美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた魔王様と一緒に田舎でのんびりスローライフ

さら

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 扉を開けた瞬間、朝の空気が体にまとわりついた。ひんやりしていて、でも冷たすぎない。肌の表面だけすっと引き締まって、胸の奥にはやわらかいあたたかさが残る。湿った土の匂い、草の匂い、遠くで火を焚いたあとの灰の匂い、それから水。水の匂いって、ちゃんとあるんだって初めて思った。湖のほうから漂ってくるひやりとした澄んだ匂いと、村のどこかからほんの少し混ざる鉄っぽいにおい。あれが、たぶん井戸のほうなんだろう。鼻腔の奥に、かすかにひっかかる。

 扉の外に一歩踏み出す。足元の土は乾きかけのところとまだしっとりしてるところがまだらで、足の裏にちゃんと「ここは土だよ」っていう感触を伝えてくる。靴の底からでもわかる。昨日は城の石畳か、森の落ち葉の上か、ルゼルの家の木の床しか踏んでなかった。こういう踏み心地ははじめてで、身体が「あ、いま外」ってすぐに理解する。

 目を上げると、村の朝が広がっていた。

 ルゼルの家は村のはしっこにあるらしく、少し高くなった場所に建っている。そこから少し下る道は、踏み固められた土の道で、両脇には低い木の柵や、小さな畑や、干してある洗濯物が見える。家々は石と木で組んであって、屋根は干し草を厚く重ねたような色。どの家も完璧にきれいじゃない。壁にはところどころ修理した跡があるし、窓には布がかけられててガラスは入ってないところもある。でも“住んでる”って感じがする。昨日の城はきれいだったけど、あそこは“使われてる場所”って感じだった。広い会議室ときれいな柱と、響く足音と、まっすぐな廊下。全部“人のための場所”じゃなくて、“権力のための場所”っていう感じだった。ここはぜんぜん違う。ここは、人の気配でいっぱいだ。

 朝の空気の中に、いろんな音がちいさく溶けてる。遠くで、トントンって何かを叩く音。金属どうしが触れる小さなカンッって音。誰かが笑う声。誰かが「あんたそれ持てるの?」ってちょっと怒ってる声。でもほんとに怒ってるっていうより、半分笑ってる。ああ、これが“生活の音”なんだな、って胸の奥がじんわりする。

「大丈夫?」

 横で、ルゼルが少しだけ身をかがめるみたいにして聞いてくれた。私がきゅっと肩を上げて固まってたの、たぶんバレてる。わかりやすいな私。

「だいじょうぶです」

「うん」

「だいじょうぶ……です。なんか、すごいきれいですね」

「きれい?」

「はい。きれいっていうか、こう……“人がちゃんといる”っていう感じが、すごく、いいです」

「うん。ここはそういう場所だよ」

 “ここはそういう場所だよ”。その言い方が、当たり前みたいにやわらかいの、ずるい。昨日の夜からそうだけど、この人、村のことを言うとき、すごくやさしい声になる。所有っていうより、誇り。自慢。好きなものの話をするときの声。私はその声音を胸の奥にしまっておきたいと思った。忘れたくない。

 私は一呼吸してから、道のほうに一歩踏み出した。足に巻いた布が、ふくらはぎをちゃんと支えてくれる。歩きやすい。服も、思ってたよりぜんぜん動きやすくて、裾もそこまで浮かない。安心ライン。よし。私は顔を上げる。ノー泣きデー。笑顔デー。昨日決めた。できる。やれる。

「じゃあ、井戸から行こう」

「はい、“井戸の人”として――」

 と、そこまで言いかけたところで。

「ルゼルーーーー!!」

 甲高い声が、道の下のほうから飛んできた。次の瞬間、小さい影がどどどどどって坂道をかけ上がってくる。あ、知ってるシルエット。金色の三つ編み二本で、腰のところでぴょんぴょん跳ねてる子。それはつまり。

「ユカーーーー!!」

「わぁっ」

 ミラが、全力で抱きついてきた。体当たり、というより、自分からハグしに飛びこんでくる、って感じ。私は一瞬よろけて、でも足に巻き布があったおかげで踏ん張れた。すごい。これ、装備としてかなりありがたい。

「み、ミラちゃんおはようございます!」

「おはよう!!」

 顔を上げたミラの頬は、もう朝からほんのり赤くて、目はきらきらしてて、息はすこしだけ弾んでいる。やばい。かわいい。かわいい。かわいいものは正義。村の正義。私の正義。

「ゆか、いる! ほんとにいる! ほんとにいた! おきたらいなかったらどうしようっておもった!」

「いるよー!? いなくならないよー!? ちゃんといますからね!」

「ほんと!? いなくならない!?」

「いなくならない!」

「ルゼル、ちゃんとうちのゆかをまもってる!?」

「うん。ちゃんと」

「ならいい!」

 “うちのゆか”って聞いた瞬間、私の心臓はまた変な音を立てそうになった。はいだめ。泣かない日。泣かない日です。朝から泣いちゃだめ。深呼吸。すー。はー。よし。

 ミラは一歩下がって、私をじーっと見上げた。全身を、上から下まで、真面目な顔で観察する。こ、これ昨日の夜もやられたやつだ。視線がしっかりしてて、ちょっと緊張する。

「かわいい!」

「ひゃっ」

「ゆか、かわいい!」

「ま、まってミラちゃんストップ! 今の聞こえなかった! いまのは幻聴! はい幻聴!」

「げんちょうってなに?」

「い、いや、その、幻の……声、というか……!」

「じゃあほんとにいった! ゆかかわいい!」

「ストレートゥゥゥゥゥッ!!!」

 私は両手で顔を覆った。耳が熱い。顔が熱い。首も熱い。朝から心拍数が仕事してる。心臓の残業代ちゃんと出ますかこれ。

 視界の端で、ルゼルがふっと口元をゆるめてるのが見えた。なんか、ちょっと誇らしげな顔。いやその顔やめて。ほんとそういうの、村人さんたちの前でやらないで。私が死ぬから。

「ミラ。由香、これから井戸見るから、いっしょに来る?」

「いく!!」

「お母さんは?」

「おかあさん、“パンはもうおわったから、あさはじゅうぶんだから、ミラはあんまりじゃましないならあそんでていいよ”っていってた!」

「“あんまりじゃましないなら”って言ったんだ? どのくらいの“あんまり”?」

「“ルゼルのしっぽはひっぱっちゃだめだよ”って!」

「俺にしっぽはないよ」

「あるもん!」

「ないよ」

「あるもん! ここ!」

 ミラが、ルゼルのマント(というか外套の裾)をぴょいっとつまんで、ぶんぶん振った。たしかにそれ、しっぽっぽい。ルゼルは「……」って顔をして、でも止めない。なんか優先順位が「ミラが楽しいこと>自分の外套の裾」になっているの、いい人だなって思う。いや魔王なんだけど。肩書きと行動が一致しない。ギャップ。ギャップの暴力。

「ミラちゃん」

「なに!」

「昨日はありがとう。パン、すごくおいしかったよ」

「ほんと!?」

「ほんと。すっごくおいしくて、すっごく元気になったの。だからね、ミラちゃんのおかげで、私いまこうしてちゃんと立ってるの」

「ふふん!」

 ミラは胸を張って、両手を腰にあてた。得意げ。自信満々。ああ、かわいい。今この瞬間の彼女にポスターを作りたい。村の観光資源にしたい。「この村にはこんな天使が住んでいます」って布に印刷して村の入り口に貼りたい。

「じゃ、いこうか」

「いこ! いこ!」

「はい! いきます!」

 私たちは三人で道を下った。ミラはぴょんぴょん跳ねて先頭を歩く。ルゼルは少し後ろから、でもミラが段差を降りるときはさりげなく手を出したり、私が足元を見ずにあやうく石につまずきそうになると、背中にそっと手を添えたりする。やめて心臓が死ぬ。いややめないで。いややめて。いややめないで。どっち!? 私の感情どっち!? ちゃんとして! 整理して!

