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「“魔王さま”って呼んじゃダメなんですか?」
村の真ん中から少し外れた道を、三人で歩く。足もとは土の道で、朝露の名残がところどころきらっと残ってて、踏むとしっとりした感触が布の巻きの上からでも伝わってくる。空はもうさっきより少し明るい。家々の屋根に干してある草は太陽を吸って色がやわらかくなって、洗濯物は風を受けてひらひら揺れる。近くの家からパンみたいな匂いがして、お腹がすこしだけ幸せな気持ちになる。あ、パン屋ってあれかな、草屋根の低い建物からちょっと煙が出てるあそこかな、あとでちゃんとお礼言わないと。
私とミラちゃんは手をつないで歩いていて、ミラちゃんは一歩ごとにぴょん、ぴょん、って軽く跳ねるからそのたびに私の腕も上下する。かわいい。なんだこのエネルギーのかたまり。太陽光から直接充電でもしてるんですか? かわいい。かわいいは力。
その隣で、ルゼルが、私の少し後ろ気味を歩いてくれている。たぶん、私が石につまずきそうになったら支えられる距離感にちゃんといる。そういうとこ自然にやるのずるい。いや、ずるいって言うのもうやめようって思っても、すぐ口の中まで出てくる。反射神経みたいに「ずるい」が出そうになる。語彙をください。新しい語彙をください異世界。
で、歩きながらずっと私の頭の中でぐるぐるしてるのが、さっきのやり取りだ。
「行こう、“井戸の人”」
「はい、“魔王さま”」
って私が返したら、ルゼルが一瞬フリーズして、耳の先ちょっと赤くなって、それで「それ、外で言うのは、ちょっと」って、困ったように笑ってたやつ。あれなに。すごいかわいかったんだけど。え、かわいい。ちょっとだけ赤くなるのかわいすぎて、今も思い出すと胸が変なむずむずする。あの顔、保存したい。脳内スクショ。はい保存。大事にする。
でも、それはそれとして、気になる。
“外で言うのは、ちょっと”。
つまり、“家の中ならいい”って意味にも聞こえるんだけど。いや、そこ突っ込んでいいやつ? だめなやつ? ううん、でも聞いときたい。肩書きってここでは命に関わるのかもしれない。うっかりしたことで彼に迷惑をかけるのはいやだ。私は喉の奥にひっかかってる質問を、いったん丸めて飲みこんでから、ごく普通の声で口に出した。
「あの、ひとつ聞きたいことがあります」
「うん?」
すぐ返事がくるの、いい。なんか、すぐ返してくれるっていうだけで安心する。こういう“ちゃんと聞いてくれる人がそばにいる”っていう安心感、私ほんとに久しぶりなんだなぁってしみじみ思う。
「さっき、“魔王さまって呼ぶのは外だとちょっと”って言いましたよね」
「うん」
「なんでですか?」
正面から聞いた。遠回しにしないで聞いた。これは昨日アイラさん……じゃないや、ついさっきアイラさんに言われた「できることとできないことをはっきり言いなさい」「ちゃんと聞きなさい」を、ちゃんとやりたいなっていう気持ちでもある。そうしたらきっと、後で“あれ言えばよかった”って後悔しないですむ。私はまだこの村に来て半日もたってないのに、もう「後で後悔」は嫌なんだよ。夜になってからぐるぐる考えるのは、もう城の寝床だけで十分だった。
ルゼルは、少しだけ歩く速度を落とした。ミラちゃんもそれに気づいて立ち止まる。私も立ち止まる。村の道の真ん中で三人、ちょっとした立ち話みたいな感じになる。朝の光が私たちの影を道に落として、その影が少し重なる。
「俺が“魔王”って呼ばれるの、嫌いじゃないよ」
「はい」
「むしろ、けっこう好き」
「それはなんか、わかります。似合いますし」
「似合う……?」
あ、今の“似合う”でちょっと目を細めた。なんだこの人。かわいい。かわいいじゃん。なんなの。こっちが照れるからやめてもろて。
「でもさ」
「はい」
「この村の人たち、全員が“魔王”って言い方で呼んでるわけじゃないんだ」
「……あっ」
その瞬間、すとんって腑に落ちた。あ、そっか。そうだ。私、なんか、変なところでとんでもない爆弾ワードをうっかり連呼しかけてたのでは? 「魔王」って、国王に宣戦布告するレベルの、やばい単語だったりしない? いまの平和なこの村の空気で何回も言っていいやつだった? 私いま道のど真ん中で「魔王さま」ってやったけど、あれ私、今の感覚でいう「はい社長~♡」と同じノリで言ってたけど、実は「はい指名手配犯~♡」とか「はい国の仇~♡」って大声で言ってた感じだったりしない? わあ。やば。わあ。やっちゃった?
顔が熱くなる前に、私は慌てて両手を胸の前でぶんぶん振った。
「あっすみませんすみませんすみません!! あのっ、私なんかとんでもないことを公衆の面前で叫んでしまってました!? この村がつぶれるようなワードでした!? 今の時点でこの村に王国軍がばばばーって攻めてきたりしません!? なんか私、すでに侵略フラグ立てました!? 王城の人たちとか“あいつどこ行った?”ってなって、“魔王と一緒にいるぞ討伐だー!”みたいになるやつですか!? やばいですか!? 逮捕されます!? 私、いきなり迷惑かけました!?!?」
息継ぎなしでそこまで叫んだところで、ミラちゃんがふにゃって笑った。
「ゆか、はやい」
「早い?」
「ことば、はやい~」
「あっ……ごめん、ミラちゃん」
「ううん、おもしろい!」
「おもしろいでまとめられてしまった……」
その横で、ルゼルは少しだけ肩を揺らして、でも目はちゃんと真面目で、声は落ち着いていた。
「そこまで大ごとじゃないから、安心して」
「ほんとですか……」
「うん。“魔王”って言葉そのものが危険ってわけじゃない」
「じゃあ」
「ただ、この世界には、いろんな“魔王”がいる」
「え、いっぱい魔王いるんですか」
「うん。いくつも」
「え、量産型なんですか魔王……」
「“なにかの群れをまとめてる強い存在”っていう意味で、そう呼ばれることはよくあるよ。だから“魔王”っていうだけじゃ、実はそんなに特別じゃない」
「あっ、なるほど……“社長”くらいのノリなんだ……」
「しゃちょー?」
「あ、えっと。“現場のトップの人”っていう感じです」
「うん。そんな感じ」
「なるほど、じゃあ“魔王”って言われるのは、まあ、“この人はここのトップです”っていう肩書きみたいな、そういうの」
「だいたいはそう」
「だいたいは、ってことは、例外がある」
「うん。ある」
「それが、あなた?」
「……うん」
彼はほんの少しだけ目を伏せて、それからまたこっちを見た。その目は、朝の光にすこし金が混じる茶色で、静かな水みたいに落ち着いている。不思議な目だ。やさしいけど、どこか底が見えない。昨日の夜、ずっと泣いてた私を支えてくれたときと同じ目だった。
「俺は、もともと人間じゃないんだ」
「はい」
自然に返事してる自分に、私はちょっとだけ驚く。でも、違和感はない。昨日からなんとなくそういう話は聞いてたし、“魔王”って呼ばれてたってことはそういうことなんだろう、って頭のどこかでわかってたし。今さら“えっ!? 人間じゃないの!?”って驚くより、“はい”って頷くほうが自然だった。
「この国では、人間じゃない存在の中で、人間にとって危ないものは、だいたい“魔物”ってひとくくりにされる」
「うん」
「で、その“魔物”たちをまとめてるやつのことを、“魔王”って呼ぶ」
「ほう……」
「だから、“魔王”って言葉そのものは“魔物の王”って意味なんだよ」
「あっ、直訳だったんですねそれ完全に」
「うん」
「で、あなたは……」
「俺は、そう呼ばれたことがある」
“呼ばれたことがある”。なんだろう、その言い方。今はそうじゃない、っていうニュアンスを感じる。私はすこしだけ首をかしげた。
「でも、“今は違う”って顔してますね」
「うん。いまは違う」
「違う、っていうのは?」
「……いまは、“村のルゼル”でいたいんだ」
その言い方が、やさしかった。やさしいけど、どこかちょっとだけ申し訳なさそうでもあって、私は無意識に一歩、彼のほうへ寄った。聞く、っていう姿勢をちゃんと見せたかった。ちゃんと聞きたい、って顔をしたかった。
「“魔王”って呼ばれるときの俺は、“怖いもの”なんだよ。人間にとって」
「うん」
「“怖いもの”っていう肩書きがあると、便利なときもある。話が早く済むから」
「“わかりやすい力の象徴”ってやつですね」
「うん。すごく、わかりやすい」
「はい」
「でも、村では、それいらないんだ」
その言葉で、なんか胸がきゅっとなった。いらない。言い切った。すごい。いらない、って強い言葉だ。それを、さらっと言えるって、すごい。
「村の人たちは、俺を“怖いもの”として見なくていい。見てほしくない」
「……」
「“怖いもの”の顔をしてると、みんな俺に近づきにくいでしょ。水のこととか、道具のこととか、畑のこととか、ちいさいことで困ってても、声をかけにくくなる」
「うん……」
「それだと、いやなんだよ」
それは、たぶん本音だ。肩書きとか役割とかより前にある、素の“いやだ”っていう気持ちだった。私にはそれがちゃんと伝わる。胸の奥にそのまま落ちてくる。
「だから、この村のなかでは、“ルゼル”でいい。っていうか、“ルゼル”がいい」
「……」
「“魔王さま”って大声で呼ばれると、ちょっと“怖いほうの俺”が前に出てきちゃうから」
「あっ」
「それで“ちょっと”って言ったの」
「あー……」
そこまで聞いて、私は自分がやらかしかけてたことをちゃんと理解した。なんか、すごくよくわかった。つまりあれだ。たとえば会社の飲み会で、みんなで普通にしゃべってるときに、いきなり「はい部長ォ~~!」って大声で呼ぶみたいなもので。それやると、その人が“部長モード”に強制的に引き上げられて、まわりも「あ、いま冗談じゃなくて仕事の人間関係だ」って空気になる、みたいなやつ。それ。あれめっちゃわかる。あれしんどいやつ。わあ、私、しんどいやつをこの村に持ちこむところだったんだ。あぶな。
「すみません……」
「ううん。由香は悪くないよ」
「いやでも、意図はなくても、結果的にそういうことだったわけで……」
「でも、ちゃんと聞いてくれたから」
「それは……そりゃ聞きますよ……」
「“そりゃ”?」
「あ、えっと、もちろん聞きますよってことです」
「うん。ありがとう」
「ありがとうって言われるほどのことじゃないんですけど……」
「あるよ」
「あるの?」
「ある」
即答。ずるい。即答で「ある」って言われると、心臓のあたりがじゅわっとあったかくなる。即答ってずるい。ずるいって言うのやめたかったのにまた言っちゃった。はぁ。だめだこの世界、ずるいでいっぱいだ。私の語彙ぜんぜん足りない。
「じゃあ、外では“ルゼルさん”って呼びます」
「うん」
「家のなかは?」
「家のなかは……」
彼はほんの少しだけ目をそらして、口をむにっとさせて、それから小さく咳払いした。なんでちょっと照れてるの。なんでさっきちょっと耳が赤かったときと似た反応するの。かわいいんだけど。かわいいんだけど!? いや、かわいいって思った瞬間に私のほうの耳も熱くなるのやめてほしい。連動すんのやめてほしい。こっちの体温まで上げないでほしい。私、いま気温で溶けるアイスクリーム状態なんだよ。常時とけかけなんだよ。
「……家のなかは、“魔王さま”でも、いいよ」
「っ」
「あと、“ルゼル”でも、いいよ」
「っっ」
「どっちでも、いいよ」
「っっっ」
だ め だ 。心臓が死んだ。今の死んだ。今のその、「どっちでもいいよ」を、落ち着いた声で、当たり前みたいに、ちょっと照れながら言うのは、完全に反則。カード二枚出されてる。二枚出されてるよ今。退場を二回宣告されたよ。ゲームオーバーだよ。リスポーン地点はどこ。どこにリスポーンすればいいのこれ。あなたの隣ですか? そういうことですか? 落ち着いてください心臓。
「……っ、……わかりました……っ」
「うん」
「じゃあ、外は“ルゼルさん”で、家のなかは“魔王さま”と“ルゼル”、状況に応じて適切に使い分けさせていただきます……っ」
