濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。

さら

文字の大きさ
4 / 10

しおりを挟む
第4話 村人との距離
 翌朝、目を覚ますと、家の中がやけに明るかった。薄い木戸越しに差し込む光が、昨日まで気づかなかった埃を浮かび上がらせている。夜の間に雪でも降ったのかと思ったが、外は静かで、風の音も穏やかだ。俺はゆっくりと体を起こし、背中の筋を伸ばした。冒険者時代の癖で、起き抜けに体の具合を確かめる。どこも悪くない。むしろ、いつもより軽い。
「……悪くない朝だ」
 誰に聞かせるでもなく呟く。鍋に水を汲み、火を入れると、ぱちぱちと薪が弾いた。湯が沸くまでの間、昨日の続きの掃除に手を伸ばす。床はだいぶ綺麗になったが、隅にはまだ埃が残っている。こういう細かいところが、気になる性分だ。
 朝食を済ませ、外に出ると、村はすでに動き出していた。畑に向かう者、家畜の世話をする者、子どもを連れて井戸に向かう女たち。誰も急いでいないが、無駄もない。そんな流れの中に、俺も自然と混じっていく。
「おはよう」
 井戸のそばで、年配の女が声をかけてきた。皺だらけの顔に、柔らかな笑みが浮かんでいる。
「おはよう」
 俺は短く返した。挨拶を返すだけで、少し距離が縮まる。そんなことを、久しぶりに思い出した。
「昨日は、バルトの畑を直してくれたんだって?」
「ああ、手伝っただけだ」
「助かったよ。鹿の被害がひどくてねえ」
 女はそう言って、桶を持ち上げた。水面が揺れ、朝日を反射する。
「……そうか」
 それ以上、言葉は続かない。だが、気まずさはなかった。必要な分だけ話し、必要以上に踏み込まない。この村の距離感が、妙に心地いい。
 家に戻る途中、子どもたちが道端で何かを囲んでいるのが見えた。小さな声で騒ぎ、時折、きゃっと短い悲鳴が上がる。
「どうした」
 声をかけると、子どもたちが一斉に振り向いた。
「おじさん!」
 一人が叫び、道の真ん中を指さす。そこには、小さな魔物がひっくり返っていた。イタチに似た姿で、牙はあるが、まだ幼い。縄に絡まって身動きが取れず、必死にもがいている。
「噛まれるぞ」
 俺が言うと、子どもたちは一歩下がった。
「でも、これ、どうするの?」
 別の子が不安そうに聞く。
「離せば、逃げる」
 俺はそう言って、ゆっくりと近づいた。魔物は警戒して牙を剥くが、力は弱い。縄の結び目を見れば、簡単に解ける。
「じっとしてろ」
 魔物に言い聞かせるように声を落とす。縄を解くと、魔物は一瞬固まり、それから、信じられないものを見るように俺を見上げた。次の瞬間、森の方へと一目散に走り去る。
「……行った」
 子どもたちが目を丸くする。
「噛まれなかった!」
「おじさん、すごい!」
 口々に言われ、俺は居心地の悪さを感じた。すごいことをした覚えはない。ただ、無駄に傷つけたくなかっただけだ。
「危ないことはするな」
 それだけ言って、家に戻ろうとすると、背後で子どもたちの声が弾んだ。
「また来てね!」
「……ああ」
 短く返事をして、歩き出す。背中に向けられる無邪気な視線が、妙に重かった。
 昼過ぎ、家の修繕に取りかかる。昨日選別した板を使い、棚を組み直す。釘を打つ音が、家の中に響く。一定のリズムで手を動かしていると、思考が静まる。
 途中、扉が軽く叩かれた。
「ガルド、いるか?」
 バルトの声だ。
「いる」
 扉を開けると、彼の後ろに、若い女が立っていた。茶色の髪を一つにまとめ、質素な服を着ている。
「村の薬師だ」
 バルトが言った。
「畑の件で、礼を言いたいってな」
 薬師の女は、籠を差し出した。
「ほんの気持ちです」
 中を見ると、乾燥させた薬草と、小瓶がいくつか入っている。
「……助かる」
 正直な感想だった。薬草は、何かと使う。
「怪我、されませんでしたか?」
 薬師が心配そうに聞く。
「大丈夫だ」
「そうですか」
 彼女はほっとしたように笑った。その笑顔が、どこかぎこちない。
「外から来た人は、すぐにいなくなることが多いので……」
 言葉の続きは、言わなくても分かる。
「俺は、しばらくいる」
 そう答えると、彼女は一瞬驚いたように目を見開き、それから、ゆっくりと頷いた。
「……それなら、よかった」
 短い沈黙が流れる。気まずいわけではない。ただ、互いに距離を測っている。
「何かあったら、声をかけてくれ」
 バルトが言った。
「ああ」
 二人が帰ったあと、俺は棚を組み上げ、壁に固定した。歪みもなく、ぴたりと収まる。
「……まあまあだな」
 自分で言って、少し笑う。こういう小さな満足は、久しぶりだ。
 夕方、家の前で焚き火を起こし、簡単な煮込みを作る。薬師からもらった薬草を少し入れると、香りが立った。
 火を眺めながら、ぼんやりと考える。ギルドでのこと、追放の言葉、仲間だった連中の顔。思い出せば、胸の奥が少しだけ痛む。だが、その痛みは、昨日よりも確実に薄れていた。
「……時間、か」
 焚き火がぱちりと音を立てる。火の向こうで、村の明かりが一つ、また一つと灯っていく。
 俺は、無意識のうちに、周囲の気配を感じ取っていた。森の中の獣の動き、村人の足音、風の流れ。それらが、危険にならない距離で、穏やかに循環しているのが分かる。
 理由は分からない。ただ、そう感じる。
「……この村は、静かだ」
 呟いた声は、焚き火の音に溶けた。
 その夜、布を敷いただけの簡素な寝床に横になり、天井を見上げる。木の梁の影が、ゆっくりと揺れている。
 目を閉じると、眠りはすぐに訪れた。夢は見なかった。ただ、深く、穏やかな闇が、俺を包み込んでいた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

追放されたので辺境でスローライフしてたら、いつの間にか世界最強の無自覚賢者になっていて元婚約者たちが土下座してきた件

にゃ-さん
ファンタジー
王都で「無能」と蔑まれ、婚約破棄と追放を言い渡された青年リオン。 唯一の取り柄は、古代語でびっしり書かれたボロ本を黙々と読み続けることだけ。 辺境で静かに暮らすはずが、その本が実は「失われた大魔導書」だったことから、世界の常識がひっくり返る。 本人は「ちょっと魔法が得意なだけ」と思っているのに、 ・竜を一撃で黙らせ ・災厄級ダンジョンを散歩感覚で踏破し ・国家レベルの結界を片手間で張り直し 気づけば、訳あり美少女たちに囲まれたハーレム状態に。 やがて、かつて彼を笑い、切り捨てた王都の貴族や元仲間たちが、 国家存亡の危機を前に「助けてくれ」と縋りついてくる。 だがリオンは、領民と仲間の笑顔を守るためだけに、淡々と「本気」を解放していくのだった——。 無自覚最強×追放×ざまぁ×ハーレム。 辺境から始まる、ゆるくて激しいファンタジー無双譚!

追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件

言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」 ──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。 だが彼は思った。 「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」 そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら…… 気づけば村が巨大都市になっていた。 農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。 「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」 一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前! 慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが…… 「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」 もはや世界最強の領主となったレオンは、 「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、 今日ものんびり温泉につかるのだった。 ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!

処理中です...