濡れ衣を着せられ、パーティーを追放されたおっさん、実は最強スキルの持ち主でした。復讐なんてしません。田舎でのんびりスローライフ。

さら

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第8話 勝手にざまぁ
 夜明け前、ランタンの火が小さく揺れていた。薬師が調合した薬の匂いが、部屋の中にほのかに残っている。床に横たわる弓使いの呼吸は安定していて、胸が規則正しく上下していた。俺は椅子に腰掛けたまま、夜通し起きていたわけでもないのに、妙に目が冴えている。
 外で足音がして、扉が静かに叩かれた。
「ガルド」
 バルトの声だ。
「入れ」
 扉を開けると、朝の冷たい空気と一緒に、彼の大きな体が滑り込んできた。顔には疲労の色が濃いが、目ははっきりしている。
「……聞いた」
 短く言って、床に視線を落とす。
「元仲間、だそうだな」
「ああ」
 それ以上、説明はいらなかった。
「村の外でも、動きがあった」
 バルトは声を落とす。
「街道を通ってた商人から聞いた。お前さんが追放されたパーティー……あれ、ほぼ壊滅だそうだ」
 俺は頷いた。予想はしていた。
「討伐依頼を連続で失敗して、信用を失った。剣士は死に、残りも重傷。ギルドは正式に解散扱いにするらしい」
 言葉は淡々としているが、どこか慎重だ。俺の反応を見ているのだろう。
「……そうか」
 それだけ返すと、バルトは少し拍子抜けした顔をした。
「恨みは……ねえのか?」
 俺は少し考えた。恨みがあるかどうかを、自分の中で探す。だが、出てくるのは疲労と、諦観と、ほんの少しの哀れみだけだ。
「ない」
 正直に答えた。
「もう、関係ない」
 バルトは鼻を鳴らし、肩をすくめる。
「お前さんは、変わってるな」
「昔から言われてる」
 短く答えると、彼は苦笑した。
「だがな……」
 言葉を切り、外を指さす。
「村じゃ、お前さんの話で持ちきりだ。魔狼を追い返した話、罠の話、昨夜の戦い……尾ひれもついてる」
「放っておけ」
「そうもいかん」
 バルトは困ったように頭を掻く。
「調査だの、確認だの、そういうのが来るかもしれん」
 俺は窓の外を見る。朝靄の向こうで、村がゆっくりと目を覚ましている。
「来ても、断る」
 それだけだ。
 昼前、弓使いが目を覚ました。
「……水……」
 掠れた声に、薬師がすぐ対応する。水を含ませ、様子を見る。
「……ここは……?」
「村だ」
 俺が答えると、弓使いは目を見開き、やがて俺を認識した。
「……生きて……たんだな……」
「ああ」
 それ以上、言葉は続かなかった。
「……俺は……」
 弓使いは言いかけて、口を閉じた。
「もう、話さなくていい」
 俺は静かに言った。
「回復に専念しろ」
 弓使いは、力なく頷いた。
 午後、村に客が来た。馬に乗った二人組で、装備の整い具合から、ギルド関係者だとすぐに分かる。村の中央で話をしている気配がして、俺は外に出なかった。
 しばらくして、バルトが戻ってくる。
「やはり、ギルドだ」
「用件は」
「魔狼の件と……お前さんのことだ」
 俺は溜息をついた。
「会わない」
「そう言うと思った」
 バルトは苦笑する。
「だが、話だけは聞いてくれと」
 俺は少しだけ考え、頷いた。
 村の集会所で、ギルドの使者と向き合う。彼らは丁寧な口調で、しかし核心を突く質問を投げてきた。
「魔狼の群れを、少人数で追い返したと聞きました」
「偶然だ」
「罠の配置も、専門家並みだそうですね」
「昔、似たことをした」
 質問は続くが、答えは変わらない。
「……再登録の意思は?」
「ない」
 きっぱり言うと、使者は言葉を失った。
「……では、王都からの打診が来る可能性も……」
「断る」
 それで話は終わった。
 使者が去ったあと、集会所に残った村人たちは、俺を見つめていた。尊敬とも畏怖ともつかない視線だ。
「……畑、手伝う」
 俺はそう言って立ち上がる。
 誰かが笑い、空気が少しだけ和らいだ。
 その夕方、畑で土をいじりながら、俺は考える。追放した側は、勝手に崩れ、勝手に評価を失った。俺は何もしていない。ただ、ここで生きているだけだ。
「……ざまぁ、ってやつか」
 小さく呟き、すぐに首を振る。
 そんな言葉は、もう俺には似合わない。
 夕陽が畑を赤く染める中、俺は黙々と鍬を振るい続けた。
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