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第1話 婚約破棄の日
〇
王城の大広間は、磨き上げられた白大理石の床が朝の光を返し、天井のフレスコ画に描かれた祝福の天使たちは、今この場だけは奇妙に沈黙しているように見えた。列柱の影が規則正しく伸び、香の淡い煙が空気の層を作る。私はその中央、赤い絨毯の上にまっすぐ立ち、背筋の角度と呼吸の深さだけで、崩れそうになる心を糸のように支えていた。胸元のブローチは、母が贈ってくれた薄青の石——光に当たるたび、冷たいきらめきで私の脈を静める。視線を上げれば、玉座の段に王太子アルバート殿下、そしてその斜め背後に、伏し目がちに立つ妹のリリア。人々のざわめきは、噴きこぼれる前の鍋のように、ぴしりと蓋の下で震えている。私は手袋の内側で指を軽く丸め、爪が掌に当たる感触で、ここがまだ現実だと確かめた。
「公爵令嬢エリシア・ヴァレンタイン」
名を呼ぶ声は、執務で鍛えられた書記官の張りを帯びていたが、音節の最後にわずかな逡巡があった。私は一歩前へ出る。絨毯の毛足が踵を撫で、音を立てぬよう滑らせる歩き方を、幼い頃の家庭教師が血のにじむほど教え込んだことを思い出す。礼を取る角度は正確に、首筋に痛みを覚えるぎりぎり手前で留めた。顔を上げた瞬間、私の視界は殿下の瑠璃の瞳とぶつかる。かつては未来を映す鏡のように思えた色合いは、今や冷えた湖面に過ぎない。私は、その冷たさからも目を逸らさないと決めていた。
「エリシア」
殿下は、私の名を恋人としてではなく、書類の冒頭に置かれる固有名詞のように呼んだ。私は微笑んだ。砕け散らないために覚えた、硝子の笑み。唇の端だけをわずかに持ち上げ、頬の筋肉を必要最小限しか動かさない。広間の空気が一段重くなる。人は、嵐よりも静けさに怯えることがある。
「これより、婚約の解消を申し渡す」
言葉は刃となって、儀礼の鞘から抜き放たれた。殿下の声が吸い込んだ沈黙を、遠くで咳払いが一つ破る。私は瞬きの速度を一定に保ちながら、胸の内側で別の声を聴いていた——あの日、庭の藤棚の下で交わした誓いの声。「君と共に。」庭師が枝を整える乾いた音、薄紫の影、春の砂糖菓子のような香り。甘さは、記憶の中で最もよく燃える。私はその燃えさしをそっと踏み消し、前を見る。
「理由を、伺ってもよろしいでしょうか」
自分の声が、思ったより澄んでいることに驚く。訓練された声帯は、感情の震えを拾わない。広間の端で、羽根扇がぴたりと止まる気配がした。誰かがささやく。「まあ、あの方、泣きもしないわ」——泣き方を忘れたわけではない。ただ、ここは正しい場所ではないだけ。
「お前は冷たい。臣下にも侍女にも、そして——」
殿下は言いかけて、傍らのリリアに目をやる。彼女はついと顔を伏せ、肩を小さく震わせる。涙の粒が頬を伝い、白い喉へと滑るのを、人々は息を潜めて見守った。私は妹の涙が落ちる軌跡を、数式のように正確に追うことができた。幼い頃、同じ家庭教師の教本を取り合った指の、温度まで思い出せる。あの子は昔から、泣きたいときに泣く術を知っていた。私は——泣くより先に、黙って立つ術を覚えた。
「姉は、私のドレスを……破りました」
か細い声が広間に散る。ざわめきが一斉にこちらに流れ込む。私は瞬時に過日の記憶を反芻する。仕立て部屋、薄絹、光。引き出しにしまった見取り図、針山、床に落ちた白糸の環。——私が直したのは、ほつれ。破ったのは、事実ではない。だが、真実はいつでも勝者の言葉の形を取る。私は口を開きかけて、閉じた。自分のための弁解は、時に自分の体温を最も削る。
「侍女からも証言が上がっている」
殿下の声が硬くなる。私は、彼が硬さを装うときの顎の角度を知っている。狩猟の訓練で弓を引くとき、視線の高さを保つ癖。誰もが知っている殿下の所作の裏側を、私は知っている。知っているということは、手放すべき重さを一つ増やすということだ。私はブローチに指を触れ、石の冷たさで、手放す練習をする。