「うん。よろしくね」
「よろしくねってさらっと言うのやめてください死にますので」
「死なないで」
「死なない努力はします」
「うん。大事」
「大事ってさらっと言うのやめてください死にますので(二回目)」
「うん」
「……」
「……」
「……はい。深呼吸しますね」
「うん」
「すー……はー……」
「いい子」
「ちょっと!!!!!!!!」
はい死亡。完全に死亡。いまの「いい子」はクリティカルヒットでした。致命傷。瀕死。いや瀕死どころじゃない。アウト。アウト判定。ノックアウト。今の「いい子」一撃でノーガードの顔面に入ったので完全に落ちました。もうやめて。慎ましさって言葉を思い出して。朝からこの甘やかし量は心臓がもたない。いや、でも、もたせる。生きる。生きてこの村で暮らすって決めたんだから、生きる。心臓が忙しいくらいで死んでる場合じゃない。
「ゆか、あかい~」
ミラちゃんが、私の顔をじっとのぞきこんで、にへっと笑った。近い。おめめきらきらで近い。かわいい。やばい。かわいいのは正義。正義には逆らえない。
「これはですね、ミラちゃん。これはその、暑いんだよ今日」
「きょう、ちょっとさむいよ?」
「ミラちゃん、正直ですね?」
「うん!」
ミラちゃんは正直だった。正直はいいこと。正直は時に刃物。かわいい刃物。かわいさで胸をサクサク切り刻まれる。何この世界。平和ってこういうことを言うんですか? 平和こわい。幸せって暴力なんだ。勉強になる。
「それでね」
ルゼルが、声を少し下げた。真面目なトーンに切り替わったのがわかる。私の頭の中も、反射的に“会議モード”に切り替わる。社会人の悲しい性だよね。こういうトーンで話しかけられると、一秒で「議題はこれだな」って整列し始める。ある意味便利だけど、ある意味切ない。まあでも今は便利なので使います。
「王城の話を、少しだけ、しておきたい」
その言葉で、胸の奥が一瞬だけぎゅっと固くなった。王城。そうだ。そこから私は“追い出された”んだ。いま、“村の子”って言ってもらえて、ほぼ幸せで胸がいっぱいになって、涙まで出かけて、完全に忘れかけてたけど、私、もともとあそこから連れてこられたんだ。私は、よくわからないまま召喚されて、“役立たず”って言われて、“おまけ”って言われて、“帰れ”って言われた。その現実は、まだちゃんと終わってない。あそこには人がいて、権力がいて、兵士がいて、命令があって、たぶん勝手なプライドもある。
「……はい」
私は背筋をのばしてから、うなずいた。顔はなるべくまっすぐでいたかった。やだなって顔はしたくなかった。だってそれは、ここで暮らしてくって決めた私の、最初の“つよがり”でもあり、“宣言”でもあるから。私はもう、あの城に縛られてる女じゃない。私は“井戸の人”。私はこの村の子。それをちゃんと自分でも信じたかった。だから、逃げずに聞く。
「まず、由香を呼んだのは、あそこにいた、白い服の男」
「……あの人」
すぐに顔が浮かぶ。冷たい目をして、鼻で笑って、こっちを見下ろして、書類だけはやたら整っていた男。名前は……そうだ、言ってた。なんとか卿とかそういうの。「勇者召喚式典責任者」って自分で名乗ってた。なんだその肩書き。肩書き長いと偉そうに見えるって思ってるやつだ。あるある。会社にもいた。だいたいそういう人、実務してない。
「たぶんあいつは、まだ“勇者召喚しました”っていう実績がほしいんだと思う。だから、由香を戻そうとはしない」
「戻そうとはしない?」
「うん。“おまけ”って言って、最初から無視したんだろう?」
「はい。えっと、“主役はそっちの方なんで”って、私じゃなくて隣の子を指して言ってました」
隣の子。あの子のことを思い出すと、私の胸はちょっとだけ複雑になる。やさしい顔してた。困ったような顔で私を見て、“ごめんね”って小声で言ってくれた子。彼女はいわゆる“美人同僚”だったんだけど、別に悪い子じゃない。むしろいい子だった。だから余計に、あの部屋の空気がいやだった。誰かを持ち上げるために誰かを捨てる、っていうやり方が、すごく気持ち悪かった。
「だから、あの男はたぶん、“いなくなったおまけの子”のことなんて覚えてない」
「……うん」
「問題は、周りの兵士たち」
ルゼルの声が、少しだけ低くなる。私は反射的に身を乗り出した。ミラちゃんも、なんとなく空気を察したのか、私の手をぎゅっと握り直して、少しだけおとなしくなる。え、すごいなこの子。空気読む力が高い。将来有望すぎる。
「兵士たちは、“知らない人間が城から連れ去られた”っていう形に見えたはずなんだ」
「……あっ」
「その“連れ去られた”人間が、ここにいる、ってことになると、ちょっとだけ、面倒が起きるかもしれない」
「面倒」
「うん。“あの子返してください”って言われる可能性が、ゼロじゃない」
「“返してください”……」
返してくださいって、何。私、物じゃないんだけど。いや、あの城の人たちからしたら、私たちは“物”だったのかもしれない。召喚の成功例。サンプル。データ。使えるか使えないかを仕分ける対象。うん、そういう目は確かに向けられてた。あの冷たい視線、覚えてる。背中がひやってするやつ。
「返してくださいって言われたら、どうするんですか?」
「返さないよ」
即答。やっぱり即答。もう、即答のたびに心臓があったかくなるの、ほんとやめて。いややめないで。いややめて……ってこれ何回目? 何回でも言うよ? ほんと反則なんだよその即答。
「“この村の子”って言ったでしょ」
「……」
「“村の子”を、勝手に連れていこうとする人がいたら、誰でも止めるよ」
「誰でも?」
「うん。俺だけじゃなくて、みんな」
みんな。ああ、そうだ。そうだよ。アイラさんがさっき言ってた。「うちの村の子ってことでいいわね?」って。あれ、宣言だったんだ。この村全体に対しての。つまり「この子に手を出したら村全体にケンカ売るのと同じだからね?」っていう、宣言。あの人、さらっとめっちゃ大事なことやってたんだ。やば。あの一言にそんな意味があったのか。私今さら気づいて若干震えてる。すごい。あの人、やっぱりすごい。
「だから、あの城が、もしここに手を伸ばそうとしたら」
「したら?」
「それは、“村全部まとめて敵に回す覚悟があるか?”って話になる」
「……」
「で、たぶん、あの城は、そこまではしない」
「……なんでですか?」
「めんどくさいから」
「あっ」
即答で出てきた答えがあまりにも日常で、私は変な声が出そうになって、でも出さないように口をぴって押さえた。めんどくさいから。そうだ。そうなんだよ。結局、権力の人たちが一番嫌がるのは“手間”だ。面倒で、コスパが悪いことは、しない。わかる。ものすごくわかる。
「この村、ちょっと、変わってるからね」
「変わってる?」
「うん。国からちゃんと“ここはこの村のものだよ”って認められてる土地なんだ」
「えっ、そんなことってあるんですか」
「あるよ。ちょっと昔に、いろいろあって、紙をいっぱい交わして、約束をいっぱいして、ここは“ここだけでやります”っていうことになってる」
「紙……」
紙って聞いた瞬間、胸がじんってした。紙。ああ、その紙、見たい。すごく見たい。読みたい。内容把握して整理したい。フォルダに入れてどこに何があるのか把握したい。書式統一したい。読みやすいようにインデックスつけたい。ああ、あの感じ、すごい好き。すごい落ち着く。紙がある世界って最高だ。紙は世界を救う。いやほんとに。
「つまり、“勝手に兵士を入れないでください”っていう取り決めも、ある」
「えっすごい」
「だから、兵士がもしここまで来たら、“約束違反だよね?”って話になる。その時点で、あっちのほうが悪い」
「なるほど……」
「だから、そこまでして由香を取りに来るか?っていうと、来ないと思う」
「……」
私は、胸の奥が少しずつすうっと落ち着いていくのを感じた。いま、頭の中で地図を書いてる。王城、兵士、村。その間には“取り決め”っていう線が引いてある。線の上には「紙あり」ってメモ。村のところには「村の子=守る」ってメモ。私のところには「井戸の人」ってメモ。メモで世界が整理される。ああ、この感じ。これがあると私は怖くなくなる。見えないものが一番怖いから。見えるようにしてもらえたから、ちょっと怖くなくなった。
「……よかった」
「うん」
「よかったです。私、またあそこに戻されるのかと思って……」
言った瞬間、胸の奥がきゅうって痛んだ。やだやだやだ。いやだ。あそこには戻りたくない。あの冷たい床と、白い光と、見下される目と、「おまけ」ってタグ。いやだ。ほんとにいやだ。想像しただけで手が震える。
「戻さないよ」
また即答。ずるい。ほんとにずるい。即答で「戻さないよ」って言われたら、もう私、そこに全部の体重を預けたくなっちゃうじゃん。全部の重さをそこに置いて、もう歩くのやめていいですかって言いたくなっちゃうじゃん。危ない。危ない危ない。心臓がまたじんってなる。
「……ありがとうございます」
「うん」
「ほんとに、ありがとうございます」
「うん」
「あとでちゃんとお礼させてください」
「うん?」
「本当にちゃんと。言葉とかじゃなくて。私、できることちゃんとやりますから。ぜんぶちゃんとやりますから」
「うん」
「だから、“戻さない”って言ってくれた分、私は“ここにいていい”って胸張れるようにがんばります」
「うん。うん」
ルゼルは、静かに何回かうなずいた。その目は、ちょっとだけやわらかくて、でもちゃんと真剣だった。その目を見てたら、私の胸の奥でぐしゃぐしゃだったものが、すこしずつ整っていくのがわかった。ああ、だいじょうぶだ。だいじょうぶ。私はここにいていい。ここにいて、いい。
「じゃあ、決まりね!」
いきなり横から明るい声が飛んで、私はびくっとした。ミラちゃんだ。ぴょんって私の手を上下に振りながら、ものすごい満面の笑顔で言った。
「ゆかは、うちのむらのこ!」
「うん!」
「だから、だれにもあげない!」
「うん!!」
「だから、ゆかは、ミラのおねえちゃん!」
「うん!!!?」
はい死んだ。完全に死んだ。いまので死んだ。なんだその最高級の肩書き、なんでそんなのを朝の土の道の真ん中でさらっと宣言してくるの、なんで私はそれを今受け取ってしまったの、なんで心臓がこんなにあったかいの、え、なにこれ、幸せってこういう感じ? あの、“おねえちゃん”って呼ばれるの、私、人生で初めてなんですけど。私ひとりっ子だし。誰にも呼ばれたことないし。こんなに、こんなに真っ直ぐにぴかぴかの笑顔で「おねえちゃん!」って言われたことないし。ちょっと待って。ちょっと待って。涙腺、今、開くの禁止。ノー泣きデー。ノー泣きデー。あーーーでもこれ、これは、例外規定……これは例外規定にしてもいいんじゃないですか? どうですか? 審議! 審議入ります!! 異議なし多数!! これは泣いてもセーフでは!? セーフでは!?!?
「ゆ、ゆ、ゆか、おねえちゃん……っ、で、いいんですか……?」
「いいの!」
「い……いいの……っ」
「うん!」
ミラちゃんは、当たり前みたいにうなずいた。その当たり前さが、胸の奥をぐわってつかんでくる。やばい。溶ける。今日何回溶けるの私。もう液体。村に染みこんで消えるよ? 土に還元されるよ? それはそれでたぶん幸せだけど、まだやることあるから溶けないで。
「じゃあ、ミラちゃん」
「なに!」
「これからも、よろしくね」
「うん! よろしくね、おねえちゃん!」
「あっっ……」
はい決まった。正式採用された。私はいま正式に“おねえちゃん”職の内定をいただきました。ありがとうございます。がんばります。責任感が爆上がりしました。世界にこんな瞬間があるなんて。やばい。しんどい。幸せってしんどい。
「よし。じゃあ、行こうか」
ルゼルが、なにかすごく満足そうな顔で言った。たぶんいまのやりとり全部聞いてた。聞いてたよね? 聞いてたよね?? その顔なに? その「よかったね」って顔なに? やめて心臓が死ぬ。やめて。いややめないで。やっぱやめて。いややめないで。あーーもう!!
