悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

文字の大きさ
36 / 70

第三十六話 迫る圧力

しおりを挟む
 「殿下がついに兵を動かそうとしている」
 その知らせは、冷たい冬の風と共に公爵家へと届いた。

 父の執務室に重苦しい空気が満ちる。机の上には軍の動員命令の写しが置かれ、赤い封蝋が不気味に光っていた。
 「王都近郊の駐屯兵が“治安維持”の名目で集められている。……だが、実際は我が公爵家への圧力だ」
 父の声は低く、母の顔は蒼白に染まっていた。

 「クラリッサ……」母が震える声で言う。「もう、殿下に従えば……」
 「いいえ」わたしは静かに首を振った。「従えば家は守れても、わたしは檻に戻ります。それだけは絶対にしません」

 ◇

 その夜、庭園にレオンハルトが現れた。外套に雪を纏い、真剣な眼差しでわたしを見つめる。
 「兄上は強硬だ。だが、兵を動かせば重臣たちの反発も強まる。……ここが分岐点だ」
 「分岐点……」
 「そうだ。国が檻に閉じ込められるのか、自由を選ぶのか。その境目に、君がいる」

 彼はわたしの手を取った。冷たい夜気の中で、その温もりだけが鮮明だった。
 「クラリッサ。恐れるな。あなたの選択は、決して無駄にはならない」
 「レオン……ありがとう。わたしはもう俯きません」

 ◇

 数日後、学院での講義中に事件は起きた。王太子殿下が突如姿を現し、エミリアを伴って壇上に立ったのだ。
 「諸君。反逆を許す国に未来はない。公爵家と第二王子は国を乱している」

 その言葉に、生徒たちはざわめき、視線がわたしに集まる。
 エミリアが無垢な声で言った。
 「クラリッサ様……どうか殿下のお気持ちを受け入れてください。皆が安心できます」

 善意。だが、それは鎖の言葉。わたしを悪役に追いやるための残酷な無垢。

 「エミリア様。……わたしは檻に戻りません。未来を選ぶのは、わたし自身です」

 会場が凍りつき、殿下の微笑が崩れる。

 ◇

 夜、公爵家の応接室に集まった父と母、そしてレオンハルト。
 「王太子は兵を動かす構えだ。次は直接の断罪か、あるいは力による制圧だろう」父が言う。
 「だが、我らにはまだ味方がいる」レオンが答える。「重臣の一部、そして民の心の中に」

 わたしは白いハンカチを胸に押し当てた。恐怖よりも、確かな炎が広がっていた。
 「檻に戻るくらいなら、すべてを敵に回しても構いません」

 ◇

 ――悪役令嬢クラリッサは、軍の影に追われながらも。

 ――自由を選ぶ決意を、誰よりも強く抱いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします

恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。 王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい? つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!? そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。 報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。 王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。 2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……) ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

婚約破棄だ!と言われ実家に帰ったら、最推しに餌付けされます

黒猫かの
恋愛
王国の第一王子クレイスから、衆人環視の中 で婚約破棄を言い渡されたローゼン侯爵令嬢ノエル。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

これって私の断罪じゃなくて公開プロポーズですか!?

桃瀬ももな
恋愛
「カタリーナ・フォン・シュバルツ! 貴様との婚約を破棄し、国外追放に処す!」 卒業パーティーの最中、第一王子アルフォンスから非情な宣告を突きつけられた公爵令嬢カタリーナ。 生まれつきの鋭い目つきと、緊張すると顔が強張る不器用さゆえに「悪役令嬢」として孤立していた彼女は、ついに訪れた「お決まりの断罪劇」に絶望……するかと思いきや。 (……あれ? 殿下、いま小さく「よっしゃあ!」ってガッツポーズしませんでした!?)

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

婚約破棄を申し込むも、殿下の説得がガチすぎて詰む?

ちゅんりー
恋愛
公爵令嬢リペは、厳しい王妃教育と窮屈な未来から逃れるため、ある画期的な計画を思いつく。それは、世にも恐ろしい「悪役令嬢」になりきって、完璧な第一王子カイルに婚約破棄を叩きつけること! さっそくリペは、高笑いと共に「不敬な態度」「無駄遣い」「嫌がらせ」といった悪行の数々を繰り出すが……。

処理中です...