「言葉は要りません、エリシア」
殿下の言葉に、私の名が二度目に置かれる。私はうなずいた。言葉は要らない——それならば、最後に残るのは姿勢だけ。私は姿勢で答えることを選ぶ。背は伸び、首はしなやかに、視線は真っ直ぐに。侍従が一歩進み出て、羊皮紙を掲げる。式次第に従い、書記官が文面を読み上げる。その間、私は聴衆のざわめきに含まれる色を数えた。哀れみは鈍い鉛、好奇は薄い錫、嘲りは磨き込まれた銅。混ざり合えば、どれも同じ濁色になる。
「……以上。よって王太子アルバートは、婚約を解消する」
宣告が空気の膜を破り、音が大広間の壁に反響してから、戻ってくる。私は浅く一礼し、口元に笑みを——硝子を——再び載せる。膝の裏が、糸の切れた操り人形のように一瞬弱る。けれど、絨毯は落ちる人間のために敷かれてはいない。立っている者が、静かに歩くためにある。
「殿下、どうかお健やかに」
言葉は儀礼書の定型で、けれど私の声帯を通ると、わずかな温度を帯びる。嘘ではない。健やかであればいい。私とは別の場所で。私に渡された未来が、別の人に合う衣の寸法で仕立て直されただけのこと。私は歩き出す。視界の端で、妹の指先が殿下の袖口を摘む。私は見ない。見ないことは、逃げることではない。見ないことで守られるものもある。
「なんて顔……」
観衆のどこかで、誰かが呟く。私は自分の顔を内側から撫でるように確かめる。頬の温度、瞼の重さ、唇の乾き。すべてが静かに整っている。扉までの距離は、幼い頃から何度も歩いて知っているはずなのに、今日だけは知らない回廊のように長い。私は踵を鳴らさない歩き方を守り、柱と柱の間に落ちる影の幅を数える。四、五、六。数は私を裏切らない。数えている間だけ、時間は音もなく進む。
「エリシア!」
名を呼ぶ声に足が止まりそうになる。振り返らない。背に感じるのは、宮廷という巨大な機械が回る規則音。歯車の一つとして磨かれ続けた年月が、皮膚の内側に金属疲労を残す。けれど今、私は外れる。ゆっくりと、確かに。誰にも見えないところで、私の中の小さなボルトが一つ、外れる音がした。
扉の前に立つ。金具の冷たさが空気の冷たさと混じり合い、指先を刺す。執事が控えめに扉へ手を伸ばす気配が、左後方で膨らむ。私はその前に一息だけ吸い、胸の奥に淡い痛みを受け入れ、吐く息とともに形を与えず空に放した。微笑みを消さないまま、まぶたの重さを均す。絹の裾が床を撫で、金の糸が光を集めて溶かす。私は、歩き出すための最初の足裏の角度を、正確に定めた。
△
扉を押し開けた瞬間、広間の音が遠のき、静寂が波のように押し寄せた。石畳の廊下に足を踏み入れると、外の光が眩しく、目が焼けるほど白かった。絢爛な装飾の陰で、冷たい風が袖の中を通り抜けていく。城の外壁は朝の霧に包まれ、遠くの尖塔は白金の刃のように霞む。私は歩き続けながら、自分の靴音だけを頼りにした。背後の扉が閉まる音が、まるで人生の一章が終わる音のように響く。胸の奥に残る痛みは、冷たい水面に石を投げたときの波紋のように、静かに広がっていく。
広い回廊の壁に飾られた絵画たちは、どれも微笑んでいるのに、その笑みが酷く遠い。かつて私が手ずから選び、王太子殿下と相談して配置した絵もあった。あの頃は何も疑わず、同じ未来を描いていたというのに。今はただ、空洞のように美しいだけのもの。天井のシャンデリアから落ちる光が、足元の石畳に複雑な影を作る。歩を進めるたびに影は揺れ、私の輪郭を飲み込んで消えた。
廊下の角を曲がったところで、控えの侍女とすれ違う。彼女は一瞬だけ目を見開き、すぐに俯いた。その仕草に責める意志はない。ただ、怯えと戸惑いと、どうしようもない哀れみの混ざった色があった。私は微笑んで軽く会釈する。それが、貴族として最後に出来る礼儀だと自分に言い聞かせながら。声を出せば、涙が崩れる気がした。だから、沈黙のままに通り過ぎる。
