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第2話 追放の朝
〇
目を開けたとき、まぶたの裏を焼くような光が差し込んでいた。白い天井がゆっくりと視界に滲み、木で組まれた梁が柔らかく軋む音を立てている。すぐそばで、薪が燃える音。焦げた木の匂いと薬草の香りが入り混じり、かすかに甘い煙が漂っていた。私は、重たい毛布に包まれて横たわっていた。濡れた髪が首筋に張り付き、体の芯まで冷え切っていたことを思い出す。けれど今は、指先まで温かい。まるで誰かが灯をともしてくれたように。
頭を動かそうとすると、こめかみがずきりと痛んだ。呻き声が漏れた瞬間、部屋の奥で椅子がわずかにきしむ音がした。驚いて視線を向けると、暖炉のそばに男が座っていた。黒い外套のまま、肘を膝に置き、顎に手を添えている。年の頃は二十代半ばほど。長い黒髪がうなじで束ねられ、煤けた光がその髪を濡らしていた。瞳の色は深い灰。火の反射でわずかに銀を帯び、どこか冷たくも静かな印象を与える。
「……目が覚めたか」
低く、乾いた声だった。言葉の響きがあまりに穏やかで、一瞬返事を忘れてしまう。唇を開こうとしたが、喉がからからに乾いていて、うまく声が出なかった。男はゆっくりと立ち上がり、木の卓の上に置かれていた器を手に取る。湯気の立つ水だった。
「飲めるか」
彼は言いながら、私の枕元に膝をつく。その仕草に、どこか不器用な優しさがあった。私はうなずくことしかできず、器を受け取ろうとしたが、手が震えてこぼしそうになる。すると、男は無言で手を添え、口元まで運んでくれた。水は温かく、喉を通るたびに生き返るような感覚がした。息を吐くと、肺の奥の冷たさが少しずつ溶けていく。
「……助けて、くださったのですか」
ようやく搾り出した声は、掠れていて自分のものとは思えなかった。男は短くうなずき、また暖炉のほうへ視線を戻した。
「森の入口で倒れていた。通り雨のあとだった」
「……そう、でしたか」
言葉を返しながら、昨夜の出来事が少しずつ蘇る。雨、雷鳴、そして、あの腕の温もり。夢ではなかったのだ。
私は体を起こそうとしたが、男が軽く手を上げて制した。
「無理をするな。熱がまだ残っている」
彼の声には命令ではなく、淡い心配が滲んでいた。その響きに、不思議な安心を覚える。王城では誰もが言葉を飾った。優しさは礼儀に包まれ、憂いは形式に隠された。けれど、目の前の男の言葉には飾りがなかった。
「ここは……どこなのでしょう」
「北の森のはずれ、カーヴェルの山小屋だ。村までは歩いて半日ほどだ」
「あなたは……」
言いかけたところで、彼は答える前に小さく息を吐き、視線を火に戻した。
「名はルシアン。余計な詮索はしなくていい」
静かにそう言うと、火の棒で薪を崩す。火花がぱちりと弾け、灰が舞い上がった。私はその背を見つめながら、これ以上は尋ねるべきでないと悟った。恩人の素性を問うのは、無礼に等しい。それに、彼の背中には、何か触れてはならない影のようなものがあった。
部屋の中を見渡すと、木製の家具がいくつか並び、壁には乾燥させた薬草の束が吊るされている。素朴だが、どこか整然としていて、清潔だった。彼がこの小屋で暮らしているのだろう。窓の外では、細い光が木々の間を縫うように差し込み、緑の粒が揺れていた。
「あなたが……薬を?」
「少し心得がある。熱冷ましの草と蜂蜜を煎じた。しばらくすれば良くなる」
そう言って、ルシアンは木の器をもうひとつ手に取り、茶色がかった液体を差し出した。匂いは独特だが、不快ではない。私は一口飲み、ほっと息を漏らした。喉を通る苦味の奥に、わずかな甘みが残る。
「ありがとう、ございます」
