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◇
目を開けたとき、世界はいったん全部ぼやけて、それから少しずつ輪郭を取り戻した。天井の木目。窓から差しこむ夕方の光。部屋の空気は、ほんのりあたたかいけど、寝ていた私の体はぽかぽかしていて、その境目で少しひやっとする。私は布団にくるまったまま、目だけを動かしてあたりを見た。知らない天井。知らない部屋。知らない布の感触。――なのに、“ここどこ?”っていう警戒がまったくわかなかった。かわりにあったのは、胸の奥から静かに浮いてくる安心感だけで、私はそれにちょっと驚く。
あ。ここ、私の部屋だ。
その認識がすとん、と喉の奥から胸に落ちた瞬間、胸の真ん中がじんわり熱くなった。なんか、もうそれだけで泣けそうになるの、どうなんだろう。今日の私のメンタルは本当にどうなってるの。情緒は生まれたての子鹿なの? 涙腺は故障してるの? いやでも、別にいいか。だって、私の部屋なんだし。これ、私の。私の場所。私のベッド。私の、この空気。
「……ふふ」
自分で小さく笑ったのが自分でわかった。なにそれ。ちょっと気持ちわるいけど、でも、悪い笑いじゃない。なんかこう、顔の筋肉が勝手にゆるむ。じんわりゆるむ。私は布団からそっと腕だけ出して、目元をこすった。目のまわりは少し熱いけど、泣きはらしたみたいな腫れはさっきよりずいぶん落ちてる気がする。寝るって偉大。睡眠大事。睡眠は正義。そう、睡眠は正義。
体を起こそうとして、そこで気づいた。毛布が一枚、私の肩にふわりとかかっていた。さっき部屋に入ったときにはなかったやつだ。色は淡い茶色で、手ざわりは少しざらっとしてるけど、外側だけほんのり太陽の匂いがする。これ、たぶん居間にあった毛布のやつだな、と私はぼんやり思い出す。つまり、誰かが(誰か=ルゼル)途中で持ってきて、かけてったってことだ。私が寝てる間に。……ずるい。はい出ましたずるいポイント。本日何回目かわからないずるい。メモ取りたい。あとで表にまとめたい。「対応時刻」「内容」「ずるさ指数」「心臓へのダメージ」で管理したい。
私はそっと布団と毛布をたたんで、ベッドの端にまとめた。たたみ方はたぶんこっちの世界のやり方じゃない。でも、しわが寄らないようにして端をそろえる、っていう日本の癖がしっかり出てしまう。これはまあいい。後で「こっちではこうするんだよ」って教えてもらえば直せる。いまはとりあえず最低限“散らかしてない人”の第一印象を守りたい。第一印象って大事。第一印象で「この子はだらしないな」って思われたら、庶務の信用ポイントが下がって仕事の説得力が落ちるから。私の中の社畜防衛本能がそう言っている。
足を床におろす。床板がひんやりしてて、ちょっと気持ちいい。軽く背伸びをすると、背骨がこきっと鳴った。うわ、緊張してたんだな、やっぱり。肩も軽くまわす。うん、大丈夫。体ちゃんと動く。私ちゃんと生きてる。異世界だけど、生きてる。生きてる、って確認するだけでちょっと胸があったかくなる。大げさだけど、本当にそう思った。
耳をすませると、遠くから小さな音が聞こえた。カチャ、コト、と何かを置く音。低い鼻歌。火のはぜる、小さなぱちぱち音。匂いも漂ってくる。炒った何かと、ハーブと、あと、玉ねぎをゆっくり温めたときの甘い匂いに似てる。私はふらふらとその匂いにつられて、部屋を出た。
廊下は短い。二歩で終わる。扉をそっと開けると、居間は、昼よりも少しだけオレンジ色になっていた。外の光が変わっている。窓から入る湖の反射は、昼のきらきらした銀じゃなくて、少し赤みを帯びた金色で、部屋の木にやわらかい影を落としていた。暖炉には火が入って、小さく燃えている。その手前、キッチンのところにはルゼルの背中。
袖をまくった腕。肩甲骨から腰にかけてのライン。料理してる男の背中って、なんでこう落ち着く絵になるんだろう。テレビのCMかよ、って内心つっこみたくなるけど、現実(異世界だけど)なんだからしょうがない。なんだあの肩幅。なにその手の動き。淡々としてるのに余裕がある感じ、ずるい。はい、またずるい。ずるいチェックリスト、後でほんとに作ろう。
ふっと、彼がこっちを振り返った。赤茶の瞳が、ほんの一瞬でやわらかくなる。私の姿を確認して、安心した、みたいな顔。
「起きた」
「はい……おはようございます」
「おはよう?」
「あっ、違う。今って、おはようじゃない……?」
「夕方」
「ですよね。すみませんでした今のは社会人としての挨拶の癖が……」
「挨拶の癖?」
「誰がいつ来てもとりあえず『おはようございます』って言う文化があるんです」
「便利だねそれ」
「便利です」
「じゃあ、おはよう」
「おはようございます」
なんか通じた。通じたの、ちょっとおかしいのに、ちょっと嬉しいのが悔しい。
「よく眠れた?」
「はい……なんか、ぐっすりでした。あの、いろいろすみません」
「なにが?」
「泣きつかれて勝手に寝落ちしたりとか、毛布かけてもらったりとか、あと、多分私いびきかいてたらすみません……」
「いびきは聞こえなかったよ」
「本当ですか」
「うん。かわ──」
「可愛いって言ったら井戸に沈めますからね!!!」
「それは困るなあ」
「困ってください!!!」
「でも“安心して寝てるなあ”って顔だったから、見ててよかった」
「それもだいぶ恥ずかしいことさらっと言いますよねあなた!!?」
「言うね」
「自覚はあるんですね……」
「あるよ」
「あるのかぁ……」
私は両手で頬を押さえた。熱い。顔がまた熱い。今日ずっと熱い。これ体温上がりっぱなしでそのうち発熱するんじゃない? いや、安心の発熱ならいいのか? 安心熱? なんだそれ。新しい概念すぎる。
「座ってていいよ。もうすぐ食べられるから」
「た、食べられる……」
その言葉だけで心臓がどくっと跳ねた。わかってる。たぶん晩ご飯のことだ。でも、“もうすぐ食べられるから”って言い方って、やばくない? “あなたは座ってていい”って、やばくない? 私、会社でそんなふうに言われた記憶がほぼない。むしろ「佐伯さん、先方もう来てる? お茶お願い」「コピーちょっと今すぐ」「会議室セッティングしといて」って言われる係だった。座ってていいっていう許可、こんなに胸に響くんだ。なんかちょっと泣きそう。今日泣きすぎ。目がふやける。溶ける。
「じゃ、テーブル、ちょっと片づけるね。紙はこっちに移す」
「あ、それは私やります!」
私は反射的に飛びついた。これくらいはやらせてほしい。恩を返したいとかそういう大げさじゃなくて、単純に体が勝手に動いた。テーブルの上には、在庫リストにした紙と、インク壺と、羽ペンと、あとパンくず。パンくず、けっこう散ってるな。ミラが最後に両手でばんざいしたときにばふってなったやつだな、これ。私はまずインク壺のふたがちゃんと閉まってるか確認してから、紙の束をそろえ、パンくずを指で集め、布を探してテーブルを拭こうとして――視界の端に、それを見つけた。
小さい、丸い、かけら。パンの残り。ミラが「これユカのぶんね!」って言ってたやつを、私がウトウトする前に「あとで食べるからここ置いとこ……」って言ってそのまま寝ちゃったやつ。置きっぱなしだった。まだ半分ある。表面は少し硬くなりかけだけど、中はまだふわっとしてそうだ。
「……あ」
なんか、胸の奥がきゅっとした。大事なものがそのまま置いてあって、それが私を待っててくれたみたいな気がして、変だけど少し嬉しくなる。私はそれをそっと手にとって、キッチンから戻ってきたルゼルに見せた。
「これ、食べてもいいですか」
「もちろん」
「まだ私のですか?」
「うん。それ、ミラが“ユカのぶん!”って言ってたやつでしょ」
「はい」
「じゃあ、由香のだよ」
「……」
なんだろう。“由香の”って言われるたびに、心臓のどっかがむずむずして、同時にふわぁってあったかくなる。所有の確認で泣きそうになるって、冷静に考えるとちょっとやばい。でも、これまでの人生、私には“私のもの”って堂々と言えるものがあんまりなかった気がする。いや、家具とか服とかスマホとかはもちろんあったけど、どれも「いつか引き払う部屋」とか「いつか壊れるもの」っていう前提で持ってた。そこに確かな“居場所”が結びついてるものは、あんまりなかった。だから、こういう小さなパンのかけらでも、“これはあなたのだよ”って言われるだけで、すごい効く。
パンをひとかじりした。冷めててもおいしい。ハーブとチーズと、ほのかなミルクの甘みみたいなのが、口の中にやさしく広がる。噛むたびに、ほどける。ああ、好き。ミラのパン、好き。私は勝手に心の中で「ミラのパンは世界を救う」とメモした。世界を救うって言ってもバトル的な意味じゃなくてメンタル的な意味で。
「うまい?」
「はい。なんか、ほっとします」
「よかった」
「この村、パンのレベル高いですね……」
「うん。あそこは自慢していい」
「自慢していいと思います。いやほんとに」