外に出るまでの道のりは、あまりにも長かった。赤絨毯が途切れるあたりから、冷えた石が靴底越しに伝わってくる。誰も声をかけない。人々は立ち止まり、ただ見送るだけ。まるで、死刑囚が最後の歩みを進めるかのように。だが私は、生きている。確かに息をしている。死んだのは、婚約者としての私であり、王都に生きた私だ。新しい何かはまだ芽吹いていない。だからこそ、今の私は壊れかけの器でありながら、空っぽのまま歩き続けられるのだ。
城門が見えた。鉄の格子に朝露が光り、衛兵たちが無言で敬礼をする。その目の奥には憐憫があり、あるいは罪悪感も。だが私は何も求めていない。ここで止まれば、再び誰かの言葉に縛られてしまう。私は淡く微笑み、まっすぐ前を見据えて歩を進めた。背後で衛兵が静かに礼を返す音がする。風が吹き抜け、髪を乱す。金の髪飾りが外れて、地面に落ちる音が小さく響いた。拾わなかった。それはもう、過去の自分の一部だから。
外の空気は、王城の空気よりもずっと澄んでいた。馬車の往来、朝市のざわめき、焼きたてのパンの匂い。これほど世界は生きているのに、自分だけが透明になってしまったようだった。視線を落とせば、手袋越しに指が震えている。私はそれを隠すように両手を重ね、歩き出す。城下町の石畳が遠くまで続く。その先がどこへ繋がるのかも分からない。それでも歩くしかなかった。止まれば、泣いてしまう。
「エリシア様……」
背後で、かすかな声が聞こえた。振り返ると、使用人時代から私に仕えてくれていた侍女マリーが立っていた。彼女の瞳は赤く、頬は涙で濡れている。私は小さく首を横に振るだけで、何も言わなかった。マリーが駆け寄ろうとしたその瞬間、私は軽く手を上げて制した。言葉よりも、沈黙のほうが伝わると信じていた。彼女は唇を噛み、深く一礼してその場に膝をついた。
「……ご無事でいてくださいませ」
その声に、胸の奥が微かに軋んだ。私はうなずき、背を向ける。涙をこぼす代わりに、空を見た。雲一つない青空が広がっている。こんなにも美しいのに、なぜ心は灰色なのだろう。風が頬を撫でた。泣くな、と言われた気がした。
王都の門を抜ける頃には、靴の底が土に汚れていた。舗装された石が途切れ、乾いた風が吹く。遠くに見える丘陵、草原の向こうに続く細い道。行くあてもないが、戻る場所もない。荷物はほとんど持っていない。宝石もドレスも置いてきた。手にあるのは、小さな革袋ひとつ。中には母の遺した手紙と、古びたペンダント。幼い頃、病床で母が私に微笑みながら言った——「誇りを捨てなければ、どんな場所でも生きていけるのよ」。誇り。あの言葉を抱きしめるように、私は深く息を吸った。
歩き出すたび、靴音が心臓の鼓動と重なる。振り返れば王都の尖塔がまだ見える。そこに残るのは、嘘と裏切りと、少しばかりの記憶。私はそれに背を向けた。太陽が昇りきる前に、私は街道の影の中へ消える。光が遠ざかるほどに、心が軽くなるような錯覚さえ覚えた。私は初めて、誰の名も呼ばずに歩いた。誰のためでもなく、ただ自分の足で。
◇
王都の門を離れてから、どれほど歩いただろうか。舗装された石畳は次第に途切れ、足元の土は乾き、砂埃が風とともに舞い上がる。太陽が容赦なく照りつけ、吐く息は熱を含み、喉が乾いていく。肩にかけた薄布を頭に巻きつけて日を避けながら、私はひたすら前へと歩いた。行き先は決めていない。ただ、王都から離れたい——それだけが確かな願いだった。遠くで鳥が鳴き、馬車の車輪の音が消える。世界が静かだ。私の足音と心臓の鼓動だけが、確かに生の証としてそこにあった。