「いきます……!」
「いこー!」
「うん」
私たちはまた歩き出した。今度は湖のほうから少し離れる形で、村の外れに近いほうの道に入っていく。土の道は途中から少しだけ草が混ざってきて、足もとに小さな白い花や黄色い花がちらっと見えはじめる。風は森のほうから吹いてくるみたいで、ちょっとひんやりする。草の匂いが強い。鼻の奥がすっとする。こういう匂い、好きだなって思う。頭がクリアになる。
「そろそろ、北の井戸」
「北の井戸……」
「うん。こっちは、まだ飲める方」
「“まだ”飲めるっていう言い方がちょっと引っかかるんですけど、つまり“こっちもやばくなる可能性がある”ってことですよね」
「うん。だんだん、ね」
「だんだん……」
そうだ。そうだった。水って、減るし、汚れるし、止まるんだ。私の中の“都会の水道”の感覚がまだ強くて、「蛇口をひねれば透明できれいな水が出る」っていうイメージが、体から抜けきってない。でも、ここではそれは当たり前じゃない。ここでは“まだ飲める”って言い方をするんだ。つまり、いずれ飲めなくなる日が来るかもしれないっていう前提で生きてるんだ。
胸の奥が、きゅっと引き締まった。今までふにゃふにゃにとけてた気持ちが、一気に現実に戻される。うん。そうだよね。ここはスローライフっていう言葉でごまかしていいだけの場所じゃない。ちゃんと現実があって、課題があって、困ってることがある。その困ってることを“なんとかしよう”って、みんなが毎日生きてるんだ。
「“まだ飲める井戸”には、子どもも行く?」
「行くよ」
「じゃあ、そっちに“飲んでいいよ”マークも欲しいですね」
「マーク?」
「うん。さっき言ってた“飲んじゃダメ”だけじゃなくて、“こっちは飲んでいいよ”をセットにすると、子どもって混乱しにくいので」
「なるほど」
「“なんでもダメ”って言われると、逆に“じゃあどこならいいの”ってなって、結局いちばん近いところで飲んじゃうので」
「なるほど」
「だから、“こっちはバツ、こっちはマル”って、セットで覚えさせたいんですよね」
「マル?」
「あっ、〇って意味です。よい、のマーク」
「なるほど」
「うん。だから、マルの看板もほしいです。“ここはのんでいいよ”ってかわいい顔で言ってるやつ」
「かわいい顔」
「はい。かわいいは正義なので」
「そうだね」
スッ……て自然に同意が返ってきた。いや、なんでそこだけそんな即答で“そうだね”って言えるの。あなたもさっきからずるい。ずっとずるい。ずっと私の心にクリティカルヒットさせてくる。
「その、看板用の木って、すぐ用意できますか?」
「できるよ。家に端切れがある」
「端切れ……木材のあまり、ってことですよね」
「うん」
「それを四角く切って、角ちょっと丸めて、ひも通す穴あけて、っていう作業ですか」
「そう」
「道具はありますか? ノコギリとか、ナイフとか、トンカチとか」
「ある」
「あるんだ……」
「あるよ」
さらっと言うけど、あるってすごい。あるって本当にすごい。道具が“ある”って、つまり“直せる可能性がある”ってことだ。壊れても捨てないで済む。修理できる。ずっと使える。なんだろう、この“ある”っていう言葉の安心感。私の胸の奥にぽんぽん灯がついていく。この村は“ある”が多い。ゼロからじゃない。“ないから無理です”って空気じゃない。“あるからやろう”っていう空気。それって、たぶん、とんでもなく尊い。
「この道をもう少し行くと、北の井戸。その手前にイェルの畑。この時間なら、まだ畑にいる」
「よし、じゃあイェルさんにヒアリングですね」
「ヒアリング」
「話、聞くやつ」
「うん」
「“ヒアリング”って言うとそれっぽいから好きなんですよ」
「それっぽい?」
「そう、なんかこう、“私はいま仕事してます”って感じが出る」
「なるほど」
「この村でも使っていこう。“ヒアリング”」
「村に横文字文化を持ちこまないでください!? いや横文字っていうか日本語なんですけど!」
「ヒアリング~!」
ミラちゃんがうれしそうに復唱した。あ、かわいい。あ、もうだめ。なにその小動物みたいな吸収スピード。たぶん今日の夕方には「ヒアリング~」って村中に広まってる。やばい。責任重大。私、うっかり変な言葉入れられないじゃん。
「で、ヒアリングをして、その内容を紙にまとめて、さっきの“なおす/つかう/すてる”表の下に“小さい村ノート”として貼りたいんですけど、板ありますか?」
「板は、ある」
「また“ある”が出た……」
「でも、そんなに大きくはないよ」
「小さくていいです。大丈夫です。むしろ小さいほうが人が立ち止まりやすいので」
「なるほど」
「あと、文字が読めない人もちゃんとわかるように、絵を使いたいです」
「絵?」
「はい。たとえば“水が足りない”っていうときは、水のしずくの絵を描いて、その横にバツをつけるとか。畑の野菜の絵を描いて、その下に“しおしお”みたいな線を描くとか。そうすると、文字が読めない人も見てわかるので」
「なるほど」
「“なるほど”って言うたびに、なんかこう、すごい進んでる感じして嬉しいなぁ……」
「うれしい?」
「はい。嬉しいです」
「うん。よかった」
「よかった、って言うたびに私はまた心臓が忙しいので深呼吸させてください」
「うん」
「すー……はー……」
「いい子」
「またそれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
私が叫んだら、ミラちゃんが「いいこ~!」って真似して、きゃははって笑った。さらに心臓にいいダメージ。やめてください。いややめないでください。あ~もうどうすればいいの。心臓が忙しいこの朝。
そうやってわちゃわちゃしているうちに、道の先にひらけた場所が見えてきた。畑だ。土がていねいに耕されて、いくつもの畝がまっすぐ並んでいる。そこに、緑の葉っぱが低く広がっていて、葉の先にはまだ朝露が残ってきらっとしている。奥のほうでは、少し背の高い茎がすらっと伸びて、黄色っぽい花みたいなものをつけている。風がふくたび、葉っぱたちがざわざわと揺れる。土の匂いがいっそう濃くなる。湿った土の匂い。生きてる匂い。ああ、これ、好き。めっちゃ好き。
畑の真ん中あたりに、ひとりの人影がしゃがんでいた。背中が広い。腰がどっしりしてる。大きな手が、葉っぱの根元あたりをていねいに触っている。髪は短く刈っていて、色は少し明るめの茶色。首には布を巻いて汗をぬぐっている。近づくと、その人影がこちらに気づいて、顔を上げた。
「お?」
顔が、日に焼けている。目じりにしわがある。がっしりした体つきで、とにかく“畑の人”っていう言葉が似合う。たぶんこの人がイェルさんだ。私の脳が勝手に「この人=水をいちばん使う人=超重要」と赤字でメモしている。
「おーい、イェル」
ルゼルが手をあげた。イェルさんは、一瞬だけ目を細めて、にやっと笑った。にやっと、っていう言葉がぴったりの笑い方。ちょっと悪ガキみたいな、いたずらっぽい笑い。
「おいおいおい、朝っぱらからにぎやかだと思ったら、おまえまた拾ってきたのか?」
“また”。また、って言った。ということは、前にもこういうことがあったのかもしれない。なんか、ちょっとだけ安心した。私、ここに拾われたの、初じゃないんだ。前例があるんだ。前例、超大事。前例あるってだけで心の安定度が三割くらい上がる。前例という神。ありがとう前例。
「まっっっっっってくださいイェルさん」
私は反射で前に出て、両手をぶんぶん振った。
「すみません、“拾ってきた”は、その、なんかこう、ひじょーに、野良犬とか落ちてた家具とか、そういうニュアンスが発生してしまうので! 私いちおう人間です! 人間です! あと、なんか、ちゃんと歩いてここに来ました! ので! 拾得物扱いはちょっと心にくるので! そこだけ、えっと、言わせてください!」
言い終わってから、あ、初対面でなにやってんだ私って一瞬で青ざめた。やば。いきなり何を主張してるの私。勢いだけでしゃべった。やばい。イェルさんの顔が、どう変わるか、ちょっと怖い。怒られたらどうしよう。めっちゃ怖い。初対面で怒られたらたぶん私ふにゃってなる。
だけど、イェルさんは、逆に目を丸くして、それから腹の底から笑った。
「はははははっ、いい! いいねぇ! あー、いい! すげぇいい! おいルゼル、おまえ、いいの拾ってきたな!!」
「“拾ってきた”は修正されないんですね!?!?」
「はははっ!」
うん、なんか、嫌な笑いじゃなかった。からかいはあるけど、嫌な感じしない。むしろ“気に入った!”っていう笑い方。胸の奥が一気にゆるんだ。ああ、よかった。よかったー。心臓生き延びた。よかったー。
「イェル。この子は、由香」
「ユカです! はじめまして! 昨日、えっと、その、城から来ました! 今日からここで暮らします! “井戸の人”やります!」
勢いで自己紹介した。うん、いい感じ。昨日の夜に練習したやつ、ちゃんと出た。レジュメ通り。今日の私えらい。ちゃんと覚えてる。ルゼルも、横で「うん」ってちいさく頷いてる。うん、これで合ってるみたい。
「井戸の人、ねぇ」
イェルさんは、にやっと笑ったまま、立ち上がった。土のついた手で、作業用っぽいズボンをぱんぱんってはたく。その仕草がめっちゃ“畑の人”で、ちょっとかっこいい。力仕事する人ってやっぱりかっこいいな。頼れる背中って感じがする。
「いいじゃねぇか。“井戸の人”。ひさしぶりに聞いたな、それ」
「えっ、前にもいたんですか?」
「ああ。昔な。俺がまだこんなデカくなる前のころ」
「デカくなる前って自分で言うのかわいいなこの人」
「なんか言ったか?」
「いえ何も」
「ははっ」
「その、“井戸の人”だった方って、どんなことしてたんですか?」
「そうだなぁ……いろんなもん並べてたな」
「並べてた……!」
胸がきゅっと高鳴った。並べてた。きた。魔法の言葉「並べてた」。私の大好物。私の生きがい。私のアイデンティティ。私が生きている意味。並べることは救い。整理は正義。陳列は平和。
「壊れかけの桶と、縄と、使えるやつと使えねぇやつを分けて、誰でもわかるように見えるとこに置きなおして、“これは持っていくなバカ”“これは好きに使えバカ”“これは直せバカ”ってな」
「言い方ぁぁぁぁぁぁぁ」
「わかってんだよ、あれが一番伝わるんだよ」
「まぁ確かに……」
「“バカ”って書いときゃ、だいたい“あ、オレのことかな”って思うやつが勝手に考えるからな。便利だぞ」
「なんかすごい現場の知恵って感じする……」
「で、その“井戸の人”がいなくなってから、またぐっちゃぐちゃになって」
「はい」
「困ってたんだよなぁ」
「はい」
「だから、“井戸の人”がまた来たってんなら、そりゃあ助かるわ」
「――」
胸の奥に、熱いものが一気に広がった。今の、“助かるわ”っていう一言。なんでこんなに心に刺さるんだろう。助かるって、こんなにあったかい言葉だったんだ。助かるって、“いてよかった”って同義なんだ。私、いてよかったんだ。いていいんだ。はぁ。泣きそう。ノー泣きデー。ノー泣きデー。今の涙はセーフ? アウト? どっち? 審議?
「それで」
私は紙と炭を取り出した。しゃがんで膝の上に紙を置いて、炭を握る。うん、もう完全に“ヒアリング”モード。脳が勝手に仕事モードになる。落ち着く。呼吸が整う。こういうときの私は強い。強い私でいたい。いま、強い私でいたい。
「イェルさん、水って今どんな感じで使ってますか?」
「どんな感じ?」
「はい。ざっくりでいいので、“一日にどのくらい必要で、どのくらい足りなくて、どこから運んでて、どこが一番きついか”を教えてください」
「お、おお……?」
イェルさんがちょっと目を丸くした。ごめん、言い方が完全に前職なんだよ。業務ヒアリングなんだよ。定例聞き取り会議のテンプレが口からそのまま出た。でもこれがいちばん早いから許してほしい。
「たとえば、“畑に水まくの一日どれくらい必要ですか?”とか、“どっから運んでますか?”とか、そういうのでいいです」
「あー。そういうことか。そういうことなら、そうだな……」
イェルさんは、あごに手を当ててちょっとだけ考えこんでから、指を一本立てた。
「まず、いまは北の井戸から水運んでくる」
「北の井戸、はい」
「バケツ二つ両手に持って、ここまで往復」
「往復……距離は?」
