美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さくら

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第2話 砂漠をさまよう元OL


 翌朝、私は乾いた風の音で目を覚ました。窓の外は、見たこともない色の世界だった。赤茶けた砂地が地平線まで続き、遠くに蜃気楼のような揺らめきが見える。昨夜泊まった宿は町はずれにあり、王都を出た旅人や商人たちが立ち寄る小さな場所らしい。木の壁の隙間から朝日が差し込み、空気の中に砂の粒が光って漂っていた。
 ぼんやりと体を起こすと、昨日の出来事が一気に胸に蘇る。召喚、追放、そして――レオン。彼の穏やかな声が、まだ耳の奥に残っている。夢じゃない。私は本当に異世界にいる。胸の奥がきゅっと締めつけられ、ため息が漏れた。

「おはようございます、ミナ様」

 扉をノックする音のあと、柔らかな声がした。開けると、昨夜宿で世話をしてくれたメイド――クララが立っていた。栗色の髪を三つ編みにして、白いエプロンが朝の光を反射している。
「朝食をお持ちしました。王子殿下は少し遅れていらっしゃるとのことです」
「お、おうじ……?」
 まだその言葉に慣れなくて、思わず聞き返す。クララはくすっと笑い、銀のトレイを机の上に置いた。焼きたてのパンと、ハーブの香りがするスープ。それに見慣れない赤い果物が添えられている。
「はい。レオン殿下です。殿下は普段からお優しいお方ですが、昨夜のご様子は少し違いました。まるで、誰かを見つけたような……」
 クララの声は柔らかく、しかしどこか好奇心に満ちていた。私は曖昧に笑って、パンをちぎる。中はふわふわで、ほんのり甘い。噛むたびに、何かが少しずつ溶けていくようだった。
「……おいしい」
「それはよかったです。こちらでは、穀物を焼くのが得意なんですよ」
 クララが微笑み、少し誇らしげに胸を張る。その表情が可愛らしくて、つられて笑ってしまう。

 食事を終えたころ、階段を下りてくる足音がした。レオンが現れる。白いシャツの上に砂色のコートを羽織り、陽の光を浴びて髪が金にきらめいている。
「おはよう、ミナ。よく眠れたか?」
「はい……あの、ありがとうございました。助けていただいて」
「気にすることはない。こちらこそ、突然押しつけてしまって悪かったな」
 レオンは椅子を引き、私の正面に座る。宿の静けさの中、彼の仕草ひとつひとつが、場の空気を柔らかく変えていく。目を合わせるだけで、胸の奥にあたたかい火が灯るようだった。
「君のこれからのことを考えたい。もしよければ、私の屋敷でしばらく過ごさないか?」
 思いもよらぬ申し出に、パンを持った手が止まる。
「えっ……そんな、迷惑じゃ」
「迷惑ではない。人手が足りないんだ。君のように真面目そうな人は貴重だ」
「……真面目そう、ですか?」
「うん。目を見ればわかる。努力を積み重ねてきた人の目だ」
 その言葉が、胸に静かに染みこんでいく。どんなに仕事を頑張っても、誰もそんなふうに言ってくれなかった。涙が出そうで、私は慌てて俯いた。

「それに――」
 レオンの声が、少しだけ低くなる。
「君の中に、不思議な光を感じる。普通の人間ではない」
「ひ、光?」
「そう。あの夜、馬車の中で君を見たとき……淡い光が包んでいた」
 私は思わず手のひらを見た。何も変わらない。だけど、昨夜のことを思い出す。確かに、疲れ切っていたのに、馬車に乗ったあと不思議と身体が軽くなった。
「……私、何か特別なことなんてできません」
「それでも構わない。君が望むなら、ここでゆっくり生きればいい」
 そう言ってレオンは微笑む。その笑顔に、心の奥が少しずつ溶けていく。

