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第二十八話 分裂
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王太子殿下による布告と、レオンハルトの宣言が同時に響いた日から、王都は炎の渦に飲まれた。
――「王太子派」と「第二王子派」。
貴族たちは明確に二つに分かれ、表向きは沈黙していても裏では激しく動き始めていた。
「公爵家は謀反を企てている」
「いや、第二王子が国を救うために立ち上がったのだ」
街角の居酒屋でも、侯爵家のサロンでも、同じ言葉が飛び交っていた。
◇
屋敷の応接室では、父が重臣たちと連日協議を重ねていた。
「公爵閣下。王太子派の圧力は日に日に強まっております。これ以上は……」
「承知している。しかし、娘を断罪しようとする王太子の横暴を受け入れることはできん」
わたしは扉越しにその声を聞き、胸を締めつけられる思いだった。自分の選択が、家を嵐の中心に立たせている。だが――後悔はしない。
◇
その夜、レオンハルトが屋敷を訪れた。彼の顔にも疲労が色濃く滲んでいる。
「レオン……」
「兄上はさらに強硬な布告を準備している。次は国中に広めるつもりだ」
「国中に……」
わたしは思わず息を呑んだ。これまでの舞台は王都や社交界に限られていた。だが、次は国全体を巻き込む。悪役令嬢としての烙印を広め、第二王子を孤立させるために。
「クラリッサ。怖いですか」
「……ええ。でも、それ以上に檻に戻ることのほうが怖いわ」
わたしがそう答えると、彼の瞳が強く輝いた。
「あなたのその強さが、私を奮い立たせる」
◇
数日後、学院で行われた討論会。王家の未来を若者に語らせる催しとして開かれたが、実際は布告の余波を鎮めるための舞台だった。殿下はエミリアを伴い、堂々と姿を現した。
「エミリア。君が語る番だ」
「はい、殿下」
彼女は無垢な笑みを浮かべて壇上に立つ。
「王家を支えるのは清らかな心と素直な献身です。どんなに苦しくても、愛する方に従うこと。それが淑女の務めだと信じます」
会場が大きな拍手に包まれる。善意の言葉。だがその響きは、わたしを悪役に追い込む鎖のように重くのしかかった。
◇
「クラリッサ嬢」
レオンハルトがわたしを立たせた。会場の視線が集中する。
「あなたはどう考えますか」
わたしは深く息を吸い、扇を閉じた。
「従うことが淑女の務めなら、わたしは淑女ではないのでしょう。……けれど、責任を持ち、自らの意思で未来を選ぶ。それこそが、この国の娘としての務めだと思います」
静寂ののち、ざわめきが広がった。賛否が渦を巻く。
「強情だ!」という声もあれば、「勇敢だ」という声もある。
殿下の硝子の微笑は揺らぎ、レオンハルトの瞳は誇りに燃えていた。
◇
その夜、屋敷の自室でわたしは白いハンカチを胸に当てた。
「社交界も、国も二分された……」
嵐の中心に立つ恐怖と、彼と共にいる誇り。その二つが胸の中でせめぎ合っている。
――悪役令嬢クラリッサは、ついに国全体を巻き込む嵐のただ中へ。
――けれど、檻には戻らない。
――「王太子派」と「第二王子派」。
貴族たちは明確に二つに分かれ、表向きは沈黙していても裏では激しく動き始めていた。
「公爵家は謀反を企てている」
「いや、第二王子が国を救うために立ち上がったのだ」
街角の居酒屋でも、侯爵家のサロンでも、同じ言葉が飛び交っていた。
◇
屋敷の応接室では、父が重臣たちと連日協議を重ねていた。
「公爵閣下。王太子派の圧力は日に日に強まっております。これ以上は……」
「承知している。しかし、娘を断罪しようとする王太子の横暴を受け入れることはできん」
わたしは扉越しにその声を聞き、胸を締めつけられる思いだった。自分の選択が、家を嵐の中心に立たせている。だが――後悔はしない。
◇
その夜、レオンハルトが屋敷を訪れた。彼の顔にも疲労が色濃く滲んでいる。
「レオン……」
「兄上はさらに強硬な布告を準備している。次は国中に広めるつもりだ」
「国中に……」
わたしは思わず息を呑んだ。これまでの舞台は王都や社交界に限られていた。だが、次は国全体を巻き込む。悪役令嬢としての烙印を広め、第二王子を孤立させるために。
「クラリッサ。怖いですか」
「……ええ。でも、それ以上に檻に戻ることのほうが怖いわ」
わたしがそう答えると、彼の瞳が強く輝いた。
「あなたのその強さが、私を奮い立たせる」
◇
数日後、学院で行われた討論会。王家の未来を若者に語らせる催しとして開かれたが、実際は布告の余波を鎮めるための舞台だった。殿下はエミリアを伴い、堂々と姿を現した。
「エミリア。君が語る番だ」
「はい、殿下」
彼女は無垢な笑みを浮かべて壇上に立つ。
「王家を支えるのは清らかな心と素直な献身です。どんなに苦しくても、愛する方に従うこと。それが淑女の務めだと信じます」
会場が大きな拍手に包まれる。善意の言葉。だがその響きは、わたしを悪役に追い込む鎖のように重くのしかかった。
◇
「クラリッサ嬢」
レオンハルトがわたしを立たせた。会場の視線が集中する。
「あなたはどう考えますか」
わたしは深く息を吸い、扇を閉じた。
「従うことが淑女の務めなら、わたしは淑女ではないのでしょう。……けれど、責任を持ち、自らの意思で未来を選ぶ。それこそが、この国の娘としての務めだと思います」
静寂ののち、ざわめきが広がった。賛否が渦を巻く。
「強情だ!」という声もあれば、「勇敢だ」という声もある。
殿下の硝子の微笑は揺らぎ、レオンハルトの瞳は誇りに燃えていた。
◇
その夜、屋敷の自室でわたしは白いハンカチを胸に当てた。
「社交界も、国も二分された……」
嵐の中心に立つ恐怖と、彼と共にいる誇り。その二つが胸の中でせめぎ合っている。
――悪役令嬢クラリッサは、ついに国全体を巻き込む嵐のただ中へ。
――けれど、檻には戻らない。
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