「だいたい、家からパン屋までの半分くらい」
「パン屋わかんないのでメートル換算でお願いしたいところなんですけど異世界にメートルあるんですか?」
「めーとる?」
「ないっぽいですね!? じゃあ私の体感であとで測ります!」
「お、おう?」
「続けてください!」
「お、おう……で、往復を、朝と昼に二回ずつ。四往復くらいすりゃ、いまの時期はなんとかなる」
「今の時期……」
「うん。これが日が強くなってもっと乾くと、一日六往復だな。七のときもある」
「六~七往復……」
「で、いまはミラのおかあさんとかも手伝ってくれるけど、夏場はそれでもぎりぎりだ。ギリギリっていうのは、“葉っぱがしおしおなるのを、まだ間に合ううちにどうにかできる”ぎりぎり。つまり、ほんとはもっとあればもっとよくなる」
「なるほど……」
私は紙に走り書きする。炭がこすれて手が黒くなるけど、そんなの今どうでもいい。大事なのは情報。情報は力。情報は希望。情報は改善案の母。ああ、やばい、私いまめっちゃ楽しい。楽しいのちょっと怖いくらい楽しい。
「つまり、“足りてはいるけど、余裕はない”ってことですね」
「そう」
「で、“真ん中の井戸”は使ってない」
「ああ。あれはな。においがするだろ」
「はい。しました。鼻が“やめとけ”って言ってました」
「飲んだら腹こわす」
「腹こわすのはだめですね」
「だめだ」
「だめです」
「だめだな」
「だめです」
「だめなんだよ」
「だめですね」
「だめだ」
「だめです」
「……お前らなにやってんの?」
イェルさんが苦笑する。私とイェルさんで「だめ」ってエコーしてただけだった。横でルゼルが肩を揺らして笑ってる。ミラちゃんは「だめだめ~」って歌い始めてる。平和。いやいや今は真面目な話ですよ? ね? 真面目な話してますよ? してるんですけど、なんか空気がほぐれていく。こういう空気、すごくありがたい。怖い話してるのに怖くなりすぎない。心が折れない。ずるい。ずるい世界。
「で、三つ目」
「はい」
「この畑の横、前は小さい水だまりがあったんだ」
「水だまり?」
「うん。地面からちょろちょろ水が出てる場所」
「湧き水だ……!」
「わきみず?」
「地面から勝手に出てくる水です。超貴重なやつです。スーパースターです。村のアイドルです」
「アイドル?」
「人気者ってことです」
「ああ。そうだな。人気者だったよ」
イェルさんは、ちょっとだけ目を細めた。そこにはすこし寂しさみたいなものが混じっていた。
「でも、ここ二年くらいで、それがだんだん弱くなってきてな。いまは、雨が降ったあとじゃないと、もう出てこない」
「……」
「だから、畑に近い水が、なくなってきてる」
「畑に近い水が、なくなってきてる……」
私は書きながら、胸が少し冷たくなるのを感じた。これは、たぶん、すごく大事な情報だ。水源が細ってきてる。この村の“のど”が細ってきてるってことだ。だって、北の井戸まで運べば水はある。でも、それを毎日六往復七往復できる人が、ずっと元気にいるとは限らない。ケガもする。熱も出す。年もとる。子どもは育つけど、育つ前に倒れたら終わり。畑の水が止まったら、食べ物が止まる。食べ物が止まったら、村が止まる。
「イェルさん」
「おう」
「これ、いっぱい聞いてもいいですか」
「いいぞ」
「“いっぱい”って言われると、長くなるんですけど」
「いいぞ。どうせおまえ、長くなるタイプだろ」
「初対面で性格を当てられた!!?」
びっくりして変な声が出た。イェルさんは、にやにや笑っている。なんだこの人。ちょっと好き。即“ちょっと好き”って思わせるのずるい。村の人たち、初対面での好感度が軒並み高い。これが“人間関係スローライフ”のちから? あなどれない。
「で、その湧き水が弱くなったの、なんでだと思います?」
「なんで?」
「なにか、変わったことありました?」
「変わったことかぁ……」
イェルさんは、両手を腰に当てて、畑のほうを見た。目が、真面目になる。さっきまでの“にやにや”が、きゅっと引き締まる。たぶん、この人の“仕事モード”なんだろう。こういう切り替え、好き。好きというか、信頼できる。現場の人って、こういう顔をするときがいちばん頼りになる。
「そうだな……雨の降り方が、ちょっと変わったな」
「雨の降り方?」
「前は、わりとこまめに降ってくれてたんだよ。一日ちょっとだけ、とか。でも、ここ最近は、“降らないときはぜんっぜん降らないで、降るときにドバーッとまとめて降る”って感じだ」
「ドバーッと……」
「そう。で、ドバーッと降ると、ここの土が一回ぜんぶびちゃびちゃになるだろ?」
「はい」
「で、そのあとすぐカンカンに晴れると、上のほうだけ一気に乾いて、固くなっちまうんだよ。そんで、ひびが入る」
「ひび」
「で、そのひびから水がどっかに逃げちまうときがある」
「どっかに逃げる……」
私は紙に「雨の集中→土が固まる→ひび→水が別方向へ逃げる→湧き水弱く」と書いた。矢印でつないでみる。つないだそばから、頭の中に“やれること”がぽつぽつ浮かんでくる。
「もうひとつ気づいたのはな」
「はい」
「北のほう、森の手前で、木をいっぱい切ったやつがいた」
「木を切った?」
「木をな。たぶん街のほうに売るやつだろ。でっけぇ荷車で持ってってた」
「それ、最近?」
「二年くらい前から、ちょいちょい見かけるようになった」
「……」
「そのへんから、水の出が、なんか変わった気がする」
「森の手前……」
森。水。木を切る。水が減る。うん、それすごくありそうだ。木がなくなると、水を抱えてくれるものが減る。地面の中に水をとどめておく“スポンジ役”がいなくなる。雨が降っても一気に流れるだけになって、地下にしみこむ水が減る。だから湧き水が弱る。うん。すごく納得できる。
「それ、どこの誰ですか?」
「知らん」
「知らん……」
「この村のやつじゃねぇ」
「村の外の人」
「そうだ」
「勝手に木を切りに来るんですか?」
「勝手ってもんでもねぇだろうよ。あそこはギリギリ、うちの範囲じゃねぇからな」
「うちの範囲……」
「線があるんだよ。森ん中の、でっけぇ岩。あの岩から向こうは、“うちじゃない”ってことになってる」
「あ、“取り決めの外側”ってことですね」
「とりきめ?」
「あ、ごめんなさい、むずかしい言い方しちゃった」
私は炭の先で紙をとんとん叩いて、自分でもわかるようにまとめ始める。「北側の森手前で木を切る人がいる→水の抱えこみが減る→湧き水が弱る→畑が遠い水に頼る→運搬がつらい→人手と時間を食う→村全体の余裕が削れる」。矢印が増える。線が複雑になる。一瞬、前職の脳が「このままだとスライド10枚分の課題一覧できますね」と言いかけたけど、さすがに異世界にスライドはない。いやスライドはないけど、紙はある。紙があるならなんとかなる。紙最高。紙 is GOD。
「わ、わかりました。ありがとうございます。めっちゃ助かります」
「お、おう。なんかようわからんが、役に立つならいい」
「めちゃくちゃ役に立ちます」
「そうか」
「“そうか”じゃないですよ!? これめっちゃ重要ですからね!? 今日のこの話、ほんとに村の水の今後を左右する超重要ヒアリングだからね!? レジェンド回だからね!? “第3話 水源危機を追え!”ってサブタイトルつけたいくらい大事ですからね!?」
「だいじ!」
ミラちゃんが元気よくオウム返しして、イェルさんが「ははっ」と笑いながら後頭部をかいた。
「ま、とにかくな。水は、いまのところギリギリってとこだ。ギリギリだけど、もう片足は崖っぷちに出てる感じだ」
「崖っぷち」
「ああ。“もう一回なにか悪いことが起きたら落ちるなー”って感じ」
「……」
その言い方が、逆にすごくわかりやすくて、背中が冷たくなった。一歩。あと一歩で落ちる。今はまだ落ちてない。でも、あと一押しで落ちる。そういう状態。
「わかりました。イェルさん、ありがとうございます。まとめます」
「まとめる?」
「はい。まとめて、“村の人が見られる紙”にします」
「紙?」
「うん。見てくださいこれ」
私は今まで書いてた紙を、くるっとイェルさんに向けた。炭でバババって描いたメモ。矢印。バケツの絵。水のしずく。畑の葉っぱ。井戸のマルとバツ。湧き水のところに描いたちっちゃい「じわじわ」っていう線の絵。自分でも字が下手なのわかってるけど、絵はわりとがんばった。伝わればいい。伝われば勝ち。
「お、おお……?」
「こうやって、いま話したことを“目に見える形”にして、井戸の横の板に貼るんです」
「お、おお」
「そうすると、“なんか最近水たいへんだねー”っていうふわっとした話じゃなくて、“こういう理由で水がたいへんです。このままだと崖っぷちです。村で気をつけたいことはこれです”っていうふうに、はっきり共有できるんです」
「お、おおお……」
「そうすると、“だったら北の井戸のバケツの縄はちゃんと巻こうね”とか、“真ん中の井戸のバケツは壊れたまま放置しないで分けとこうね”とか、そういう具体的な行動に落ちるんです」
「お、おおおお……」
「そういう“みんなでできる小さいこと”を積み上げると、一気に崖から落ちる確率が下がります」
「…………」
イェルさんが、ぽかんって口をあけて、私と紙を交互に見た。ちょっとだけ目がまん丸になって、次の瞬間、そのまま、でっかい声で笑い出した。
「はっはっはっはっは!! おいルゼル!!!」
「うん?」
「こいつ、すげぇぞ!!!」
「うん。すごいよ」
「“すごいよ”っておまえ、またさらっと言いやがって!」
「うん」
「いや、まじで、こいつ、すげぇぞ!!」
「うん」
「おまえ、ほんと、いいの拾ってきたな!!!」
「だから拾ってきた扱いはやめてくださーーーい!!!??」
私が全力でつっこむと、ミラちゃんが「ひろってきた~ひろってきた~」って歌いはじめて、私は頭を抱えた。ああもう、これ村中に広まるやつだこれ。明日には「ルゼルが拾ってきた子」って呼ばれてる。いやだ。いやだけど、ちょっと笑えるからまあいいか……いやよくないけど……いやでもちょっと笑えるからまあいいか……くっ、私の心がチョロい……。
「じゃあよ」
イェルさんが、笑いながら顔をぐいっとこちらに近づけてきた。距離が近い。近い近い。顔が近い。圧がすごい。でもいやじゃない。なんかこう、元気で、まっすぐな圧。
「おまえ、“水がたいへんです”って紙、今日の夕方までに作れっか?」
「っ」
ぐらり、と胸が揺れた。夕方。夕方ってことは、今日中。今日中ってことは、今日やるってことだ。つまり、もう「やります宣言」待ったなしってことだ。
ねえ、これ、私、もう“仕事”きた。正式な。納期つきの。依頼の。ちゃんとした。
体の奥が、ぞわって震えた。わくわくと、ちょっとの怖さと、嬉しさと、責任と、ぜんぶがいっぺんに波になって押し寄せてきて、足の裏から頭のてっぺんまで一気に駆けあがっていく。ああ、これ……これ、すごい。すごい生きてる感じする。私いま、生きてる。ちゃんと必要とされてる。ああ、だめだ、涙が、目の奥からじわっと上がってきて――
「っ……!」
私は自分の目を、指の甲でぐいっとこすった。まだ、こぼれてない。セーフ。ノー泣きデー継続。セーフ。いける。いけるいけるいける。
「できます」
はっきり言った。声が震えないように、腹筋に力を入れて、まっすぐに言った。
「今日の夕方までに、“水がたいへんです”の紙、作ります」
「おお!」
「“飲んじゃダメ”のバツ看板と、“ここは飲んでいいよ”のマル看板も、作ります」
「おおお!」
「あと、バケツの仕分け表、“なおす/つかう/すてる”と、“だれがやるか”の欄も、とりあえず叩き台だけ作ります」
「おおおおお!!」
「だから、それを夕方に井戸のところに貼って、“これからこうします”って、みんなに言いたいです」
「……」
イェルさんは、一瞬だけ笑いを止めて、真剣な目で私を見た。それから、にやっと、口の端を上げた。
「いいな、それ」
「ありがとうございます……!」
「よし。じゃあ、夕方な」
「はい!!」
「おいルゼル」
「うん」
「夕方、みんな集められるか?」
「もちろん」
即答。また即答。ああもうだめだこの男。ほんとずるい。あなたの“もちろん”が今日何回私の心臓を助けてるかわかってる? あとで請求書送りますからね? “心の安定費:もちろん×12回分”って書いたやつ。高いよ? たぶんすごい高いよ?
