都会から田舎に追放された令嬢ですが、辺境伯様と畑を耕しながらのんびり新婚スローライフしています 

さら

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第25話 雪に閉ざされた日々


 冬の初雪は静かに降り始めたが、やがて谷を真っ白に埋め尽くした。屋根も畑も木々も雪に覆われ、村はまるで別世界のように沈黙している。冷たい風が吹くたびに窓が軋み、遠くの森は灰色の影に閉ざされていた。

 クラリッサは厚い毛布をまとい、朝早くから暖炉の火を絶やさぬように動き回っていた。薪をくべ、煮込みを温め、薬草茶を準備する。王都では召使いに任せていたことばかりだが、今は自らの手でこなす。

「奥方様、こちらに!」

 リーネが駆け込んできた。頬は赤く、吐く息が白い。

「子どもたちが外で遊んで、手を真っ赤に凍らせちゃって……」

 クラリッサは急いで薬草の軟膏を用意し、暖炉のそばに子どもたちを座らせた。

「大丈夫。これを塗ればじきに温まるわ」

 子どもたちが安心したように笑い、母親たちは頭を下げる。その様子に、クラリッサの胸はじんわりと温まった。雪に閉ざされても、人の心は寄り添えば温め合えるのだ。


 昼頃になると、ライナルトが雪を払って屋敷へ戻ってきた。肩には薪の束を抱え、外套には白い雪片が積もっている。

「森までの道が塞がれていた。明日からは近くの薪を節約しなければならん」

「そうですか……。では、薬草園の乾燥庫に残してあるハーブで、体を温める飲み物を増やしましょう」

 二人は並んで作業を始めた。鍋から立ち上る湯気と香りが部屋を満たし、冷え切った体をじんわりと解きほぐす。

 その夜、村人たちが屋敷に集まり、共に暖を取った。マルタが焼いた黒パンを配り、子どもたちは薪の炎を見ながら歌を口ずさむ。外は吹雪でも、中は笑い声で溢れていた。

「王都には確かに贅沢がありました。でも……この温もりは、ここでしか得られません」

 クラリッサの言葉に、村人たちは深く頷いた。


 数日後、雪はさらに積もり、村は完全に外界と隔絶された。食糧も薪も限られている。だが、誰ひとり不満を漏らさなかった。皆が支え合い、工夫を凝らしながら日々を乗り越えていた。

 クラリッサは窓辺に座り、白銀の世界を見つめながら手編みのマフラーを編んでいた。ぎこちない手つきだったが、ライナルトのためにと心を込めた一本だった。

「……お前が作ったのか?」

 帰宅したライナルトがそれを受け取り、太い指で触れる。クラリッサは照れながら答えた。

「下手ですが……少しでも暖かくなればと思って」

 彼は黙ってマフラーを巻き、その大きな掌で彼女の頭を撫でた。

「十分だ。心まで温まる」

 クラリッサは胸がいっぱいになり、そっと彼の腕に寄り添った。雪に閉ざされた日々は厳しい。けれど、その厳しさの中でこそ、人と人の絆は強く結ばれていく。
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