テーブルを拭いて、紙をひとまとめにして、インク壺と羽ペンを端に並べる。私の中の「現場整える係」が勝手に働く。気づけば、机の真正面には何もなくなっていて、そこにお皿を置けるスペースがちゃんとできていた。こういうのをするの、やっぱり私は好きなんだな、と自覚する。好きなことって、体が止めようとしても止まらないんだね。なんかちょっと笑える。会社でもこれやってたけど、あのときは「便利だから使われる」って感覚のほうが強かった。いまはちょっと違う。いまは「ここを私の場所として整える」って感覚のほうが強い。似てるけど、ぜんぜん違う。
「はい、できたよ」
ルゼルがキッチンから、大きめの木の皿と、小さな器をふたつ持ってきた。木の皿には、炒めた野菜と、なにか豆っぽいものが混ざっている。色は素朴な茶色と緑。見た目は地味だけど、香りがすごい。じゅわっとした香ばしさと、やわらかい甘さ。あと、ほんの少しだけスパイスっぽい香りが混ざってる。器のほうには、薄いスープ。透き通ってるけど、玉ねぎっぽい野菜がとろっと溶けていて、表面に小さな油の輪がいくつも光っている。
「うわ……」
「大丈夫? 食べられそう?」
「食べられます……むしろお願いします早くありがとうございます」
「よかった」
「なんか私いま、食べ物に対してすごい前のめりになってますね。すみません。いやすみませんではないな……」
「いいことだよ」
ルゼルは、私の前に木の皿と器を置いた。私は思わず背筋を正して、両手を軽く重ねて、小さな声で言った。
「いただきます」
「いただきます?」
「食べる前に言うやつです」
「へえ」
「言ってみてください」
「いた……だきます」
「ありがとうございます」
「なんか今ので由香、ちょっと嬉しそうだね」
「はい。なんだろう。すごく、はい」
本当に、ちょっと嬉しかった。なんでだろう。わからないけど、たぶん「一緒に食べる」っていうルールを、本当に一緒にやってるっていう実感が、こんなにあたたかいんだっていう驚きがある。会社では「じゃ、コンビニで買ってきて自分の席で食べて」だった。誰かと「いただきます」って言い合うこと、ほとんどなくなってた。最後にいつ誰かとちゃんと「いただきます」「ごちそうさま」を交換したのか、思い出そうとしたら胸がきゅっとなってつらくなったので、いまは考えないことにする。
私はまずスープをひと口、そっとすくった。木のスプーンは金属よりもずっと口当たりがやわらかい。唇にあたった瞬間から、すでにやさしい。口に含むと、熱すぎない。やさしい温度。玉ねぎっぽい野菜(玉ねぎなんだろうな、多分)が、ほとんど溶けてて、舌の上で甘い。甘いんだけど、砂糖の甘さじゃなくて、じわっと広がる野菜の甘さ。あと、ほんのすこしだけ塩気があって、その塩気が甘さを引き立ててる。飲みこんだあと、喉の奥から胸のあたりが、じんわりあたたかくなる。
「……」
「どう?」
「すごい……」
「うん?」
「なんか、胸のあたりが“だいじょうぶだよー”って言われてるみたいな味がします……」
「それはいい味だね」
「いい味です……」
「よかった」
思わず目がうるんだ。いや泣きすぎだよ今日。泣かないで。スープに涙が落ちたら塩分過多になっちゃうから。私の体液で味変はさすがにいやだ。ぐっとこらえる。
次に、炒めた野菜と豆っぽいやつを一口。口に入れた瞬間、「ん!?」ってなった。豆だと思ってたの、豆だけじゃない。たぶん、麦とか小さく砕いた穀物も混ざってる。もちもちした歯ごたえ。そこに、軽く炒めた緑の葉っぱと、香ばしい何か(たぶん油で炒めた根菜)が一緒になってて、食感がすごく楽しい。噛むと小さな旨みがじゅわっと出てくる。塩は強くない。多分、そんなにたくさん貴重な塩を使えないんだろうなって思う。でも、そのぶん野菜と穀物自体の味がしっかりしてて、ちゃんと満足する。
「ん~~~っ、おいしい……」
「よかった」
「なにこれ、なにこれ、名前とかあるんですか」
「ん? 炒めただけ」
「炒めただけ!? 嘘でしょ!? “炒めただけ”って顔じゃないですよこれ! “ちゃんとしたおかずです”って味がします!」
「ちゃんとしたおかずだよ」
「ちゃんとしたおかず……」
「今日のぶん、ちゃんとふたり分あるよ。だから遠慮しないで」
「ふ、ふたり分……」
“ふたり分”って言葉に、また胸の真ん中がきゅうって鳴く。やめて。ほんと、やめて。いちいち刺さる。いちいちくる。こういう日常の単語が、こんなに心臓に効くって思ってなかった。私どんだけ飢えてたの。いや、知ってたけど。うすうすは知ってたけど。いざこうして真正面から突きつけられると、改めて「あ、私、ほんとに渇いてたんだな」って自覚させられる。それを認めるのは、怖い。でも、同時に、ちょっと嬉しい。だって、それに気づけたってことは、いま渇いてないってことだから。
「由香」
「はい」
「明日、朝から動けそう?」
「動けます。むしろ動きたいです」
「無理しないでいいよ?」
「無理しません。無理って、自分でもわかるときは言います」
「言える?」
「練習中です」
「うん」
「だから、“しんどいです”って言ったら、ちゃんと止めてくださいね」
「もちろん」
「約束ですよ?」
「うん。約束する」
“約束する”って言葉が、即答で出てくるの、本当にずるい。軽いのに、軽く聞こえない。ちゃんと重さを持ってる。私が思わず黙り込んでしまうくらいには、効く。
「で、明日は何をすればいいですか」
「うん。まず午前中に、村の井戸を見に行こう。いまどんな状態か、由香の目で見てもらって、写真……じゃないや、メモを取ってほしい」
「はい。メモ帳は紙でいいです?」
「紙でいいよ。あと、壊れてる桶とか、使える桶とか、わけたいんだよね。“この山は使える、こっちは捨てる、これは直す”って」
「あ、はい。それ、やります」
「本当に?」
「得意です。そういうの、得意です」
得意、って口にして、自分でちょっとびっくりした。得意って、久しぶりに使った気がした。会社では「得意です」ってあんまり言わなかった。だって言ったら、それは“じゃあそれ全部よろしくね”の合図になるから。やればやるほど、「あいつにやらせとけばいいよ」ってなる。だから、得意って言葉を封印してた。それをいま、気づいたらポロって出してた。あ、なんか、私、ここでは言ってもいいって思ったんだ。今やっと気づいた。胸の奥で小さくびっくりする。
「それから、午後は村のみんなに挨拶に行こうか」
「村のみんなに……」
「うん。全員じゃなくていいよ。まずは井戸の近くに集まってる人たちと、それからパン屋と、あとは畑のほうの人たちにざっと」
「“ざっと”って言いましたけど、ざっとじゃないですよねそれ……」
「ざっとだよ」
「ざっとの定義が異世界で違うパターンですねこれ」
「それと、忘れちゃいけないのが、アイラに会わせたい」
「アイラ」
「うん」
「どなたですか?」
「この村でいちばん口が強い人」
「口が強い!?」
「うん。なんでもバサッと言う。納得いかないことは“それ意味ないからやめな”って平気で言う。あと、俺にも普通に怒鳴る」
「あなたに怒鳴れるって相当じゃないですか」
「そうかな?」
「そうですよ。なんかあなた、こう……見た目がこう……圧あるじゃないですか……」
「圧?」
「ほら、その、顔面偏差値が犯罪級なこととか、雰囲気が人外っぽいこととか、そういう総合的圧……」
「そんなに圧ある?」
「圧ありますよ!? 知らないんですか!? 自覚なしで歩いてたんですか今まで!? 危険ですよそれ!!?」
「そっか。危険なんだ」
「危険です」
「じゃあ由香、ちゃんとそばにいてね」
「ちょっと待ってなんでそこで私に護衛っぽいお願いが来るんですか!? 私のどこに護衛要素が!? かわりにあなたが私のそばにいてください!!」
「もちろん」
「もちろんって即答した……」
ちょっと待って。今の“もちろん”は反則。なんなら今日いちばん反則。胸がぎゅうぅぅぅぅってなる。息が止まる。これはよくない。心臓に悪い。恋とかそういうイベントカード、デッキの底にしまっておいてください。私はいま“まず生きる”っていうチュートリアルやってる段階なんで。イベントカード早い。早いです。チュートリアル飛ばすタイプのゲームは高難易度すぎてすぐ死ぬって決まってるでしょ。
「アイラには挨拶しておいたほうがいい。あの人は村の中では“声”だから。つまり、アイラが“この子は大丈夫”って言ってくれたら、村の八割はすんなり受け入れる。それくらい信頼されてる」
「えっ、そんなに」
「うん。逆にアイラが“怪しい”って言ったら、みんなめっちゃ警戒する」
「それもすごいですね……」
「だから、ちゃんと紹介したい。俺からだけじゃなくて、由香からも話してほしい」
「私から?」
「うん。“私はこういうことができます”って。得意なこと。できること。やりたいこと。やりたくないこと」
「やりたくないことも言っていいんですか?」
「言ってほしい。そこは大事」
「たとえば?」
「“魔物とは戦えません”とか」