 村は、歩くと細かいものがどんどん目に入ってくる。道端には、朝のうちに干してるのか、草の束が並べてあったり、網みたいなものが木の棒に広げられてたりする。布を洗って干してる家もある。家の前に木箱を並べて、その上に野菜を置いてる人もいる。オレンジっぽい根菜と、濃い緑の葉っぱ。どれも形がちょっといびつで、スーパーで見るみたいに全部同じサイズじゃない。でも、それが逆に元気そうに見える。生きてる、って感じがする。

 視線を感じて、私は気づいた。人の目。窓のすきまから、扉の向こうから、畑の向こうから、ちらちらっと視線がこっちに向かってくる。好奇心のかたまりみたいな目。ちょっと警戒してる目。でも、嫌な目じゃない。遠くから石投げてくるタイプの目じゃない。様子をうかがってる、って感じの目だ。それだけで、少し肩の力が抜ける。

 ……よし。言おう。昨日の夜、何回も頭の中でリハしたやつ。私は一歩、ルゼルの半歩前に出て、道の端で洗濯物をしぼっていた、年上っぽい女の人に向かって、胸の前で両手をぎゅっと握りしめた。

「あ、あのっ!」

 女の人が顔を上げる。髪は肩より長くて、後ろでざっくりまとめてあって、腕はしっかりしてる感じ。目がくりっとしてて、口元がきゅっと強そう。正直ちょっとこわい。でも、逃げない。逃げないって決めた。私は、喉がからからになるのを自覚しながら、それでも声を出した。

「おはようございます! あの、私、ユカっていいます! 昨日、ルゼルさんに、連れてきてもらった、ユカです!」

 言葉が、ちゃんと口から外に出たのが、自分でもわかる。声が震えてない。あ、いける、って一瞬だけ思った。その勢いで、続けた。

「これから、この村に、ここに、住みます! で、その、働きます! 井戸のとことか、紙のとことか、あの、そういう、お手伝い、します!」

 言った。言えた。ちゃんと最後まで言えた。胸のど真ん中がぎゅうってなって、足がちょっと震えそうだけど、私は必死でこらえる。ノー泣きデー。泣いたら負け。泣いたらたぶん一日中涙腺が死ぬ。

 女の人は、じいっと私を見た。視線に力がある。真正面から値踏みされてる感覚に、私の喉がごくりって鳴る。数秒の沈黙。昨日ルゼルに「袖引いてって言って」って教えてもらったのを思い出して、袖をつまみそうになったけど、まだ我慢。まだいける。いけるいけるいける。私は自分の指をぎゅうっと握った。

「……」

 女の人の目が、すこしだけやわらいだ。

「おはよう」

「っ」

「朝から元気な声、いいね」

 ふっと、口元が笑った。優しい、っていうより、にやっとした笑い。からかうみたいな、でも悪意がないやつ。会社で先輩が「アンタ、新人? 元気いいじゃん」って言うときの、ちょっとだけ似てるけどぜんぜん違う。こっちは、なんか、同じ場所の人間としての笑い方。

「う、うぁ、あ、ありがとうございます……!」

「ユカね。覚えた。私はサーラ。洗いものはこっち担当。あんた、手洗い嫌いじゃないなら、たまに貸してね」

「あっ、はい! やります! 手洗い全然します! 洗濯、私けっこう得意です! ただ、川に流れたことあるので、そこだけ気をつけます!」

「流れたことあるの?」

「はい、一回だけ……」

「ははっ、それはおもしろいね」

 サーラさんは声をあげて笑った。それは本当におもしろがってる笑いで、笑いながら、私の肩をぽんって軽く叩く。その手つきが思ったよりずっとあたたかくて、力強くて、私は一瞬、自分の体が軽く浮いたみたいに感じた。胸がじゅわって熱くなる。一気に。目の奥が熱い。やばい。やばいやばいやばい。

 泣かないデー! 泣かないデー!!

「サーラ、由香は今日は井戸を見るから」

 ルゼルが静かに言う。サーラさんは「あいよ」と軽く返して、私の顔をもう一回じっと見てから、片目だけつぶってウインクした。

「がんばんな、“井戸の人”」

 あっ。この呼び方、もう浸透してるんだ。胸の奥で、何かがぽんって弾けた。なんだろう、この、うれしいのにちょっと笑っちゃう感覚。誇らしいのに、ちょっとむずがゆい。私は思わず、背筋をぴん、と伸ばして、小さく頭を下げた。

「はいっ。がんばります!」

 それを聞いて、ミラが「いどのひとー!」って楽しそうに復唱する。子どもの声で言われると、肩書きがいきなり公式っぽくなるのずるい。公認スタンプ押された気持ち。私、いま公認された? 公認ってこんな感じ? 胸の奥があたたかい。あたたかすぎて、逆に頭の中がすこしふわふわする。

「じゃ、行こうか」

「はい……っ、はい!」

 私たちはさらに道を下った。家と家のあいだを抜けると、ふいに視界がひらける。そこには、小さな広場みたいになった場所があった。土が踏み固められてて、真ん中に石を積んだ丸い囲い。その囲いの中が、井戸。

 近づく前から、わかる。匂いだ。鼻の奥に、さっき家のそばでは感じなかった、少し重たい匂いがひっかかる。水っぽいのに、水の匂いじゃない。ちょっと、鉄っぽい。ちょっと、ぬめっとした感じ。あと、ほんの少しだけ、なにか腐ったような、湿った木が長いこと放置されたみたいな、そんな匂い。

 私は一瞬、足を止めた。胸がきゅっとなる。これは、うん、これは、子どもに飲ませたくない。私が飲むのも正直ちょっといや。だって、匂いって、体が本能で「やめとけ」って言うサインだ。

 井戸のまわりには、木でできた桶と、縄でつるされた汲み上げ用のバケツがいくつか置かれている。……置かれている、けど、半分は壊れてる。持ち手がとれてるやつ。底に穴が空いてて水がだだ漏れしそうなやつ。縄がほつれて、もうちぎれかけてるやつ。雑多に積まれて、どれがまだ使えてどれがもう使えないのかわからない状態で、無造作に山になっている。