礼を言うと、彼は黙ってうなずき、再び椅子に腰を下ろした。沈黙が流れる。だがその沈黙は重くなかった。暖炉の火がぱちぱちと音を立て、外では風が木々を撫でる。静けさの中で、私の心の奥に残っていた緊張が、少しずつ溶けていくのを感じた。
毛布を握りしめ、私は胸の奥でそっと呟く。
——私は生きている。
あの日、王城の扉を出たとき、自分の命などどうでもよかった。けれど今、この温かい部屋の中で、薪の匂いと誰かの声に包まれながら、確かに呼吸をしている。小さな火の音が、心臓の鼓動と重なって聞こえた。
ルシアンは、ふとこちらに目を向けた。火の光がその瞳に映り、金属のような輝きを帯びる。私は視線を逸らそうとしたが、彼は何も言わずに小さく頷いた。それは、言葉よりも優しい仕草だった。
「……しばらく、ここにいてもいいでしょうか」
気づけば、そう口にしていた。彼は少しの間黙っていたが、やがて低く答えた。
「好きにするといい」
その言葉に、胸の奥が温かくなった。私は毛布を胸の下まで引き上げ、深く息を吐いた。外では雨上がりの風が吹き、窓辺の木々がきらめいている。
新しい朝が始まっていた。
△
翌朝、目を覚ますと、窓の外では小鳥の鳴き声がしていた。森の奥に響く高く澄んだ声は、まるで夜の闇を切り裂くように清らかで、胸の奥を洗われるようだった。柔らかな日差しが木の隙間から差し込み、カーテンの代わりに吊るされたリネン布を透かして、部屋に淡い金色の光が満ちている。毛布の上に落ちた光が揺れ、私はその光をぼんやりと見つめながら、自分がどこにいるのかを再び確かめた。昨日の出来事が夢でなかった証拠に、まだ少しだけ薬草の匂いが鼻先をくすぐる。
体を起こすと、足元に置かれていた靴が目に入った。泥にまみれていたはずの靴は、きれいに拭かれ、かかとの破れも丁寧に縫われている。その手仕事の細かさに思わず息をのむ。自分が眠っている間に、誰かがここまで気を配ってくれたのだ。私はそっと靴を手に取り、指先で縫い目をなぞった。針の通った跡が真っ直ぐで、無駄がない。森の中で生きる人間の手だ——そう思った。
扉の向こうで、木を割る音がする。斧が幹を叩くたび、乾いた響きが空気を震わせて部屋の壁に伝わる。音の主が誰なのか、考えるまでもなかった。私は毛布を整え、床に足を下ろす。板の感触は冷たいが、どこか懐かしい。王都の屋敷では、絨毯がすべての足音を吸い取ってしまっていた。だからこうして木の軋む音を聞くのは、子供の頃以来だった。
少しふらつきながらも、私は扉を開けた。朝の空気はひんやりとしていて、肺の奥まで透き通るように澄んでいた。外には、昨日の男——ルシアンがいた。彼は厚手のシャツの袖をまくり上げ、無言で斧を振り下ろしていた。陽の光がその腕の筋肉を照らし、汗が肌を滑って光る。力強い音とともに、丸太が二つに割れた。その動きは迷いがなく、まるで森そのものと呼吸を合わせているかのようだった。
私が立ち尽くしているのに気づいたのか、彼は一度だけこちらを見た。
「起きたのか」
その言葉は、相変わらず短い。しかし不思議と、そこには冷たさがなかった。私は慌てて頭を下げる。
「昨夜は……本当にありがとうございました」
「礼はいらない」
そう言って、彼は斧を地面に立てかけた。額の汗を拭うこともせず、無表情のまま井戸の方へ向かう。私はその後ろ姿を見送りながら、胸の奥が少しだけ温かくなった。人の情けというものは、言葉で飾らなくても伝わるのだと知る。
ルシアンが桶に水を汲み、私の前に差し出す。透明な水が陽の光を受けてきらめき、表面に木々の影が揺れていた。
「飲め。昨日はほとんど食べていないだろう」
私はうなずき、水を受け取る。口に含むと、冷たさが体中に広がり、頭の中が冴える。喉を潤しながら、森の香りが鼻を抜けた。
「……美しい場所ですね」
思わず漏らした言葉に、彼は少しだけ目を細めた。
「王都の空気は重い。ここは静かだ」