「それは天地がひっくり返っても無理です!!!」
「そういうの、ちゃんと最初に言っとこう」
「はい、言います。めっちゃ言います。そこは大声で言います」
「うん。それでいい」
「あと、“いきなり一日三十人分のご飯とか作れません”も言っていいですか?」
「言っていいよ」
「“洗濯はやりますけど、川に流される可能性があります”はどうですか?」
「それは“慎重にやります”って言い直そうか」
「オブラート……! はい、オブラートに包みます……!」
「あと、“きれいに並べるのは得意です”っていうのも、言って」
「きれいに並べるのは得意です、は、はい、それは言えます。言いたいです」
「うん。アイラは、そういうの聞けばちゃんと理解する。“あんたはここ”“あんたはそこ”って上手に振り分けてくれるから」
「頼れる……」
「頼れるよ」
「仲良くなれるかな……」
「なれるよ」
「なれますかね……?」
「うん。由香は、話しててちゃんと本音があるから。アイラ、そういうの好きだよ」
「本音」
「うん。『怖い』『嫌だ』『無理』って言える人、アイラは好き」
「え、私今日それ言いまくってますけど、引かれてないんですか?」
「引いてないよ。むしろ安心してる」
「安心……」
「“この子はちゃんと助けてって言ってくれるな”って思えるから」
「……」
「そういう子のほうが、守りやすいから」
守りやすい、って言葉が、胸のど真ん中に刺さった。ギュッて音がしそうなくらいに刺さった。でも、その痛みは、嫌な痛みじゃなかった。むしろじんわりあたたかい。ああ、そうか。そうなんだ。私はいま、“守ってもらってもいい”っていう場所にいるんだ。いままで「守られるのは甘えだから」「迷惑かけないのが大人だから」って、自分で自分を追い詰めてきた。でも、それって、逆に“守りようがない”ってことなんだ。助けたい人が助けられないのって、すごく苦しいっていうのも、なんとなくわかる。あ、これ、そういうことか。だから“しんどい”って言っていいルールなんだ。
「……じゃあ、ちゃんと“助けてください”って言います」
「うん」
「必要なときは」
「うん」
「でも、私ができることはちゃんとやりますからね?」
「知ってるよ」
「そこ、ちゃんと認めてくださいね?」
「もちろん」
「“もちろん”って魔法の言葉ですか?」
「うん。そうだね」
「自分で言いましたね今」
「うん」
「ずるいなぁ……」
「またずるいって言われた。今日、何回目?」
「もう数えてないです。カウントするの諦めました。明日からは表にします」
「表?」
「“ルゼルずるい表”を作ります。“時刻”“内容”“ずるさ”“心臓ダメージ”“復旧に要する深呼吸の回数”っていう列を作ります」
「それ、ぜひ見たいなあ」
「見せません!!」
「なんで」
「恥ずかしいからに決まってるでしょうが!!!」
私は両手で顔を覆った。今日はこれ何回目の顔覆いムーブだろう。頬が熱いせいで、掌まであたたかい。目をぎゅっと閉じて、深呼吸をひとつ、ふたつ。胸の奥のドキドキを落ち着かせるたびに、“ああ私、ほんとにここにいるんだな”って実感が引きなおされる。この“実感の上書き”を、私は何回もやってる。いいことだと思う。いまの私は、何度でも確認したい。“ここにいていい”って何度も聞きたいし、何度も信じ直したい。そうしないと、たぶん明日の朝怖くなるから。目が覚めて「ぜんぶ夢でした」ってなったら困る。だから何回でも胸に書き込んでおく必要がある。“ここにいていい”“いていい”“いていい”。
ひとしきり騒いで落ち着いてから、私はまた野菜と豆の炒めたやつをひとくち噛んで、ゆっくり飲みこんだ。噛むたびに、体のほうが勝手に「あーこれ元気になるやつだわー」って納得していく感じがして、ちょっとおもしろい。体のほうが先に納得して、心があとから「あ、そうなんだ」って追いつくの。なんか順番が逆でかわいい。いやかわいいって言葉、いまは私に対して使うぶんには許す。自己申告はセーフ。ルール上セーフ。
「明日、なんじからですか?」
「そうだな……太陽が一つぶんのぼったくらい」
「太陽が一つぶん?」
「朝ごはん食べて、ちょっと落ち着いたくらい」
「あ、なるほど。感覚で言われるやつだ」
「うん。こっちの村の時間の決め方、そんな感じだからね」
「じゃあ、私は、朝起きて顔洗って髪なんとかして、身支度して、片づけてから行けばいいですね」
「うん」
「服、借りてもいいですか……その……例の」
「ああ」
ルゼルが、わずかに目を細めた。ちょっとだけいたずらっぽい光が混ざる。
「膝上のやつ?」
「言い方ァ!!?」
「いや、ちゃんと考えてるよ。丈はちょっと短いけど、下に紐巻くやつもあるから」
「紐巻くやつ?」
「うん。足に巻く布。ぐるぐる巻いて止めるやつ。膝の下くらいまであるから、思ったより露出はしないよ」
「あ、よかった……」
「由香、露出が恥ずかしいんだ?」
「恥ずかしいですよ!? 初対面の村人さんたちに太もも全開で“はじめまして井戸の整理します!”って出ていくの私の羞恥力じゃ無理ですよ!? 私のメンタルが死ぬ! 死んだら井戸どころじゃない!」
「それは確かにそうだね」
「そうなんです」
「でも由香、足、きれいだから」
「その話題は終了!!!!」
「うん」
「うん、って素直に引くと逆に恥ずかしいのなんなんですか!? なんなの!? 今日なに!? 私を何回赤面させる回なの!? これなんの洗礼なの!? “魔王宅に住むときの初日イベント:褒め殺し”とかそういうやつですか!? いややめてください心臓が持たない!!」
「初日イベント、いい名前だね」
「よくないです!!!」
「まあ、服は明日の朝、一緒に選ぼうか。サイズもあるし」
「サイズ……」
「大丈夫。見たところ、前の子より由香のほうが少し……」
「ストップストップストップ!!! そこから先は地雷域です!!! サイズの話題、女性に迂闊に踏み込んではいけないっていう文化は異世界にも輸入してください!!!」
「輸入する」
「即決ありがとうございます!!!」
危なかった。いまの、下手したら地雷原まっしぐらだった。ナイス自己防衛、私。よくやった。内心で自分にハイタッチする。ふぅ。
「で、明日は井戸とアイラさんとパン屋さんと、あと畑の人たちにあいさつ、ですか」
「うん」
「そのとき、私、なんて言えばいいですか? 『こんにちは、由香です。これからここに住みます』って感じですか?」
「それでいいよ」
「“住みます”って言い切ってもいいんですか?」
「うん」
「まだ一日目なんですけど」
「うん。もう住んでるから」
「……」
「ちゃんと言っていいよ。“ここに住みます。ここで働きます。だからよろしくお願いします”って」
「……」
「それ、嫌?」
「嫌じゃないです」
「うん?」
「むしろ、言いたいです。めっちゃ言いたいです。いま喉のここまで出かかってます」
「よかった」
「ただ、言った瞬間にうれしすぎて泣いたらどうしようとは思ってます」
「泣いていいよ」
「泣きません!!! あれは一日に三回までです!!! 今日でノルマオーバーしてるので明日はノー泣きデーです!!!」
「ノー泣きデー」
「はい! 明日は元気よく“こんにちはー!”って言って、井戸を指さして“これはダメです!”って言って、バケツ分別して、“これ捨てまーす!”って言うんです!」
「いいね」
「で、アイラさんっていう怖い(?)人に、“税の紙まとめます!”って宣言するんです!」
「うん。いい」
「いいですか?」
「いいよ」
「よし」
私はぐっと拳を握った。なんだろう。やることがはっきりしてきたら、ちょっとだけ怖さが減った。やることがないときって、逆に不安が広がるんだよね。会社でもそうだった。ぽんって放り出されるのが一番つらい。「とりあえず適当にやっといて」が一番嫌い。逆に「これとこれとこれよろしく」って言われると、「はい!」って動ける。ああ、私ってそういうタイプだったな、と改めて思い出す。忘れかけてた。忙しすぎて、そういう自分を見失ってたのかも。
「それと」
「はい?」
「明日の夜、少し時間ある?」
「あります。なんならいまのところ私のスケジュール真っ白です」
「じゃあ、請願書の下書き、始めよう」
「あっ」
胸の奥が、じわっと熱くなった。忘れてなかったけど、改めて言われると、ぐっとくる。紙の上に数字を並べて、“感情論”って切り捨てられない形にする。私が、いまこの村で役に立てる、一番わかりやすい場所。そこに手をつけるんだって思うと、怖いけど、うれしい。
「やりたいです」
「うん。今日はもう、休んでいいけどね」
「いや、やりたいです」
「無理しないで」
「無理じゃないです。頭を使うぶんには、むしろ落ち着きます。さっき泣いたぶんのエネルギーを、紙に変換したいです」
「紙に変換」
「はい。いつもそうやって処理してたので。仕事で」
「そっか」
「だから、明日の夜、ちゃんと一緒に座ってください。逃げないでください」
「逃げないよ」
「約束?」
「約束」
「やった」