「じゃあ、夕方、井戸のとこでな」
「うん。そうしよう」
「おう。……それと、由香」
「は、はいっ」
「ようこそ、“井戸の人”」
「っっっっっ……!」
あ、だめ。今のはもう、アウト。これはもう、泣いていいやつ。泣きますよ? 泣きますよ?? だって、今の、完全に歓迎の言葉じゃん。“ようこそ”じゃん。“ようこそ”って、初めてちゃんと言われた。あの城では一回も言われなかった。“ようこそ”って言葉、一回もなかった。“歓迎します”って一言もなかった。“役に立て”と“いらないなら帰れ”しかなかった。だから今、“ようこそ”って言葉が胸にぶつかった瞬間、胸の奥のなにかが一気にふわってほどけて、そこから涙がぽろって一粒、ほんとに一粒だけ、こぼれた。
「あっ……」
こぼれた、って自分でもわかった瞬間、私の手が条件反射で目元を押さえた。泣いちゃった。泣いた。こぼれた。今日ノー泣きデーって決めたのに。決めたのに。だめだ。私、ダメだった。泣いちゃった。
「わ、わ、私っ、すみませんっ、ちょっとだけ、これはその、嬉しいほうの……っ」
「うん」
ルゼルの声が、すぐ横からした。すぐ横で、落ち着いてて、やわらかくて、ちゃんと聞いてくれてる声。
「それは、セーフだよ」
「セーフ……?」
「“うれしなき”は、セーフでしょ」
「……っ」
「ノー泣きデーのルールに、“うれしなきはセーフ”って、足していいでしょ」
「……っ、……いいです……っ」
「うん。じゃあ、セーフだよ」
「セーフ……っ」
「うん。いい子」
「だからその“いい子”は心臓にくるって言いましたよねええええええええ!!!!」
私が叫んだら、ミラちゃんが「いいこ~!」ってまた満面の笑顔で真似して、イェルさんが「はははっ!」って大声で笑って、畑の上に、朝の光と笑い声がふわっと広がっていった。
私は、涙を手の甲でごしごしぬぐって、大きく息を吸った。胸の中に、熱いものと冷たいものが両方あって、でもそれが喧嘩してない。ちゃんと隣り合ってる感じがする。ああ、これ、きっと“安心”ってやつだ。安心って、あったかいだけじゃないんだ。ちょっとひんやりしてて、ちゃんと輪郭があって、呼吸しやすい空気みたいなやつなんだ。
「じゃあ」
私は、紙をぎゅっと胸に抱えた。
「夕方までに、“みんなに見せる紙”を作ります。だから、一回家に戻って、板切って、看板つくって、それから表も描いて、それから……」
そこまで一気にしゃべったところで、ふと気づいた。私、今、自然に「家に戻る」って言った。ちゃんと“戻る”って言った。戻る先があるんだ、って、当たり前みたいに言った自分に気づいて、胸が、ぐしゃってなる。泣く。いや泣かない。いやこれはセーフ。セーフだから泣いても? いやだめ。だめだめ。ここでまた泣いたら私もう本当に涙袋の在庫が追いつかない。夕方までもたない。だからがんばる。ノー泣きデー、セーフの乱用はよくない。うん。セーフ権は大事なときにとっとく。
「……よし。戻りましょう、“ルゼルさん”」
「うん」
「いこう、おねえちゃん!」
「うん、ミラちゃん!」
そう言って、私はくるっと踵を返した。スカートの裾がふわっと揺れて、ふくらはぎに巻いた布がきゅっと鳴る。朝の光が、土の道をまっすぐ照らしてる。その道の先に、私の“戻る場所”がある。そこにこれから、“みんなに見せる紙”を並べるための板があって、道具があって、“魔王さま”……いや“ルゼルさん”がいて、ミラちゃんがいて、夕方には村の人たちが集まる。
その光景を想像しただけで、胸の奥の火が、ぱっと明るくなった。今までより少し大きく、少し強く、でもこわくない火。
私はその火を胸のど真ん中に抱きしめるみたいにして、まっすぐ前を見て、歩き出した。
村の真ん中から少し外れた道を、三人で歩く。足もとは土の道で、朝露の名残がところどころきらっと残ってて、踏むとしっとりした感触が布の巻きの上からでも伝わってくる。空はもうさっきより少し明るい。家々の屋根に干してある草は太陽を吸って色がやわらかくなって、洗濯物は風を受けてひらひら揺れる。近くの家からパンみたいな匂いがして、お腹がすこしだけ幸せな気持ちになる。あ、パン屋ってあれかな、草屋根の低い建物からちょっと煙が出てるあそこかな、あとでちゃんとお礼言わないと。
私とミラちゃんは手をつないで歩いていて、ミラちゃんは一歩ごとにぴょん、ぴょん、って軽く跳ねるからそのたびに私の腕も上下する。かわいい。なんだこのエネルギーのかたまり。太陽光から直接充電でもしてるんですか? かわいい。かわいいは力。
その隣で、ルゼルが、私の少し後ろ気味を歩いてくれている。たぶん、私が石につまずきそうになったら支えられる距離感にちゃんといる。そういうとこ自然にやるのずるい。いや、ずるいって言うのもうやめようって思っても、すぐ口の中まで出てくる。反射神経みたいに「ずるい」が出そうになる。語彙をください。新しい語彙をください異世界。
で、歩きながらずっと私の頭の中でぐるぐるしてるのが、さっきのやり取りだ。
「行こう、“井戸の人”」
「はい、“魔王さま”」
って私が返したら、ルゼルが一瞬フリーズして、耳の先ちょっと赤くなって、それで「それ、外で言うのは、ちょっと」って、困ったように笑ってたやつ。あれなに。すごいかわいかったんだけど。え、かわいい。ちょっとだけ赤くなるのかわいすぎて、今も思い出すと胸が変なむずむずする。あの顔、保存したい。脳内スクショ。はい保存。大事にする。
でも、それはそれとして、気になる。
“外で言うのは、ちょっと”。
つまり、“家の中ならいい”って意味にも聞こえるんだけど。いや、そこ突っ込んでいいやつ? だめなやつ? ううん、でも聞いときたい。肩書きってここでは命に関わるのかもしれない。うっかりしたことで彼に迷惑をかけるのはいやだ。私は喉の奥にひっかかってる質問を、いったん丸めて飲みこんでから、ごく普通の声で口に出した。
「あの、ひとつ聞きたいことがあります」
「うん?」
すぐ返事がくるの、いい。なんか、すぐ返してくれるっていうだけで安心する。こういう“ちゃんと聞いてくれる人がそばにいる”っていう安心感、私ほんとに久しぶりなんだなぁってしみじみ思う。
「さっき、“魔王さまって呼ぶのは外だとちょっと”って言いましたよね」
「うん」
「なんでですか?」
正面から聞いた。遠回しにしないで聞いた。これは昨日アイラさん……じゃないや、ついさっきアイラさんに言われた「できることとできないことをはっきり言いなさい」「ちゃんと聞きなさい」を、ちゃんとやりたいなっていう気持ちでもある。そうしたらきっと、後で“あれ言えばよかった”って後悔しないですむ。私はまだこの村に来て半日もたってないのに、もう「後で後悔」は嫌なんだよ。夜になってからぐるぐる考えるのは、もう城の寝床だけで十分だった。
ルゼルは、少しだけ歩く速度を落とした。ミラちゃんもそれに気づいて立ち止まる。私も立ち止まる。村の道の真ん中で三人、ちょっとした立ち話みたいな感じになる。朝の光が私たちの影を道に落として、その影が少し重なる。
「俺が“魔王”って呼ばれるの、嫌いじゃないよ」
「はい」
「むしろ、けっこう好き」
「それはなんか、わかります。似合いますし」
「似合う……?」
あ、今の“似合う”でちょっと目を細めた。なんだこの人。かわいい。かわいいじゃん。なんなの。こっちが照れるからやめてもろて。
「でもさ」
「はい」
「この村の人たち、全員が“魔王”って言い方で呼んでるわけじゃないんだ」
「……あっ」
その瞬間、すとんって腑に落ちた。あ、そっか。そうだ。私、なんか、変なところでとんでもない爆弾ワードをうっかり連呼しかけてたのでは? 「魔王」って、国王に宣戦布告するレベルの、やばい単語だったりしない? いまの平和なこの村の空気で何回も言っていいやつだった? 私いま道のど真ん中で「魔王さま」ってやったけど、あれ私、今の感覚でいう「はい社長~♡」と同じノリで言ってたけど、実は「はい指名手配犯~♡」とか「はい国の仇~♡」って大声で言ってた感じだったりしない? わあ。やば。わあ。やっちゃった?
顔が熱くなる前に、私は慌てて両手を胸の前でぶんぶん振った。
「あっすみませんすみませんすみません!! あのっ、私なんかとんでもないことを公衆の面前で叫んでしまってました!? この村がつぶれるようなワードでした!? 今の時点でこの村に王国軍がばばばーって攻めてきたりしません!? なんか私、すでに侵略フラグ立てました!? 王城の人たちとか“あいつどこ行った?”ってなって、“魔王と一緒にいるぞ討伐だー!”みたいになるやつですか!? やばいですか!? 逮捕されます!? 私、いきなり迷惑かけました!?!?」
息継ぎなしでそこまで叫んだところで、ミラちゃんがふにゃって笑った。
「ゆか、はやい」
「早い?」
「ことば、はやい~」
「あっ……ごめん、ミラちゃん」
「ううん、おもしろい!」
「おもしろいでまとめられてしまった……」
その横で、ルゼルは少しだけ肩を揺らして、でも目はちゃんと真面目で、声は落ち着いていた。
「そこまで大ごとじゃないから、安心して」
「ほんとですか……」
「うん。“魔王”って言葉そのものが危険ってわけじゃない」
「じゃあ」
「ただ、この世界には、いろんな“魔王”がいる」
「え、いっぱい魔王いるんですか」
「うん。いくつも」
「え、量産型なんですか魔王……」
「“なにかの群れをまとめてる強い存在”っていう意味で、そう呼ばれることはよくあるよ。だから“魔王”っていうだけじゃ、実はそんなに特別じゃない」
「あっ、なるほど……“社長”くらいのノリなんだ……」
「しゃちょー?」
「あ、えっと。“現場のトップの人”っていう感じです」
「うん。そんな感じ」
「なるほど、じゃあ“魔王”って言われるのは、まあ、“この人はここのトップです”っていう肩書きみたいな、そういうの」
「だいたいはそう」
「だいたいは、ってことは、例外がある」
「うん。ある」
「それが、あなた?」
「……うん」
彼はほんの少しだけ目を伏せて、それからまたこっちを見た。その目は、朝の光にすこし金が混じる茶色で、静かな水みたいに落ち着いている。不思議な目だ。やさしいけど、どこか底が見えない。昨日の夜、ずっと泣いてた私を支えてくれたときと同じ目だった。
「俺は、もともと人間じゃないんだ」
「はい」
自然に返事してる自分に、私はちょっとだけ驚く。でも、違和感はない。昨日からなんとなくそういう話は聞いてたし、“魔王”って呼ばれてたってことはそういうことなんだろう、って頭のどこかでわかってたし。今さら“えっ!? 人間じゃないの!?”って驚くより、“はい”って頷くほうが自然だった。
「この国では、人間じゃない存在の中で、人間にとって危ないものは、だいたい“魔物”ってひとくくりにされる」
「うん」
「で、その“魔物”たちをまとめてるやつのことを、“魔王”って呼ぶ」
「ほう……」
「だから、“魔王”って言葉そのものは“魔物の王”って意味なんだよ」
「あっ、直訳だったんですねそれ完全に」
「うん」
「で、あなたは……」
「俺は、そう呼ばれたことがある」
“呼ばれたことがある”。なんだろう、その言い方。今はそうじゃない、っていうニュアンスを感じる。私はすこしだけ首をかしげた。
「でも、“今は違う”って顔してますね」
「うん。いまは違う」
「違う、っていうのは?」
「……いまは、“村のルゼル”でいたいんだ」
その言い方が、やさしかった。やさしいけど、どこかちょっとだけ申し訳なさそうでもあって、私は無意識に一歩、彼のほうへ寄った。聞く、っていう姿勢をちゃんと見せたかった。ちゃんと聞きたい、って顔をしたかった。
「“魔王”って呼ばれるときの俺は、“怖いもの”なんだよ。人間にとって」
「うん」
「“怖いもの”っていう肩書きがあると、便利なときもある。話が早く済むから」
「“わかりやすい力の象徴”ってやつですね」
「うん。すごく、わかりやすい」
「はい」
「でも、村では、それいらないんだ」
その言葉で、なんか胸がきゅっとなった。いらない。言い切った。すごい。いらない、って強い言葉だ。それを、さらっと言えるって、すごい。
「村の人たちは、俺を“怖いもの”として見なくていい。見てほしくない」
「……」
「“怖いもの”の顔をしてると、みんな俺に近づきにくいでしょ。水のこととか、道具のこととか、畑のこととか、ちいさいことで困ってても、声をかけにくくなる」
「うん……」
「それだと、いやなんだよ」
それは、たぶん本音だ。肩書きとか役割とかより前にある、素の“いやだ”っていう気持ちだった。私にはそれがちゃんと伝わる。胸の奥にそのまま落ちてくる。
「だから、この村のなかでは、“ルゼル”でいい。っていうか、“ルゼル”がいい」
「……」
「“魔王さま”って大声で呼ばれると、ちょっと“怖いほうの俺”が前に出てきちゃうから」
「あっ」
「それで“ちょっと”って言ったの」
「あー……」
そこまで聞いて、私は自分がやらかしかけてたことをちゃんと理解した。なんか、すごくよくわかった。つまりあれだ。たとえば会社の飲み会で、みんなで普通にしゃべってるときに、いきなり「はい部長ォ~~!」って大声で呼ぶみたいなもので。それやると、その人が“部長モード”に強制的に引き上げられて、まわりも「あ、いま冗談じゃなくて仕事の人間関係だ」って空気になる、みたいなやつ。それ。あれめっちゃわかる。あれしんどいやつ。わあ、私、しんどいやつをこの村に持ちこむところだったんだ。あぶな。
「すみません……」
「ううん。由香は悪くないよ」
「いやでも、意図はなくても、結果的にそういうことだったわけで……」
「でも、ちゃんと聞いてくれたから」
「それは……そりゃ聞きますよ……」
「“そりゃ”?」
「あ、えっと、もちろん聞きますよってことです」
