悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

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第三十九話 断罪の舞台

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 翌日、王都の大広間には早朝から群衆が集まっていた。
 ――悪役令嬢がついに断罪される。
 ――王太子殿下が秩序を正す。
 ――第二王子は逆賊として名を汚すだろう。

 期待と不安、好奇と嘲笑が入り混じり、人々はざわめきながら舞台の幕が上がるのを待っていた。

 ◇

 広間に足を踏み入れると、そこはまさに断罪の舞台だった。壇上には王太子殿下が立ち、隣には白きドレスを纏ったエミリア。背後には重臣たちが並び、群衆の視線は一斉にわたしへ突き刺さる。

 「クラリッサ」
 殿下の声は冷ややかに響いた。
 「お前は王家の威信を傷つけ、弟と通じ、国を乱した。その罪をここで裁かれるべきだ」

 ざわめきが広がる。わたしは扇を閉じ、真っ直ぐに答えた。
 「殿下。わたしは罪など犯しておりません。檻を拒んだだけです」

 「黙れ!」殿下の微笑が砕け、怒りが露わになる。
 「己の過ちを認めぬか!」
 「ええ。檻に戻ることだけは、決して認めません」

 ◇

 その瞬間、群衆の中にざわめきが走った。わたしの言葉に共鳴する者が確かにいたのだ。だが殿下は構わず続ける。
 「ならば、ここで示そう。お前が悪役である証を」

 エミリアが進み出る。無垢な瞳でわたしを見つめ、震える声で言った。
 「クラリッサ様……どうか殿下に従ってください。そうすれば、皆が救われます」

 その言葉は純粋で、善意に満ちていた。だが、それこそが最も残酷な刃だった。会場の空気が「無垢なヒロイン」と「悪役令嬢」の対比で染め上げられていく。

 ◇

 「いいえ、エミリア様」
 わたしは静かに声を返した。
 「従うことは救いではありません。檻に閉じ込められることは、誰も救わない。わたしは自由を選びます」

 広間が大きくざわめいた。殿下の顔に怒りが走り、彼は叫ぶ。
 「この女を捕らえよ!」

 兵士たちが動き、壇上に迫る。群衆が息を呑む。――その時。

 「待て!」

 低く鋭い声が響いた。扉が開き、レオンハルトが堂々と姿を現す。軍装を纏い、剣を腰に下げ、その瞳は烈火のごとく燃えていた。

 「兄上! クラリッサ嬢は罪人ではない。檻を拒んだ勇気を罪と呼ぶのなら、罪深いのはあなたの方だ!」

 群衆がどよめき、兵士たちの動きが止まる。殿下の硝子の微笑は完全に砕け散っていた。

 ◇

 「クラリッサ」
 レオンハルトが壇上に駆け上がり、わたしの手を強く握った。
 「ここで示すんだ。あなたが檻ではなく、自由を選ぶことを」

 胸の奥が熱くなる。わたしは彼の手を握り返し、群衆に向けて言葉を放った。
 「わたしは悪役令嬢ではありません。ただ、檻に閉じ込められる未来を拒んだだけです! ――わたしは自由を選びます!」

 広間が揺れるほどのざわめきに包まれた。

 ◇

 夜、屋敷に戻り白いハンカチを胸に押し当てる。今日の舞台は殿下の断罪ではなく、わたしの決意を示す場となった。

 「……俯かずに立てた」

 囁いた声は、冬の夜に誓いとして刻まれた。

 ――悪役令嬢クラリッサは、断罪の舞台を越えて。

 ――国に自由を示す存在となった。
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