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第三十一話 強硬策
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社交界が二分されてから数日、王太子派の動きは一層激しさを増した。
――公爵家との取引を打ち切る商会が相次ぎ、屋敷の倉庫は徐々に空になっていく。
――王宮からの使者は「クラリッサ嬢を差し出せ」と暗に告げてくる。
――街では「悪役令嬢は国を乱す」という歌まで流され始めた。
まるで国全体を使った圧力。檻に戻させるための鎖は、日ごとに重くなっていた。
◇
「クラリッサ……」
父の声は重苦しかった。机には請願書や抗議文が山積みになっている。
「家は今や孤立している。王太子派からの圧力に屈すれば楽になる。だが――」
「檻に戻ることは許されない」わたしははっきりと言った。
父は深いため息を吐き、しばしわたしを見つめた。
「……そうだな。お前が己の意志を貫くのなら、我らも腹を括らねばなるまい」
母は涙ぐみながら、しかし頷いた。家族を巻き込んでいる。それでも、後悔はなかった。
◇
その日の夕刻、レオンハルトが屋敷を訪れた。彼の顔にも疲労が滲んでいる。
「兄上は布告に続いて、今度は“忠誠の誓約”を用意している。公爵家を含む主要貴族に署名させ、第二王子派を締め出すつもりだ」
「……署名を拒めば」
「反逆者とされる。だが、従えば君を差し出すことになる」
袋小路。殿下は一歩ずつ追い詰めてくる。
「クラリッサ。……怖いですか」
「ええ。でも、あなたが隣にいるから」
わたしの言葉に、彼の瞳が強く揺らいだ。
「あなたの強さに、私も支えられている」
◇
数日後、王宮の大広間で「忠誠の誓約」の場が設けられた。数多の貴族が集められ、殿下の前で署名を迫られる。硝子の笑みを湛える殿下の隣には、やはりエミリアがいた。
「諸君。ここに署名することこそ、王家への忠誠の証だ」
列席者の中で、公爵家の名が呼ばれた。重苦しい沈黙。視線がわたしに集まる。
――ここで従えば家は守れる。だが、檻に戻ることになる。
わたしは一歩前に進み、静かに扇を閉じた。
「殿下。……わたしは署名いたしません」
広間がざわめきに包まれる。殿下の笑みが凍った。
「理由を申せ」
「檻に閉じ込められる未来を選ぶことは、忠誠ではなく隷属だからです」
◇
「その通りだ」
レオンハルトが立ち上がり、会場を震わせる声を放った。
「彼女の拒絶こそ真の勇気。王家が民を檻に閉じ込めることなど許されない」
殿下の顔に怒気が浮かび、会場の空気は張り詰めた。
◇
夜、屋敷に戻り、机に白いハンカチを置く。今日の選択で、公爵家は完全に王太子派から孤立した。けれど、胸の奥にあるのは恐怖ではなく誇りだった。
「檻には戻らない。……たとえ国を敵に回しても」
その誓いは、冬の月明かりに照らされて揺るぎなく輝いた。
――悪役令嬢クラリッサは、国を裂く嵐の中心に立ち。
――けれど自由と愛を選ぶ覚悟を、誰よりも強く抱いていた。
――公爵家との取引を打ち切る商会が相次ぎ、屋敷の倉庫は徐々に空になっていく。
――王宮からの使者は「クラリッサ嬢を差し出せ」と暗に告げてくる。
――街では「悪役令嬢は国を乱す」という歌まで流され始めた。
まるで国全体を使った圧力。檻に戻させるための鎖は、日ごとに重くなっていた。
◇
「クラリッサ……」
父の声は重苦しかった。机には請願書や抗議文が山積みになっている。
「家は今や孤立している。王太子派からの圧力に屈すれば楽になる。だが――」
「檻に戻ることは許されない」わたしははっきりと言った。
父は深いため息を吐き、しばしわたしを見つめた。
「……そうだな。お前が己の意志を貫くのなら、我らも腹を括らねばなるまい」
母は涙ぐみながら、しかし頷いた。家族を巻き込んでいる。それでも、後悔はなかった。
◇
その日の夕刻、レオンハルトが屋敷を訪れた。彼の顔にも疲労が滲んでいる。
「兄上は布告に続いて、今度は“忠誠の誓約”を用意している。公爵家を含む主要貴族に署名させ、第二王子派を締め出すつもりだ」
「……署名を拒めば」
「反逆者とされる。だが、従えば君を差し出すことになる」
袋小路。殿下は一歩ずつ追い詰めてくる。
「クラリッサ。……怖いですか」
「ええ。でも、あなたが隣にいるから」
わたしの言葉に、彼の瞳が強く揺らいだ。
「あなたの強さに、私も支えられている」
◇
数日後、王宮の大広間で「忠誠の誓約」の場が設けられた。数多の貴族が集められ、殿下の前で署名を迫られる。硝子の笑みを湛える殿下の隣には、やはりエミリアがいた。
「諸君。ここに署名することこそ、王家への忠誠の証だ」
列席者の中で、公爵家の名が呼ばれた。重苦しい沈黙。視線がわたしに集まる。
――ここで従えば家は守れる。だが、檻に戻ることになる。
わたしは一歩前に進み、静かに扇を閉じた。
「殿下。……わたしは署名いたしません」
広間がざわめきに包まれる。殿下の笑みが凍った。
「理由を申せ」
「檻に閉じ込められる未来を選ぶことは、忠誠ではなく隷属だからです」
◇
「その通りだ」
レオンハルトが立ち上がり、会場を震わせる声を放った。
「彼女の拒絶こそ真の勇気。王家が民を檻に閉じ込めることなど許されない」
殿下の顔に怒気が浮かび、会場の空気は張り詰めた。
◇
夜、屋敷に戻り、机に白いハンカチを置く。今日の選択で、公爵家は完全に王太子派から孤立した。けれど、胸の奥にあるのは恐怖ではなく誇りだった。
「檻には戻らない。……たとえ国を敵に回しても」
その誓いは、冬の月明かりに照らされて揺るぎなく輝いた。
――悪役令嬢クラリッサは、国を裂く嵐の中心に立ち。
――けれど自由と愛を選ぶ覚悟を、誰よりも強く抱いていた。
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