「うん。ありがとう」
「ありがとうって言われるほどのことじゃないんですけど……」
「あるよ」
「あるの?」
「ある」
即答。ずるい。即答で「ある」って言われると、心臓のあたりがじゅわっとあったかくなる。即答ってずるい。ずるいって言うのやめたかったのにまた言っちゃった。はぁ。だめだこの世界、ずるいでいっぱいだ。私の語彙ぜんぜん足りない。
「じゃあ、外では“ルゼルさん”って呼びます」
「うん」
「家のなかは?」
「家のなかは……」
彼はほんの少しだけ目をそらして、口をむにっとさせて、それから小さく咳払いした。なんでちょっと照れてるの。なんでさっきちょっと耳が赤かったときと似た反応するの。かわいいんだけど。かわいいんだけど!? いや、かわいいって思った瞬間に私のほうの耳も熱くなるのやめてほしい。連動すんのやめてほしい。こっちの体温まで上げないでほしい。私、いま気温で溶けるアイスクリーム状態なんだよ。常時とけかけなんだよ。
「……家のなかは、“魔王さま”でも、いいよ」
「っ」
「あと、“ルゼル”でも、いいよ」
「っっ」
「どっちでも、いいよ」
「っっっ」
だ め だ 。心臓が死んだ。今の死んだ。今のその、「どっちでもいいよ」を、落ち着いた声で、当たり前みたいに、ちょっと照れながら言うのは、完全に反則。カード二枚出されてる。二枚出されてるよ今。退場を二回宣告されたよ。ゲームオーバーだよ。リスポーン地点はどこ。どこにリスポーンすればいいのこれ。あなたの隣ですか? そういうことですか? 落ち着いてください心臓。
「……っ、……わかりました……っ」
「うん」
「じゃあ、外は“ルゼルさん”で、家のなかは“魔王さま”と“ルゼル”、状況に応じて適切に使い分けさせていただきます……っ」
「うん。よろしくね」
「よろしくねってさらっと言うのやめてください死にますので」
「死なないで」
「死なない努力はします」
「うん。大事」
「大事ってさらっと言うのやめてください死にますので(二回目)」
「うん」
「……」
「……」
「……はい。深呼吸しますね」
「うん」
「すー……はー……」
「いい子」
「ちょっと!!!!!!!!」
はい死亡。完全に死亡。いまの「いい子」はクリティカルヒットでした。致命傷。瀕死。いや瀕死どころじゃない。アウト。アウト判定。ノックアウト。今の「いい子」一撃でノーガードの顔面に入ったので完全に落ちました。もうやめて。慎ましさって言葉を思い出して。朝からこの甘やかし量は心臓がもたない。いや、でも、もたせる。生きる。生きてこの村で暮らすって決めたんだから、生きる。心臓が忙しいくらいで死んでる場合じゃない。
「ゆか、あかい~」
ミラちゃんが、私の顔をじっとのぞきこんで、にへっと笑った。近い。おめめきらきらで近い。かわいい。やばい。かわいいのは正義。正義には逆らえない。
「これはですね、ミラちゃん。これはその、暑いんだよ今日」
「きょう、ちょっとさむいよ?」
「ミラちゃん、正直ですね?」
「うん!」
ミラちゃんは正直だった。正直はいいこと。正直は時に刃物。かわいい刃物。かわいさで胸をサクサク切り刻まれる。何この世界。平和ってこういうことを言うんですか? 平和こわい。幸せって暴力なんだ。勉強になる。
「それでね」
ルゼルが、声を少し下げた。真面目なトーンに切り替わったのがわかる。私の頭の中も、反射的に“会議モード”に切り替わる。社会人の悲しい性だよね。こういうトーンで話しかけられると、一秒で「議題はこれだな」って整列し始める。ある意味便利だけど、ある意味切ない。まあでも今は便利なので使います。
「王城の話を、少しだけ、しておきたい」
その言葉で、胸の奥が一瞬だけぎゅっと固くなった。王城。そうだ。そこから私は“追い出された”んだ。いま、“村の子”って言ってもらえて、ほぼ幸せで胸がいっぱいになって、涙まで出かけて、完全に忘れかけてたけど、私、もともとあそこから連れてこられたんだ。私は、よくわからないまま召喚されて、“役立たず”って言われて、“おまけ”って言われて、“帰れ”って言われた。その現実は、まだちゃんと終わってない。あそこには人がいて、権力がいて、兵士がいて、命令があって、たぶん勝手なプライドもある。
「……はい」
私は背筋をのばしてから、うなずいた。顔はなるべくまっすぐでいたかった。やだなって顔はしたくなかった。だってそれは、ここで暮らしてくって決めた私の、最初の“つよがり”でもあり、“宣言”でもあるから。私はもう、あの城に縛られてる女じゃない。私は“井戸の人”。私はこの村の子。それをちゃんと自分でも信じたかった。だから、逃げずに聞く。
「まず、由香を呼んだのは、あそこにいた、白い服の男」
「……あの人」
すぐに顔が浮かぶ。冷たい目をして、鼻で笑って、こっちを見下ろして、書類だけはやたら整っていた男。名前は……そうだ、言ってた。なんとか卿とかそういうの。「勇者召喚式典責任者」って自分で名乗ってた。なんだその肩書き。肩書き長いと偉そうに見えるって思ってるやつだ。あるある。会社にもいた。だいたいそういう人、実務してない。
「たぶんあいつは、まだ“勇者召喚しました”っていう実績がほしいんだと思う。だから、由香を戻そうとはしない」
「戻そうとはしない?」
「うん。“おまけ”って言って、最初から無視したんだろう?」
「はい。えっと、“主役はそっちの方なんで”って、私じゃなくて隣の子を指して言ってました」
隣の子。あの子のことを思い出すと、私の胸はちょっとだけ複雑になる。やさしい顔してた。困ったような顔で私を見て、“ごめんね”って小声で言ってくれた子。彼女はいわゆる“美人同僚”だったんだけど、別に悪い子じゃない。むしろいい子だった。だから余計に、あの部屋の空気がいやだった。誰かを持ち上げるために誰かを捨てる、っていうやり方が、すごく気持ち悪かった。
「だから、あの男はたぶん、“いなくなったおまけの子”のことなんて覚えてない」
「……うん」
「問題は、周りの兵士たち」
ルゼルの声が、少しだけ低くなる。私は反射的に身を乗り出した。ミラちゃんも、なんとなく空気を察したのか、私の手をぎゅっと握り直して、少しだけおとなしくなる。え、すごいなこの子。空気読む力が高い。将来有望すぎる。
「兵士たちは、“知らない人間が城から連れ去られた”っていう形に見えたはずなんだ」
「……あっ」
「その“連れ去られた”人間が、ここにいる、ってことになると、ちょっとだけ、面倒が起きるかもしれない」
「面倒」
「うん。“あの子返してください”って言われる可能性が、ゼロじゃない」
「“返してください”……」
返してくださいって、何。私、物じゃないんだけど。いや、あの城の人たちからしたら、私たちは“物”だったのかもしれない。召喚の成功例。サンプル。データ。使えるか使えないかを仕分ける対象。うん、そういう目は確かに向けられてた。あの冷たい視線、覚えてる。背中がひやってするやつ。
「返してくださいって言われたら、どうするんですか?」
「返さないよ」
即答。やっぱり即答。もう、即答のたびに心臓があったかくなるの、ほんとやめて。いややめないで。いややめて……ってこれ何回目? 何回でも言うよ? ほんと反則なんだよその即答。
「“この村の子”って言ったでしょ」
「……」
「“村の子”を、勝手に連れていこうとする人がいたら、誰でも止めるよ」
「誰でも?」
「うん。俺だけじゃなくて、みんな」
みんな。ああ、そうだ。そうだよ。アイラさんがさっき言ってた。「うちの村の子ってことでいいわね?」って。あれ、宣言だったんだ。この村全体に対しての。つまり「この子に手を出したら村全体にケンカ売るのと同じだからね?」っていう、宣言。あの人、さらっとめっちゃ大事なことやってたんだ。やば。あの一言にそんな意味があったのか。私今さら気づいて若干震えてる。すごい。あの人、やっぱりすごい。
「だから、あの城が、もしここに手を伸ばそうとしたら」
「したら?」
「それは、“村全部まとめて敵に回す覚悟があるか?”って話になる」
「……」
「で、たぶん、あの城は、そこまではしない」
「……なんでですか?」
「めんどくさいから」
「あっ」
即答で出てきた答えがあまりにも日常で、私は変な声が出そうになって、でも出さないように口をぴって押さえた。めんどくさいから。そうだ。そうなんだよ。結局、権力の人たちが一番嫌がるのは“手間”だ。面倒で、コスパが悪いことは、しない。わかる。ものすごくわかる。
「この村、ちょっと、変わってるからね」
「変わってる?」
「うん。国からちゃんと“ここはこの村のものだよ”って認められてる土地なんだ」
「えっ、そんなことってあるんですか」
「あるよ。ちょっと昔に、いろいろあって、紙をいっぱい交わして、約束をいっぱいして、ここは“ここだけでやります”っていうことになってる」
「紙……」
紙って聞いた瞬間、胸がじんってした。紙。ああ、その紙、見たい。すごく見たい。読みたい。内容把握して整理したい。フォルダに入れてどこに何があるのか把握したい。書式統一したい。読みやすいようにインデックスつけたい。ああ、あの感じ、すごい好き。すごい落ち着く。紙がある世界って最高だ。紙は世界を救う。いやほんとに。
「つまり、“勝手に兵士を入れないでください”っていう取り決めも、ある」
「えっすごい」
「だから、兵士がもしここまで来たら、“約束違反だよね?”って話になる。その時点で、あっちのほうが悪い」
「なるほど……」
「だから、そこまでして由香を取りに来るか?っていうと、来ないと思う」
「……」
私は、胸の奥が少しずつすうっと落ち着いていくのを感じた。いま、頭の中で地図を書いてる。王城、兵士、村。その間には“取り決め”っていう線が引いてある。線の上には「紙あり」ってメモ。村のところには「村の子=守る」ってメモ。私のところには「井戸の人」ってメモ。メモで世界が整理される。ああ、この感じ。これがあると私は怖くなくなる。見えないものが一番怖いから。見えるようにしてもらえたから、ちょっと怖くなくなった。
「……よかった」
「うん」
「よかったです。私、またあそこに戻されるのかと思って……」
言った瞬間、胸の奥がきゅうって痛んだ。やだやだやだ。いやだ。あそこには戻りたくない。あの冷たい床と、白い光と、見下される目と、「おまけ」ってタグ。いやだ。ほんとにいやだ。想像しただけで手が震える。
「戻さないよ」
また即答。ずるい。ほんとにずるい。即答で「戻さないよ」って言われたら、もう私、そこに全部の体重を預けたくなっちゃうじゃん。全部の重さをそこに置いて、もう歩くのやめていいですかって言いたくなっちゃうじゃん。危ない。危ない危ない。心臓がまたじんってなる。
「……ありがとうございます」
「うん」
「ほんとに、ありがとうございます」
「うん」
「あとでちゃんとお礼させてください」
「うん?」
「本当にちゃんと。言葉とかじゃなくて。私、できることちゃんとやりますから。ぜんぶちゃんとやりますから」
「うん」
「だから、“戻さない”って言ってくれた分、私は“ここにいていい”って胸張れるようにがんばります」
「うん。うん」
ルゼルは、静かに何回かうなずいた。その目は、ちょっとだけやわらかくて、でもちゃんと真剣だった。その目を見てたら、私の胸の奥でぐしゃぐしゃだったものが、すこしずつ整っていくのがわかった。ああ、だいじょうぶだ。だいじょうぶ。私はここにいていい。ここにいて、いい。
「じゃあ、決まりね!」
いきなり横から明るい声が飛んで、私はびくっとした。ミラちゃんだ。ぴょんって私の手を上下に振りながら、ものすごい満面の笑顔で言った。
「ゆかは、うちのむらのこ!」
「うん!」
「だから、だれにもあげない!」
「うん!!」
「だから、ゆかは、ミラのおねえちゃん!」
「うん!!!?」
はい死んだ。完全に死んだ。いまので死んだ。なんだその最高級の肩書き、なんでそんなのを朝の土の道の真ん中でさらっと宣言してくるの、なんで私はそれを今受け取ってしまったの、なんで心臓がこんなにあったかいの、え、なにこれ、幸せってこういう感じ? あの、“おねえちゃん”って呼ばれるの、私、人生で初めてなんですけど。私ひとりっ子だし。誰にも呼ばれたことないし。こんなに、こんなに真っ直ぐにぴかぴかの笑顔で「おねえちゃん!」って言われたことないし。ちょっと待って。ちょっと待って。涙腺、今、開くの禁止。ノー泣きデー。ノー泣きデー。あーーーでもこれ、これは、例外規定……これは例外規定にしてもいいんじゃないですか? どうですか? 審議! 審議入ります!! 異議なし多数!! これは泣いてもセーフでは!? セーフでは!?!?
「ゆ、ゆ、ゆか、おねえちゃん……っ、で、いいんですか……?」
「いいの!」
「い……いいの……っ」
「うん!」
ミラちゃんは、当たり前みたいにうなずいた。その当たり前さが、胸の奥をぐわってつかんでくる。やばい。溶ける。今日何回溶けるの私。もう液体。村に染みこんで消えるよ? 土に還元されるよ? それはそれでたぶん幸せだけど、まだやることあるから溶けないで。
「じゃあ、ミラちゃん」
「なに!」
「これからも、よろしくね」
「うん! よろしくね、おねえちゃん!」
「あっっ……」
はい決まった。正式採用された。私はいま正式に“おねえちゃん”職の内定をいただきました。ありがとうございます。がんばります。責任感が爆上がりしました。世界にこんな瞬間があるなんて。やばい。しんどい。幸せってしんどい。
「よし。じゃあ、行こうか」
ルゼルが、なにかすごく満足そうな顔で言った。たぶんいまのやりとり全部聞いてた。聞いてたよね? 聞いてたよね?? その顔なに? その「よかったね」って顔なに? やめて心臓が死ぬ。やめて。いややめないで。やっぱやめて。いややめないで。あーーもう!!