 食後、私は宿の外へ出た。強い日差しが砂を照らし、風が頬を撫でる。遠くでは商人たちが荷車を動かし、ラクダのような動物がのんびりと歩いている。世界の音が静かに広がり、どこか懐かしいような安らぎを感じた。
「どうだ、ここから見える景色は」
 隣に立ったレオンが、指で遠くを指し示す。砂の向こうには、緑の線がかすかに見えた。
「あれがルーベリア王国の国境だ。そこを越えれば、君の新しい生活が始まる」
 “新しい生活”――その言葉が胸に響く。昨日までの私は、誰かの影だった。でも、ここからは違う。自分の足で歩ける場所があるのなら、それだけで十分だ。

「……行きます。私、ルーベリアに」
 そう告げると、レオンは穏やかに微笑み、頷いた。
「歓迎しよう。君が来てくれることを」

 その笑顔は、朝の光よりもまぶしかった。
 こうして私の異世界での“第二の人生”が、静かに動き出したのだった。




 馬車が再び動き出すと、遠くで砂を巻き上げる風の音が耳に届いた。昼の陽射しは容赦なく、窓越しにも熱が肌を刺す。レオンが軽く手を上げると、御者が厚手の布を降ろして日差しを遮る。淡い影の中、彼の横顔が少し柔らかく見えた。
「この先を抜ければ、しばらくは砂漠だ。ルーベリアは緑の国だが、国境近くはこうして乾いている。旅は少し長くなる」
 彼の声は穏やかだったが、私は思わず身を引き締める。昨日までオフィスの空調の下で過ごしていた人間が、砂漠を越える旅をする――その現実に、心が追いついていなかった。
「……私、ちゃんと行けるでしょうか」
「心配するな。君は強い。昨日あの状況で立っていた、それだけで十分だ」
 レオンの笑みには不思議な説得力があった。強い、と言われたのは人生で初めてかもしれない。私は曖昧に笑い返し、窓の外を見た。

 風が砂を吹き上げ、地平線の向こうを霞ませる。ところどころに岩山が突き出し、その影が揺れている。馬車の車輪が砂に沈みかけ、ぎしりと音を立てた。御者が手綱を引くと、馬が踏ん張って進む。そのたびに私の体もわずかに浮き、背中のクッションに戻る感覚が続く。

「ミナ、少し休むといい。水分を取って」
「はい」
 レオンが差し出した革袋を受け取り、慎重に口をつける。水は冷たく、少し甘い香りがした。乾いた喉に染み渡る感覚が心地よく、思わず目を閉じる。
「おいしい……」
「オアシスの水だ。ミントを少し入れてある」
「そんな贅沢を……」
「君をもてなすのに、贅沢とは思わないよ」
 レオンは軽く笑い、窓の外に視線を戻した。その横顔はどこか孤独そうで、言葉をかけるのをためらうほど静かだった。

 しばらく沈黙が続いた。馬車の音と、風の音だけが繰り返し響く。眠気がじわりと押し寄せてくる。けれど、瞼を閉じると同時に、昨日の光景が蘇る。王弟の冷たい目、無数の視線、そして「無能」という言葉。胸の奥が痛んで、呼吸が浅くなる。
「……怖かったのだな」
 不意にレオンの声がして、はっと目を開ける。彼は窓の外を見たまま、静かに続けた。
「君の顔に、まだその影がある。無理に忘れようとするな。時間が癒やしてくれる」
 その言葉に、心がほどける音がした。涙がこぼれそうになり、慌てて俯く。
「私……強くなんてありません。何もできなくて、いつも後ろにいて」
「後ろにいる人間がいなければ、前に立つ者は倒れる。君のような人が本当の支えになる」
 レオンの言葉は、胸の奥にゆっくりと沈んでいく。彼は見た目の華やかさに似合わず、言葉に重みがある。

「レオンさんは……どうしてそんなふうに人を見られるんですか?」
「どうして、か……」
 レオンは少し考え、苦笑する。
「昔、俺も見捨てられたからだよ」
 その一言に、私は息を呑んだ。彼の横顔に、ほんの一瞬だけ深い影が落ちた。だが彼はそれ以上何も言わず、軽く首を振って話を切る。
「君が気にすることじゃない。今は、目の前の道を見ていればいい」