 あ。これ。こういうの、見たら私の手が勝手に動くやつだ。

「由香」

「はい」

「ここが、真ん中の井戸。いちばん大きいやつ」

「はい……」

「匂い、ちょっとわかるでしょ」

「わかります」

「いまのところ、飲み水にはしないようにって言ってある。料理とか、洗いものとか、掃除とかにしか使わないようにって」

「そうですよね……」

「でも、子どもはね」

「うん……」

 子どもは、“言ってあるから大丈夫”では止まらない。喉が渇いたら飲む。バケツに水が見えたら、すくって口に入れる。大人が目を離した一瞬で。それは、想像しただけで胸がぞわっとした。だって、ここにはミラがいるんだ。ミラが、喉かわいたーって言って、水をひょいって飲んで、「変な味するー」って顔をしかめるところが一瞬で頭に浮かんだ。いやだ。いや、それはいやだ。

「いちど、見たいなって思ってて」

 私は井戸の縁に近づいた。縁の石はざらざらしてて、ところどころ苔がついている。井戸の中は暗くて、のぞきこむと自分の顔がぼやっと映る。水面にうつる自分は、昨日より少し血色がよくて、でも目の下にまだすこし赤みが残ってる。泣き跡ですねこれは。うん知ってる。ちょっと恥ずかしい。でも、まあいい。今日の私は泣かない予定だから、昨日の分はもう領収済みということにする。

 水は、濁ってはいない。見た感じは透明。でも、表面にちいさな膜みたいなものがところどころに浮かんでいて、光の反射が少し鈍い。あと、井戸の内側の石の面に、ぬるっとした藻っぽいものがついてるのが見えた。ああ、これ、たぶん、井戸の中の水が停滞してるんだ。流れが弱い。澱んでる。そういう匂いだ。

「……」

 私の脳が、勝手に動きはじめる。机と紙があったら、箇条書きにしていくところ。問題点をリスト化して、優先度をふりわけて、担当を割り当てるところ。体がやりたがってる。私の手が、書きたがってる。

「ルゼル、紙、ありますか?」

「あるよ」

「借りてもいいですか」

「うん」

 ルゼルが木箱から紙を出してくれる。昨日まとめていた在庫リストの裏っぽい紙。そこに、黒い炭の棒と、短い麻紐も出てきた。私は紙を両手で持って、深呼吸して、しゃがみこんで井戸の横に置いた倒れた桶をメモ台代わりに使った。桶の木は湿ってて少し冷たい。服が汚れるけど、そんなのいまどうでもいい。私は炭をとって、書きはじめる。

「問題①……井戸の匂いと、水のよどみ。→“飲み水に使わない”っていうルールはすでにある。これは“子どもが勝手に飲まないように”っていうガードが必要。柵? 蓋? 注意の人を置く? うーん、物理的なやつがほしい」

 口に出しながら書く。会社でやってた“声に出して思考する”モード。あれをそのままやる。頭の中にあるものをすぐ外に出すと、あとで見返せるから便利だし、同時にまわりの人にも伝わるから、相談がしやすい。癖になってる。

「問題②……桶とバケツが混ざってる。壊れてるのと使えるのと、“直せば使える”のと、ごっちゃ。これは、まず分ける。分けないと危ない。穴あきのやつを子どもが使ったら、そのまま足に落としそう。あと、縄。ほどけてるやつは手に巻きついてケガしそう」

 私はそう言いながら、近くに積まれている桶を一個ずつ見ていく。持ち手がしっかりついてるやつは右。底に小さい穴だけのやつは真ん中。完全に底が抜けてるやつは左。縄も、まだ強そうなやつとほつれてるやつを分けていく。手が勝手に動く。これ、すごく落ち着く。あ、私これ本当に好きなんだな、って改めて思った。並べて、分類して、見える形にする。この作業をしてると、胸の奥がスッて整う。昨日の夜から続いてる、胸の中に渦巻いてる不安とか、怖さとか、そういうのが、一列に並ばされていく感じ。

「問題③……たぶん、一番大事。そもそも、井戸の中をいちど掃除したほうがいい。底に何か落ちてたり、藻がたまりすぎてたり、そういうのかも。これは、私じゃできない。できません。ぜったい落ちる。絶対落ちる。水没する。なのでダメです、これは私の担当じゃないです。できる人を探す」

 言いながら、私は自分で自分に指さし確認をした。ミラがそれを見て、くすっと笑った。

「ゆか、おちたらだめ」

「だめだよね。そう。私はおちない。おちたらルゼルが泣く」

「ルゼル、なくの?」

「泣くよ」

 即答。なんで即答なの。なんでそこ、そんな即答できるの。心臓に悪いからやめて。やめて、って言おうとしたのに、喉がなんか詰まって声がちょっと震れたから、やめた。ノー泣きデー。ノー泣きデー。あぶない。危険。危険信号。

「それで、たぶん――」

 私は書きながら、もう一個、思いついてしまった。いや、“思いついた”というより、“知ってることを思い出した”に近い。前の会社で災害対策マニュアルの棚卸しをしたとき、避難経路の案内板の貼り方についてめっちゃ揉めたことがあって、そのときに“子どもは文字を読まない。色と形を読む”って誰かが言ったのを覚えてる。

「ルゼル」

「うん」

「この井戸、“飲んじゃダメ”って、子どもたちにどうやって伝えてるんですか?」

「“飲むなよー”って言ってる」

「言ってる、だけ?」

「うん。……あと、ミラが“ダメ!”って言ってる」

「ミラちゃん、がんばってるんだね……」

「がんばってる!」

「うん、がんばってる。すごいえらい。えらいけど、ミラちゃんがずっと見張るのは、正直むりじゃない?」

「むり!」

「だよね」

 私は炭の先で紙の端に小さな丸を描いた。丸の中にバツ印。すごいシンプルな“ダメ”マーク。赤いペンがあれば赤で描きたかったけど、ないから黒。まあいいや。

「こういう札を、井戸の縁のところに結んでぶらさげられますか?」

「札?」

「かたくて、水にぬれても大丈夫な板みたいなやつ。そこにこのマークを描くんです。丸にバツ。で、ミラちゃんとか小さい子に“これが見えたら飲んじゃダメ”って教えておく。文字が読めない子でも、絵だけでわかるようにしたい」

 ルゼルは一瞬だけ考えるみたいに目を細めてから、こくんとうなずいた。

「できるよ。木の端切れならある」

「ほんとですか」

「うん。あとでつくろう」

 あっという間に“あとでつくろう”ってなるの、すごい。このスピード感、好き。好きっていうか、安心する。言ったことが、その場で“それいいね→やろう”って動く、この感じ。これ、私、久しぶりに味わってる。会社では、「それはまた今度検討しましょう」とか「上に確認してから」っていう言葉が“やらない”の合図だった。ここでは“あとでつくろう”が本当に“あとでつくろう”らしい。そういうの、ずるい。いや、ずるいっていうのもうやめるつもりだったんだけど、やっぱりずるい。