「いきます……!」
「いこー!」
「うん」
私たちはまた歩き出した。今度は湖のほうから少し離れる形で、村の外れに近いほうの道に入っていく。土の道は途中から少しだけ草が混ざってきて、足もとに小さな白い花や黄色い花がちらっと見えはじめる。風は森のほうから吹いてくるみたいで、ちょっとひんやりする。草の匂いが強い。鼻の奥がすっとする。こういう匂い、好きだなって思う。頭がクリアになる。
「そろそろ、北の井戸」
「北の井戸……」
「うん。こっちは、まだ飲める方」
「“まだ”飲めるっていう言い方がちょっと引っかかるんですけど、つまり“こっちもやばくなる可能性がある”ってことですよね」
「うん。だんだん、ね」
「だんだん……」
そうだ。そうだった。水って、減るし、汚れるし、止まるんだ。私の中の“都会の水道”の感覚がまだ強くて、「蛇口をひねれば透明できれいな水が出る」っていうイメージが、体から抜けきってない。でも、ここではそれは当たり前じゃない。ここでは“まだ飲める”って言い方をするんだ。つまり、いずれ飲めなくなる日が来るかもしれないっていう前提で生きてるんだ。
胸の奥が、きゅっと引き締まった。今までふにゃふにゃにとけてた気持ちが、一気に現実に戻される。うん。そうだよね。ここはスローライフっていう言葉でごまかしていいだけの場所じゃない。ちゃんと現実があって、課題があって、困ってることがある。その困ってることを“なんとかしよう”って、みんなが毎日生きてるんだ。
「“まだ飲める井戸”には、子どもも行く?」
「行くよ」
「じゃあ、そっちに“飲んでいいよ”マークも欲しいですね」
「マーク?」
「うん。さっき言ってた“飲んじゃダメ”だけじゃなくて、“こっちは飲んでいいよ”をセットにすると、子どもって混乱しにくいので」
「なるほど」
「“なんでもダメ”って言われると、逆に“じゃあどこならいいの”ってなって、結局いちばん近いところで飲んじゃうので」
「なるほど」
「だから、“こっちはバツ、こっちはマル”って、セットで覚えさせたいんですよね」
「マル?」
「あっ、〇って意味です。よい、のマーク」
「なるほど」
「うん。だから、マルの看板もほしいです。“ここはのんでいいよ”ってかわいい顔で言ってるやつ」
「かわいい顔」
「はい。かわいいは正義なので」
「そうだね」
スッ……て自然に同意が返ってきた。いや、なんでそこだけそんな即答で“そうだね”って言えるの。あなたもさっきからずるい。ずっとずるい。ずっと私の心にクリティカルヒットさせてくる。
「その、看板用の木って、すぐ用意できますか?」
「できるよ。家に端切れがある」
「端切れ……木材のあまり、ってことですよね」
「うん」
「それを四角く切って、角ちょっと丸めて、ひも通す穴あけて、っていう作業ですか」
「そう」
「道具はありますか? ノコギリとか、ナイフとか、トンカチとか」
「ある」
「あるんだ……」
「あるよ」
さらっと言うけど、あるってすごい。あるって本当にすごい。道具が“ある”って、つまり“直せる可能性がある”ってことだ。壊れても捨てないで済む。修理できる。ずっと使える。なんだろう、この“ある”っていう言葉の安心感。私の胸の奥にぽんぽん灯がついていく。この村は“ある”が多い。ゼロからじゃない。“ないから無理です”って空気じゃない。“あるからやろう”っていう空気。それって、たぶん、とんでもなく尊い。
「この道をもう少し行くと、北の井戸。その手前にイェルの畑。この時間なら、まだ畑にいる」
「よし、じゃあイェルさんにヒアリングですね」
「ヒアリング」
「話、聞くやつ」
「うん」
「“ヒアリング”って言うとそれっぽいから好きなんですよ」
「それっぽい?」
「そう、なんかこう、“私はいま仕事してます”って感じが出る」
「なるほど」
「この村でも使っていこう。“ヒアリング”」
「村に横文字文化を持ちこまないでください!? いや横文字っていうか日本語なんですけど!」
「ヒアリング~!」
ミラちゃんがうれしそうに復唱した。あ、かわいい。あ、もうだめ。なにその小動物みたいな吸収スピード。たぶん今日の夕方には「ヒアリング~」って村中に広まってる。やばい。責任重大。私、うっかり変な言葉入れられないじゃん。
「で、ヒアリングをして、その内容を紙にまとめて、さっきの“なおす/つかう/すてる”表の下に“小さい村ノート”として貼りたいんですけど、板ありますか?」
「板は、ある」
「また“ある”が出た……」
「でも、そんなに大きくはないよ」
「小さくていいです。大丈夫です。むしろ小さいほうが人が立ち止まりやすいので」
「なるほど」
「あと、文字が読めない人もちゃんとわかるように、絵を使いたいです」
「絵?」
「はい。たとえば“水が足りない”っていうときは、水のしずくの絵を描いて、その横にバツをつけるとか。畑の野菜の絵を描いて、その下に“しおしお”みたいな線を描くとか。そうすると、文字が読めない人も見てわかるので」
「なるほど」
「“なるほど”って言うたびに、なんかこう、すごい進んでる感じして嬉しいなぁ……」
「うれしい?」
「はい。嬉しいです」
「うん。よかった」
「よかった、って言うたびに私はまた心臓が忙しいので深呼吸させてください」
「うん」
「すー……はー……」
「いい子」
「またそれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
私が叫んだら、ミラちゃんが「いいこ~!」って真似して、きゃははって笑った。さらに心臓にいいダメージ。やめてください。いややめないでください。あ~もうどうすればいいの。心臓が忙しいこの朝。
そうやってわちゃわちゃしているうちに、道の先にひらけた場所が見えてきた。畑だ。土がていねいに耕されて、いくつもの畝がまっすぐ並んでいる。そこに、緑の葉っぱが低く広がっていて、葉の先にはまだ朝露が残ってきらっとしている。奥のほうでは、少し背の高い茎がすらっと伸びて、黄色っぽい花みたいなものをつけている。風がふくたび、葉っぱたちがざわざわと揺れる。土の匂いがいっそう濃くなる。湿った土の匂い。生きてる匂い。ああ、これ、好き。めっちゃ好き。
畑の真ん中あたりに、ひとりの人影がしゃがんでいた。背中が広い。腰がどっしりしてる。大きな手が、葉っぱの根元あたりをていねいに触っている。髪は短く刈っていて、色は少し明るめの茶色。首には布を巻いて汗をぬぐっている。近づくと、その人影がこちらに気づいて、顔を上げた。
「お?」
顔が、日に焼けている。目じりにしわがある。がっしりした体つきで、とにかく“畑の人”っていう言葉が似合う。たぶんこの人がイェルさんだ。私の脳が勝手に「この人=水をいちばん使う人=超重要」と赤字でメモしている。
「おーい、イェル」
ルゼルが手をあげた。イェルさんは、一瞬だけ目を細めて、にやっと笑った。にやっと、っていう言葉がぴったりの笑い方。ちょっと悪ガキみたいな、いたずらっぽい笑い。
「おいおいおい、朝っぱらからにぎやかだと思ったら、おまえまた拾ってきたのか?」
“また”。また、って言った。ということは、前にもこういうことがあったのかもしれない。なんか、ちょっとだけ安心した。私、ここに拾われたの、初じゃないんだ。前例があるんだ。前例、超大事。前例あるってだけで心の安定度が三割くらい上がる。前例という神。ありがとう前例。
「まっっっっっってくださいイェルさん」
私は反射で前に出て、両手をぶんぶん振った。
「すみません、“拾ってきた”は、その、なんかこう、ひじょーに、野良犬とか落ちてた家具とか、そういうニュアンスが発生してしまうので! 私いちおう人間です! 人間です! あと、なんか、ちゃんと歩いてここに来ました! ので! 拾得物扱いはちょっと心にくるので! そこだけ、えっと、言わせてください!」
言い終わってから、あ、初対面でなにやってんだ私って一瞬で青ざめた。やば。いきなり何を主張してるの私。勢いだけでしゃべった。やばい。イェルさんの顔が、どう変わるか、ちょっと怖い。怒られたらどうしよう。めっちゃ怖い。初対面で怒られたらたぶん私ふにゃってなる。
だけど、イェルさんは、逆に目を丸くして、それから腹の底から笑った。
「はははははっ、いい! いいねぇ! あー、いい! すげぇいい! おいルゼル、おまえ、いいの拾ってきたな!!」
「“拾ってきた”は修正されないんですね!?!?」
「はははっ!」
うん、なんか、嫌な笑いじゃなかった。からかいはあるけど、嫌な感じしない。むしろ“気に入った!”っていう笑い方。胸の奥が一気にゆるんだ。ああ、よかった。よかったー。心臓生き延びた。よかったー。
「イェル。この子は、由香」
「ユカです! はじめまして! 昨日、えっと、その、城から来ました! 今日からここで暮らします! “井戸の人”やります!」
勢いで自己紹介した。うん、いい感じ。昨日の夜に練習したやつ、ちゃんと出た。レジュメ通り。今日の私えらい。ちゃんと覚えてる。ルゼルも、横で「うん」ってちいさく頷いてる。うん、これで合ってるみたい。
「井戸の人、ねぇ」
イェルさんは、にやっと笑ったまま、立ち上がった。土のついた手で、作業用っぽいズボンをぱんぱんってはたく。その仕草がめっちゃ“畑の人”で、ちょっとかっこいい。力仕事する人ってやっぱりかっこいいな。頼れる背中って感じがする。
「いいじゃねぇか。“井戸の人”。ひさしぶりに聞いたな、それ」
「えっ、前にもいたんですか?」
「ああ。昔な。俺がまだこんなデカくなる前のころ」
「デカくなる前って自分で言うのかわいいなこの人」
「なんか言ったか?」
「いえ何も」
「ははっ」
「その、“井戸の人”だった方って、どんなことしてたんですか?」
「そうだなぁ……いろんなもん並べてたな」
「並べてた……!」
胸がきゅっと高鳴った。並べてた。きた。魔法の言葉「並べてた」。私の大好物。私の生きがい。私のアイデンティティ。私が生きている意味。並べることは救い。整理は正義。陳列は平和。
「壊れかけの桶と、縄と、使えるやつと使えねぇやつを分けて、誰でもわかるように見えるとこに置きなおして、“これは持っていくなバカ”“これは好きに使えバカ”“これは直せバカ”ってな」
「言い方ぁぁぁぁぁぁぁ」
「わかってんだよ、あれが一番伝わるんだよ」
「まぁ確かに……」
「“バカ”って書いときゃ、だいたい“あ、オレのことかな”って思うやつが勝手に考えるからな。便利だぞ」
「なんかすごい現場の知恵って感じする……」
「で、その“井戸の人”がいなくなってから、またぐっちゃぐちゃになって」
「はい」
「困ってたんだよなぁ」
「はい」
「だから、“井戸の人”がまた来たってんなら、そりゃあ助かるわ」
「――」
胸の奥に、熱いものが一気に広がった。今の、“助かるわ”っていう一言。なんでこんなに心に刺さるんだろう。助かるって、こんなにあったかい言葉だったんだ。助かるって、“いてよかった”って同義なんだ。私、いてよかったんだ。いていいんだ。はぁ。泣きそう。ノー泣きデー。ノー泣きデー。今の涙はセーフ? アウト? どっち? 審議?
「それで」
私は紙と炭を取り出した。しゃがんで膝の上に紙を置いて、炭を握る。うん、もう完全に“ヒアリング”モード。脳が勝手に仕事モードになる。落ち着く。呼吸が整う。こういうときの私は強い。強い私でいたい。いま、強い私でいたい。
「イェルさん、水って今どんな感じで使ってますか?」
「どんな感じ?」
「はい。ざっくりでいいので、“一日にどのくらい必要で、どのくらい足りなくて、どこから運んでて、どこが一番きついか”を教えてください」
「お、おお……?」
イェルさんがちょっと目を丸くした。ごめん、言い方が完全に前職なんだよ。業務ヒアリングなんだよ。定例聞き取り会議のテンプレが口からそのまま出た。でもこれがいちばん早いから許してほしい。
「たとえば、“畑に水まくの一日どれくらい必要ですか?”とか、“どっから運んでますか?”とか、そういうのでいいです」
「あー。そういうことか。そういうことなら、そうだな……」
イェルさんは、あごに手を当ててちょっとだけ考えこんでから、指を一本立てた。
「まず、いまは北の井戸から水運んでくる」
「北の井戸、はい」
「バケツ二つ両手に持って、ここまで往復」
「往復……距離は?」
「だいたい、家からパン屋までの半分くらい」
「パン屋わかんないのでメートル換算でお願いしたいところなんですけど異世界にメートルあるんですか?」
「めーとる?」
「ないっぽいですね!? じゃあ私の体感であとで測ります!」
「お、おう?」
「続けてください!」
「お、おう……で、往復を、朝と昼に二回ずつ。四往復くらいすりゃ、いまの時期はなんとかなる」
「今の時期……」
「うん。これが日が強くなってもっと乾くと、一日六往復だな。七のときもある」
「六~七往復……」
「で、いまはミラのおかあさんとかも手伝ってくれるけど、夏場はそれでもぎりぎりだ。ギリギリっていうのは、“葉っぱがしおしおなるのを、まだ間に合ううちにどうにかできる”ぎりぎり。つまり、ほんとはもっとあればもっとよくなる」
「なるほど……」
私は紙に走り書きする。炭がこすれて手が黒くなるけど、そんなの今どうでもいい。大事なのは情報。情報は力。情報は希望。情報は改善案の母。ああ、やばい、私いまめっちゃ楽しい。楽しいのちょっと怖いくらい楽しい。
「つまり、“足りてはいるけど、余裕はない”ってことですね」
「そう」
「で、“真ん中の井戸”は使ってない」
「ああ。あれはな。においがするだろ」
「はい。しました。鼻が“やめとけ”って言ってました」
「飲んだら腹こわす」
「腹こわすのはだめですね」
「だめだ」
「だめです」
「だめだな」
「だめです」
「だめなんだよ」
「だめですね」
「だめだ」
「だめです」
「……お前らなにやってんの?」
イェルさんが苦笑する。私とイェルさんで「だめ」ってエコーしてただけだった。横でルゼルが肩を揺らして笑ってる。ミラちゃんは「だめだめ~」って歌い始めてる。平和。いやいや今は真面目な話ですよ? ね? 真面目な話してますよ? してるんですけど、なんか空気がほぐれていく。こういう空気、すごくありがたい。怖い話してるのに怖くなりすぎない。心が折れない。ずるい。ずるい世界。