“約束”って言葉、今日だけで多分五回以上聞いた。今までの人生で、こんなに短時間で“約束”って言われたことないかもしれない。普通に生きてたら、“約束”ってわりと軽い言葉なのに、ここでは、ちゃんと意味がある。口約束にしないで、そのまま予定として組み込まれる感じがする。なんだろう。これ、もしかして“信頼”ってやつでは。あ、やばい。いま自分でそう言って胸がじーんってした。やっぱりノー泣きデーは明日にしよう。今日はもう泣いていい日ってことにしよう。セルフ許可。はい許可。
「……ルゼル」
「ん?」
「ありがと、ございます」
「うん」
「なんか、いっぱい」
「うん」
「すごい、いっぱい」
「うん」
「ありがとう、って言っていいですか?」
「いいよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
息が、少しだけ震えた。やばい。ダメだ。泣くなって言ったそばからこれだよ。私は慌ててスープをもう一口飲んで、喉の奥を忙しくさせて、涙腺に仕事をさせないようにした。スープはあいかわらずやさしい味で、胸の中をじんわりと温める。やっぱりこれ、反則じゃん。ずるい。ずるすぎる。世界がまるごとずるい。
「それにしても」
「うん?」
「私、明日から“村の井戸を仕切る庶務係”って紹介されるんですかね?」
「うん。そうだね」
「肩書きながいですね!?」
「じゃあ短くする?」
「短くなるんですか?」
「“井戸の人”」
「雑ーーーーーーー!!!?」
「わかりやすいよ。『あの子、井戸の人ね』って」
「いやまあ、わかりやすいですけども!!」
「“井戸の人”って呼ばれてる間に、みんな“あの子に聞けばだいたいわかる”って覚えるからね」
「それは悪くないかもしれない……」
「でしょ?」
「“井戸の人”……。なんか、ちょっと誇らしいですね……」
「うん。誇っていいよ」
「誇っていいんですか?」
「うん。だって、水は命だからね」
その言葉は、すっと落ちるみたいに、胸に入った。ああ、そうだ。水は命。井戸は水。つまり井戸は、この村の命の場所。その命の場所を、きれいに整えて、安心して使えるようにする。それって、たぶんこの村で一番大事な仕事のひとつだ。私はそこに関われる。書類を整えるのもそうだ。村の暮らしを守るために、外と交渉するための言葉を整える。ああ、なんか、ほんとに“必要とされる”ってこういうことだったんだ。
私は深く息を吸いこんだ。胸いっぱいに、スープの湯気と、炒めた野菜の香りと、木の家の匂いと、暖炉の火の匂いと、ハーブの青い匂いと、ぜんぶまとめて吸いこんで、胸におさめる。肺の奥から背中まで、ゆっくりあたたかくなる。目を閉じて、ゆっくり吐く。肩が下がる。緊張がほどける。胸の重りがひとつずつ消えていく。
「ふぅ……」
「うん?」
「なんでもないです。ちょっと落ち着いただけです」
「よかった」
「はい。あと、すごい眠気がまたきました」
「寝ていいよ?」
「ごはん途中で寝るのは申し訳ないので、食べきってから寝ます」
「うん。えらいね」
「えらいって言われるとまた泣くので禁止でお願いします」
「禁止なんだ」
「はい禁止です」
「じゃあ、“よくやってる”は?」
「それはセーフ……いやギリギリアウト……いや、ギリギリセーフ……」
「どっち?」
「ギリギリセーフです……」
「そっか」
「そっかって言うとそれはそれで刺さるのでやめてください……」
「むずかしいなあ」
「あなたが人の心にストレートにボール投げすぎるんですよ!! 変化球というものを覚えてください!!」
「変化球?」
「ちょっとぼかすやつです!! 直接“好き”とか“助かってる”とか言わないやつです!!」
「ああ」
「わかりました?」
「由香」
「はい」
「好きだよ。助かってる」
「変化球とは!!!!????」
「いま覚えたばっかりだから、使うのは明日からにする」
「今日使ってくださいよそこはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
机に突っ伏した。突っ伏したまま、耳まで真っ赤になってる自覚がある。なんだこれ。なんだこの人。何度も言うけど、初日だよ? 初日イベント、濃すぎない? ボリューム多くない? これチュートリアルでいいの? 明日から本編なの? これで本編入ったら私の心臓が過労死しない?
「……」
「ん?」
「……うるさいと思ったら、止めてくださいね」
「うるさい?」
「私がです。テンションが。さっきからうるさい自覚はあるので……」
「うるさくないよ」
「本当ですか」
「うん。静かにしてほしいときはちゃんと言うから」
「……」
「“いまちょっと頭の中まとめたいから静かにして”って」
「それ、言っていいんですか?」
「言っていいよ」
「……」
「言える?」
「……練習します」
「うん」
「練習して、言えるようになったら、ちゃんと聞いてくださいね」
「もちろん」
「“もちろん”ずるい……」
「またずるいって言った」
「言いますよもう永遠に言いますよ……」
そこまで言ってから、私のあくびが勝手にこぼれた。ふわぁ、って口が開く。涙がじわっとにじむ。眠い。ほんとに眠い。さっきまで泣いてたから目が疲れてるっていうのもある。でも、ただの眠気じゃない。安心のあとに来る眠気。お腹があたたかくて、胸があたたかくて、まぶたが重くなるタイプのやつ。ああこれ。これ、やばい。気持ちよく寝落ちするやつだ。
「眠い?」
「ちょっとだけ……」
「じゃあ、今日はもう休もうか」
「片づけは……」
「俺がやるよ」
「い、いえ、私もでき――」
「由香」
「はい」
「“眠いから休む”って、言っていいんだよ」
心臓が、また、きゅうって鳴った。なんでこの人は、毎回タイミングよくそこを突いてくるの。なんでわかるの。ずるい。ずるい。ずるい。
「……眠いので、休みます」
「うん。いい子」
「いまの“いい子”は反射的にはずかしいですけど、なんかすごく効くので許します……」
「よかった」
「あと、あの」
「うん?」
「ここに……いてください」
自分で言って、自分で固まった。あ、言っちゃった。また言っちゃった。昼間も言ったやつ。また言っちゃった。依存度高いって思われない? 重いって思われない? うざいって思われない? そういう警戒が一瞬で頭を駆け巡って、喉が詰まりそうになる。言い直そうとした瞬間、すぐに返事がきた。
「うん。いるよ」
その返事は、やっぱり迷いがなかった。私の中の警戒心が、ふっと肩の力を抜く。喉のつっかえがとける。ああ、これ、こういう即答の積み重ねなんだな。私がいま、ちょっとずつ安心できてるのって。ちゃんと聞いて、その場で、迷わず「いるよ」って言ってくれる、その積み重ねなんだ。
「……ありがとうございます」
「うん」
「じゃあ、あの、私、寝ます」
「うん。おやすみ、由香」
「……おやすみなさい、ルゼル」
私は、ふらふらしながら立ち上がった。椅子を静かに引いて、足元を気をつけながら部屋に戻る。木の床が、きしむ音を小さく立てる。その音すら、なんだか安心する。自分の足音が“ここにいる”って証明してくれるみたいで、嫌じゃない。
部屋の扉をそっと閉める。閉める前に、ちょっとだけ振り返った。居間には、暖炉の火。テーブルの上には、食べかけの木のお皿。スープの器。インク壺。羽ペン。紙束。それから、その紙束の横に腰を下ろして、私が使ってた椅子に手を置いて、静かにこっちを見ているルゼル。目があって、彼がふっと笑う。その笑い方は、やっぱりあったかい。やさしい。私の胸の奥に、静かにそっと置いてくれるみたいな笑い。
私は小さく会釈して、扉を閉めた。部屋の中は、さっきよりも暗くなっている。窓の外、湖の光はもう赤から群青に変わりつつあって、遠くで虫が鳴いているのが聞こえる。ベッドに近づいて、布団をそっとめくる。さっきまでの体温が、まだほんのり残っていて、それが“ここは私の場所です”っていう証拠みたいに感じられて、胸がまたぎゅっとなった。私はそっと横になって、布団を胸の上まで引き上げる。目を閉じる。
暗いわけじゃない。怖くもない。静けさが、ちゃんとやさしい。耳を澄ませば、家全体の音がわかる。暖炉の火のはぜる音。木が熱で膨らんだり縮んだりするちいさなきしみ。外の虫の声。湖のほうからくる、ちいさな波の音。そして、居間からほんの少し届く、人の気配。これは安心する。これは、すごく安心する。
私は、胸の中で、小さな約束をひとつ決めた。
――明日は、泣かない。泣かないで、“こんにちは”って笑う。胸を張って、“ここで暮らします。ここで働きます”って言う。
それからもうひとつ、小さな欲張りも決めた。
――明日の夜も、“おやすみ”って言いたい。
まぶたが、すとん、と落ちた。意識が静かに沈んでいく。沈みながら、最後にもう一度だけ、今日何度も聞いた言葉を思い出す。
“君は、ここにいていい”。
その言葉は、胸のいちばん真ん中に、ちゃんと残っていた。
私はそれをぎゅっと抱きしめながら、静かに眠りに落ちた。