「あとでつくろう、って言いましたからね。約束ですよ」

「約束」

「約束したー!」

 ミラがぴょんって跳ねる。約束って言葉がこんなに日常の中でポンポン出てきて、それがちゃんと力を持ってる世界、いいなって思う。うらやましいとかじゃなくて、純粋に“あ、ここ好き”って思う。あ、やばい。胸がきゅうってなった。目が熱い。ノー泣きデー。ノー泣きデー。耐えろ私。

「それと――」

 私がさらに書き込もうとした、そのとき。

「ルゼル」

 低くて、通る、でもちょっとハスキーな女の声が、井戸の向こう側からした。私の手が止まる。ルゼルは「ああ」とだけ言って、目線をそっちに向ける。その方向を見ると、日陰になった建物の角にもたれるようにして、ひとりの女の人が腕を組んで立っていた。

 背が高い。私より頭ひとつぶんは高い。髪は黒っぽい焦げ茶で、後ろでぎゅっとひとつにまとめて肩のあたりで切れている。目はキリッとしてて、少しつり目。視線がするどい。口もとはきゅっと上がってるけど、笑ってるわけじゃない。全体的に、なんというか、“強い”。その一言に尽きる感じ。体つきも細いけど芯がある。腕を組んだまま、片足だけ少し前に出して体重をそこに乗せてる立ち方が、完全に「私はどこにも引かないからね」って言ってる。

 この人だ。間違いなくこの人が、アイラさんだ。

 胸の奥が、ぎゅっとなる。緊張で、喉が少しだけ乾く。私、こういうタイプの人に何度も何度もぶつかってきた。会社の「現場の最終防衛ライン」みたいな人。表ではいないことにされがちだけど、実際は一番重要な人。怒ってくれる人。はっきり物を言う人。その人に嫌われると終わるし、気に入られるとめちゃくちゃ心強い。つまり、今から私、超大事な場面です。はい。心臓しっかり。

 ミラが、私の手をぎゅっと握った。ぎゅっと。あ、ありがとう。握り返す。ちっちゃい手。温かい。心臓がちょっと落ち着く。

「朝っぱらから騒がしいと思ったら、あんた、さっそく“新入り”連れまわしてんのね」

 アイラさんが、組んだ腕の上からあごをすこし上げて言う。声にとげはある。でも、刺すためのとげじゃない。起きろってつつくための指くらいの強さ。私は、こわいけど、こわすぎないっていうその絶妙なバランスに、ちょっとだけ安心してしまった。

「うん。紹介しようと思って」

「どうせそうだろうと思って来た」

「助かる」

「助からせなさいよ。そっちが勝手に拾ってきたんだから」

「うん」

「……」

 え。なにこの会話。なんかちょっと夫婦っぽくない? いや違う? 違うか。違うけど似てる。関係性ができあがってる人たちのやりとりって感じがする。私はちょっとだけ口をぱくぱくさせた。どうしよう。何を言えば正解なんだろう。あいさつ? 名乗り? 自己アピール? あ、そうだ、昨日の夜にルゼルと決めたやつ。順番、間違えない。ちゃんと言う。ちゃんと。

「あっ、あのっ!」

 私が声を出すと、アイラさんの視線が、ぴたっとこっちに向いた。まっすぐ。真正面から刺さる。スキャンされてる。胃がきゅっとなる。でも逃げない。逃げないって決めた。私は背筋を伸ばした。手は、ミラが握ってくれてるから、震えない。ありがたい。ミラ、まじ天使。いやまじで。

「はじめまして! ユカっていいます! 昨日、えっと、その、城から……ええと……追い出されて、あの、その、ここに連れてきてもらいました!」

 あ、やばい。ちょっと余計なことまで言った。言うつもりじゃなかったのに口から出ちゃった。“追い出されて”って、いま言った? 私、言った今? 言ったね? 言っちゃったね? ルゼルの目線が一瞬だけこちらに揺れた気がする。ああああああああやってしまったああああああ。

「で! で、えっと!」

 私は慌てて続けた。取り返すように。変な沈黙をつぶすように。

「これから、この村に住みます! 住ませてください! それで、働きます! 井戸のこととか、紙のこととか、あと、えっと、散らかってるものを整えてきれいに並べるのが得意なので、そういうの、やります!」

 言った。言えた。昨日の夜に決めた文言を、ほぼちゃんと出せた。ちょっと涙声っぽくなったけど、泣いてない。泣いてないからセーフ。ノー泣きデー継続。泣いてない。私は泣いてない。私は泣いてない。三回言ったからこれは事実。うん。事実。

「で! で、でも!」

 私はさらに続けた。いちばん大事なやつを、ちゃんと最初に言わなきゃって決めてたから。

「戦えません!!!」

 アイラさんの眉が、ぴくっと上がった。

「魔物とか! ぜんぜん! 倒せません! 剣とか! ムリです! 走って逃げるのはがんばりますけど! でも足そんなに速くないので! たぶんすぐつかまります! だから、そこは無理です! 無理なものは無理ってちゃんと言います! ので! その、私をそこに突っ込むのだけはやめてください!!」

 井戸の広場に、一瞬の沈黙が落ちた。風の音と、水のにおいと、遠くの人の話し声だけが流れる。その沈黙が、痛いほうの沈黙じゃないってことを、私はなんとなく理解した。多分、驚いてるだけ。変な意味で固まってるわけじゃない。わかる。なんとなく、わかる。

 アイラさんは、腕を組んだまま、ふーっと小さく息を吐いた。それから、片手をほどいて、こめかみを軽く押さえた。

「……あんた」

「は、はい」

「おもしろいわね」

「えっ」

「気に入った」

「えっっっっっ」

 心臓が、ほんとに、一瞬止まったかと思った。気に入った? 今、気に入ったって言った? 言った? いきなり? 初対面で? この人に? え? え? え?

 私の頭の中では、警戒心とか恐怖とか、そういう負の感情が一気に崩れて、かわりに“は? なにそれ? なにそれ嬉しいんですけど???”っていう喜びが、ばばばって急速に膨らんだ。うそでしょ。こんなに一瞬で心がジェットコースター動くことある? あるんだ。あるんだ……。

「ちゃんと言えるの、好きよ」

 アイラさんは、まっすぐ私を見たまま言った。目はまだ鋭いけど、口もとがすこし上がってる。それは、さっきのサーラさんの“にやっ”とは違う。もっと、認める笑い。大人が「あんたいいね」って言うときの笑いだ。