その短い返答の中に、過去への含みがある気がした。けれど、それを聞き出す権利は私にはない。私もまた、過去を語りたくない立場なのだから。私はうつむいて、水面に映る自分の顔を見た。血色の薄い唇、少しやつれた頬。王城で鏡を覗いたときの自分とは、まるで別人のようだ。けれど、不思議と嫌ではなかった。
彼は斧を持ち直し、再び薪割りを始めた。私はその音を聞きながら、目を閉じた。乾いた音が心の奥のざわめきを少しずつ押し流していく。あの王城のざらついた空気も、妹の笑顔も、遠く霞んでいく。代わりに、今この森の中に流れる静けさが、胸に沁みた。
「……私、何かお手伝いできることはありますか?」
口をついて出た言葉に、彼の動きが止まる。ゆっくりとこちらを振り返り、短く首を傾けた。
「手伝い?」
「はい。何もしないで休んでいるのは落ち着かなくて……」
そう言うと、ルシアンはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「なら、薪を運ぶのを頼む。重くはない。できる範囲でいい」
その言葉に、胸の奥が少し明るくなった。私は裾を持ち上げ、慎重に足を運ぶ。丸太の端を持つと、思ったよりも軽い。けれど、指先に残る木のざらつきと樹脂の香りが心地よい。王都の華やかな庭園では決して触れることのなかった、素朴な生活の匂い。私は夢中で何度も往復した。
途中、ルシアンがこちらをちらりと見て、ぼそりと言った。
「無理はするな」
その一言に、心臓が跳ねた。注意ではなく、心配だった。私は振り返り、小さく笑みを浮かべる。
「大丈夫です。少し動くと、気分が楽になりますから」
彼は何も言わなかったが、わずかに唇の端が動いたように見えた。陽光の下でその表情を見たのは、これが初めてだった。ほんの一瞬だったが、冷たい印象しかなかった顔が、やわらかく見えた。
日が高くなるころ、作業を終えるとルシアンは手を洗い、私に小さな籠を渡した。中には黒い実と小さなパンが入っている。
「食べろ。腹を空かせたままでは動けん」
「……ありがとうございます」
私は礼を言い、ひと口かじる。少し酸っぱい実の味が口に広がり、パンの香ばしさと混ざり合う。噛むたびに、身体の奥に熱が戻ってくる気がした。
ふと視線を上げると、森の木々の間から、薄い霧が立ち上っていた。まるで金色の糸が空へ昇っていくようで、幻想的だった。私はその景色に見とれて、言葉を失う。
「王都には……こんな光景、ありませんでした」
小さく呟くと、ルシアンは手を止めた。
「だから、ここに来た」
その短い答えに、何か深い意味があるように思えた。だが彼はそれ以上何も言わない。ただ、静かに森の奥を見つめていた。
私は彼の横顔を見ながら、胸の奥で小さな声が囁くのを聞いた。——この人も、何かを捨ててここに来たのかもしれない。そう思うと、少しだけ安心した。私だけが逃げてきたのではないのだ、と。
森の風が頬を撫で、髪を揺らす。遠くで鳥が羽ばたく音がする。世界はこんなにも穏やかで、美しかった。
◇
午後になると、森の光は金色から橙に変わり、木々の影がゆっくりと長く伸びていった。小屋の裏手では、ルシアンが積み上げた薪の上に布をかけ、雨よけの縄を結んでいる。その姿を、私は窓越しに見つめていた。肩越しに落ちる光が彼の黒髪を照らし、一本一本が琥珀の糸のように輝いて見える。力強くも無駄のない動き。言葉を多く持たない彼の背中には、不思議な安心感があった。
私は台所の棚を開け、昼に彼が用意してくれた籠の中を覗く。乾いたパンの欠片、少しのチーズ、数種類の干し果物。贅沢とは程遠いが、温かな食卓を作れる気がした。王都にいた頃、料理などしたことがなかった。厨房に立つことは許されず、常に侍女が皿を並べてくれた。けれど今は、自分の手を使って何かを作りたいと思った。