目を開けたとき、世界はいったん全部ぼやけて、それから少しずつ輪郭を取り戻した。天井の木目。窓から差しこむ夕方の光。部屋の空気は、ほんのりあたたかいけど、寝ていた私の体はぽかぽかしていて、その境目で少しひやっとする。私は布団にくるまったまま、目だけを動かしてあたりを見た。知らない天井。知らない部屋。知らない布の感触。――なのに、“ここどこ?”っていう警戒がまったくわかなかった。かわりにあったのは、胸の奥から静かに浮いてくる安心感だけで、私はそれにちょっと驚く。
あ。ここ、私の部屋だ。
その認識がすとん、と喉の奥から胸に落ちた瞬間、胸の真ん中がじんわり熱くなった。なんか、もうそれだけで泣けそうになるの、どうなんだろう。今日の私のメンタルは本当にどうなってるの。情緒は生まれたての子鹿なの? 涙腺は故障してるの? いやでも、別にいいか。だって、私の部屋なんだし。これ、私の。私の場所。私のベッド。私の、この空気。
「……ふふ」
自分で小さく笑ったのが自分でわかった。なにそれ。ちょっと気持ちわるいけど、でも、悪い笑いじゃない。なんかこう、顔の筋肉が勝手にゆるむ。じんわりゆるむ。私は布団からそっと腕だけ出して、目元をこすった。目のまわりは少し熱いけど、泣きはらしたみたいな腫れはさっきよりずいぶん落ちてる気がする。寝るって偉大。睡眠大事。睡眠は正義。そう、睡眠は正義。
体を起こそうとして、そこで気づいた。毛布が一枚、私の肩にふわりとかかっていた。さっき部屋に入ったときにはなかったやつだ。色は淡い茶色で、手ざわりは少しざらっとしてるけど、外側だけほんのり太陽の匂いがする。これ、たぶん居間にあった毛布のやつだな、と私はぼんやり思い出す。つまり、誰かが(誰か=ルゼル)途中で持ってきて、かけてったってことだ。私が寝てる間に。……ずるい。はい出ましたずるいポイント。本日何回目かわからないずるい。メモ取りたい。あとで表にまとめたい。「対応時刻」「内容」「ずるさ指数」「心臓へのダメージ」で管理したい。
私はそっと布団と毛布をたたんで、ベッドの端にまとめた。たたみ方はたぶんこっちの世界のやり方じゃない。でも、しわが寄らないようにして端をそろえる、っていう日本の癖がしっかり出てしまう。これはまあいい。後で「こっちではこうするんだよ」って教えてもらえば直せる。いまはとりあえず最低限“散らかしてない人”の第一印象を守りたい。第一印象って大事。第一印象で「この子はだらしないな」って思われたら、庶務の信用ポイントが下がって仕事の説得力が落ちるから。私の中の社畜防衛本能がそう言っている。
足を床におろす。床板がひんやりしてて、ちょっと気持ちいい。軽く背伸びをすると、背骨がこきっと鳴った。うわ、緊張してたんだな、やっぱり。肩も軽くまわす。うん、大丈夫。体ちゃんと動く。私ちゃんと生きてる。異世界だけど、生きてる。生きてる、って確認するだけでちょっと胸があったかくなる。大げさだけど、本当にそう思った。
耳をすませると、遠くから小さな音が聞こえた。カチャ、コト、と何かを置く音。低い鼻歌。火のはぜる、小さなぱちぱち音。匂いも漂ってくる。炒った何かと、ハーブと、あと、玉ねぎをゆっくり温めたときの甘い匂いに似てる。私はふらふらとその匂いにつられて、部屋を出た。
廊下は短い。二歩で終わる。扉をそっと開けると、居間は、昼よりも少しだけオレンジ色になっていた。外の光が変わっている。窓から入る湖の反射は、昼のきらきらした銀じゃなくて、少し赤みを帯びた金色で、部屋の木にやわらかい影を落としていた。暖炉には火が入って、小さく燃えている。その手前、キッチンのところにはルゼルの背中。
袖をまくった腕。肩甲骨から腰にかけてのライン。料理してる男の背中って、なんでこう落ち着く絵になるんだろう。テレビのCMかよ、って内心つっこみたくなるけど、現実(異世界だけど)なんだからしょうがない。なんだあの肩幅。なにその手の動き。淡々としてるのに余裕がある感じ、ずるい。はい、またずるい。ずるいチェックリスト、後でほんとに作ろう。
ふっと、彼がこっちを振り返った。赤茶の瞳が、ほんの一瞬でやわらかくなる。私の姿を確認して、安心した、みたいな顔。
「起きた」
「はい……おはようございます」
「おはよう?」
「あっ、違う。今って、おはようじゃない……?」
「夕方」
「ですよね。すみませんでした今のは社会人としての挨拶の癖が……」
「挨拶の癖?」
「誰がいつ来てもとりあえず『おはようございます』って言う文化があるんです」
「便利だねそれ」
「便利です」
「じゃあ、おはよう」
「おはようございます」
なんか通じた。通じたの、ちょっとおかしいのに、ちょっと嬉しいのが悔しい。
「よく眠れた?」
「はい……なんか、ぐっすりでした。あの、いろいろすみません」
「なにが?」
「泣きつかれて勝手に寝落ちしたりとか、毛布かけてもらったりとか、あと、多分私いびきかいてたらすみません……」
「いびきは聞こえなかったよ」
「本当ですか」
「うん。かわ──」
「可愛いって言ったら井戸に沈めますからね!!!」
「それは困るなあ」
「困ってください!!!」
「でも“安心して寝てるなあ”って顔だったから、見ててよかった」
「それもだいぶ恥ずかしいことさらっと言いますよねあなた!!?」
「言うね」
「自覚はあるんですね……」
「あるよ」
「あるのかぁ……」
私は両手で頬を押さえた。熱い。顔がまた熱い。今日ずっと熱い。これ体温上がりっぱなしでそのうち発熱するんじゃない? いや、安心の発熱ならいいのか? 安心熱? なんだそれ。新しい概念すぎる。
「座ってていいよ。もうすぐ食べられるから」
「た、食べられる……」
その言葉だけで心臓がどくっと跳ねた。わかってる。たぶん晩ご飯のことだ。でも、“もうすぐ食べられるから”って言い方って、やばくない? “あなたは座ってていい”って、やばくない? 私、会社でそんなふうに言われた記憶がほぼない。むしろ「佐伯さん、先方もう来てる? お茶お願い」「コピーちょっと今すぐ」「会議室セッティングしといて」って言われる係だった。座ってていいっていう許可、こんなに胸に響くんだ。なんかちょっと泣きそう。今日泣きすぎ。目がふやける。溶ける。
「じゃ、テーブル、ちょっと片づけるね。紙はこっちに移す」
「あ、それは私やります!」
私は反射的に飛びついた。これくらいはやらせてほしい。恩を返したいとかそういう大げさじゃなくて、単純に体が勝手に動いた。テーブルの上には、在庫リストにした紙と、インク壺と、羽ペンと、あとパンくず。パンくず、けっこう散ってるな。ミラが最後に両手でばんざいしたときにばふってなったやつだな、これ。私はまずインク壺のふたがちゃんと閉まってるか確認してから、紙の束をそろえ、パンくずを指で集め、布を探してテーブルを拭こうとして――視界の端に、それを見つけた。
小さい、丸い、かけら。パンの残り。ミラが「これユカのぶんね!」って言ってたやつを、私がウトウトする前に「あとで食べるからここ置いとこ……」って言ってそのまま寝ちゃったやつ。置きっぱなしだった。まだ半分ある。表面は少し硬くなりかけだけど、中はまだふわっとしてそうだ。
「……あ」
なんか、胸の奥がきゅっとした。大事なものがそのまま置いてあって、それが私を待っててくれたみたいな気がして、変だけど少し嬉しくなる。私はそれをそっと手にとって、キッチンから戻ってきたルゼルに見せた。
「これ、食べてもいいですか」
「もちろん」
「まだ私のですか?」
「うん。それ、ミラが“ユカのぶん!”って言ってたやつでしょ」
「はい」
「じゃあ、由香のだよ」
「……」
なんだろう。“由香の”って言われるたびに、心臓のどっかがむずむずして、同時にふわぁってあったかくなる。所有の確認で泣きそうになるって、冷静に考えるとちょっとやばい。でも、これまでの人生、私には“私のもの”って堂々と言えるものがあんまりなかった気がする。いや、家具とか服とかスマホとかはもちろんあったけど、どれも「いつか引き払う部屋」とか「いつか壊れるもの」っていう前提で持ってた。そこに確かな“居場所”が結びついてるものは、あんまりなかった。だから、こういう小さなパンのかけらでも、“これはあなたのだよ”って言われるだけで、すごい効く。
パンをひとかじりした。冷めててもおいしい。ハーブとチーズと、ほのかなミルクの甘みみたいなのが、口の中にやさしく広がる。噛むたびに、ほどける。ああ、好き。ミラのパン、好き。私は勝手に心の中で「ミラのパンは世界を救う」とメモした。世界を救うって言ってもバトル的な意味じゃなくてメンタル的な意味で。
「うまい?」
「はい。なんか、ほっとします」
「よかった」
「この村、パンのレベル高いですね……」
「うん。あそこは自慢していい」
「自慢していいと思います。いやほんとに」