「“できること”“できないこと”“やりたいこと”“やりたくないこと”、はっきり言ってくれる子は、扱いやすいの。守りやすいの。こっちとしても助かるわけ」

「も、守り、やすい……」

「そうよ。こっちはあんたを壊す気はないからね。無茶させて、そのへんで倒れられたら困るのよ。人手が減るから」

「は、はい……!」

「だから、最初から“わたしはこういうふうに役に立ちます”って言ってくれるのは、ありがたい」

「ありがたい……」

「うん。ありがたいわよ。仕事を自分で宣伝できるの、いいことよ」

「……」

 胸の奥が、じわぁっと熱くなった。あのね、それ、会社では“出しゃばり”って言われてたんだよ。自分で「これできます」って言うと、「あの子、出しゃばるよね」って言われて、勝手にあれもこれも押しつけられて、それでちょっとでも限界になったら「自分でやるって言ったんでしょ?」って返されて、誰も助けてくれないやつだったんだよ。だから私は、だんだん口を閉じるようになって、だんだん黙るようになって、だんだん「大丈夫です」しか言わなくなったんだよ。

 それがいま、“ありがたい”って言われた。

 私、いま、ちゃんと褒められた。

 やばい。泣きそう。泣かないデー。泣かないデー。いやでもこれ泣くやつでは? 泣くやつでは?? 泣くやつでは??? こ、これは、泣くやつでは????(動揺)

「……で」

 アイラさんは、ゆっくりと腕を解いて、こっちに歩み寄ってきた。距離が縮まる。近い。近い。こわい。いや、こわくない。ちょっとこわい。ちょっとこわいけど、逃げない。逃げないって決めた。私は足をふんばった。巻き布ありがとう。巻き布強い。巻き布、まじ頼れる。

「言っとくけどね」

「は、はい」

「“泣きたいときは泣きなさい”って言うつもりはないから」

「えっ」

「泣きたいときに泣くのはあんたの勝手。泣きたくないなら泣かなくていい。人に“泣きなさい”って言われて泣く涙ほど、安いもんはないから」

「……」

「だから、“泣かないでがんばる”って自分で決めたんなら、それはそれでいいの。あたしは止めない」

「……っ」

「でも、“もうダメ、泣きます、助けてください”って言ったら、ちゃんと助けてあげる。そこは約束しとく」

 ずるい。ああもう、これ、ずるい。ずるいって言うのやめるって言ったのに、出ちゃった。心の中で。出ちゃった。だってこれはずるい。だってこれは、ズルすぎる。胸の奥の、いちばんヒリヒリしてる場所に、まっすぐ手を当ててくるやつだ。そんなの、泣くよ。泣く。泣くに決まってるじゃん。

「……っ、あ、ありがとうございます……」

「うん」

「ありがとうございます……」

「礼はいいの。代わりにちゃんと働きなさい。あんた、“並べるの得意”って言ったわね?」

「は、はい!」

「そこ、今日からあんたの持ち場」

 アイラさんは、あごで井戸の横に積まれたバケツの山を示した。

「その山、あたし前からイラついてたの。誰がイラついてるって? あたしがイラついてんの。もう見るだけでムカつくの。わかる? “使えるやつだけまとめとけ”って言ってんのに、いつの間にかぐっちゃぐちゃになってんの。どうせ誰もちゃんと分けないから、毎回“どれがまだ使える?”って聞かれて、こっちの手が止まんのよ。だから、あんた、そこやって」

「やります!!!!!!!!」

 ほぼ反射だった。反射で大声が出た。思わず両手をあげて、ぴしっと敬礼みたいなポーズになった。ミラが横で「ゆか、えらい!」ってぴょんぴょんする。ルゼルは、肩をすこしだけ揺らして笑ってる。アイラさんは「よろしい」って短くうなずいた。なんだこれ。なんだこの“ちゃんと役割が決まる”感じ。気持ちよすぎない? 脳が一気にスッキリする。私いま、正式に“やること”をもらったんだ。名指しで。「あんたの持ち場」って言われたんだ。これ、すごい。胸の奥に火がついたみたいに、熱くなった。私、いま、この村で必要とされてるんだ。ちゃんと、役に立つ場所があるんだ。

「あと」

 アイラさんは、視線だけをルゼルに向けた。

「こっちも、ちゃんと説明していきなさいよ」

「もちろん」

「“もちろん”じゃないの。ちゃんと具体的に言えって言ってんの。あんたすぐ“もちろん”“大丈夫”って言うでしょ。それで済ませようとすんじゃないの」

「うん。気をつける」

「うん、じゃないの。わかった?」

「わかったよ」

「……はぁ。まったく」

 アイラさんは、こめかみを指で押さえながら、でも口もとにはちいさな笑いが浮かんでいる。“呆れた”って顔だけど、“嫌い”な呆れじゃない。なんだろう。これたぶん、長年の慣れってやつだ。うわぁ……いいなぁ、こういう顔。こういう関係性。ちょっと、いいなぁって思ってしまう。羨ましいっていうより、そこに混ざれるかもしれないっていう期待で、胸がまたぎゅっとなる。

「それと」

「はいっ」

 私が思わず返事すると、アイラさんの視線がまた私に戻ってきた。

「あんた、さっき“追い出された”って言ったわね」

「ぎっ」

 やっぱりそこ聞いてました!? 聞いてたよね!? そうだよね!? あーーー恥ずかしい! 穴があったら住みたい! 住んで定住したい!! 地中系スローライフで生きていきたい!!!

「別にそこ、いま根掘り葉掘りはしないわ」

「……っ」

「聞きたいけどね。めっちゃ聞きたいけどね。あんた絶対おもしろい話持ってる顔してるし」

「顔でバレるんですか!? 顔で職務経歴書読まないでください!!」

「でも、いま聞くと、あんた泣くでしょ」

「っ……」

「泣き顔は、あんたが自分で“見せていい”って思うまで外に出さなくていいの。いいわね?」

「……はい……」

「よろしい」

 なんだろう。あのね、もう、その、ほんと、ずるい。ずるいって言葉、今日もう二十回目くらいだけど、やっぱりそれしか出てこない。なんなのこの人たち。なんでこんなに、私のいちばん弱いところに、すっとバリア張ってくれるの。こんな世界、あるんだ。あるんだ……。あるんだ…………。

「じゃ、仕事しなさい。“井戸の人”」

「はいっ。“井戸の人”がんばります!」

 返事した瞬間、ミラが「いどのひとー!!」って両手をあげて跳ねて、近くで畑に向かってた誰かがこっちをちらっと見て笑って、向こうで洗濯してたサーラさんが「おー、“井戸の人”!」ってひゅーって口笛ふいて、それにつられて、まだ名前も知らない誰かが「あたらしい子か?」って声を上げて、なんか一瞬で、私の肩書きが村の空気に混ざっていった。

 あ。これ、たぶん、もう戻れないなって、思った。

 “あっち”に戻るっていう意味じゃなくて、“誰でもない状態”に戻るっていう意味で。私はもう、“ただの異世界にまぎれこんだ無能扱いの女の子”じゃない。いま、“井戸の人”。肩書きって、こんなにあったかいんだって、はじめて思った。肩書きって、ずっと私を縛るものだと思ってた。名刺とか、部署名とか、役割とか。そこに閉じこめられて、動けなくなるものだって思ってた。でも、いま、肩書きが、私をちゃんとここに結んでくれてる。“おいで。ここにいていいよ”って、村全体の手みたいなものが、肩にぽんって置かれた感じがした。