昼を過ぎる頃には、足の裏が痛み始めた。慣れない長距離の歩行に、靴の中の皮膚が擦れて熱を持っているのがわかる。立ち止まれば、痛みはより強く感じられる。だから、止まらない。歩き続けることだけが、私を私として形づくる唯一の行為のように思えた。城にいた頃、歩くときはいつも誰かがそばにいた。使用人、護衛、侍女。今は誰もいない。けれど、孤独が不思議と怖くなかった。むしろ、ようやく息ができる気がした。
丘の上に小さな木陰を見つけ、私はようやく腰を下ろした。風が頬を撫で、髪を揺らす。草の匂いが鼻先をくすぐる。空はどこまでも高く、どこにも壁がない。あの城の中では、空を見上げてもいつも天井があった。だから、こんなにも広い空を見たのは、きっと初めてだ。目を細めると、陽光が涙腺を刺激する。涙が出たのは、悲しみではなく、光がまぶしかったから——そう言い聞かせる。
懐から小さなペンダントを取り出す。母の形見だ。銀の鎖に、淡い青の宝石がひとつ埋め込まれている。光にかざすと、宝石の奥に微かな亀裂があるのがわかる。その傷が、どこか今の自分の心と重なって見えた。壊れても、まだ光を返すことができる。母がそれを残してくれた理由が、少しだけ分かる気がした。私は胸元にそれを戻し、そっと握りしめた。
風が急に冷たくなる。雲が流れ、陽の光が陰る。遠くで雷鳴のような音がした。夕立だろうか。森の端が見える方向へ、私は再び立ち上がる。あそこまで行けば雨をしのげるかもしれない。足を動かすたびに、靴の中で痛みが走る。けれど、止まれない。止まれば心の中の声が蘇る——「冷たい女だ」「姉さんのせいだ」「婚約を破棄する」……。その声たちを追い払うために、私は歩く。
森に入ると、風の音が変わった。枝の擦れ合う低い囁きが、まるで誰かが耳元で語りかけてくるようだ。湿った土の匂い。鳥の鳴き声。生きている音が、私のまわりにあふれている。けれどその生命の音が、逆に現実感を奪っていく。私は木の幹に背を預け、ゆっくりと座り込んだ。身体が重い。頭の奥がじんじんする。疲労と空腹と、微かな寒気。王都を出てまだ一日も経っていないのに、まるで何日も彷徨ったように感じる。
ふと、頬に冷たいものが落ちた。雨だった。ぽつり、ぽつりと地面を濡らし、やがてそれは勢いを増していく。空が泣いているようだと思った。木の葉が揺れ、風が強くなる。私は裾を抱えて立ち上がり、近くの岩陰に身を寄せた。雨粒が肩を叩き、冷気が骨まで染みてくる。体が震える。唇が青ざめる。けれど、もう立ち上がる力が残っていなかった。
——せめて、母の眠る故郷の方向を向いて。
それだけを思いながら、私は地面に膝をつく。濡れた髪が顔に張り付き、視界が霞む。体温が下がり、意識が遠のいていくのが分かる。雨音が次第に遠くなる。ああ、ここで終わるのだろうか、とぼんやり思った。誰かの声が聞こえた気がした。けれど、それが現実のものかどうかも分からない。
視界の端に、影が見えた。黒い外套を羽織った男の姿。雨をものともせず、真っ直ぐこちらへ歩いてくる。靴音が泥を踏む音だけが確かに響く。私は目を開けようとしたが、瞼が重くて動かない。体が傾ぐ。次の瞬間、誰かの腕が私の体を支えた。
温かい——。
それが最初に感じた印象だった。冷たい雨の中で、その体温は火のように確かで、私の肌を焼くほどだった。誰かが、私を抱き上げる。外套の裾が広がり、視界が暗くなる。息をするたびに、革の匂いと微かな金属の匂いが混じる。
「……大丈夫だ」
低く、掠れた声。男の声だ。意識の奥で、私はその響きを覚えておこうとした。胸の奥が不思議なほど穏やかになる。雨音が遠ざかり、代わりに心臓の鼓動が聞こえる。自分のものではなく、抱く男の胸の中で響く確かな音。規則正しく、静かで、あたたかい。
世界が暗闇に溶ける直前、私はその鼓動のリズムに合わせて、小さく息を吐いた。
——もう、誰も信じない。そう決めたはずなのに。
意識の底で、なぜかその腕の中だけは、拒むことができなかった。