私は戸棚の隅に見つけた小鍋を取り出し、残っていた薬草を少し刻んで湯を沸かす。湯気が立ちのぼり、ほのかに甘い香りが鼻をくすぐる。木のスプーンでかき混ぜる手つきがぎこちなくても、なぜか心は落ち着いていた。
扉が軋む音がして、ルシアンが戻ってきた。手には小さな木籠を提げている。中には真っ赤な果実がいくつか。
「森の奥で見つけた。食える」
「……わざわざ、ありがとうございます」
受け取った果実は丸く艶やかで、指先に触れるとほんのり温かい。私はそれを切り分け、薬草湯の隣に並べた。彼は黙ってテーブルに腰を下ろし、斧を磨くための布を取り出す。金属の光が夕日を弾き、部屋の中をわずかに照らした。
「あなたは、いつもこうして森で過ごしているのですか?」
思わず尋ねると、ルシアンは短くうなずいた。
「人が多い場所は、どうも落ち着かない」
「……わかります」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。王都の喧騒、冷たい視線、飾られた言葉。思い出すたびに息苦しくなる。それでも、その世界が全てだと信じて生きてきたのだ。けれど今、こうして森の静寂に包まれていると、初めて心が呼吸をしているように感じた。
「王都で何かあったのか」
彼が不意に問う。その声に、胸がわずかに跳ねた。聞かれるとは思っていなかった。けれど、責めるような響きはない。ただ淡々と、火の揺らぎのように穏やかな声音だった。私はカップを両手で包み、口をつぐむ。
「……少し、いろいろと」
そう答えると、彼はそれ以上追及しなかった。沈黙が再び落ちる。けれど、その沈黙は重苦しいものではなく、許しにも似た柔らかさがあった。薪のはぜる音が小さく響き、二人の間をつなぐ。
「明日から、森の奥に入る。木の実や獣道を覚えるといい。ここにいるなら、生き方を知っておくべきだ」
「……私も行っていいのですか?」
「無理をしなければ」
そう言いながら、ルシアンはカップを取った。その手の甲には薄く古い傷がいくつも走っていた。戦いのものだろうか、それとも労働の跡か。尋ねようとしたが、唇が動く前に彼が言葉を継いだ。
「外の世界は、思うよりも脆い」
「……はい?」
「王都の人間は、守られすぎている。壁の外で何が起きているかを知らない。だから、痛みにも冷たさにも耐えられない」
彼の言葉には、どこか悲しげな響きがあった。まるで、自分自身に向けて呟いているように。私はうつむき、小さく頷いた。確かに、自分はその“守られすぎた”側の人間だった。何も知らず、何も見ようとせず、ただ用意された幸福の中で眠っていたのだ。
「……私も、そうでした」
声は震えていた。ルシアンは火を見つめたまま、何も言わなかった。沈黙の中で、薪の燃える音が涙のように小さく弾けた。
しばらくして、彼が立ち上がった。
「寝るといい。疲れが残っている」
「あなたは?」
「外で見張りをする。夜は獣が出るからな」
「でも——」
「大丈夫だ。慣れている」
その言葉に、私はそれ以上何も言えなかった。扉の前で彼の背を見送る。夜風が入り込み、火の灯りがゆらゆらと揺れる。扉が閉まると、部屋に再び静寂が戻った。私は椅子に座ったまま、暖炉の火をじっと見つめる。炎が揺らぐたびに、影が壁を這い、まるで生き物のように形を変える。
胸の奥に残る孤独は、完全には消えない。けれど、不思議と恐ろしくなかった。誰かが外で風の音を聞きながら立っている。その事実だけで、世界は少し温かかった。
毛布を肩にかけ、ベッドに横たわる。目を閉じると、森のざわめきが耳を満たした。木々の葉擦れの音、遠くのフクロウの声、そして時折聞こえる足音のような低い響き。きっとルシアンが歩いているのだろう。
心臓の鼓動がその音に重なり、やがて意識がゆっくりと沈んでいく。
最後に思ったのは、あの言葉——「好きにするといい」。
