悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

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第四十二話 新婚の日々

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 婚礼から数日。公爵家の一角を改装して整えられた新居は、まだ新しい木の香りが漂っていた。広すぎない居間には暖炉があり、窓からは雪景色が望める。重厚な装飾は少なく、けれど温かな雰囲気に満ちていた。

 「クラリッサ、寒くないか?」
 レオンハルトが薪をくべながら振り返る。
 「ええ、大丈夫ですわ。……こうして火を囲んでいるだけで、なんだか夢のよう」
 思わず笑みがこぼれる。かつては檻の中で、王太子の隣に立たされる未来しかないと信じていた。けれど今は――隣にいるのは彼。

 ◇

 新婚の朝は、穏やかで少し不器用だった。
 「紅茶の淹れ方、合っているかな……」
 「まあ、殿下……いえ、レオンが自ら?」
 「夫が妻に茶を淹れてはいけない決まりはないだろう?」

 差し出された紅茶は少し濃かったけれど、その不器用さが胸を温めた。
 「ふふ……とても美味しいですわ」
 「無理をしていないか?」
 「本当です」

 微笑み合うだけで心が満たされていく。この時間が、なによりも愛おしい。

 ◇

 だが、屋敷の外では嵐が続いていた。王太子派は新婚生活を「反逆者の祝宴」と呼び、侮蔑を隠さなかった。市井でも噂は飛び交う。
 ――悪役令嬢はまだ断罪されるべきだ。
 ――いや、彼女こそ国を救う象徴だ。

 裂けた国の傷は、容易には癒えない。

 ◇

 その夜、寝室で。
 「レオン……これからも試練は続くのでしょうね」
 「そうだろうな」彼は真剣な顔で頷く。
 「兄上は必ず動く。新婚の幸せを壊そうとするだろう」
 「……わたしは、檻に戻る気はありません」
 「知っている。だからこそ、私も隣に立つ」

 彼はそっとわたしを抱き寄せた。胸の鼓動が伝わり、温もりが広がる。
 「あなたとなら、どんな嵐も越えられる」
 「ええ、共に」

 ◇

 机の上には、今も白いハンカチが置かれている。婚礼の日に握りしめたそれは、もはや恐怖ではなく、幸福を象徴する布となっていた。

 ――悪役令嬢クラリッサは、檻を拒み。

 ――今、愛する夫と共に、幸せな新婚の日々を歩み始めていた。
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