テーブルを拭いて、紙をひとまとめにして、インク壺と羽ペンを端に並べる。私の中の「現場整える係」が勝手に働く。気づけば、机の真正面には何もなくなっていて、そこにお皿を置けるスペースがちゃんとできていた。こういうのをするの、やっぱり私は好きなんだな、と自覚する。好きなことって、体が止めようとしても止まらないんだね。なんかちょっと笑える。会社でもこれやってたけど、あのときは「便利だから使われる」って感覚のほうが強かった。いまはちょっと違う。いまは「ここを私の場所として整える」って感覚のほうが強い。似てるけど、ぜんぜん違う。
「はい、できたよ」
ルゼルがキッチンから、大きめの木の皿と、小さな器をふたつ持ってきた。木の皿には、炒めた野菜と、なにか豆っぽいものが混ざっている。色は素朴な茶色と緑。見た目は地味だけど、香りがすごい。じゅわっとした香ばしさと、やわらかい甘さ。あと、ほんの少しだけスパイスっぽい香りが混ざってる。器のほうには、薄いスープ。透き通ってるけど、玉ねぎっぽい野菜がとろっと溶けていて、表面に小さな油の輪がいくつも光っている。
「うわ……」
「大丈夫? 食べられそう?」
「食べられます……むしろお願いします早くありがとうございます」
「よかった」
「なんか私いま、食べ物に対してすごい前のめりになってますね。すみません。いやすみませんではないな……」
「いいことだよ」
ルゼルは、私の前に木の皿と器を置いた。私は思わず背筋を正して、両手を軽く重ねて、小さな声で言った。
「いただきます」
「いただきます?」
「食べる前に言うやつです」
「へえ」
「言ってみてください」
「いた……だきます」
「ありがとうございます」
「なんか今ので由香、ちょっと嬉しそうだね」
「はい。なんだろう。すごく、はい」
本当に、ちょっと嬉しかった。なんでだろう。わからないけど、たぶん「一緒に食べる」っていうルールを、本当に一緒にやってるっていう実感が、こんなにあたたかいんだっていう驚きがある。会社では「じゃ、コンビニで買ってきて自分の席で食べて」だった。誰かと「いただきます」って言い合うこと、ほとんどなくなってた。最後にいつ誰かとちゃんと「いただきます」「ごちそうさま」を交換したのか、思い出そうとしたら胸がきゅっとなってつらくなったので、いまは考えないことにする。
私はまずスープをひと口、そっとすくった。木のスプーンは金属よりもずっと口当たりがやわらかい。唇にあたった瞬間から、すでにやさしい。口に含むと、熱すぎない。やさしい温度。玉ねぎっぽい野菜(玉ねぎなんだろうな、多分)が、ほとんど溶けてて、舌の上で甘い。甘いんだけど、砂糖の甘さじゃなくて、じわっと広がる野菜の甘さ。あと、ほんのすこしだけ塩気があって、その塩気が甘さを引き立ててる。飲みこんだあと、喉の奥から胸のあたりが、じんわりあたたかくなる。
「……」
「どう?」
「すごい……」
「うん?」
「なんか、胸のあたりが“だいじょうぶだよー”って言われてるみたいな味がします……」
「それはいい味だね」
「いい味です……」
「よかった」
思わず目がうるんだ。いや泣きすぎだよ今日。泣かないで。スープに涙が落ちたら塩分過多になっちゃうから。私の体液で味変はさすがにいやだ。ぐっとこらえる。
次に、炒めた野菜と豆っぽいやつを一口。口に入れた瞬間、「ん!?」ってなった。豆だと思ってたの、豆だけじゃない。たぶん、麦とか小さく砕いた穀物も混ざってる。もちもちした歯ごたえ。そこに、軽く炒めた緑の葉っぱと、香ばしい何か(たぶん油で炒めた根菜)が一緒になってて、食感がすごく楽しい。噛むと小さな旨みがじゅわっと出てくる。塩は強くない。多分、そんなにたくさん貴重な塩を使えないんだろうなって思う。でも、そのぶん野菜と穀物自体の味がしっかりしてて、ちゃんと満足する。
「ん~~~っ、おいしい……」
「よかった」
「なにこれ、なにこれ、名前とかあるんですか」
「ん? 炒めただけ」
「炒めただけ!? 嘘でしょ!? “炒めただけ”って顔じゃないですよこれ! “ちゃんとしたおかずです”って味がします!」
「ちゃんとしたおかずだよ」
「ちゃんとしたおかず……」
「今日のぶん、ちゃんとふたり分あるよ。だから遠慮しないで」
「ふ、ふたり分……」
“ふたり分”って言葉に、また胸の真ん中がきゅうって鳴く。やめて。ほんと、やめて。いちいち刺さる。いちいちくる。こういう日常の単語が、こんなに心臓に効くって思ってなかった。私どんだけ飢えてたの。いや、知ってたけど。うすうすは知ってたけど。いざこうして真正面から突きつけられると、改めて「あ、私、ほんとに渇いてたんだな」って自覚させられる。それを認めるのは、怖い。でも、同時に、ちょっと嬉しい。だって、それに気づけたってことは、いま渇いてないってことだから。
「由香」
「はい」
「明日、朝から動けそう?」
「動けます。むしろ動きたいです」
「無理しないでいいよ?」
「無理しません。無理って、自分でもわかるときは言います」
「言える?」
「練習中です」
「うん」
「だから、“しんどいです”って言ったら、ちゃんと止めてくださいね」
「もちろん」
「約束ですよ?」
「うん。約束する」
“約束する”って言葉が、即答で出てくるの、本当にずるい。軽いのに、軽く聞こえない。ちゃんと重さを持ってる。私が思わず黙り込んでしまうくらいには、効く。
「で、明日は何をすればいいですか」
「うん。まず午前中に、村の井戸を見に行こう。いまどんな状態か、由香の目で見てもらって、写真……じゃないや、メモを取ってほしい」
「はい。メモ帳は紙でいいです?」
「紙でいいよ。あと、壊れてる桶とか、使える桶とか、わけたいんだよね。“この山は使える、こっちは捨てる、これは直す”って」
「あ、はい。それ、やります」
「本当に?」
「得意です。そういうの、得意です」
得意、って口にして、自分でちょっとびっくりした。得意って、久しぶりに使った気がした。会社では「得意です」ってあんまり言わなかった。だって言ったら、それは“じゃあそれ全部よろしくね”の合図になるから。やればやるほど、「あいつにやらせとけばいいよ」ってなる。だから、得意って言葉を封印してた。それをいま、気づいたらポロって出してた。あ、なんか、私、ここでは言ってもいいって思ったんだ。今やっと気づいた。胸の奥で小さくびっくりする。
「それから、午後は村のみんなに挨拶に行こうか」
「村のみんなに……」
「うん。全員じゃなくていいよ。まずは井戸の近くに集まってる人たちと、それからパン屋と、あとは畑のほうの人たちにざっと」
「“ざっと”って言いましたけど、ざっとじゃないですよねそれ……」
「ざっとだよ」
「ざっとの定義が異世界で違うパターンですねこれ」
「それと、忘れちゃいけないのが、アイラに会わせたい」
「アイラ」
「うん」
「どなたですか?」
「この村でいちばん口が強い人」
「口が強い!?」
「うん。なんでもバサッと言う。納得いかないことは“それ意味ないからやめな”って平気で言う。あと、俺にも普通に怒鳴る」
「あなたに怒鳴れるって相当じゃないですか」
「そうかな?」
「そうですよ。なんかあなた、こう……見た目がこう……圧あるじゃないですか……」
「圧?」
「ほら、その、顔面偏差値が犯罪級なこととか、雰囲気が人外っぽいこととか、そういう総合的圧……」
「そんなに圧ある?」
「圧ありますよ!? 知らないんですか!? 自覚なしで歩いてたんですか今まで!? 危険ですよそれ!!?」
「そっか。危険なんだ」
「危険です」
「じゃあ由香、ちゃんとそばにいてね」
「ちょっと待ってなんでそこで私に護衛っぽいお願いが来るんですか!? 私のどこに護衛要素が!? かわりにあなたが私のそばにいてください!!」
「もちろん」
「もちろんって即答した……」
ちょっと待って。今の“もちろん”は反則。なんなら今日いちばん反則。胸がぎゅうぅぅぅぅってなる。息が止まる。これはよくない。心臓に悪い。恋とかそういうイベントカード、デッキの底にしまっておいてください。私はいま“まず生きる”っていうチュートリアルやってる段階なんで。イベントカード早い。早いです。チュートリアル飛ばすタイプのゲームは高難易度すぎてすぐ死ぬって決まってるでしょ。
「アイラには挨拶しておいたほうがいい。あの人は村の中では“声”だから。つまり、アイラが“この子は大丈夫”って言ってくれたら、村の八割はすんなり受け入れる。それくらい信頼されてる」
「えっ、そんなに」
「うん。逆にアイラが“怪しい”って言ったら、みんなめっちゃ警戒する」
「それもすごいですね……」
「だから、ちゃんと紹介したい。俺からだけじゃなくて、由香からも話してほしい」
「私から?」
「うん。“私はこういうことができます”って。得意なこと。できること。やりたいこと。やりたくないこと」
「やりたくないことも言っていいんですか?」
「言ってほしい。そこは大事」
「たとえば?」
「“魔物とは戦えません”とか」
「それは天地がひっくり返っても無理です!!!」
「そういうの、ちゃんと最初に言っとこう」
