魔女扱いされて国を追われた聖女は、隣国の王子に溺愛される~いまさら戻ってきてくれなんて言われてももう遅いです~

さら

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第16話 城下での声と選んだ行動

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 数日後、マリアンヌが「城下町を見せてあげるわ」と誘ってくれた。侍女と護衛を伴い、アレクの許可も得て、私は初めて王都の外に出ることになった。石畳の通りには露店が並び、果物の甘い香りや焼き菓子の匂いが漂う。子どもたちが走り回り、商人が声を張り上げる活気に、胸が高鳴った。

「どう? 賑やかでしょう?」
「ええ……とても生きている街ですね」

 私は思わず笑みを零した。祖国の街並みを追放される形で後にしたときの寂しさと比べ、この温かさは胸に沁みた。

     ◇

 広場で足を止めたとき、一人の老婆が咳き込みながら腰を下ろしていた。周囲の人々は気にかけるものの、忙しさに追われて立ち去っていく。私は迷わず近づいた。

「大丈夫ですか?」

 老婆は苦しげに頷くだけで声を出せない。私は薬草袋から乾燥したタイムを取り出し、水袋に浸して簡易の茶を作った。祈りを心の中で唱え、そっと手渡す。

 老婆がそれを飲むと、次第に咳が和らぎ、穏やかな息に戻った。驚いたように私の手を握り、涙ぐみながら言う。
「……ありがとう。誰も見てくれなかったのに、あなたは……」

 その言葉に胸が熱くなる。私はただ微笑み返し、立ち上がった。

     ◇

 けれど、周囲には別の囁きも広がっていた。
「聖女の力だ……」
「いや、魔女の術では?」

 再び突き刺さる視線。胸がざわめきかけたとき、マリアンヌが一歩前に出た。

「この方は人を救ったのです! 恐れる必要はありませんわ!」

 王女の声が響き、広場の人々が息を呑む。その中で、老婆が再び言った。
「違います、この方は魔女ではない。私を救ってくださったのは……本物の聖女だよ」

 その言葉に囁きは少しずつ変わり、感謝の声が混じり始めた。私は胸に手を当て、深く息を吸った。――逃げない。これが私の選んだ道。

     ◇

 夕暮れ、城へ戻るとアレクが待っていた。報告を受けていたのだろう。彼は険しい顔で近づいてくる。
「危険はなかったか?」
「ええ、大丈夫です。ただ……少し囁かれました」

 私の答えに、彼は黙って私の手を取った。
「誰が何を言おうと、俺は見ている。君が人を救った姿を。……それが真実だ」

 真剣な眼差しに胸が震える。守られるだけではなく、共に歩むために。私は静かに頷いた。

     ◇

 夜、部屋に戻り、窓から街の灯を見下ろす。今日の出来事は試練だった。けれど、恐怖よりも誇らしさが残っている。
 ――私はこの国で、人を救える。
 そう思えた瞬間、心の奥に新しい力が宿った気がした。
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