魔女扱いされて国を追われた聖女は、隣国の王子に溺愛される~いまさら戻ってきてくれなんて言われてももう遅いです~

さら

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第26話 新たな役割と消えぬ影

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 大広間で言葉を放ってから数日。人々の眼差しは以前よりも柔らかく、温かな空気が広がっていた。侍女たちは笑顔で話しかけてくれ、兵士たちは「聖女様」と冗談めかして呼びながらも敬意を隠さなくなった。
 ――確かに、私は受け入れられ始めている。
 そう感じられる一方で、陰はまだ消えていない。城の一角で交わされる囁き声、視線を逸らす貴族たちの冷たい態度。それらが静かに胸を刺した。

     ◇

 午前、私は医務室を訪れた。兵士のひとりが高熱で伏していると聞いたからだ。侍医と共に薬草を煎じ、祈りを重ねる。淡い光が額を包み、兵士の息が落ち着いていく。彼が弱々しく微笑み「助かりました」と言ったとき、周囲の兵士たちが歓声をあげた。

「やはり聖女様だ!」
「殿下がお認めになるのも当然だ」

 その声に頬が熱くなる。けれど心の奥では別の思いも芽生えていた。
 ――私は“聖女”として受け入れられている。でも、それだけでいいのだろうか。
 肩書きや力ではなく、ひとりの人間としての自分を知ってほしい。

     ◇

 午後、マリアンヌが私を部屋に呼んだ。王女は机に紙を広げ、鮮やかな筆跡で文字を書いていた。
「これは……城下の孤児院に送る手紙ですか?」

「ええ。あなたにも来てほしいの。子どもたちに会わせたいの」

 胸が高鳴った。追放された身でありながら、未来ある子どもたちに何かを与えられるだろうか。不安もあったが、マリアンヌの笑顔に背を押され、頷いた。

     ◇

 夕刻、執務室でアレクと顔を合わせた。彼は書類から目を上げ、疲れを滲ませながらも微笑んだ。
「今日も人を救ったと聞いた。君の評判はますます広がっている」

「……でも、それが殿下の負担になるのではないかと」

 彼は即座に首を振った。
「負担どころか、君がいることで城も兵も安心している。俺自身もだ」

 真剣な声に胸が震える。思わず問いかけた。
「では……“聖女”ではなく、ただの私として見てもらえる日が来るのでしょうか」

 アレクはしばらく黙し、やがて穏やかな微笑を浮かべた。
「もう来ている。俺にとって君は称号ではなく、ただのセリーナだ」

 視界が滲む。守られるだけではなく、認められている――その確信が心を温めた。

     ◇

 だが夜更け。静かな廊下の影で、密やかな声が交わされていた。
「人心が彼女に傾き始めた。これ以上は危険だ」
「次は失敗できぬ。決着をつけねば」

 蝋燭の揺れる光に、冷たい企みが浮かび上がる。

     ◇

 部屋の窓辺で月を見上げながら、私は深く息を吸った。人々の笑顔と、消えぬ影。二つの現実の間で揺れながらも、心に誓う。
 ――どんな陰が迫ろうとも、私はアレクと共にこの国を照らす。

 その誓いは、静かな夜に確かに刻まれていた。
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