それは、自由の意味を知らなかった私への、最初の贈り物だったのかもしれない。
〇
目を開けたとき、まぶたの裏を焼くような光が差し込んでいた。白い天井がゆっくりと視界に滲み、木で組まれた梁が柔らかく軋む音を立てている。すぐそばで、薪が燃える音。焦げた木の匂いと薬草の香りが入り混じり、かすかに甘い煙が漂っていた。私は、重たい毛布に包まれて横たわっていた。濡れた髪が首筋に張り付き、体の芯まで冷え切っていたことを思い出す。けれど今は、指先まで温かい。まるで誰かが灯をともしてくれたように。
頭を動かそうとすると、こめかみがずきりと痛んだ。呻き声が漏れた瞬間、部屋の奥で椅子がわずかにきしむ音がした。驚いて視線を向けると、暖炉のそばに男が座っていた。黒い外套のまま、肘を膝に置き、顎に手を添えている。年の頃は二十代半ばほど。長い黒髪がうなじで束ねられ、煤けた光がその髪を濡らしていた。瞳の色は深い灰。火の反射でわずかに銀を帯び、どこか冷たくも静かな印象を与える。
「……目が覚めたか」
低く、乾いた声だった。言葉の響きがあまりに穏やかで、一瞬返事を忘れてしまう。唇を開こうとしたが、喉がからからに乾いていて、うまく声が出なかった。男はゆっくりと立ち上がり、木の卓の上に置かれていた器を手に取る。湯気の立つ水だった。
「飲めるか」
彼は言いながら、私の枕元に膝をつく。その仕草に、どこか不器用な優しさがあった。私はうなずくことしかできず、器を受け取ろうとしたが、手が震えてこぼしそうになる。すると、男は無言で手を添え、口元まで運んでくれた。水は温かく、喉を通るたびに生き返るような感覚がした。息を吐くと、肺の奥の冷たさが少しずつ溶けていく。
「……助けて、くださったのですか」
ようやく搾り出した声は、掠れていて自分のものとは思えなかった。男は短くうなずき、また暖炉のほうへ視線を戻した。
「森の入口で倒れていた。通り雨のあとだった」
「……そう、でしたか」
言葉を返しながら、昨夜の出来事が少しずつ蘇る。雨、雷鳴、そして、あの腕の温もり。夢ではなかったのだ。
私は体を起こそうとしたが、男が軽く手を上げて制した。
「無理をするな。熱がまだ残っている」
彼の声には命令ではなく、淡い心配が滲んでいた。その響きに、不思議な安心を覚える。王城では誰もが言葉を飾った。優しさは礼儀に包まれ、憂いは形式に隠された。けれど、目の前の男の言葉には飾りがなかった。
「ここは……どこなのでしょう」
「北の森のはずれ、カーヴェルの山小屋だ。村までは歩いて半日ほどだ」
「あなたは……」
言いかけたところで、彼は答える前に小さく息を吐き、視線を火に戻した。
「名はルシアン。余計な詮索はしなくていい」
静かにそう言うと、火の棒で薪を崩す。火花がぱちりと弾け、灰が舞い上がった。私はその背を見つめながら、これ以上は尋ねるべきでないと悟った。恩人の素性を問うのは、無礼に等しい。それに、彼の背中には、何か触れてはならない影のようなものがあった。
部屋の中を見渡すと、木製の家具がいくつか並び、壁には乾燥させた薬草の束が吊るされている。素朴だが、どこか整然としていて、清潔だった。彼がこの小屋で暮らしているのだろう。窓の外では、細い光が木々の間を縫うように差し込み、緑の粒が揺れていた。
「あなたが……薬を?」
「少し心得がある。熱冷ましの草と蜂蜜を煎じた。しばらくすれば良くなる」
そう言って、ルシアンは木の器をもうひとつ手に取り、茶色がかった液体を差し出した。匂いは独特だが、不快ではない。私は一口飲み、ほっと息を漏らした。喉を通る苦味の奥に、わずかな甘みが残る。
「ありがとう、ございます」
礼を言うと、彼は黙ってうなずき、再び椅子に腰を下ろした。沈黙が流れる。だがその沈黙は重くなかった。暖炉の火がぱちぱちと音を立て、外では風が木々を撫でる。静けさの中で、私の心の奥に残っていた緊張が、少しずつ溶けていくのを感じた。