〇
王城の大広間は、磨き上げられた白大理石の床が朝の光を返し、天井のフレスコ画に描かれた祝福の天使たちは、今この場だけは奇妙に沈黙しているように見えた。列柱の影が規則正しく伸び、香の淡い煙が空気の層を作る。私はその中央、赤い絨毯の上にまっすぐ立ち、背筋の角度と呼吸の深さだけで、崩れそうになる心を糸のように支えていた。胸元のブローチは、母が贈ってくれた薄青の石——光に当たるたび、冷たいきらめきで私の脈を静める。視線を上げれば、玉座の段に王太子アルバート殿下、そしてその斜め背後に、伏し目がちに立つ妹のリリア。人々のざわめきは、噴きこぼれる前の鍋のように、ぴしりと蓋の下で震えている。私は手袋の内側で指を軽く丸め、爪が掌に当たる感触で、ここがまだ現実だと確かめた。
「公爵令嬢エリシア・ヴァレンタイン」
名を呼ぶ声は、執務で鍛えられた書記官の張りを帯びていたが、音節の最後にわずかな逡巡があった。私は一歩前へ出る。絨毯の毛足が踵を撫で、音を立てぬよう滑らせる歩き方を、幼い頃の家庭教師が血のにじむほど教え込んだことを思い出す。礼を取る角度は正確に、首筋に痛みを覚えるぎりぎり手前で留めた。顔を上げた瞬間、私の視界は殿下の瑠璃の瞳とぶつかる。かつては未来を映す鏡のように思えた色合いは、今や冷えた湖面に過ぎない。私は、その冷たさからも目を逸らさないと決めていた。
「エリシア」
殿下は、私の名を恋人としてではなく、書類の冒頭に置かれる固有名詞のように呼んだ。私は微笑んだ。砕け散らないために覚えた、硝子の笑み。唇の端だけをわずかに持ち上げ、頬の筋肉を必要最小限しか動かさない。広間の空気が一段重くなる。人は、嵐よりも静けさに怯えることがある。
「これより、婚約の解消を申し渡す」
言葉は刃となって、儀礼の鞘から抜き放たれた。殿下の声が吸い込んだ沈黙を、遠くで咳払いが一つ破る。私は瞬きの速度を一定に保ちながら、胸の内側で別の声を聴いていた——あの日、庭の藤棚の下で交わした誓いの声。「君と共に。」庭師が枝を整える乾いた音、薄紫の影、春の砂糖菓子のような香り。甘さは、記憶の中で最もよく燃える。私はその燃えさしをそっと踏み消し、前を見る。
「理由を、伺ってもよろしいでしょうか」
自分の声が、思ったより澄んでいることに驚く。訓練された声帯は、感情の震えを拾わない。広間の端で、羽根扇がぴたりと止まる気配がした。誰かがささやく。「まあ、あの方、泣きもしないわ」——泣き方を忘れたわけではない。ただ、ここは正しい場所ではないだけ。
「お前は冷たい。臣下にも侍女にも、そして——」
殿下は言いかけて、傍らのリリアに目をやる。彼女はついと顔を伏せ、肩を小さく震わせる。涙の粒が頬を伝い、白い喉へと滑るのを、人々は息を潜めて見守った。私は妹の涙が落ちる軌跡を、数式のように正確に追うことができた。幼い頃、同じ家庭教師の教本を取り合った指の、温度まで思い出せる。あの子は昔から、泣きたいときに泣く術を知っていた。私は——泣くより先に、黙って立つ術を覚えた。
「姉は、私のドレスを……破りました」
か細い声が広間に散る。ざわめきが一斉にこちらに流れ込む。私は瞬時に過日の記憶を反芻する。仕立て部屋、薄絹、光。引き出しにしまった見取り図、針山、床に落ちた白糸の環。——私が直したのは、ほつれ。破ったのは、事実ではない。だが、真実はいつでも勝者の言葉の形を取る。私は口を開きかけて、閉じた。自分のための弁解は、時に自分の体温を最も削る。
「侍女からも証言が上がっている」
殿下の声が硬くなる。私は、彼が硬さを装うときの顎の角度を知っている。狩猟の訓練で弓を引くとき、視線の高さを保つ癖。誰もが知っている殿下の所作の裏側を、私は知っている。知っているということは、手放すべき重さを一つ増やすということだ。私はブローチに指を触れ、石の冷たさで、手放す練習をする。