「で、三つ目」
「はい」
「この畑の横、前は小さい水だまりがあったんだ」
「水だまり?」
「うん。地面からちょろちょろ水が出てる場所」
「湧き水だ……!」
「わきみず?」
「地面から勝手に出てくる水です。超貴重なやつです。スーパースターです。村のアイドルです」
「アイドル?」
「人気者ってことです」
「ああ。そうだな。人気者だったよ」
イェルさんは、ちょっとだけ目を細めた。そこにはすこし寂しさみたいなものが混じっていた。
「でも、ここ二年くらいで、それがだんだん弱くなってきてな。いまは、雨が降ったあとじゃないと、もう出てこない」
「……」
「だから、畑に近い水が、なくなってきてる」
「畑に近い水が、なくなってきてる……」
私は書きながら、胸が少し冷たくなるのを感じた。これは、たぶん、すごく大事な情報だ。水源が細ってきてる。この村の“のど”が細ってきてるってことだ。だって、北の井戸まで運べば水はある。でも、それを毎日六往復七往復できる人が、ずっと元気にいるとは限らない。ケガもする。熱も出す。年もとる。子どもは育つけど、育つ前に倒れたら終わり。畑の水が止まったら、食べ物が止まる。食べ物が止まったら、村が止まる。
「イェルさん」
「おう」
「これ、いっぱい聞いてもいいですか」
「いいぞ」
「“いっぱい”って言われると、長くなるんですけど」
「いいぞ。どうせおまえ、長くなるタイプだろ」
「初対面で性格を当てられた!!?」
びっくりして変な声が出た。イェルさんは、にやにや笑っている。なんだこの人。ちょっと好き。即“ちょっと好き”って思わせるのずるい。村の人たち、初対面での好感度が軒並み高い。これが“人間関係スローライフ”のちから? あなどれない。
「で、その湧き水が弱くなったの、なんでだと思います?」
「なんで?」
「なにか、変わったことありました?」
「変わったことかぁ……」
イェルさんは、両手を腰に当てて、畑のほうを見た。目が、真面目になる。さっきまでの“にやにや”が、きゅっと引き締まる。たぶん、この人の“仕事モード”なんだろう。こういう切り替え、好き。好きというか、信頼できる。現場の人って、こういう顔をするときがいちばん頼りになる。
「そうだな……雨の降り方が、ちょっと変わったな」
「雨の降り方?」
「前は、わりとこまめに降ってくれてたんだよ。一日ちょっとだけ、とか。でも、ここ最近は、“降らないときはぜんっぜん降らないで、降るときにドバーッとまとめて降る”って感じだ」
「ドバーッと……」
「そう。で、ドバーッと降ると、ここの土が一回ぜんぶびちゃびちゃになるだろ?」
「はい」
「で、そのあとすぐカンカンに晴れると、上のほうだけ一気に乾いて、固くなっちまうんだよ。そんで、ひびが入る」
「ひび」
「で、そのひびから水がどっかに逃げちまうときがある」
「どっかに逃げる……」
私は紙に「雨の集中→土が固まる→ひび→水が別方向へ逃げる→湧き水弱く」と書いた。矢印でつないでみる。つないだそばから、頭の中に“やれること”がぽつぽつ浮かんでくる。
「もうひとつ気づいたのはな」
「はい」
「北のほう、森の手前で、木をいっぱい切ったやつがいた」
「木を切った?」
「木をな。たぶん街のほうに売るやつだろ。でっけぇ荷車で持ってってた」
「それ、最近?」
「二年くらい前から、ちょいちょい見かけるようになった」
「……」
「そのへんから、水の出が、なんか変わった気がする」
「森の手前……」
森。水。木を切る。水が減る。うん、それすごくありそうだ。木がなくなると、水を抱えてくれるものが減る。地面の中に水をとどめておく“スポンジ役”がいなくなる。雨が降っても一気に流れるだけになって、地下にしみこむ水が減る。だから湧き水が弱る。うん。すごく納得できる。
「それ、どこの誰ですか?」
「知らん」
「知らん……」
「この村のやつじゃねぇ」
「村の外の人」
「そうだ」
「勝手に木を切りに来るんですか?」
「勝手ってもんでもねぇだろうよ。あそこはギリギリ、うちの範囲じゃねぇからな」
「うちの範囲……」
「線があるんだよ。森ん中の、でっけぇ岩。あの岩から向こうは、“うちじゃない”ってことになってる」
「あ、“取り決めの外側”ってことですね」
「とりきめ?」
「あ、ごめんなさい、むずかしい言い方しちゃった」
私は炭の先で紙をとんとん叩いて、自分でもわかるようにまとめ始める。「北側の森手前で木を切る人がいる→水の抱えこみが減る→湧き水が弱る→畑が遠い水に頼る→運搬がつらい→人手と時間を食う→村全体の余裕が削れる」。矢印が増える。線が複雑になる。一瞬、前職の脳が「このままだとスライド10枚分の課題一覧できますね」と言いかけたけど、さすがに異世界にスライドはない。いやスライドはないけど、紙はある。紙があるならなんとかなる。紙最高。紙 is GOD。
「わ、わかりました。ありがとうございます。めっちゃ助かります」
「お、おう。なんかようわからんが、役に立つならいい」
「めちゃくちゃ役に立ちます」
「そうか」
「“そうか”じゃないですよ!? これめっちゃ重要ですからね!? 今日のこの話、ほんとに村の水の今後を左右する超重要ヒアリングだからね!? レジェンド回だからね!? “第3話 水源危機を追え!”ってサブタイトルつけたいくらい大事ですからね!?」
「だいじ!」
ミラちゃんが元気よくオウム返しして、イェルさんが「ははっ」と笑いながら後頭部をかいた。
「ま、とにかくな。水は、いまのところギリギリってとこだ。ギリギリだけど、もう片足は崖っぷちに出てる感じだ」
「崖っぷち」
「ああ。“もう一回なにか悪いことが起きたら落ちるなー”って感じ」
「……」
その言い方が、逆にすごくわかりやすくて、背中が冷たくなった。一歩。あと一歩で落ちる。今はまだ落ちてない。でも、あと一押しで落ちる。そういう状態。
「わかりました。イェルさん、ありがとうございます。まとめます」
「まとめる?」
「はい。まとめて、“村の人が見られる紙”にします」
「紙?」
「うん。見てくださいこれ」
私は今まで書いてた紙を、くるっとイェルさんに向けた。炭でバババって描いたメモ。矢印。バケツの絵。水のしずく。畑の葉っぱ。井戸のマルとバツ。湧き水のところに描いたちっちゃい「じわじわ」っていう線の絵。自分でも字が下手なのわかってるけど、絵はわりとがんばった。伝わればいい。伝われば勝ち。
「お、おお……?」
「こうやって、いま話したことを“目に見える形”にして、井戸の横の板に貼るんです」
「お、おお」
「そうすると、“なんか最近水たいへんだねー”っていうふわっとした話じゃなくて、“こういう理由で水がたいへんです。このままだと崖っぷちです。村で気をつけたいことはこれです”っていうふうに、はっきり共有できるんです」
「お、おおお……」
「そうすると、“だったら北の井戸のバケツの縄はちゃんと巻こうね”とか、“真ん中の井戸のバケツは壊れたまま放置しないで分けとこうね”とか、そういう具体的な行動に落ちるんです」
「お、おおおお……」
「そういう“みんなでできる小さいこと”を積み上げると、一気に崖から落ちる確率が下がります」
「…………」
イェルさんが、ぽかんって口をあけて、私と紙を交互に見た。ちょっとだけ目がまん丸になって、次の瞬間、そのまま、でっかい声で笑い出した。
「はっはっはっはっは!! おいルゼル!!!」
「うん?」
「こいつ、すげぇぞ!!!」
「うん。すごいよ」
「“すごいよ”っておまえ、またさらっと言いやがって!」
「うん」
「いや、まじで、こいつ、すげぇぞ!!」
「うん」
「おまえ、ほんと、いいの拾ってきたな!!!」
「だから拾ってきた扱いはやめてくださーーーい!!!??」
私が全力でつっこむと、ミラちゃんが「ひろってきた~ひろってきた~」って歌いはじめて、私は頭を抱えた。ああもう、これ村中に広まるやつだこれ。明日には「ルゼルが拾ってきた子」って呼ばれてる。いやだ。いやだけど、ちょっと笑えるからまあいいか……いやよくないけど……いやでもちょっと笑えるからまあいいか……くっ、私の心がチョロい……。
「じゃあよ」
イェルさんが、笑いながら顔をぐいっとこちらに近づけてきた。距離が近い。近い近い。顔が近い。圧がすごい。でもいやじゃない。なんかこう、元気で、まっすぐな圧。
「おまえ、“水がたいへんです”って紙、今日の夕方までに作れっか?」
「っ」
ぐらり、と胸が揺れた。夕方。夕方ってことは、今日中。今日中ってことは、今日やるってことだ。つまり、もう「やります宣言」待ったなしってことだ。
ねえ、これ、私、もう“仕事”きた。正式な。納期つきの。依頼の。ちゃんとした。
体の奥が、ぞわって震えた。わくわくと、ちょっとの怖さと、嬉しさと、責任と、ぜんぶがいっぺんに波になって押し寄せてきて、足の裏から頭のてっぺんまで一気に駆けあがっていく。ああ、これ……これ、すごい。すごい生きてる感じする。私いま、生きてる。ちゃんと必要とされてる。ああ、だめだ、涙が、目の奥からじわっと上がってきて――
「っ……!」
私は自分の目を、指の甲でぐいっとこすった。まだ、こぼれてない。セーフ。ノー泣きデー継続。セーフ。いける。いけるいけるいける。
「できます」
はっきり言った。声が震えないように、腹筋に力を入れて、まっすぐに言った。
「今日の夕方までに、“水がたいへんです”の紙、作ります」
「おお!」
「“飲んじゃダメ”のバツ看板と、“ここは飲んでいいよ”のマル看板も、作ります」
「おおお!」
「あと、バケツの仕分け表、“なおす/つかう/すてる”と、“だれがやるか”の欄も、とりあえず叩き台だけ作ります」
「おおおおお!!」
「だから、それを夕方に井戸のところに貼って、“これからこうします”って、みんなに言いたいです」
「……」
イェルさんは、一瞬だけ笑いを止めて、真剣な目で私を見た。それから、にやっと、口の端を上げた。
「いいな、それ」
「ありがとうございます……!」
「よし。じゃあ、夕方な」
「はい!!」
「おいルゼル」
「うん」
「夕方、みんな集められるか?」
「もちろん」
即答。また即答。ああもうだめだこの男。ほんとずるい。あなたの“もちろん”が今日何回私の心臓を助けてるかわかってる? あとで請求書送りますからね? “心の安定費:もちろん×12回分”って書いたやつ。高いよ? たぶんすごい高いよ?
「じゃあ、夕方、井戸のとこでな」
「うん。そうしよう」
「おう。……それと、由香」
「は、はいっ」
「ようこそ、“井戸の人”」
「っっっっっ……!」
あ、だめ。今のはもう、アウト。これはもう、泣いていいやつ。泣きますよ? 泣きますよ?? だって、今の、完全に歓迎の言葉じゃん。“ようこそ”じゃん。“ようこそ”って、初めてちゃんと言われた。あの城では一回も言われなかった。“ようこそ”って言葉、一回もなかった。“歓迎します”って一言もなかった。“役に立て”と“いらないなら帰れ”しかなかった。だから今、“ようこそ”って言葉が胸にぶつかった瞬間、胸の奥のなにかが一気にふわってほどけて、そこから涙がぽろって一粒、ほんとに一粒だけ、こぼれた。
「あっ……」
こぼれた、って自分でもわかった瞬間、私の手が条件反射で目元を押さえた。泣いちゃった。泣いた。こぼれた。今日ノー泣きデーって決めたのに。決めたのに。だめだ。私、ダメだった。泣いちゃった。
「わ、わ、私っ、すみませんっ、ちょっとだけ、これはその、嬉しいほうの……っ」
「うん」
ルゼルの声が、すぐ横からした。すぐ横で、落ち着いてて、やわらかくて、ちゃんと聞いてくれてる声。
「それは、セーフだよ」
「セーフ……?」
「“うれしなき”は、セーフでしょ」
「……っ」
「ノー泣きデーのルールに、“うれしなきはセーフ”って、足していいでしょ」
「……っ、……いいです……っ」
「うん。じゃあ、セーフだよ」
「セーフ……っ」
「うん。いい子」
「だからその“いい子”は心臓にくるって言いましたよねええええええええ!!!!」
私が叫んだら、ミラちゃんが「いいこ~!」ってまた満面の笑顔で真似して、イェルさんが「はははっ!」って大声で笑って、畑の上に、朝の光と笑い声がふわっと広がっていった。
私は、涙を手の甲でごしごしぬぐって、大きく息を吸った。胸の中に、熱いものと冷たいものが両方あって、でもそれが喧嘩してない。ちゃんと隣り合ってる感じがする。ああ、これ、きっと“安心”ってやつだ。安心って、あったかいだけじゃないんだ。ちょっとひんやりしてて、ちゃんと輪郭があって、呼吸しやすい空気みたいなやつなんだ。
「じゃあ」
私は、紙をぎゅっと胸に抱えた。
「夕方までに、“みんなに見せる紙”を作ります。だから、一回家に戻って、板切って、看板つくって、それから表も描いて、それから……」
そこまで一気にしゃべったところで、ふと気づいた。私、今、自然に「家に戻る」って言った。ちゃんと“戻る”って言った。戻る先があるんだ、って、当たり前みたいに言った自分に気づいて、胸が、ぐしゃってなる。泣く。いや泣かない。いやこれはセーフ。セーフだから泣いても? いやだめ。だめだめ。ここでまた泣いたら私もう本当に涙袋の在庫が追いつかない。夕方までもたない。だからがんばる。ノー泣きデー、セーフの乱用はよくない。うん。セーフ権は大事なときにとっとく。
「……よし。戻りましょう、“ルゼルさん”」
「うん」
「いこう、おねえちゃん!」
「うん、ミラちゃん!」
そう言って、私はくるっと踵を返した。スカートの裾がふわっと揺れて、ふくらはぎに巻いた布がきゅっと鳴る。朝の光が、土の道をまっすぐ照らしてる。その道の先に、私の“戻る場所”がある。そこにこれから、“みんなに見せる紙”を並べるための板があって、道具があって、“魔王さま”……いや“ルゼルさん”がいて、ミラちゃんがいて、夕方には村の人たちが集まる。
その光景を想像しただけで、胸の奥の火が、ぱっと明るくなった。今までより少し大きく、少し強く、でもこわくない火。
私はその火を胸のど真ん中に抱きしめるみたいにして、まっすぐ前を見て、歩き出した。
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