 胸の奥に、きゅうって熱いものがこみあげる。喉までせりあがってくる。だめ。だめ。泣かないデー。ここで泣いたら、私、たぶん床に崩れ落ちてわんわん泣く。それは、さすがに恥ずかしい。初対面の人がいっぱいいる広場でそれは、恥ずかしい。なので、私は、必死で息を吸って、吐いて、吸って、吐いて。胸の奥の熱を、呼吸にゆっくり混ぜていく。

「……大丈夫?」

 耳元で、低い声。ルゼル。すごく近い。私の肩に、そっと手が触れた。重くない。支えだけ。押しつけてこないで、“ここにいるよ”って知らせるくらいの、やさしい重さ。

 それだけで、すごく落ち着いた。ずるい。ああ、ずるい。ほんとにずるい。

「……だいじょうぶ、です」

「うん」

「だいじょうぶです。泣いてません。泣きません。ノー泣きデーです」

「うん」

「ただ、胸がいっぱいで、息がちょっと、たいへんです」

「うん。深呼吸しよ」

「はい……」

 すー、はー。すー、はー。よし。落ち着いてきた。大丈夫。いける。仕事しよう。仕事すれば落ち着く。それ、私知ってる。

「じゃあ、わたし、バケツ分けますね」

「うん。頼んだ」

「頼んだ、って言いましたね。はい、やります。命令として聞きました。責任を持って遂行します」

「大げさねえ」

 アイラさんがちょっと笑った。私は胸を張った。大げさでもいい。大げさに言っておくと、ちゃんと“やっていい”って自分に許可が出せるから。

 しゃがみこんで、私は桶と縄の山を目の前に置いた。さっき途中までやった仕分けを、もっとちゃんとやる。右側には“まだ使える”チーム。中くらいには“直せば使える”チーム。左側には“捨てるか、燃やすか、他の用途に回すしかない”チーム。紐も、丈夫なものはくるくる巻いて短い束にして置いていく。ほつれてるやつはわざと大きくひろげて、「これはぜったい使っちゃダメ」ってわかるようにする。紙に、メモ。数も書く。「まだ使える桶=3」「修理で使えそう=2」「だめ=4」みたいに。あとで“必要数”っていう欄を足すスペースもあけておく。どのくらいの数があれば困らないのか、イェルさんとかサーラさんとかに聞いて埋めるんだ。次の仕事がもう頭に浮かんでいる。うん。いい。これ、いい。これ、すごい安心する。

 気づけば、私の指先は木のささくれでちょっと痛い。爪の間に土が入って、ひんやりする。でもいやじゃない。痛いけど、いやじゃない。むしろこの痛みは、“私いまちゃんと働いてる”っていう印みたいに感じられる。

「よし……よしよしよし……」

 私は小さくつぶやきながら、山をどんどん崩していった。がしゃ、こと、ぎっ、と木の音が鳴るたびに、ばらばらだったものが形になる。それに合わせて、私の胸の中のばらばらも、少しずつ形になる。

「これ、なおせる?」

 私は途中で、持ち手がゆるゆるで今にも外れそうな桶を持ち上げて、後ろに立ってるルゼルに見せた。ルゼルは一歩近づいて、桶の持ち手を指先でさわって、木と金具の間を確かめる。

「うん。釘を打ち直せばいける」

「釘ってありますか」

「あるよ。家に」

「じゃあこれは“なおせる”チームですね。ここに置きます」

「うん」

「これは?」

 今度は、底に小さなヒビが入ってる桶。水を入れたらじわじわしみそう。でも、完全に穴はあいてない。ルゼルはそれをひと目見て、首を横に振る。

「それはだめ。いちど濡れたら、もうもたない。底が抜ける」

「じゃあこれは“つかえない”チームに」

「うん。そこは捨てよう」

「捨てる……」

 私は“つかえない”チームの山にそれを乗せながら、小さくつぶやいた。捨てるっていうのは簡単だけど、たぶんこの村では“捨てる”ってあんまり軽くはない。新しいものがすぐ手に入るわけじゃないから。でも、危ないものはそのままにしないで捨てる。子どもがケガするよりマシ。そういう優先順位が、ここにはちゃんとあるんだなって思った。

「由香」

「はいっ」

「手、気をつけてね」

「はい」

「ケガしたら、すぐ見せて」

「はい……」

 私は自分の手のひらを見た。指先のところに、小さな赤い線がついてる。まだ血は出てない。ちょっとヒリッとするくらい。でも、その“すぐ見せて”って言葉が、手のひりひりよりもずっと、心臓の奥に効いた。なんなのほんと。なんなのその一言ずつが心臓に刺さるやつ。心臓に穴が開く。私の心臓、今日中に蜂の巣になるんじゃない?

「わかりました。ケガしたら、“たすけてください”って言います」

「うん。いい子」

「“いい子”……っ」

 だめだ。やばい。危険。目が熱い。ちょっと滲んだ。やばい。ノー泣きデー。ノー泣きデー。あぶない。危なかった。今の“いい子”はかなりきた。あれはやばいやつ。クリティカルヒット。HP赤ゲージ。ポーションください。いやポーションじゃない、深呼吸ください。すー、はー。すー、はー。よし、回復。まだいける。いける。

「よし……」

 私はまた、紙に炭で数字を足した。「なおせる:3」「つかえる:4」「だめ:5」。少しずつ、形が見えてくる。こういうふうに、目に見えるようにしていけば、きっと他の人にも伝わる。あとで紙にちゃんと欄をつくって、誰が“なおす”役で、いつまでに“なおす”のか書いて、どこに置いとくのかまで決めたら、誰でも見てわかる表になる。あ、それ、今日の夜の書類に足そう。請願書だけじゃなくて、村の中で回す用の表も作ろう。あ、忙しくなってきた。スケジュール管理必要。やばい。ひさしぶりに、仕事の予定を“やりたいから”って理由でいっぱいにしたくなってる。なんか、楽しい。なんか、すごい楽しい。

「――そんな感じで、“井戸の人”は、今日からうちの正式戦力ってことでいい?」

 アイラさんの声が、井戸の向こうから聞こえた。アイラさんは、腕を組んだまま、ルゼルに片眉をあげてみせる。

「もちろん」

 ルゼルが、即答する。もう、それ、反則。反則だから。即答で“もちろん”とか、ほんとに、反則。心臓が、ぎゅうってなる。息が、つまる。胸が、いっぱいになる。

 アイラさんは「ふん」と鼻を鳴らして、私に視線を戻した。

「じゃあ、改めて。あんた、今日からうちの村の子ってことで、いいわね?」

「――」

 その瞬間、私の胸の奥で、なにかが、はっきり音を立てて変わった気がした。昨日の夜、ルゼルに「いていい」って言ってもらったときに、ぐしゃぐしゃのまま抱きしめた、あの言葉。その言葉が、いま、村の声の人の口から、ちゃんともう一回、別の形で置かれたんだ。