「言葉は要りません、エリシア」
殿下の言葉に、私の名が二度目に置かれる。私はうなずいた。言葉は要らない——それならば、最後に残るのは姿勢だけ。私は姿勢で答えることを選ぶ。背は伸び、首はしなやかに、視線は真っ直ぐに。侍従が一歩進み出て、羊皮紙を掲げる。式次第に従い、書記官が文面を読み上げる。その間、私は聴衆のざわめきに含まれる色を数えた。哀れみは鈍い鉛、好奇は薄い錫、嘲りは磨き込まれた銅。混ざり合えば、どれも同じ濁色になる。
「……以上。よって王太子アルバートは、婚約を解消する」
宣告が空気の膜を破り、音が大広間の壁に反響してから、戻ってくる。私は浅く一礼し、口元に笑みを——硝子を——再び載せる。膝の裏が、糸の切れた操り人形のように一瞬弱る。けれど、絨毯は落ちる人間のために敷かれてはいない。立っている者が、静かに歩くためにある。
「殿下、どうかお健やかに」
言葉は儀礼書の定型で、けれど私の声帯を通ると、わずかな温度を帯びる。嘘ではない。健やかであればいい。私とは別の場所で。私に渡された未来が、別の人に合う衣の寸法で仕立て直されただけのこと。私は歩き出す。視界の端で、妹の指先が殿下の袖口を摘む。私は見ない。見ないことは、逃げることではない。見ないことで守られるものもある。
「なんて顔……」
観衆のどこかで、誰かが呟く。私は自分の顔を内側から撫でるように確かめる。頬の温度、瞼の重さ、唇の乾き。すべてが静かに整っている。扉までの距離は、幼い頃から何度も歩いて知っているはずなのに、今日だけは知らない回廊のように長い。私は踵を鳴らさない歩き方を守り、柱と柱の間に落ちる影の幅を数える。四、五、六。数は私を裏切らない。数えている間だけ、時間は音もなく進む。
「エリシア!」
名を呼ぶ声に足が止まりそうになる。振り返らない。背に感じるのは、宮廷という巨大な機械が回る規則音。歯車の一つとして磨かれ続けた年月が、皮膚の内側に金属疲労を残す。けれど今、私は外れる。ゆっくりと、確かに。誰にも見えないところで、私の中の小さなボルトが一つ、外れる音がした。
扉の前に立つ。金具の冷たさが空気の冷たさと混じり合い、指先を刺す。執事が控えめに扉へ手を伸ばす気配が、左後方で膨らむ。私はその前に一息だけ吸い、胸の奥に淡い痛みを受け入れ、吐く息とともに形を与えず空に放した。微笑みを消さないまま、まぶたの重さを均す。絹の裾が床を撫で、金の糸が光を集めて溶かす。私は、歩き出すための最初の足裏の角度を、正確に定めた。
△
扉を押し開けた瞬間、広間の音が遠のき、静寂が波のように押し寄せた。石畳の廊下に足を踏み入れると、外の光が眩しく、目が焼けるほど白かった。絢爛な装飾の陰で、冷たい風が袖の中を通り抜けていく。城の外壁は朝の霧に包まれ、遠くの尖塔は白金の刃のように霞む。私は歩き続けながら、自分の靴音だけを頼りにした。背後の扉が閉まる音が、まるで人生の一章が終わる音のように響く。胸の奥に残る痛みは、冷たい水面に石を投げたときの波紋のように、静かに広がっていく。
広い回廊の壁に飾られた絵画たちは、どれも微笑んでいるのに、その笑みが酷く遠い。かつて私が手ずから選び、王太子殿下と相談して配置した絵もあった。あの頃は何も疑わず、同じ未来を描いていたというのに。今はただ、空洞のように美しいだけのもの。天井のシャンデリアから落ちる光が、足元の石畳に複雑な影を作る。歩を進めるたびに影は揺れ、私の輪郭を飲み込んで消えた。
廊下の角を曲がったところで、控えの侍女とすれ違う。彼女は一瞬だけ目を見開き、すぐに俯いた。その仕草に責める意志はない。ただ、怯えと戸惑いと、どうしようもない哀れみの混ざった色があった。私は微笑んで軽く会釈する。それが、貴族として最後に出来る礼儀だと自分に言い聞かせながら。声を出せば、涙が崩れる気がした。だから、沈黙のままに通り過ぎる。