 馬車が少し速度を落とした。窓の外を見ると、遠くに緑の帯が見える。まるで砂漠の中に流れる一本の糸のように、木々が密集していた。
「……オアシス?」
「ああ。少し休もう」
 馬車が止まると、熱気が一気に押し寄せた。砂の上に降り立つと、靴の底がすぐに熱を帯びる。レオンは軽く腕を差し出し、私を日陰へ導いた。そこには小さな泉があり、水面に太陽の光が反射して眩しい。周囲の草花が、砂の世界の中でひっそりと息づいている。

「綺麗……」
 思わずつぶやくと、レオンが微笑む。
「君がそう言ってくれると、この場所が少し誇らしく思える」
「ここ、レオンさんの……?」
「そうだ。旅の途中で見つけて、整えた。誰も知らない、俺だけの休憩地だ」
 泉の水をすくって口に含むと、冷たさに驚く。心まで透き通るような味がした。レオンは馬の手綱を緩め、彼らに水を飲ませながら穏やかな声で続けた。
「人は、砂漠の中でも生きられる。水を見つける目さえあれば、な」

 その言葉に私は顔を上げる。彼の瞳がまっすぐこちらを見ていた。陽の光を反射して金色に光る瞳。
 ――ああ、この人は本当に強いんだ。
 そう思うと同時に、胸の奥で何かが小さく鳴った。

 風がふっと止み、砂の粒が空中で静止したような一瞬。
「行こう。日が暮れる前に次の町へ着きたい」
 レオンの声で我に返る。彼が差し出した手を取ると、その掌の温かさが心の芯まで届いた。
「……はい」
 私たちは再び馬車に乗り込む。太陽は傾き始め、砂漠の影が長く伸びていた。

 その先に、まだ知らない世界が待っている。
 けれど、隣にレオンがいるだけで、不思議と恐れはなかった。




 夕暮れが砂の大地を染め始めていた。空は茜と群青の境目で揺れ、馬車の影が長く地面に伸びる。車輪の音はやわらかくなり、風の匂いに少し湿り気が混じる。私は窓の外を見つめたまま、胸の奥に静かな鼓動を感じていた。ルーベリアという国がどんな場所なのか、まだ想像もつかない。それでも――もう、昨日までの私ではない。

「寒くないか?」

 レオンがそう言って、膝掛けをそっとかけてくれた。布は厚手で、手織りの模様が浮かんでいる。彼の手が触れた瞬間、驚くほど自然に心が落ち着く。
「ありがとうございます」
「礼は要らない。砂漠の夜は冷えるからな」
 馬車の外では、砂の上を渡る風が低く唸っていた。どこか遠くで、砂狐の鳴き声のような高い音がする。私は窓から空を見上げた。さっきまで白かった星が、いつの間にか無数に増えている。光の粒が天を流れ、ひとつが尾を引いた。
「……流れ星だ」
「願いごとをするか?」
「え?」
「こっちの世界でも同じだ。星が落ちる瞬間に願えば、運命が少しだけ味方する」
 私は笑って首を振る。
「じゃあ、願ってみます」
 胸の中で小さく唱える――“この世界で、生きていけますように”。

 沈黙が落ちる。けれど、それは気まずさではなく、心地よい静けさだった。ランプの明かりに照らされたレオンの横顔は、どこか儚くて、見ていると胸が痛くなる。彼の金の髪が、灯火を受けてゆるやかに輝く。

「ミナ」
「はい?」
「君は、昨日までどんな世界にいた?」
 私は少し考えてから、笑って答える。
「普通の世界です。仕事をして、家に帰って、たまに愚痴を言って。……つまらないけど、ちゃんとした日常でした」
「つまらない、か」
「ええ。でも、いま思えば、あれはあれで幸せだったのかもしれません」
 レオンは小さく頷いた。
「人はいつだって、過ぎた日を振り返って気づく。今が苦しいほど、昔が輝くように見えるんだ」
「……レオンさんも、そう思うことがありますか?」
「あるさ。誰にだって過去はある」
 その言葉の奥には、静かな痛みがあった。彼がどんな過去を背負っているのか、まだ聞く勇気はなかった。