毛布を握りしめ、私は胸の奥でそっと呟く。
——私は生きている。
あの日、王城の扉を出たとき、自分の命などどうでもよかった。けれど今、この温かい部屋の中で、薪の匂いと誰かの声に包まれながら、確かに呼吸をしている。小さな火の音が、心臓の鼓動と重なって聞こえた。
ルシアンは、ふとこちらに目を向けた。火の光がその瞳に映り、金属のような輝きを帯びる。私は視線を逸らそうとしたが、彼は何も言わずに小さく頷いた。それは、言葉よりも優しい仕草だった。
「……しばらく、ここにいてもいいでしょうか」
気づけば、そう口にしていた。彼は少しの間黙っていたが、やがて低く答えた。
「好きにするといい」
その言葉に、胸の奥が温かくなった。私は毛布を胸の下まで引き上げ、深く息を吐いた。外では雨上がりの風が吹き、窓辺の木々がきらめいている。
新しい朝が始まっていた。
△
翌朝、目を覚ますと、窓の外では小鳥の鳴き声がしていた。森の奥に響く高く澄んだ声は、まるで夜の闇を切り裂くように清らかで、胸の奥を洗われるようだった。柔らかな日差しが木の隙間から差し込み、カーテンの代わりに吊るされたリネン布を透かして、部屋に淡い金色の光が満ちている。毛布の上に落ちた光が揺れ、私はその光をぼんやりと見つめながら、自分がどこにいるのかを再び確かめた。昨日の出来事が夢でなかった証拠に、まだ少しだけ薬草の匂いが鼻先をくすぐる。
体を起こすと、足元に置かれていた靴が目に入った。泥にまみれていたはずの靴は、きれいに拭かれ、かかとの破れも丁寧に縫われている。その手仕事の細かさに思わず息をのむ。自分が眠っている間に、誰かがここまで気を配ってくれたのだ。私はそっと靴を手に取り、指先で縫い目をなぞった。針の通った跡が真っ直ぐで、無駄がない。森の中で生きる人間の手だ——そう思った。
扉の向こうで、木を割る音がする。斧が幹を叩くたび、乾いた響きが空気を震わせて部屋の壁に伝わる。音の主が誰なのか、考えるまでもなかった。私は毛布を整え、床に足を下ろす。板の感触は冷たいが、どこか懐かしい。王都の屋敷では、絨毯がすべての足音を吸い取ってしまっていた。だからこうして木の軋む音を聞くのは、子供の頃以来だった。
少しふらつきながらも、私は扉を開けた。朝の空気はひんやりとしていて、肺の奥まで透き通るように澄んでいた。外には、昨日の男——ルシアンがいた。彼は厚手のシャツの袖をまくり上げ、無言で斧を振り下ろしていた。陽の光がその腕の筋肉を照らし、汗が肌を滑って光る。力強い音とともに、丸太が二つに割れた。その動きは迷いがなく、まるで森そのものと呼吸を合わせているかのようだった。
私が立ち尽くしているのに気づいたのか、彼は一度だけこちらを見た。
「起きたのか」
その言葉は、相変わらず短い。しかし不思議と、そこには冷たさがなかった。私は慌てて頭を下げる。
「昨夜は……本当にありがとうございました」
「礼はいらない」
そう言って、彼は斧を地面に立てかけた。額の汗を拭うこともせず、無表情のまま井戸の方へ向かう。私はその後ろ姿を見送りながら、胸の奥が少しだけ温かくなった。人の情けというものは、言葉で飾らなくても伝わるのだと知る。
ルシアンが桶に水を汲み、私の前に差し出す。透明な水が陽の光を受けてきらめき、表面に木々の影が揺れていた。
「飲め。昨日はほとんど食べていないだろう」
私はうなずき、水を受け取る。口に含むと、冷たさが体中に広がり、頭の中が冴える。喉を潤しながら、森の香りが鼻を抜けた。
「……美しい場所ですね」
思わず漏らした言葉に、彼は少しだけ目を細めた。
「王都の空気は重い。ここは静かだ」
