悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

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第三十八話 断罪の命

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 王太子殿下はついに決断を下した。
 ――「公爵家を断罪せよ」

 その命は王都全体に響き渡り、兵の数はさらに増えた。屋敷を包囲する輪は日に日に狭まり、街では「悪役令嬢が捕らえられる」という噂が飛び交った。

 ◇

 父の執務室には重苦しい空気が満ちていた。
 「ついに来たか……」
 父の顔は険しく、母は蒼白な顔で椅子に腰かけている。
 「クラリッサ。殿下の命は形式上“断罪”だ。つまり――お前を捕え、見世物のように裁くつもりだ」

 胸が冷たくなる。けれど、不思議と心は静かだった。
 「お父様。わたしは檻に戻る気はありません」
 「わかっている」父は深く息を吐いた。「……ならば我らも覚悟を決める」

 ◇

 その夜、レオンハルトが訪れた。軍装に身を包み、剣を腰に下げた姿は鋭さを増していた。
 「兄上は断罪を決行する。……だが、私は絶対にあなたを渡さない」
 「レオン……」
 「聞いてほしい。重臣の中には私に賛同する者が増えている。だが彼らはまだ表立って動けない。だからこそ、あなた自身が檻を拒む姿を示すことが必要なんだ」

 「わたしが……」
 「そうだ。あなたが立ち上がることで、民は自由を知る。檻の鎖は、その瞬間に砕ける」

 彼の声は熱を帯び、わたしの胸を震わせた。

 ◇

 翌日、学院での授業中に殿下が現れた。彼の隣にはエミリアが立ち、無垢な瞳でわたしを見つめる。
 「クラリッサ。お前は国を乱す反逆者だ。自ら罪を認め、断罪を受けよ」

 空気が凍りつく。周囲の視線が突き刺さる。
 エミリアが一歩進み出て、震える声で言った。
 「クラリッサ様……どうか殿下に従ってください。そうすれば皆が救われます」

 善意。だが、その善意こそ残酷だった。わたしを檻に戻すための鎖。

 「エミリア様。……わたしは罪など犯していません。檻を拒んだだけです」

 会場がざわめき、殿下の硝子の微笑が砕ける。
 「強情だな」
 「はい。檻に戻るくらいなら、強情で構いません」

 ◇

 その夜、公爵家の応接室にて。
 父が深刻な顔で告げた。
 「明日、殿下は断罪の場を設けると宣言した。公爵家を呼びつけ、国中に“悪役令嬢の最期”を示すつもりだ」

 母の手が震え、メアリがすすり泣く。だがわたしは俯かなかった。
 「お父様。わたしは必ず立ちます。檻には戻りません」

 レオンハルトが隣で剣に手を置き、静かに言う。
 「明日こそ決戦だ。……だが忘れるな。あなたは一人ではない」

 ◇

 自室で白いハンカチを胸に押し当て、窓の外を見やる。雪が静かに降り、夜の街を覆っていた。

 「……断罪の舞台でも、俯かない」

 囁いた声は誓いとなり、夜の闇に消えていった。

 ――悪役令嬢クラリッサは、断罪の命を受けてもなお。

 ――自由を選び続ける娘であり続けた。
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