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第24話 囚われの瞬間と解き放たれる誓い
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その日は朝からどこか落ち着かない空気が漂っていた。城の廊下を歩く兵士たちは無言で、侍女たちの動きもぎこちない。小さな噂が広がっているのを感じたが、内容は掴めない。
薬草庫で作業をしていると、侍女が慌てて駆け込んできた。
「セリーナ様、至急お呼びが……王妃様がお会いになりたいと」
胸が跳ねる。王妃は優しく微笑む方だった。だが、こんなに唐突に呼び出されるのは初めてだ。私は迷いながらも頷き、侍女に従って廊下を進んだ。
◇
案内されたのは、王妃の居室ではなく城の奥まった小部屋だった。扉が閉まると同時に、空気が変わる。そこに王妃の姿はなく、待ち構えていたのは見覚えのある貴族の男――数日前に庭園で私を挑発した人物だった。
「やはり来てくれましたね、聖女殿」
背筋が冷える。侍女はすでに姿を消し、部屋には数人の屈強な男が立っていた。
「殿下に惑わされる前に、あなたには退場してもらいましょう」
腕を掴まれ、押さえつけられる。必死に抵抗するが、力では敵わない。光を呼び起こそうとした瞬間、背後から布が口を塞ぎ、息が詰まる。
「……っ!」
視界が揺れ、意識が薄れていく。最後に思い浮かんだのは、アレクの顔だった。
◇
目を覚ますと、石造りの小部屋に横たわっていた。窓もなく、鉄の扉だけが冷たく光っている。手首に縄が食い込み、身動きが取れない。
――どうして、私はまた囚われているのだろう。
胸に絶望が広がる。だが同時に、心の奥から小さな声が囁いた。
――逃げないと誓ったはずだ。
その瞬間、外から鋭い声が響いた。
「扉を開けろ!」
アレクの声。轟音とともに鉄の扉が押し開かれ、彼が飛び込んできた。剣を抜き放つと同時に、見張りの男たちが倒れ込む。
「セリーナ!」
駆け寄って縄を解き、私を抱き起こす。温かな腕に包まれ、張り詰めていた心が一気に崩れた。
「怪我はないか?」
「……大丈夫です。でも……殿下が来てくださらなければ……」
言葉が涙に変わる。彼は強く抱き締め、震える声で言った。
「遅れてすまない。だが二度とこんな目には遭わせない。誓う」
その言葉は怒りと愛情に満ちていた。
◇
その後、首謀者の貴族は捕らえられた。陰で糸を引いていたのはやはり有力な派閥で、彼らは私を追い出すことでアレクの力を削ごうとしていたのだ。だが、逆に明るみに出たことで彼らの評判は大きく傷ついた。
広間でアレクは人々に宣言した。
「セリーナは国を救う力を持つ。そして俺は、その力を信じている。彼女を害することは、この国を害することだ」
堂々たる言葉に、もはや誰も逆らえなかった。
◇
夜。部屋で二人きりになったとき、私は改めて言った。
「守られるばかりで、私は何もできませんでした」
「違う。君は恐怖の中でも光を手放さなかった。だから俺が間に合った」
彼はそう言って微笑み、私の手を包んだ。
「セリーナ。君はもう俺の隣に欠かせない存在だ」
涙が頬を伝い、私は彼の胸に顔を埋めた。
◇
窓の外に月が輝いていた。危機は去った。だが、これで終わりではない。陰謀の影はまだ完全には消えていない。
――それでも、私は逃げない。
アレクの隣に立ち、この国の光となるために。
薬草庫で作業をしていると、侍女が慌てて駆け込んできた。
「セリーナ様、至急お呼びが……王妃様がお会いになりたいと」
胸が跳ねる。王妃は優しく微笑む方だった。だが、こんなに唐突に呼び出されるのは初めてだ。私は迷いながらも頷き、侍女に従って廊下を進んだ。
◇
案内されたのは、王妃の居室ではなく城の奥まった小部屋だった。扉が閉まると同時に、空気が変わる。そこに王妃の姿はなく、待ち構えていたのは見覚えのある貴族の男――数日前に庭園で私を挑発した人物だった。
「やはり来てくれましたね、聖女殿」
背筋が冷える。侍女はすでに姿を消し、部屋には数人の屈強な男が立っていた。
「殿下に惑わされる前に、あなたには退場してもらいましょう」
腕を掴まれ、押さえつけられる。必死に抵抗するが、力では敵わない。光を呼び起こそうとした瞬間、背後から布が口を塞ぎ、息が詰まる。
「……っ!」
視界が揺れ、意識が薄れていく。最後に思い浮かんだのは、アレクの顔だった。
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目を覚ますと、石造りの小部屋に横たわっていた。窓もなく、鉄の扉だけが冷たく光っている。手首に縄が食い込み、身動きが取れない。
――どうして、私はまた囚われているのだろう。
胸に絶望が広がる。だが同時に、心の奥から小さな声が囁いた。
――逃げないと誓ったはずだ。
その瞬間、外から鋭い声が響いた。
「扉を開けろ!」
アレクの声。轟音とともに鉄の扉が押し開かれ、彼が飛び込んできた。剣を抜き放つと同時に、見張りの男たちが倒れ込む。
「セリーナ!」
駆け寄って縄を解き、私を抱き起こす。温かな腕に包まれ、張り詰めていた心が一気に崩れた。
「怪我はないか?」
「……大丈夫です。でも……殿下が来てくださらなければ……」
言葉が涙に変わる。彼は強く抱き締め、震える声で言った。
「遅れてすまない。だが二度とこんな目には遭わせない。誓う」
その言葉は怒りと愛情に満ちていた。
◇
その後、首謀者の貴族は捕らえられた。陰で糸を引いていたのはやはり有力な派閥で、彼らは私を追い出すことでアレクの力を削ごうとしていたのだ。だが、逆に明るみに出たことで彼らの評判は大きく傷ついた。
広間でアレクは人々に宣言した。
「セリーナは国を救う力を持つ。そして俺は、その力を信じている。彼女を害することは、この国を害することだ」
堂々たる言葉に、もはや誰も逆らえなかった。
◇
夜。部屋で二人きりになったとき、私は改めて言った。
「守られるばかりで、私は何もできませんでした」
「違う。君は恐怖の中でも光を手放さなかった。だから俺が間に合った」
彼はそう言って微笑み、私の手を包んだ。
「セリーナ。君はもう俺の隣に欠かせない存在だ」
涙が頬を伝い、私は彼の胸に顔を埋めた。
◇
窓の外に月が輝いていた。危機は去った。だが、これで終わりではない。陰謀の影はまだ完全には消えていない。
――それでも、私は逃げない。
アレクの隣に立ち、この国の光となるために。
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