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第十二話 檻の鍵
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レオンハルトが茶会の場で「守る」と口にした翌日から、噂は炎のように広がった。
――第二王子が公爵令嬢を公然と庇った。
――王太子殿下との婚約は形骸化している。
――近く婚約解消か、それとも兄弟間の対立に発展か。
屋敷に届けられる手紙の山は昨日の倍に膨れ上がり、封蝋を切ることすら虚しいほど。わたしの一挙手一投足が誰かの娯楽となり、未来を占う道具になっている。
「お嬢様……これ以上はご心労に」
「いいえ、メアリ。これが現実よ」
わたしは山積みの手紙を見つめ、唇を結んだ。逃げるわけにはいかない。噂は檻の鍵。檻に縛られ続けるか、それを壊すか――わたしが選ばねばならない。
◇
午後、王宮から再び召喚状が届いた。内容は簡潔だった。――至急登城せよ。王太子殿下の命により。
王宮の謁見の間に足を踏み入れると、そこには殿下と数名の重臣が並んでいた。父も呼び出されており、緊張した面持ちで立っている。
「クラリッサ」殿下が声を放つ。その声は冷え切っていた。
「はい、殿下」
「お前と弟の噂が国中に広がっている。このままでは王家の威信が揺らぐ」
殿下の瞳が細められる。
「ゆえに、ここで明らかにしよう。お前は王太子妃となるか、それとも――婚約を破棄されたいのか」
重臣たちの視線が一斉にわたしに注がれる。父の拳がわずかに震えている。家の未来すらかかっている問い。
「殿下」わたしは息を整え、はっきりと答えた。
「檻に閉じ込められる未来を、わたしは選びません」
その瞬間、空気が凍った。重臣のひとりが驚きに息を呑み、父が「クラリッサ!」と声を上げかける。
だが扉が開き、低い声が響いた。
「ならば、彼女を解放していただきたい」
レオンハルトが現れた。深い色の外套を翻し、真っ直ぐに歩み寄る。
「兄上。彼女を檻に閉じ込めることは、もはや国のためにもならない」
「黙れ!」殿下の声が鋭く響く。
「黙りません。……彼女が檻を拒んだのなら、鍵を壊す者が必要です。わたしがそれを担う」
重臣たちがざわめく。兄弟の対立が表面化することを恐れているのだろう。だが、レオンハルトの眼差しは揺るぎなかった。
「クラリッサ嬢は、もはや“悪役”ではない。自らの未来を選ぶ女性だ。……兄上、彼女を王太子妃に縛り付けることは、王家の恥となる」
殿下の頬が怒りで紅潮した。だが、わたしの心には恐怖よりも温かさが広がっていた。檻の鍵を壊そうとする人が隣にいる。その事実が何よりも力を与える。
◇
謁見を終え、屋敷へ戻る馬車の中。メアリが震える声で言った。
「お嬢様……あの場であのように仰るなんて」
「後悔はしていないわ」
「でも、殿下のお怒りは……」
「怖い。でも、それ以上に、わたしはもう檻に戻りたくないの」
窓の外では雪が舞っている。白い花弁のように散る雪は、まるで新しい頁を開けと告げているかのようだった。
わたしは膝の上の白いハンカチを握りしめる。あの日からずっと、心の灯火のように寄り添っている小さな布切れ。
「……わたしは選んだ。檻ではなく、自由を」
悪役令嬢クラリッサは、もはや物語の道具ではない。自分の意思で幸せを掴みにいく娘へと変わろうとしていた。
――第二王子が公爵令嬢を公然と庇った。
――王太子殿下との婚約は形骸化している。
――近く婚約解消か、それとも兄弟間の対立に発展か。
屋敷に届けられる手紙の山は昨日の倍に膨れ上がり、封蝋を切ることすら虚しいほど。わたしの一挙手一投足が誰かの娯楽となり、未来を占う道具になっている。
「お嬢様……これ以上はご心労に」
「いいえ、メアリ。これが現実よ」
わたしは山積みの手紙を見つめ、唇を結んだ。逃げるわけにはいかない。噂は檻の鍵。檻に縛られ続けるか、それを壊すか――わたしが選ばねばならない。
◇
午後、王宮から再び召喚状が届いた。内容は簡潔だった。――至急登城せよ。王太子殿下の命により。
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「はい、殿下」
「お前と弟の噂が国中に広がっている。このままでは王家の威信が揺らぐ」
殿下の瞳が細められる。
「ゆえに、ここで明らかにしよう。お前は王太子妃となるか、それとも――婚約を破棄されたいのか」
重臣たちの視線が一斉にわたしに注がれる。父の拳がわずかに震えている。家の未来すらかかっている問い。
「殿下」わたしは息を整え、はっきりと答えた。
「檻に閉じ込められる未来を、わたしは選びません」
その瞬間、空気が凍った。重臣のひとりが驚きに息を呑み、父が「クラリッサ!」と声を上げかける。
だが扉が開き、低い声が響いた。
「ならば、彼女を解放していただきたい」
レオンハルトが現れた。深い色の外套を翻し、真っ直ぐに歩み寄る。
「兄上。彼女を檻に閉じ込めることは、もはや国のためにもならない」
「黙れ!」殿下の声が鋭く響く。
「黙りません。……彼女が檻を拒んだのなら、鍵を壊す者が必要です。わたしがそれを担う」
重臣たちがざわめく。兄弟の対立が表面化することを恐れているのだろう。だが、レオンハルトの眼差しは揺るぎなかった。
「クラリッサ嬢は、もはや“悪役”ではない。自らの未来を選ぶ女性だ。……兄上、彼女を王太子妃に縛り付けることは、王家の恥となる」
殿下の頬が怒りで紅潮した。だが、わたしの心には恐怖よりも温かさが広がっていた。檻の鍵を壊そうとする人が隣にいる。その事実が何よりも力を与える。
◇
謁見を終え、屋敷へ戻る馬車の中。メアリが震える声で言った。
「お嬢様……あの場であのように仰るなんて」
「後悔はしていないわ」
「でも、殿下のお怒りは……」
「怖い。でも、それ以上に、わたしはもう檻に戻りたくないの」
窓の外では雪が舞っている。白い花弁のように散る雪は、まるで新しい頁を開けと告げているかのようだった。
わたしは膝の上の白いハンカチを握りしめる。あの日からずっと、心の灯火のように寄り添っている小さな布切れ。
「……わたしは選んだ。檻ではなく、自由を」
悪役令嬢クラリッサは、もはや物語の道具ではない。自分の意思で幸せを掴みにいく娘へと変わろうとしていた。
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