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第四十三話 揺らぎ
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新婚の甘やかな日々は、確かに幸せであった。
朝は共に目覚め、互いに少し照れながら挨拶を交わす。昼は暖炉の前で並び、窓の外に舞う雪を眺める。夜は書斎で紅茶を飲みながら言葉を交わす。檻に閉じ込められていた日々からは考えられぬほど穏やかで、温かな時だった。
けれど、その平穏の外には嵐が続いていた。
◇
「殿下。王太子派がまた動き出しました」
屋敷の執務室に駆け込んできたのは家臣だった。
「“新婚の祝宴は反逆の宴だ”と市中で触れ回っております」
父の顔が険しくなる。母は不安げに手を合わせた。
「クラリッサ……彼らはお前を許す気がない」
「承知しています。……けれど、檻には戻りません」
◇
ある午後。新居の庭園でレオンハルトと散歩をしていたときのことだ。
「レオン。あなたはどうして……それほどまでにわたしを支えてくださるのですか」
思わず零れた問いに、彼は穏やかに微笑んだ。
「君が檻を拒んだからだ。勇気を持って未来を選んだから、私はその隣に立ちたいと思った」
彼の声は優しく、力強かった。胸が温かくなり、涙が滲む。
「……ありがとう」
「礼を言うのは私の方だ。君がいなければ、私は兄の影に怯えたままだっただろう」
◇
しかし、王太子派の策謀は止まらなかった。
ある夜、使者が訪れた。
「王宮からの書簡にございます。……“第二王子とクラリッサ嬢は、国を乱すゆえ速やかに拘束せよ”」
父が紙を握りしめ、顔を曇らせる。
「殿下はついに露骨に動いたか……」
母の顔は蒼白に染まり、メアリがすすり泣く。
わたしは白いハンカチを取り出し、胸に押し当てた。
「檻には戻りません。たとえ捕らえられようとしても」
◇
その夜。新居の寝室で、レオンハルトがわたしを抱き寄せた。
「クラリッサ。嵐はまだ続く。だが恐れるな。あなたはもう檻の鳥ではない」
「ええ。わたしは自由を選んだ娘。……そして、あなたの妻です」
彼の瞳が温かく輝き、わたしは静かに微笑んだ。
◇
――悪役令嬢クラリッサは、新婚の甘やかな日々を過ごしながらも。
――嵐の中で揺らがぬ誓いを胸に抱き続けていた。
朝は共に目覚め、互いに少し照れながら挨拶を交わす。昼は暖炉の前で並び、窓の外に舞う雪を眺める。夜は書斎で紅茶を飲みながら言葉を交わす。檻に閉じ込められていた日々からは考えられぬほど穏やかで、温かな時だった。
けれど、その平穏の外には嵐が続いていた。
◇
「殿下。王太子派がまた動き出しました」
屋敷の執務室に駆け込んできたのは家臣だった。
「“新婚の祝宴は反逆の宴だ”と市中で触れ回っております」
父の顔が険しくなる。母は不安げに手を合わせた。
「クラリッサ……彼らはお前を許す気がない」
「承知しています。……けれど、檻には戻りません」
◇
ある午後。新居の庭園でレオンハルトと散歩をしていたときのことだ。
「レオン。あなたはどうして……それほどまでにわたしを支えてくださるのですか」
思わず零れた問いに、彼は穏やかに微笑んだ。
「君が檻を拒んだからだ。勇気を持って未来を選んだから、私はその隣に立ちたいと思った」
彼の声は優しく、力強かった。胸が温かくなり、涙が滲む。
「……ありがとう」
「礼を言うのは私の方だ。君がいなければ、私は兄の影に怯えたままだっただろう」
◇
しかし、王太子派の策謀は止まらなかった。
ある夜、使者が訪れた。
「王宮からの書簡にございます。……“第二王子とクラリッサ嬢は、国を乱すゆえ速やかに拘束せよ”」
父が紙を握りしめ、顔を曇らせる。
「殿下はついに露骨に動いたか……」
母の顔は蒼白に染まり、メアリがすすり泣く。
わたしは白いハンカチを取り出し、胸に押し当てた。
「檻には戻りません。たとえ捕らえられようとしても」
◇
その夜。新居の寝室で、レオンハルトがわたしを抱き寄せた。
「クラリッサ。嵐はまだ続く。だが恐れるな。あなたはもう檻の鳥ではない」
「ええ。わたしは自由を選んだ娘。……そして、あなたの妻です」
彼の瞳が温かく輝き、わたしは静かに微笑んだ。
◇
――悪役令嬢クラリッサは、新婚の甘やかな日々を過ごしながらも。
――嵐の中で揺らがぬ誓いを胸に抱き続けていた。
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