外に出るまでの道のりは、あまりにも長かった。赤絨毯が途切れるあたりから、冷えた石が靴底越しに伝わってくる。誰も声をかけない。人々は立ち止まり、ただ見送るだけ。まるで、死刑囚が最後の歩みを進めるかのように。だが私は、生きている。確かに息をしている。死んだのは、婚約者としての私であり、王都に生きた私だ。新しい何かはまだ芽吹いていない。だからこそ、今の私は壊れかけの器でありながら、空っぽのまま歩き続けられるのだ。
城門が見えた。鉄の格子に朝露が光り、衛兵たちが無言で敬礼をする。その目の奥には憐憫があり、あるいは罪悪感も。だが私は何も求めていない。ここで止まれば、再び誰かの言葉に縛られてしまう。私は淡く微笑み、まっすぐ前を見据えて歩を進めた。背後で衛兵が静かに礼を返す音がする。風が吹き抜け、髪を乱す。金の髪飾りが外れて、地面に落ちる音が小さく響いた。拾わなかった。それはもう、過去の自分の一部だから。
外の空気は、王城の空気よりもずっと澄んでいた。馬車の往来、朝市のざわめき、焼きたてのパンの匂い。これほど世界は生きているのに、自分だけが透明になってしまったようだった。視線を落とせば、手袋越しに指が震えている。私はそれを隠すように両手を重ね、歩き出す。城下町の石畳が遠くまで続く。その先がどこへ繋がるのかも分からない。それでも歩くしかなかった。止まれば、泣いてしまう。
「エリシア様……」
背後で、かすかな声が聞こえた。振り返ると、使用人時代から私に仕えてくれていた侍女マリーが立っていた。彼女の瞳は赤く、頬は涙で濡れている。私は小さく首を横に振るだけで、何も言わなかった。マリーが駆け寄ろうとしたその瞬間、私は軽く手を上げて制した。言葉よりも、沈黙のほうが伝わると信じていた。彼女は唇を噛み、深く一礼してその場に膝をついた。
「……ご無事でいてくださいませ」
その声に、胸の奥が微かに軋んだ。私はうなずき、背を向ける。涙をこぼす代わりに、空を見た。雲一つない青空が広がっている。こんなにも美しいのに、なぜ心は灰色なのだろう。風が頬を撫でた。泣くな、と言われた気がした。
王都の門を抜ける頃には、靴の底が土に汚れていた。舗装された石が途切れ、乾いた風が吹く。遠くに見える丘陵、草原の向こうに続く細い道。行くあてもないが、戻る場所もない。荷物はほとんど持っていない。宝石もドレスも置いてきた。手にあるのは、小さな革袋ひとつ。中には母の遺した手紙と、古びたペンダント。幼い頃、病床で母が私に微笑みながら言った——「誇りを捨てなければ、どんな場所でも生きていけるのよ」。誇り。あの言葉を抱きしめるように、私は深く息を吸った。
歩き出すたび、靴音が心臓の鼓動と重なる。振り返れば王都の尖塔がまだ見える。そこに残るのは、嘘と裏切りと、少しばかりの記憶。私はそれに背を向けた。太陽が昇りきる前に、私は街道の影の中へ消える。光が遠ざかるほどに、心が軽くなるような錯覚さえ覚えた。私は初めて、誰の名も呼ばずに歩いた。誰のためでもなく、ただ自分の足で。
◇
王都の門を離れてから、どれほど歩いただろうか。舗装された石畳は次第に途切れ、足元の土は乾き、砂埃が風とともに舞い上がる。太陽が容赦なく照りつけ、吐く息は熱を含み、喉が乾いていく。肩にかけた薄布を頭に巻きつけて日を避けながら、私はひたすら前へと歩いた。行き先は決めていない。ただ、王都から離れたい——それだけが確かな願いだった。遠くで鳥が鳴き、馬車の車輪の音が消える。世界が静かだ。私の足音と心臓の鼓動だけが、確かに生の証としてそこにあった。
昼を過ぎる頃には、足の裏が痛み始めた。慣れない長距離の歩行に、靴の中の皮膚が擦れて熱を持っているのがわかる。立ち止まれば、痛みはより強く感じられる。だから、止まらない。歩き続けることだけが、私を私として形づくる唯一の行為のように思えた。城にいた頃、歩くときはいつも誰かがそばにいた。使用人、護衛、侍女。今は誰もいない。けれど、孤独が不思議と怖くなかった。むしろ、ようやく息ができる気がした。