 “うちの村の子”。

 やばい。無理。これだめ。これ、ノー泣きデーのルールにしれっと穴が空いてるやつ。禁止指定されてない角度からの攻撃。反則。ずるい。ああ、ずるい。ずるい、ってもう何回目? でも、言う。ずるい。ずるすぎる。

 喉まで込みあげてきた熱が、もうどうしても引っこまない。深呼吸してもだめ。ごまかせない。胸の真ん中がぎゅうって苦しくて、視界のはじっこが、ちょっとだけ滲んでいく。あ、だめだ。これ、やつだ。泣くやつだ。これは無理だ。これは、もう、無理だ。

 でも、泣きたくない。今ここで泣くと、崩れる。膝が笑う。きっと座りこんじゃう。ミラが心配する。みんながざわっとする。だから、私は、必死で、涙がこぼれるより早く、言葉を口に押し出した。

「――はいっ!」

 声が、思ったより大きく出た。自分でびっくりした。でも、それでよかった。涙が一回引っ込んだ。言葉の勢いで、中に戻った。

「なりたいです! なりたいので! なります! この村の子にしてください! “井戸の人”がんばります!」

 息を吸う。胸が熱い。頭が少しクラクラする。でも、立っていられる。ちゃんと立っていられる。

 アイラさんは、ふっと口をゆるめた。最初より、ずっとあたたかい笑いだった。

「よろしい」

 その一言だけで、もう、足が震ぎゃあああってなった。私は必死でふんばる。こけない。こけたら負け。がんばれ私のふくらはぎ。巻き布、頼んだよ。巻き布、マジいい仕事して。今日あなたがいなかったら私絶対地面とキスしてた。

「……っはぁ」

 私は、さっきからためこんでた空気を一気に吐き出した。肩から力が抜ける。でも、気持ちいい抜け方だった。崩れるんじゃなくて、ほどける抜け方。じんわりあたたかいまま、体からいらない力だけが流れていく。息を吸い直すと、さっきまでより、村の空気がもっとはっきり胸に入ってくる。草の匂い。土の匂い。パンの焼けた匂い。水の匂い。全部、私のもの、っていう感じがした。

「はい、じゃああたしは畑に戻るから」

 アイラさんはくるっと踵を返した。立ち方に無駄がない。背筋まっすぐ。歩くたびに地面をちゃんと踏んでる。かっこいい。ああいう女の人、ほんと、かっこいい。ああいうふうに年を重ねたい。私は思わず見とれてしまった。

「昼前にもう一回来るわよ。そこで“飲水禁止”の札、できてるといいわね?」

「はいっ!」

「お願いします」

「もちろん」

「“もちろん”じゃないの、具体的に段取り言いなさいって言ってんの!」

「木を切って、小さい板にして、由香に絵を描いてもらって、それに縄を通して、ここに結ぶ」

「あいよ。最初からそうやって言いなさい」

「気をつける」

「気をつけなさいよ」

 言いながらも、アイラさんの口もとは笑ってる。彼女はそのまま畑のほうへ歩いていって、あっという間に別の人に「それ違う、そこじゃないって言ってんでしょ」「なにその顔、文句あるなら口で言いな」って叱っていた。叱られてるほうも「はいはいはい」って笑ってる。ああ、なるほど。“村の声”って、そういうことなんだ。私は妙に納得してしまった。

「由香」

「は、はい」

「すごいね」

「えっ」

「アイラに一発で気に入られるの、なかなか珍しいよ」

「えっっっ……」

 私の耳がまた熱くなった。顔も熱い。体温が忙しい。さっきからずっと乱高下してる。感情のジェットコースターに体温が巻き込まれてる。

「いやいやいやいや、たぶん、あれは私が大声で“戦えません!!”って宣言したから、逆に目立っただけで……」

「それもあるかもね」

「それもあるんですね……」

「でも、“できること”をちゃんとすぐ出したの、あれはよかったよ。すごくよかった」

「……あの、褒められるとすごい泣きそうになるので、あんまり連続で褒めないでください……心臓が……」

「わかった」

「ありがとうございます……」

「でも、ほんとによかったから、あとでまた言うね」

「あとで言うんですね!? 今じゃなくてあとで分割して褒めるんですね!? 心臓に配慮された褒めってなにその高等テクニック!!?」

 ルゼルが、少しだけ目を細めて笑った。ああもう、その笑い方やめてください心臓が死にます。さっきから心臓が何回死ねばいいんですか。心臓に輪廻があるとしたら今日だけで四回くらい生まれ変わってるよ。

「ユカ!」

 ミラが、私のすぐ横で、ちいさな手をぶんぶん振っていた。興奮でほっぺたがさらに赤い。目がきらきらしてる。

「いまの、“ここにすむ!”っていったの、かっこよかった!!」

「っ」

「すごかった!! ミラ、すき!!」

「――」

 終わった。心臓が終わった。これはもうだめ。はい、だめ。こらえきれません。子どもの“すき”は反則。反則なの知ってる? 反則はカードが出るやつだよ? レッドカードだよ? もう退場だよ? 私この村から退場になっちゃうよ? 困るよ? でも好きって言われたいよ? どうしたらいいのこれ??

「っ……ありがと、ミラちゃん……!」

「うん!」

「私も、ミラちゃんのこと、すごい、すき……!」

「うん!!!」

 ミラは満面の笑顔でぴょんぴょん跳ねた。その笑顔がまぶしすぎて、私の目の端がじわっと熱くなる。やばい。やばい。これはもう、ちょっと滲んでるけど、セーフ。まだセーフ。こぼれてないからセーフ。ノー泣きデー、ギリギリセーフ。はいセーフ。よし。記録します。ギリギリセーフ判定。よし。

「じゃあ、いったんまとめようか」

 ルゼルが私の横にしゃがんだ。肩が、近い。距離が近い。近い。近いと心臓が忙しいんだけど、でも落ち着くから矛盾しててもうわけがわからない。脳がふたつあるのかな。はいあとで考えます。

「この紙、あとで家で写して、ちゃんとした表にしよう。“なおす”“つかう”“すてる”って欄をつくって、誰がやるか書いて、壁に貼る」

「壁に、貼る」

「うん。井戸の横の小屋の壁。みんなが見るところ。そうすれば、“これ勝手に持っていっていい?”って聞かれたときに、“そこ見て”って言えるから」

「あ、それ、すごくいい!」

「でしょ?」

「めっちゃいいです! “そこ見て”って言えるやつ、すごい大事です! “それどこに書いてあります?”って聞かれたときのストレスが減ります! 現場の混乱が収まります! あとで“聞いてませんでした”って言われたときのイライラが減ります!」

「うん?」

「ごめんなさいちょっと過去のトラウマが口から出ました」

「トラウマ……?」

「大丈夫です。処理済みです。はい」

 私はぶんぶん首を振って、炭の棒をぎゅっと握った。心臓はまだ忙しいけど、頭はクリアだ。紙の上の箇条書きは、私の頭から次の仕事をどんどん引き出してくれる。こうしてると、ちゃんと生きてる実感がある。