「はい、言います。めっちゃ言います。そこは大声で言います」
「うん。それでいい」
「あと、“いきなり一日三十人分のご飯とか作れません”も言っていいですか?」
「言っていいよ」
「“洗濯はやりますけど、川に流される可能性があります”はどうですか?」
「それは“慎重にやります”って言い直そうか」
「オブラート……! はい、オブラートに包みます……!」
「あと、“きれいに並べるのは得意です”っていうのも、言って」
「きれいに並べるのは得意です、は、はい、それは言えます。言いたいです」
「うん。アイラは、そういうの聞けばちゃんと理解する。“あんたはここ”“あんたはそこ”って上手に振り分けてくれるから」
「頼れる……」
「頼れるよ」
「仲良くなれるかな……」
「なれるよ」
「なれますかね……?」
「うん。由香は、話しててちゃんと本音があるから。アイラ、そういうの好きだよ」
「本音」
「うん。『怖い』『嫌だ』『無理』って言える人、アイラは好き」
「え、私今日それ言いまくってますけど、引かれてないんですか?」
「引いてないよ。むしろ安心してる」
「安心……」
「“この子はちゃんと助けてって言ってくれるな”って思えるから」
「……」
「そういう子のほうが、守りやすいから」
守りやすい、って言葉が、胸のど真ん中に刺さった。ギュッて音がしそうなくらいに刺さった。でも、その痛みは、嫌な痛みじゃなかった。むしろじんわりあたたかい。ああ、そうか。そうなんだ。私はいま、“守ってもらってもいい”っていう場所にいるんだ。いままで「守られるのは甘えだから」「迷惑かけないのが大人だから」って、自分で自分を追い詰めてきた。でも、それって、逆に“守りようがない”ってことなんだ。助けたい人が助けられないのって、すごく苦しいっていうのも、なんとなくわかる。あ、これ、そういうことか。だから“しんどい”って言っていいルールなんだ。
「……じゃあ、ちゃんと“助けてください”って言います」
「うん」
「必要なときは」
「うん」
「でも、私ができることはちゃんとやりますからね?」
「知ってるよ」
「そこ、ちゃんと認めてくださいね?」
「もちろん」
「“もちろん”って魔法の言葉ですか?」
「うん。そうだね」
「自分で言いましたね今」
「うん」
「ずるいなぁ……」
「またずるいって言われた。今日、何回目?」
「もう数えてないです。カウントするの諦めました。明日からは表にします」
「表?」
「“ルゼルずるい表”を作ります。“時刻”“内容”“ずるさ”“心臓ダメージ”“復旧に要する深呼吸の回数”っていう列を作ります」
「それ、ぜひ見たいなあ」
「見せません!!」
「なんで」
「恥ずかしいからに決まってるでしょうが!!!」
私は両手で顔を覆った。今日はこれ何回目の顔覆いムーブだろう。頬が熱いせいで、掌まであたたかい。目をぎゅっと閉じて、深呼吸をひとつ、ふたつ。胸の奥のドキドキを落ち着かせるたびに、“ああ私、ほんとにここにいるんだな”って実感が引きなおされる。この“実感の上書き”を、私は何回もやってる。いいことだと思う。いまの私は、何度でも確認したい。“ここにいていい”って何度も聞きたいし、何度も信じ直したい。そうしないと、たぶん明日の朝怖くなるから。目が覚めて「ぜんぶ夢でした」ってなったら困る。だから何回でも胸に書き込んでおく必要がある。“ここにいていい”“いていい”“いていい”。
ひとしきり騒いで落ち着いてから、私はまた野菜と豆の炒めたやつをひとくち噛んで、ゆっくり飲みこんだ。噛むたびに、体のほうが勝手に「あーこれ元気になるやつだわー」って納得していく感じがして、ちょっとおもしろい。体のほうが先に納得して、心があとから「あ、そうなんだ」って追いつくの。なんか順番が逆でかわいい。いやかわいいって言葉、いまは私に対して使うぶんには許す。自己申告はセーフ。ルール上セーフ。
「明日、なんじからですか?」
「そうだな……太陽が一つぶんのぼったくらい」
「太陽が一つぶん?」
「朝ごはん食べて、ちょっと落ち着いたくらい」
「あ、なるほど。感覚で言われるやつだ」
「うん。こっちの村の時間の決め方、そんな感じだからね」
「じゃあ、私は、朝起きて顔洗って髪なんとかして、身支度して、片づけてから行けばいいですね」
「うん」
「服、借りてもいいですか……その……例の」
「ああ」
ルゼルが、わずかに目を細めた。ちょっとだけいたずらっぽい光が混ざる。
「膝上のやつ?」
「言い方ァ!!?」
「いや、ちゃんと考えてるよ。丈はちょっと短いけど、下に紐巻くやつもあるから」
「紐巻くやつ?」
「うん。足に巻く布。ぐるぐる巻いて止めるやつ。膝の下くらいまであるから、思ったより露出はしないよ」
「あ、よかった……」
「由香、露出が恥ずかしいんだ?」
「恥ずかしいですよ!? 初対面の村人さんたちに太もも全開で“はじめまして井戸の整理します!”って出ていくの私の羞恥力じゃ無理ですよ!? 私のメンタルが死ぬ! 死んだら井戸どころじゃない!」
「それは確かにそうだね」
「そうなんです」
「でも由香、足、きれいだから」
「その話題は終了!!!!」
「うん」
「うん、って素直に引くと逆に恥ずかしいのなんなんですか!? なんなの!? 今日なに!? 私を何回赤面させる回なの!? これなんの洗礼なの!? “魔王宅に住むときの初日イベント:褒め殺し”とかそういうやつですか!? いややめてください心臓が持たない!!」
「初日イベント、いい名前だね」
「よくないです!!!」
「まあ、服は明日の朝、一緒に選ぼうか。サイズもあるし」
「サイズ……」
「大丈夫。見たところ、前の子より由香のほうが少し……」
「ストップストップストップ!!! そこから先は地雷域です!!! サイズの話題、女性に迂闊に踏み込んではいけないっていう文化は異世界にも輸入してください!!!」
「輸入する」
「即決ありがとうございます!!!」
危なかった。いまの、下手したら地雷原まっしぐらだった。ナイス自己防衛、私。よくやった。内心で自分にハイタッチする。ふぅ。
「で、明日は井戸とアイラさんとパン屋さんと、あと畑の人たちにあいさつ、ですか」
「うん」
「そのとき、私、なんて言えばいいですか? 『こんにちは、由香です。これからここに住みます』って感じですか?」
「それでいいよ」
「“住みます”って言い切ってもいいんですか?」
「うん」
「まだ一日目なんですけど」
「うん。もう住んでるから」
「……」
「ちゃんと言っていいよ。“ここに住みます。ここで働きます。だからよろしくお願いします”って」
「……」
「それ、嫌?」
「嫌じゃないです」
「うん?」
「むしろ、言いたいです。めっちゃ言いたいです。いま喉のここまで出かかってます」
「よかった」
「ただ、言った瞬間にうれしすぎて泣いたらどうしようとは思ってます」
「泣いていいよ」
「泣きません!!! あれは一日に三回までです!!! 今日でノルマオーバーしてるので明日はノー泣きデーです!!!」
「ノー泣きデー」
「はい! 明日は元気よく“こんにちはー!”って言って、井戸を指さして“これはダメです!”って言って、バケツ分別して、“これ捨てまーす!”って言うんです!」
「いいね」
「で、アイラさんっていう怖い(?)人に、“税の紙まとめます!”って宣言するんです!」
「うん。いい」
「いいですか?」
「いいよ」
「よし」
私はぐっと拳を握った。なんだろう。やることがはっきりしてきたら、ちょっとだけ怖さが減った。やることがないときって、逆に不安が広がるんだよね。会社でもそうだった。ぽんって放り出されるのが一番つらい。「とりあえず適当にやっといて」が一番嫌い。逆に「これとこれとこれよろしく」って言われると、「はい!」って動ける。ああ、私ってそういうタイプだったな、と改めて思い出す。忘れかけてた。忙しすぎて、そういう自分を見失ってたのかも。
「それと」
「はい?」
「明日の夜、少し時間ある?」
「あります。なんならいまのところ私のスケジュール真っ白です」
「じゃあ、請願書の下書き、始めよう」
「あっ」
胸の奥が、じわっと熱くなった。忘れてなかったけど、改めて言われると、ぐっとくる。紙の上に数字を並べて、“感情論”って切り捨てられない形にする。私が、いまこの村で役に立てる、一番わかりやすい場所。そこに手をつけるんだって思うと、怖いけど、うれしい。
「やりたいです」
「うん。今日はもう、休んでいいけどね」
「いや、やりたいです」
「無理しないで」
「無理じゃないです。頭を使うぶんには、むしろ落ち着きます。さっき泣いたぶんのエネルギーを、紙に変換したいです」
「紙に変換」
「はい。いつもそうやって処理してたので。仕事で」
「そっか」
「だから、明日の夜、ちゃんと一緒に座ってください。逃げないでください」
「逃げないよ」
「約束?」
「約束」
「やった」