丘の上に小さな木陰を見つけ、私はようやく腰を下ろした。風が頬を撫で、髪を揺らす。草の匂いが鼻先をくすぐる。空はどこまでも高く、どこにも壁がない。あの城の中では、空を見上げてもいつも天井があった。だから、こんなにも広い空を見たのは、きっと初めてだ。目を細めると、陽光が涙腺を刺激する。涙が出たのは、悲しみではなく、光がまぶしかったから——そう言い聞かせる。
懐から小さなペンダントを取り出す。母の形見だ。銀の鎖に、淡い青の宝石がひとつ埋め込まれている。光にかざすと、宝石の奥に微かな亀裂があるのがわかる。その傷が、どこか今の自分の心と重なって見えた。壊れても、まだ光を返すことができる。母がそれを残してくれた理由が、少しだけ分かる気がした。私は胸元にそれを戻し、そっと握りしめた。
風が急に冷たくなる。雲が流れ、陽の光が陰る。遠くで雷鳴のような音がした。夕立だろうか。森の端が見える方向へ、私は再び立ち上がる。あそこまで行けば雨をしのげるかもしれない。足を動かすたびに、靴の中で痛みが走る。けれど、止まれない。止まれば心の中の声が蘇る——「冷たい女だ」「姉さんのせいだ」「婚約を破棄する」……。その声たちを追い払うために、私は歩く。
森に入ると、風の音が変わった。枝の擦れ合う低い囁きが、まるで誰かが耳元で語りかけてくるようだ。湿った土の匂い。鳥の鳴き声。生きている音が、私のまわりにあふれている。けれどその生命の音が、逆に現実感を奪っていく。私は木の幹に背を預け、ゆっくりと座り込んだ。身体が重い。頭の奥がじんじんする。疲労と空腹と、微かな寒気。王都を出てまだ一日も経っていないのに、まるで何日も彷徨ったように感じる。
ふと、頬に冷たいものが落ちた。雨だった。ぽつり、ぽつりと地面を濡らし、やがてそれは勢いを増していく。空が泣いているようだと思った。木の葉が揺れ、風が強くなる。私は裾を抱えて立ち上がり、近くの岩陰に身を寄せた。雨粒が肩を叩き、冷気が骨まで染みてくる。体が震える。唇が青ざめる。けれど、もう立ち上がる力が残っていなかった。
——せめて、母の眠る故郷の方向を向いて。
それだけを思いながら、私は地面に膝をつく。濡れた髪が顔に張り付き、視界が霞む。体温が下がり、意識が遠のいていくのが分かる。雨音が次第に遠くなる。ああ、ここで終わるのだろうか、とぼんやり思った。誰かの声が聞こえた気がした。けれど、それが現実のものかどうかも分からない。
視界の端に、影が見えた。黒い外套を羽織った男の姿。雨をものともせず、真っ直ぐこちらへ歩いてくる。靴音が泥を踏む音だけが確かに響く。私は目を開けようとしたが、瞼が重くて動かない。体が傾ぐ。次の瞬間、誰かの腕が私の体を支えた。
温かい——。
それが最初に感じた印象だった。冷たい雨の中で、その体温は火のように確かで、私の肌を焼くほどだった。誰かが、私を抱き上げる。外套の裾が広がり、視界が暗くなる。息をするたびに、革の匂いと微かな金属の匂いが混じる。
「……大丈夫だ」
低く、掠れた声。男の声だ。意識の奥で、私はその響きを覚えておこうとした。胸の奥が不思議なほど穏やかになる。雨音が遠ざかり、代わりに心臓の鼓動が聞こえる。自分のものではなく、抱く男の胸の中で響く確かな音。規則正しく、静かで、あたたかい。
世界が暗闇に溶ける直前、私はその鼓動のリズムに合わせて、小さく息を吐いた。
——もう、誰も信じない。そう決めたはずなのに。
意識の底で、なぜかその腕の中だけは、拒むことができなかった。
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