「それと、さっき言ってた“飲まないでください”の札、昼までにつくります」

「うん」

「板に丸バツマーク。あと、口に手をあてて“だめー”ってしてる顔とか描いたら、もっと子ども向けにわかりやすいかも」

「顔?」

「ちょっと怖い顔より、“だめー”ってしてる顔のほうが、逆に“あ、これやっちゃダメなんだな”ってなると思うんですよね。怒られる未来を想像できるから。怖すぎると、逆に見たくなくてスルーしちゃう子もいるから」

「なるほど」

「ので、私が描きます」

「うん。頼む」

「あと、その札には“飲み水はこっち”っていう矢印も描けたらいいなって思ってるんですけど、飲んでいい水場ってどこですか?」

「北側の小さい井戸」

「じゃあ、そこもあとで見に行きたいです」

「うん。行こう。イェルの畑の近くだから、イェルにも挨拶できるよ」

「あっ、イェルさん……! そうだ、午後……じゃなくて、できれば午前のうちに会っておきたいです。“昼から畑に水をやる”みたいな作業があるなら、その前にヒアリングしたいので」

「“ヒアリング”?」

「話、聞くってことです」

「なるほど」

「“なるほど”って即座に受け入れてくれるの、ほんとにありがたい……」

「うん?」

「なんでもないです。はい」

 私は紙の端っこに「イェルさん:水の現状/必要量/困ってること→聞く」と書き足した。自分でも読めるように、できるだけ丁寧な字で。炭だからにじむけど、がんばる。

 そこまでやって、ふぅ、と息をついた。肩が少し軽くなってる。心臓も、さっきまでの“ぎゃー!!”っていう悲鳴モードから、“どくどく”っていう落ち着いた拍動に変わってきた。

「由香」

「はい」

「どう?」

「……すごく、うれしいです」

「うん」

「なんか、ちゃんと、私のやることが、あるっていうのが、すごくうれしいです」

「うん」

「それを、ちゃんと“やっていい”って言ってもらえてるのが、すごく、うれしいです」

「うん」

「それから、“ここにいていい”って言われたのも、すごくうれしいです」

「うん」

「だから、すごく、いま、幸せです」

 言って、自分でちょっとびっくりした。幸せ、って言葉。私、こんなさらっと言えたっけ。今までの人生で、幸せって、ちょっと盛って言う言葉だった。“幸せになりたいです”とか、“幸せだといいなあ”とか、そういう、遠い未来の夢みたいなところに置いておく単語だった。目の前の今この瞬間に“幸せです”なんて言ったこと、あったかな。覚えてない。もしかしたら初めてなのかもしれない。

 ルゼルは、少しだけ目を細めて、私の髪にそっと手を伸ばした。指先が、前髪のはじっこに軽く触れる。なにそれ。なにその動き。なにそのやさしい距離感。なにそれ。心臓がもう一回忙しくなっちゃうでしょ。やめて。やめて。いややめないで。いややめて。いややめないで。どっちなの私。

「なら、よかった」

「……はい」

「ずっとそうだといいね」

「……っ」

 だ、め。いまのは、だめ。いまのは、完全に、だめ。ずるい。ずるいどころじゃない。反則。レッドカード。退場。いまの一言で私の瞳孔が一瞬でじわっと滲んで、涙が、ほんの一滴だけ、目尻にたまった。

「あっ……」

「うん?」

「だいじょうぶです……っ」

「うん」

「いまのは、その、うれしい涙なので、ノー泣きデーのカウントには入りません……」

「そうなんだ」

「はい……っ」

「じゃあセーフだね」

「セーフです……セーフ、です……っ」

 私は顔を上げて、空を見た。空は青くて、朝の色から、すこしだけ白っぽくかすんだ昼前の色に変わり始めていた。雲は薄くて、ひらひら広がってて、太陽はまだ高すぎない。光がまっすぐじゃなくて、少し柔らかい角度で降りてくる。その光が、村の家々の屋根の干し草をあたためて、洗濯物を揺らして、畑の葉っぱの露をきらっと光らせている。

 私は、ちゃんとこの空の下に立っている。昨日まで“自分の場所なんてない”って思っていたのに、今は“ここがいいな”って思ってる。たった一晩で世界が変わるなんて、そんなの漫画みたいだ、って昨日の朝の私が聞いたら笑うと思う。でも、いま私は本気でそう思ってる。

「よし」

 私は涙をもういちど深呼吸で押し戻して、紙を持ち直した。現実に戻る。やることは山ほどある。書くことも、聞くことも、並べることも。忙しい。忙しいけど、楽しい。

「それじゃあ、“飲まないでください札”つくりましょうか」

「うん。家で木を切るから、いったん戻ろうか」

「はい」

「ミラも来る?」

「いくー!」

「ミラ、パン屋は?」

「おかあさん、“お昼まえまでならいいよ!”っていった!」

「じゃあ、お昼までね」

「うん!」

 ミラが私の手をぎゅっと握った。ぎゅっと。ああもう、ほんと、なんなんだろうこの子。かわいい。かわいいは正義。村のインフラ。水とパンとミラで村は回ってる。私はそうメモしたい。メモしよう。「村の三大ライフライン:水・パン・ミラ」。うん、書いとこう。

 私は紙を大事に抱えて立ち上がった。足に巻いた布がきゅっと鳴る。体は軽い。胸も、軽い。顔は、たぶんまだちょっと赤いけど、もうそれは仕様。初期装備。しょうがない。諦める。

「行こう、“井戸の人”」

 ルゼルが、私のすぐ横で言った。その声は、なんでもないみたいに静かで、でもちゃんと嬉しそうだった。

 私は胸をはって、うなずいた。

「はい、“魔王さま”」

 そう返したら、ルゼルが一瞬だけぴたりと止まって、目をまるくして、ほんの少しだけ耳の先が赤くなったのを私は見逃さなかった。あ、かわいい。え、かわいい。え、なにそれ。ずるい。ずるいでしょそれ。あなたが赤くなるのずるい。なにそれ。心臓がまた忙しくなっちゃうんですけど。

「……それ、外で言うのは、ちょっと」

「えっダメなんですか?」

「おもしろいけど、ちょっと」

「ちょっと?」

「うん。あとで説明する」

「あとで説明する……っ、はい、わかりました。すみませんいきなり役職ぜんぶ公開してしまって……」

「うん……」

 ルゼルは、ちょっと困った顔で笑った。ああ、その顔もずるい。ずるい。ずるい。ずるい。ずるいの無限ループに私は沈みそうになりながら、でもちゃんと笑った。笑って、頷いて、胸の中で静かにもう一回だけ繰り返した。

 ――私、ここで暮らします。

 紙を胸に抱えて、ミラと手をつないで、ルゼルと並んで、私は村の朝の道を歩きはじめた。土の道。草の匂い。木の家。洗濯物。パンの匂い。水の匂い。ぜんぶ、これからは“自分の生活の匂い”になるんだって思うと、胸の奥の火が、また少しだけ明るくなった。

 そして私は、“井戸の人”としての最初の一日を、本当に、歩き出した。
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