 馬車は丘を登り、やがて視界の先に灯りが見え始めた。橙の光が点々と並び、まるで夜の海に浮かぶ島のようだ。
「見えるか? あれがルーベリアの国境の町、アリオスだ」
 レオンの声に、胸が高鳴る。いよいよ、本当に異世界での新しい生活が始まるのだ。

 馬車が石畳の道に入り、音の響きが変わる。通りには露店が並び、香草や焼きパンの香りが漂っていた。人々の服装は多彩で、金糸の刺繍が夜の灯にきらめく。誰もが穏やかな表情をしていて、王都の冷たい空気とはまるで違う。私は思わず息を呑む。
「すごい……」
「ルーベリアは交易の国だ。砂漠を越えて多くの商人が集まる。君の世界の市場に似ているかもしれない」
「ええ、でも……ずっとあたたかい雰囲気です」
「それがこの国の誇りだよ」

 馬車が広場の前で止まった。石造りの噴水があり、水の音が静かに響いている。レオンが先に降り、私に手を差し伸べる。
「ここで一晩休もう。明日、都へ向かう」
 私は彼の手を取って降りた。足元の石は冷たく、夜気が頬を撫でる。町の灯りがまぶしくて、涙が出そうだった。
「こんなに……きれいな場所、初めて見ました」
「そうか。君が気に入ってくれたなら嬉しい」

 宿に入ると、外の喧騒がふっと遠ざかった。暖炉が燃え、壁には花の刺繍が飾られている。クララが迎えに出てきて、私たちを部屋へ案内した。
「ミナ様、こちらへ。お湯もご用意しております」
 彼女の声は優しく、私は思わず頭を下げた。
「ありがとうございます……でも、“様”なんて呼ばないでください。私、そんな人間じゃ」
「では、“ミナさん”とお呼びしますね」
 その言葉に、胸が温かくなった。

 湯に浸かると、全身の力が抜けていく。香草の香りがふわりと漂い、肌にまとわりつく。鏡のような湯面に映る自分の顔は、どこか知らない人みたいだった。頬の線が柔らかく、目の奥に少しだけ光が宿っている。

 ――この世界で、やり直せるかもしれない。

 湯から上がると、レオンが廊下で待っていた。彼は手に温かい飲み物の入ったカップを持ち、私に差し出す。
「ハーブティーだ。疲れが取れる」
「ありがとうございます」
 カップを両手で包み込み、一口飲む。甘くて優しい味が、喉をすべっていく。
「おいしい……」
「この国では“心を鎮める茶”と呼ばれている。君にちょうどいい」
 レオンの声が低く、穏やかに響く。火の光が彼の横顔を照らし、影をゆらりと落とす。

「ミナ、君は明日から、俺の屋敷で過ごしてほしい」
「そんな……私が行って、いいんですか」
「もちろんだ。君を保護する責任がある。それに――」
 レオンは一瞬言葉を切り、少し照れたように笑う。
「君と話していると、不思議と心が落ち着く。理由はわからないが、君の傍にいると穏やかになれる」
 胸が跳ねた。息をするのを忘れそうになる。
「……そんなこと言われたら、緊張します」
「緊張しなくていい。俺は君を脅かすような真似はしない」
「わかってます。レオンさんは優しい人だから」
 そう言うと、彼は少しだけ寂しそうに微笑んだ。
「優しさだけでは、国も人も守れないが……今夜は、それでいい」

 その言葉の意味を、私はまだ理解できなかった。けれど、胸の奥に灯った小さな火が、静かに燃え続けていた。

 外では、風がやんでいた。夜の街は穏やかで、噴水の音が静かに響く。
 異世界の夜明け前――私の新しい物語が、確かに動き出していた。
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