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第三十七話 包囲
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王都の空気は、ついに臨戦のそれへと変わった。
街角には鎧をまとった兵士たちが立ち、通りを行き交う商人や市民は怯えた眼差しを交わす。王宮から布告が出されたのだ。
――「治安維持のため、公爵家周辺に兵を配置する」
だが誰もが知っていた。それは治安ではなく包囲。公爵家を締め上げるための圧力であることを。
◇
父は執務室で地図を広げ、険しい表情を浮かべていた。
「屋敷周辺に兵が配置された。城門も監視が強まり、出入りは厳しく制限されている。……もはや籠の鳥だ」
「籠……」母が顔を歪める。「まるで檻のように」
その言葉に胸がざわついた。殿下は、檻に戻そうとあらゆる手を尽くしている。だが、わたしは戻らない。
「お父様。……たとえ兵に囲まれても、わたしは檻に入らぬと誓います」
父はしばし黙し、やがて深く頷いた。
「ならば我らも共に立とう」
◇
夜、庭園にレオンハルトが現れた。軍装を纏い、剣を腰に下げた姿はいつになく鋭かった。
「兄上はついに兵を動かした。だが、重臣の中には反発する声が増えている。王家の中で裂け目が広がり始めているんだ」
「……ならば」
「そう、今こそが決断の時だ。あなたは檻に戻るか、それとも自由を選び続けるか」
「わたしは――」
答えようとした瞬間、彼がわたしの手を強く握った。
「いや、答えはもう知っている。あなたは必ず檻を拒む。だからこそ、私も命を賭ける」
胸が熱くなり、視界が滲む。
「レオン……ありがとう」
◇
数日後、王宮で大評議が開かれた。殿下は壇上に立ち、硝子の微笑を浮かべながら告げる。
「公爵家は反逆の疑いを濃くしている。今こそ従わせねばならぬ」
重臣たちの間にざわめきが広がる。
「だが殿下、兵を街に出したことで民心は乱れております」
「第二王子殿下を支持する声も日増しに強まっております」
殿下の瞳が怒りに揺れ、微笑の仮面にひびが走る。
◇
その夜、わたしは机に白いハンカチを置き、地図に視線を落とした。包囲は檻のように家を覆っている。けれど、胸の奥に灯る炎は消えていなかった。
「……檻には戻らない。たとえ兵に囲まれても」
誓いは冬の月光に照らされ、静かに輝いた。
――悪役令嬢クラリッサは、包囲の檻の中で。
――なおも自由を選び続けていた。
街角には鎧をまとった兵士たちが立ち、通りを行き交う商人や市民は怯えた眼差しを交わす。王宮から布告が出されたのだ。
――「治安維持のため、公爵家周辺に兵を配置する」
だが誰もが知っていた。それは治安ではなく包囲。公爵家を締め上げるための圧力であることを。
◇
父は執務室で地図を広げ、険しい表情を浮かべていた。
「屋敷周辺に兵が配置された。城門も監視が強まり、出入りは厳しく制限されている。……もはや籠の鳥だ」
「籠……」母が顔を歪める。「まるで檻のように」
その言葉に胸がざわついた。殿下は、檻に戻そうとあらゆる手を尽くしている。だが、わたしは戻らない。
「お父様。……たとえ兵に囲まれても、わたしは檻に入らぬと誓います」
父はしばし黙し、やがて深く頷いた。
「ならば我らも共に立とう」
◇
夜、庭園にレオンハルトが現れた。軍装を纏い、剣を腰に下げた姿はいつになく鋭かった。
「兄上はついに兵を動かした。だが、重臣の中には反発する声が増えている。王家の中で裂け目が広がり始めているんだ」
「……ならば」
「そう、今こそが決断の時だ。あなたは檻に戻るか、それとも自由を選び続けるか」
「わたしは――」
答えようとした瞬間、彼がわたしの手を強く握った。
「いや、答えはもう知っている。あなたは必ず檻を拒む。だからこそ、私も命を賭ける」
胸が熱くなり、視界が滲む。
「レオン……ありがとう」
◇
数日後、王宮で大評議が開かれた。殿下は壇上に立ち、硝子の微笑を浮かべながら告げる。
「公爵家は反逆の疑いを濃くしている。今こそ従わせねばならぬ」
重臣たちの間にざわめきが広がる。
「だが殿下、兵を街に出したことで民心は乱れております」
「第二王子殿下を支持する声も日増しに強まっております」
殿下の瞳が怒りに揺れ、微笑の仮面にひびが走る。
◇
その夜、わたしは机に白いハンカチを置き、地図に視線を落とした。包囲は檻のように家を覆っている。けれど、胸の奥に灯る炎は消えていなかった。
「……檻には戻らない。たとえ兵に囲まれても」
誓いは冬の月光に照らされ、静かに輝いた。
――悪役令嬢クラリッサは、包囲の檻の中で。
――なおも自由を選び続けていた。
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