“約束”って言葉、今日だけで多分五回以上聞いた。今までの人生で、こんなに短時間で“約束”って言われたことないかもしれない。普通に生きてたら、“約束”ってわりと軽い言葉なのに、ここでは、ちゃんと意味がある。口約束にしないで、そのまま予定として組み込まれる感じがする。なんだろう。これ、もしかして“信頼”ってやつでは。あ、やばい。いま自分でそう言って胸がじーんってした。やっぱりノー泣きデーは明日にしよう。今日はもう泣いていい日ってことにしよう。セルフ許可。はい許可。
「……ルゼル」
「ん?」
「ありがと、ございます」
「うん」
「なんか、いっぱい」
「うん」
「すごい、いっぱい」
「うん」
「ありがとう、って言っていいですか?」
「いいよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
息が、少しだけ震えた。やばい。ダメだ。泣くなって言ったそばからこれだよ。私は慌ててスープをもう一口飲んで、喉の奥を忙しくさせて、涙腺に仕事をさせないようにした。スープはあいかわらずやさしい味で、胸の中をじんわりと温める。やっぱりこれ、反則じゃん。ずるい。ずるすぎる。世界がまるごとずるい。
「それにしても」
「うん?」
「私、明日から“村の井戸を仕切る庶務係”って紹介されるんですかね?」
「うん。そうだね」
「肩書きながいですね!?」
「じゃあ短くする?」
「短くなるんですか?」
「“井戸の人”」
「雑ーーーーーーー!!!?」
「わかりやすいよ。『あの子、井戸の人ね』って」
「いやまあ、わかりやすいですけども!!」
「“井戸の人”って呼ばれてる間に、みんな“あの子に聞けばだいたいわかる”って覚えるからね」
「それは悪くないかもしれない……」
「でしょ?」
「“井戸の人”……。なんか、ちょっと誇らしいですね……」
「うん。誇っていいよ」
「誇っていいんですか?」
「うん。だって、水は命だからね」
その言葉は、すっと落ちるみたいに、胸に入った。ああ、そうだ。水は命。井戸は水。つまり井戸は、この村の命の場所。その命の場所を、きれいに整えて、安心して使えるようにする。それって、たぶんこの村で一番大事な仕事のひとつだ。私はそこに関われる。書類を整えるのもそうだ。村の暮らしを守るために、外と交渉するための言葉を整える。ああ、なんか、ほんとに“必要とされる”ってこういうことだったんだ。
私は深く息を吸いこんだ。胸いっぱいに、スープの湯気と、炒めた野菜の香りと、木の家の匂いと、暖炉の火の匂いと、ハーブの青い匂いと、ぜんぶまとめて吸いこんで、胸におさめる。肺の奥から背中まで、ゆっくりあたたかくなる。目を閉じて、ゆっくり吐く。肩が下がる。緊張がほどける。胸の重りがひとつずつ消えていく。
「ふぅ……」
「うん?」
「なんでもないです。ちょっと落ち着いただけです」
「よかった」
「はい。あと、すごい眠気がまたきました」
「寝ていいよ?」
「ごはん途中で寝るのは申し訳ないので、食べきってから寝ます」
「うん。えらいね」
「えらいって言われるとまた泣くので禁止でお願いします」
「禁止なんだ」
「はい禁止です」
「じゃあ、“よくやってる”は?」
「それはセーフ……いやギリギリアウト……いや、ギリギリセーフ……」
「どっち?」
「ギリギリセーフです……」
「そっか」
「そっかって言うとそれはそれで刺さるのでやめてください……」
「むずかしいなあ」
「あなたが人の心にストレートにボール投げすぎるんですよ!! 変化球というものを覚えてください!!」
「変化球?」
「ちょっとぼかすやつです!! 直接“好き”とか“助かってる”とか言わないやつです!!」
「ああ」
「わかりました?」
「由香」
「はい」
「好きだよ。助かってる」
「変化球とは!!!!????」
「いま覚えたばっかりだから、使うのは明日からにする」
「今日使ってくださいよそこはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
机に突っ伏した。突っ伏したまま、耳まで真っ赤になってる自覚がある。なんだこれ。なんだこの人。何度も言うけど、初日だよ? 初日イベント、濃すぎない? ボリューム多くない? これチュートリアルでいいの? 明日から本編なの? これで本編入ったら私の心臓が過労死しない?
「……」
「ん?」
「……うるさいと思ったら、止めてくださいね」
「うるさい?」
「私がです。テンションが。さっきからうるさい自覚はあるので……」
「うるさくないよ」
「本当ですか」
「うん。静かにしてほしいときはちゃんと言うから」
「……」
「“いまちょっと頭の中まとめたいから静かにして”って」
「それ、言っていいんですか?」
「言っていいよ」
「……」
「言える?」
「……練習します」
「うん」
「練習して、言えるようになったら、ちゃんと聞いてくださいね」
「もちろん」
「“もちろん”ずるい……」
「またずるいって言った」
「言いますよもう永遠に言いますよ……」
そこまで言ってから、私のあくびが勝手にこぼれた。ふわぁ、って口が開く。涙がじわっとにじむ。眠い。ほんとに眠い。さっきまで泣いてたから目が疲れてるっていうのもある。でも、ただの眠気じゃない。安心のあとに来る眠気。お腹があたたかくて、胸があたたかくて、まぶたが重くなるタイプのやつ。ああこれ。これ、やばい。気持ちよく寝落ちするやつだ。
「眠い?」
「ちょっとだけ……」
「じゃあ、今日はもう休もうか」
「片づけは……」
「俺がやるよ」
「い、いえ、私もでき――」
「由香」
「はい」
「“眠いから休む”って、言っていいんだよ」
心臓が、また、きゅうって鳴った。なんでこの人は、毎回タイミングよくそこを突いてくるの。なんでわかるの。ずるい。ずるい。ずるい。
「……眠いので、休みます」
「うん。いい子」
「いまの“いい子”は反射的にはずかしいですけど、なんかすごく効くので許します……」
「よかった」
「あと、あの」
「うん?」
「ここに……いてください」
自分で言って、自分で固まった。あ、言っちゃった。また言っちゃった。昼間も言ったやつ。また言っちゃった。依存度高いって思われない? 重いって思われない? うざいって思われない? そういう警戒が一瞬で頭を駆け巡って、喉が詰まりそうになる。言い直そうとした瞬間、すぐに返事がきた。
「うん。いるよ」
その返事は、やっぱり迷いがなかった。私の中の警戒心が、ふっと肩の力を抜く。喉のつっかえがとける。ああ、これ、こういう即答の積み重ねなんだな。私がいま、ちょっとずつ安心できてるのって。ちゃんと聞いて、その場で、迷わず「いるよ」って言ってくれる、その積み重ねなんだ。
「……ありがとうございます」
「うん」
「じゃあ、あの、私、寝ます」
「うん。おやすみ、由香」
「……おやすみなさい、ルゼル」
私は、ふらふらしながら立ち上がった。椅子を静かに引いて、足元を気をつけながら部屋に戻る。木の床が、きしむ音を小さく立てる。その音すら、なんだか安心する。自分の足音が“ここにいる”って証明してくれるみたいで、嫌じゃない。
部屋の扉をそっと閉める。閉める前に、ちょっとだけ振り返った。居間には、暖炉の火。テーブルの上には、食べかけの木のお皿。スープの器。インク壺。羽ペン。紙束。それから、その紙束の横に腰を下ろして、私が使ってた椅子に手を置いて、静かにこっちを見ているルゼル。目があって、彼がふっと笑う。その笑い方は、やっぱりあったかい。やさしい。私の胸の奥に、静かにそっと置いてくれるみたいな笑い。
私は小さく会釈して、扉を閉めた。部屋の中は、さっきよりも暗くなっている。窓の外、湖の光はもう赤から群青に変わりつつあって、遠くで虫が鳴いているのが聞こえる。ベッドに近づいて、布団をそっとめくる。さっきまでの体温が、まだほんのり残っていて、それが“ここは私の場所です”っていう証拠みたいに感じられて、胸がまたぎゅっとなった。私はそっと横になって、布団を胸の上まで引き上げる。目を閉じる。
暗いわけじゃない。怖くもない。静けさが、ちゃんとやさしい。耳を澄ませば、家全体の音がわかる。暖炉の火のはぜる音。木が熱で膨らんだり縮んだりするちいさなきしみ。外の虫の声。湖のほうからくる、ちいさな波の音。そして、居間からほんの少し届く、人の気配。これは安心する。これは、すごく安心する。
私は、胸の中で、小さな約束をひとつ決めた。
――明日は、泣かない。泣かないで、“こんにちは”って笑う。胸を張って、“ここで暮らします。ここで働きます”って言う。
それからもうひとつ、小さな欲張りも決めた。
――明日の夜も、“おやすみ”って言いたい。
まぶたが、すとん、と落ちた。意識が静かに沈んでいく。沈みながら、最後にもう一度だけ、今日何度も聞いた言葉を思い出す。
“君は、ここにいていい”。
その言葉は、胸のいちばん真ん中に、ちゃんと残っていた。
私はそれをぎゅっと抱きしめながら、静かに眠りに落ちた。
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