隙間から蒸気が立ち上った。

「……自己浄化……」セリウスが愕然と呟く。

◇

　ロディが歌い、マリアが声を重ねる。村人の士気は一時的に持ち直すが、ドランの一歩で恐怖が広がった。

「逃げろ！」
「だめだ、あんなの相手にできない！」

　村人が怯えかけたその時。

「逃げるなあああ！」グレンが立ち上がり、大剣を構え直した。
「俺が相手だ！」

「無茶だ！」俺は叫ぶが、彼の瞳は闘志で燃えていた。

◇

　俺は決断した。
「全員でかかる！　一人では勝てない！」

「了解！」リナが後方から叫び、炊き出しの鍋を投げた。中の熱湯がドランの視界を遮る。
「フィオ！　狙え！」
「は、はい！」

　炎が炸裂し、黒鉄の鎧を焼いた。しかし表面が赤く染まるだけで、彼は怯まない。

「ガンツ！」
「任せろ！」

　鉄槌が唸り、ドランの足を叩く。わずかに膝が沈む。

「今だ！」

　俺は剣を構え、隙間を狙って突き込んだ。
　刃が鎧にかすかに食い込み、血がにじむ。

「効いた……！」

　だが次の瞬間、斧槍の一撃が俺を襲った。

「カイル！」リナの悲鳴。

　俺は必死に受け止めたが、衝撃で吹き飛ばされ、背中を地に叩きつけられた。肺から息が抜け、視界が揺れる。

◇

　立ち上がろうとした俺の耳に、低い声が響いた。

「追放者風情が……王都に歯向かうか」

　ドランの殺気が全身を貫く。
　だが俺は立ち上がった。剣を握り、仲間たちを背にする。

「追放されたからこそ……ここで生きる！　俺たちには居場所がある！」

　仲間たちが声を重ねた。

「そうだ！」
「居場所を守るんだ！」
「私たちはもう、無駄じゃない！」

　旗が翻り、焚き火の残り火が風に舞う。

　――黒鉄の騎士との死闘は、いま始まったばかりだった。