その短い返答の中に、過去への含みがある気がした。けれど、それを聞き出す権利は私にはない。私もまた、過去を語りたくない立場なのだから。私はうつむいて、水面に映る自分の顔を見た。血色の薄い唇、少しやつれた頬。王城で鏡を覗いたときの自分とは、まるで別人のようだ。けれど、不思議と嫌ではなかった。
彼は斧を持ち直し、再び薪割りを始めた。私はその音を聞きながら、目を閉じた。乾いた音が心の奥のざわめきを少しずつ押し流していく。あの王城のざらついた空気も、妹の笑顔も、遠く霞んでいく。代わりに、今この森の中に流れる静けさが、胸に沁みた。
「……私、何かお手伝いできることはありますか?」
口をついて出た言葉に、彼の動きが止まる。ゆっくりとこちらを振り返り、短く首を傾けた。
「手伝い?」
「はい。何もしないで休んでいるのは落ち着かなくて……」
そう言うと、ルシアンはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「なら、薪を運ぶのを頼む。重くはない。できる範囲でいい」
その言葉に、胸の奥が少し明るくなった。私は裾を持ち上げ、慎重に足を運ぶ。丸太の端を持つと、思ったよりも軽い。けれど、指先に残る木のざらつきと樹脂の香りが心地よい。王都の華やかな庭園では決して触れることのなかった、素朴な生活の匂い。私は夢中で何度も往復した。
途中、ルシアンがこちらをちらりと見て、ぼそりと言った。
「無理はするな」
その一言に、心臓が跳ねた。注意ではなく、心配だった。私は振り返り、小さく笑みを浮かべる。
「大丈夫です。少し動くと、気分が楽になりますから」
彼は何も言わなかったが、わずかに唇の端が動いたように見えた。陽光の下でその表情を見たのは、これが初めてだった。ほんの一瞬だったが、冷たい印象しかなかった顔が、やわらかく見えた。
日が高くなるころ、作業を終えるとルシアンは手を洗い、私に小さな籠を渡した。中には黒い実と小さなパンが入っている。
「食べろ。腹を空かせたままでは動けん」
「……ありがとうございます」
私は礼を言い、ひと口かじる。少し酸っぱい実の味が口に広がり、パンの香ばしさと混ざり合う。噛むたびに、身体の奥に熱が戻ってくる気がした。
ふと視線を上げると、森の木々の間から、薄い霧が立ち上っていた。まるで金色の糸が空へ昇っていくようで、幻想的だった。私はその景色に見とれて、言葉を失う。
「王都には……こんな光景、ありませんでした」
小さく呟くと、ルシアンは手を止めた。
「だから、ここに来た」
その短い答えに、何か深い意味があるように思えた。だが彼はそれ以上何も言わない。ただ、静かに森の奥を見つめていた。
私は彼の横顔を見ながら、胸の奥で小さな声が囁くのを聞いた。——この人も、何かを捨ててここに来たのかもしれない。そう思うと、少しだけ安心した。私だけが逃げてきたのではないのだ、と。
森の風が頬を撫で、髪を揺らす。遠くで鳥が羽ばたく音がする。世界はこんなにも穏やかで、美しかった。
◇
午後になると、森の光は金色から橙に変わり、木々の影がゆっくりと長く伸びていった。小屋の裏手では、ルシアンが積み上げた薪の上に布をかけ、雨よけの縄を結んでいる。その姿を、私は窓越しに見つめていた。肩越しに落ちる光が彼の黒髪を照らし、一本一本が琥珀の糸のように輝いて見える。力強くも無駄のない動き。言葉を多く持たない彼の背中には、不思議な安心感があった。
私は台所の棚を開け、昼に彼が用意してくれた籠の中を覗く。乾いたパンの欠片、少しのチーズ、数種類の干し果物。贅沢とは程遠いが、温かな食卓を作れる気がした。王都にいた頃、料理などしたことがなかった。厨房に立つことは許されず、常に侍女が皿を並べてくれた。けれど今は、自分の手を使って何かを作りたいと思った。
私は戸棚の隅に見つけた小鍋を取り出し、残っていた薬草を少し刻んで湯を沸かす。湯気が立ちのぼり、ほのかに甘い香りが鼻をくすぐる。木のスプーンでかき混ぜる手つきがぎこちなくても、なぜか心は落ち着いていた。
