都会から田舎に追放された令嬢ですが、辺境伯様と畑を耕しながらのんびり新婚スローライフしています 

さら

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第30話 夫婦の未来


 春の風が柔らかく谷を吹き抜け、畑には新芽が勢いよく伸びていた。村人たちは笑顔で働き、子どもたちは歌いながら駆け回る。あれほど苦しい冬と戦いを乗り越えたのに、今こうして穏やかな光景が広がっていることが夢のように思えた。

 クラリッサは薬草園にしゃがみ込み、小さな花を指で撫でた。鮮やかな青が陽光に輝き、心まで清めてくれる。背後で足音が近づき、ライナルトが影を落とした。

「畑も薬草園も、よくここまで育ったな」

「ええ……皆で守ったからこそです」

 クラリッサは立ち上がり、ライナルトの瞳を見つめた。灰色の瞳は昔よりも柔らかく、どこか穏やかだ。

「王都からの使者はどうなりましたか?」

「今は帰った。だがいずれまた来るだろう。俺たちの土地を狙って」

 その言葉に、不安が胸をかすめる。けれどクラリッサは微笑んだ。

「それでも私は揺らぎません。ここが、私の居場所ですから」

 ライナルトの口元に、不器用ながらも確かな笑みが浮かんだ。


 その日、村では小さな祝宴が開かれた。春の恵みを祝うため、広場に人々が集まったのだ。新芽の野菜を煮込んだスープ、焼き立ての黒パン、蜂蜜をかけた果実。粗末ではあるが、心からの喜びに満ちていた。

 オットー村長が声を張る。

「辺境伯様、奥方様! あなた方のおかげで、我らは冬を越え、春を迎えられた!」

 人々の拍手と歓声が響き、クラリッサの胸が熱くなった。リーネが隣で囁く。

「奥方様、王都で“無能”と言われたなんて、もう誰も信じませんよ」

 涙が溢れそうになる。彼女は笑みを浮かべて答えた。

「ありがとう。私はもう、ここで生きる者なのですね」

 ライナルトは杯を掲げ、低く力強い声で言った。

「この土地を守り続ける。それが俺たちの誓いだ」

 人々の歓声が夜空に響き渡り、星が祝福するかのように瞬いた。


 宴が終わり、夜が更けた頃。屋敷の窓辺に立つクラリッサの背に、ライナルトが寄り添った。外には満天の星が広がり、谷を淡い光で包んでいる。

「……ここまで来られるとは思わなかった」

「私もです。けれど、あなたと共に歩んだからこそ辿り着けたのだと思います」

 クラリッサは振り返り、彼の胸に額を寄せた。大きな掌が優しく背を抱き、心が安らぐ。

「ライナルト様。私たちはこれからも困難に直面するでしょう。でも……一緒なら大丈夫です」

「ああ。お前となら、どんな嵐も越えていける」

 二人の唇が触れ合い、静かな誓いが結ばれた。

 谷に風が渡り、芽吹いた草花が揺れる。厳しい冬を超え、商会の策略を打ち破り、王都の影をも受け止めた夫婦は、確かな未来を見据えていた。

 都会から追放された令嬢と、孤独を背負った辺境伯。二人の歩みはもう後戻りすることはない。畑と薬草園、そして人々の笑顔があるこの土地で、新しい歴史を紡いでいく。

 ――のんびりとした新婚スローライフは、これからも続いていくのだ。

終わり
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みんなの感想(2件)

ぷりん
2025.09.21 ぷりん

読了しました。
次から次へと問題ばかりで、スローライフとは全く対極のような生活振りでしたね。

読んでいて思ったのは、辺境伯と辺境伯領というのは国防の要、国境警備の要衝であるので、辺境伯領はただの僻地の田舎ではないし、辺境伯は単なる田舎伯爵でもないはず。
なのに、話に出て来る辺境伯領の規模が村1つで収まっている。
そんなバカな。

完結しましたが、結婚当初に最初に種蒔きした祖母の思い出の白い花ってどうしたんでしたっけ?
読み飛ばしてしまったのでしょうか。あとよく分からない種とかも蒔いてなかったですか?

それと、クラリッサが婚約破棄された上に追放までして追い出しておいて、どうして辺境伯と結婚させたのかの経緯がよく分かりませんでした。
無能無能というばかりで具体的に何がどうダメなのか、さらに追い出した人達はクラリッサの価値をどう再認識して連れ戻そうと考えたのか。
全くといって良いほど語られる事がなかったような。





解除
ぷりん
2025.09.21 ぷりん

読み始めたばかりなのですが、ストーリー冒頭あたりの季節感と時間経過がよく分かりません。
寒いと言っているので、ヒロインが辺境に来たのは印象としては晩秋くらいかなと思ったのですが(外套がって言っていますし)、なのに畑を作って種まきして収穫したのが大根にトマト??
真冬にトマトは育ちませんよ??
しかも種まきして収穫してるなら、さらっと4~5ヶ月くらい経ってますよね?
この間、夫婦仲の進展一切なし?
あれ?

あと、すみません、1ページ目で王都から馬車移動しておそらく数時間くらいは経ってるような印象で、馭者から貰った箱の中身があたたかいパン?
それを食べた描写はなく、その後すぐに辺境伯が迎えに来て、馭者にお礼を言う筈だった事もうやむやになってすぐに出立。

解除

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