扉が軋む音がして、ルシアンが戻ってきた。手には小さな木籠を提げている。中には真っ赤な果実がいくつか。
「森の奥で見つけた。食える」
「……わざわざ、ありがとうございます」
受け取った果実は丸く艶やかで、指先に触れるとほんのり温かい。私はそれを切り分け、薬草湯の隣に並べた。彼は黙ってテーブルに腰を下ろし、斧を磨くための布を取り出す。金属の光が夕日を弾き、部屋の中をわずかに照らした。
「あなたは、いつもこうして森で過ごしているのですか?」
思わず尋ねると、ルシアンは短くうなずいた。
「人が多い場所は、どうも落ち着かない」
「……わかります」
自分でも驚くほど自然に言葉が出た。王都の喧騒、冷たい視線、飾られた言葉。思い出すたびに息苦しくなる。それでも、その世界が全てだと信じて生きてきたのだ。けれど今、こうして森の静寂に包まれていると、初めて心が呼吸をしているように感じた。
「王都で何かあったのか」
彼が不意に問う。その声に、胸がわずかに跳ねた。聞かれるとは思っていなかった。けれど、責めるような響きはない。ただ淡々と、火の揺らぎのように穏やかな声音だった。私はカップを両手で包み、口をつぐむ。
「……少し、いろいろと」
そう答えると、彼はそれ以上追及しなかった。沈黙が再び落ちる。けれど、その沈黙は重苦しいものではなく、許しにも似た柔らかさがあった。薪のはぜる音が小さく響き、二人の間をつなぐ。
「明日から、森の奥に入る。木の実や獣道を覚えるといい。ここにいるなら、生き方を知っておくべきだ」
「……私も行っていいのですか?」
「無理をしなければ」
そう言いながら、ルシアンはカップを取った。その手の甲には薄く古い傷がいくつも走っていた。戦いのものだろうか、それとも労働の跡か。尋ねようとしたが、唇が動く前に彼が言葉を継いだ。
「外の世界は、思うよりも脆い」
「……はい?」
「王都の人間は、守られすぎている。壁の外で何が起きているかを知らない。だから、痛みにも冷たさにも耐えられない」
彼の言葉には、どこか悲しげな響きがあった。まるで、自分自身に向けて呟いているように。私はうつむき、小さく頷いた。確かに、自分はその“守られすぎた”側の人間だった。何も知らず、何も見ようとせず、ただ用意された幸福の中で眠っていたのだ。
「……私も、そうでした」
声は震えていた。ルシアンは火を見つめたまま、何も言わなかった。沈黙の中で、薪の燃える音が涙のように小さく弾けた。
しばらくして、彼が立ち上がった。
「寝るといい。疲れが残っている」
「あなたは?」
「外で見張りをする。夜は獣が出るからな」
「でも——」
「大丈夫だ。慣れている」
その言葉に、私はそれ以上何も言えなかった。扉の前で彼の背を見送る。夜風が入り込み、火の灯りがゆらゆらと揺れる。扉が閉まると、部屋に再び静寂が戻った。私は椅子に座ったまま、暖炉の火をじっと見つめる。炎が揺らぐたびに、影が壁を這い、まるで生き物のように形を変える。
胸の奥に残る孤独は、完全には消えない。けれど、不思議と恐ろしくなかった。誰かが外で風の音を聞きながら立っている。その事実だけで、世界は少し温かかった。
毛布を肩にかけ、ベッドに横たわる。目を閉じると、森のざわめきが耳を満たした。木々の葉擦れの音、遠くのフクロウの声、そして時折聞こえる足音のような低い響き。きっとルシアンが歩いているのだろう。
心臓の鼓動がその音に重なり、やがて意識がゆっくりと沈んでいく。
最後に思ったのは、あの言葉——「好きにするといい」。
それは、自由の意味を知らなかった私への、最初の贈り物だったのかもしれない。
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