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3話 初めての悲しみ 後編
しおりを挟む辰支くんに彼女の話をして、自分の気持ちを持てた俺は彼にお礼を言う。
「辰支くん、ありがとう。君のおかげで何とかなりそうだよ。」
辰支くんは、お礼を言われて嬉しそうに笑いながら
「どういたしまして、力になれたのなら良かったです。頑張ってください。」
と力強い応援をしてくれた。
その後はお互いに話せて楽しかったと言い合い、公園で別れ、それぞれの家に帰って行く。
自分の部屋に着き、先に風呂を沸かし、その間に夕食を食い、ゆっくりした後に沸いた風呂に入る。
明日も仕事だからその後はもう寝た。
そして彼女と会う日まで、その日常だった。
会う日前日、寝る前に彼女との出会いを思い出していた。
俺が大学4年生になり、卒論やらで色々と忙しくしていた。その時に助けてくれたのが美波だった。資料整理など色々なことを手伝ってくれた。そして、俺が大学卒業する日に美波から告白された。元々は明るく、元気な女の子だったが、行き過ぎた価値観を持つ子だ。楽しければ何をしても良いと考えてしまう。当時悪い噂もあり、付き合った後も友達からやめといた方が良いとも言われたが、俺は落ち着きたくて、それを無視した。
それが今になって返ってくるとは…
なぜなら、分からないが、きっと彼女はあまり良くないことをしていると思うからである。
特別こういうことがあったという訳では無いが、何故かそう感じる…
まあ、明日行けば分かるかもな。
そう思いながら、瞼を閉じ、そのまま眠りに入った。
朝を知らせる目覚まし時計が鳴った。
現在7時。約束の時間は10時で、集合場所は俺の家の最寄り駅と会社の最寄り駅の間にある駅の前だ。
朝飯はいつもと変わらず食パンにコーヒーだ。適当に服を来て、玄関で持ち物を確かめて、玄関のドアを開ける。やはり、寒い冬だから、上着を着ていてもあまり効果がないが、俺はまだ筋肉があるため、そこまで寒くは感じない。
(なんかテレビで言ってたよな?筋肉ある人はあまり寒く感じないって。)
などと考えながらマンションを出る。そして、駅まで歩いていく。駅には電車が来る5分ぐらい前に着いた。
すぐに電車が到着し、乗り込み、俺のマンションの最寄り駅から2駅目の駅で降りる。
その駅で美波と待ち合わせだ。
現在9時55分。丁度良い時間に着いた。
しばらくして、10時少し過ぎたくらいに美波がやってきた。時間にルーズなのもあの頃から変わらない。
「久しぶり。元気にしてた?」
と俺が到着したばかりの彼女に聞いた。
美波は遅れてきたことを悪びれることもなく、更に俺の質問にも答えず、
「そんなことより、店にでも入りましょ。
寒いわ。」
と言った。相変わらず質問にも答えない。俺は近くのカフェに入ろうと言ったが、美波は「えー、どうせならもっと広いところにしようよ!」
と言ってきた。
面倒臭い…
そう思いながら、俺はもう少し先にあった。大きなカフェを見つけ、そこはどうかと美波に聞くと、渋々「いいよ」と言った。
店に入り、店員に席を案内されて座る。
メニューを見ながら2人ともアイスコーヒーにした。
アイスコーヒーが運ばれてきて、2人とも1口飲んで一息つく。
「この間はびっくりしたよ!いきなり別れ話するんだもん!」
といきなり美波がこの間のメールの話をしてきた。
「悪かったよ。でも、もう潮時かなと思っててさ、最近美波もメールの返信ぎこちなかったし、最終的にはくれないしさ。」
と俺は真っ直ぐに美波を見てそう言った。
しかし、決心して、行動に移せても、相手がダメならあまり意味が無いものだ。
美波はあからさまに睨んできて、
「仕事が忙しかったの!あんただってそうだったでしょ?」
と怒るような口調で話してきた。そりゃあ確かに俺も仕事が忙しいから気持ちは分かる。しかし、あまりにもぎこちなさすぎた。
例えば、俺が「仕事お疲れ様」とかだったら
「あー、まあまあかな」など「おはよう」だったら「はいはい」などといったあからさまに適当に打ち込んで送ってきたものだった。
何故これだけでおかしいのかと思うのには理由がある。それは美波はフリーターだ。
本来なら俺の1つ下だから、大学4年生で卒論などをしている時期だが、美波は学校に飽きたという理由で大学をやめて、フリーターになっている。仕事と言ってもパートだ。
これは本人から聞いたことだ。
偏見かもしれないが、連絡出来ないほど忙しいとは思えない。
「何?あたしが浮気なんかするとでも思ってるの?!」
と俺が色々と考えていると美波がそう怒鳴ってきた。周りの客もこちらを見ている。恥ずかしくてたまらない。
俺はたまらなくなって、怒る美波を連れて会計をし、店を出た。美波を連れながら俺は、
「俺はお前が浮気してないと信じてる。」
と言った。美波は「あっそ」と言っただけだったが、少し落ち着いたようだ。
カフェから出てしばらく歩いたところに公園があった。そこのベンチに座る。
「あたし、あんたが好きだから浮気なんてしないわよ。」
と美波がそっぽ向きながらそう言った。俺は「わかったから」と頭に手をぽんぽんと置き、その後、公園にトイレがあったため、念の為に俺は用を足しにいった。
トイレで俺は先程のカフェで考えていたことを、美波は浮気を疑ったと捉えたのかなと思う。
もしそうなら謝らないといけないな。
美波に謝るための言葉を考えながら、トイレを出ようとしたら美波の声が聞こえてきた。
どうやら電話をしているようだ。
相手は誰か分からないが、トイレはベンチのすぐ後ろにあるため、声が聞こえてくる。
そして、次の言葉に俺は耳を疑った。
「大丈夫!私が好きなのは貴方だけだからね!浮気なんてしないわよ!」
と凄く嬉しそうな声で話している。
それがどういう意味なのかすぐに理解した。
電話の相手はおそらく俺以外に付き合っている男だろう。
俺はそれに気づいた時、何故か怒りは無かった。
ただ、嘘をつかれたことは、傷ついたので、美波が気づかないように近づく。
美波は電話に夢中でこちらには気づいていない。
俺は美波に近づいたあと、すぐに携帯を取り上げる。
美波は驚いた表情をしている。
彼女は慌ててるような怒っているような声で「何するの!?返して!!」と言ってきた。
電話からは「美波?どうした?」という男の声が聞こえてきた。
やっぱりか…
と思いつつ、
「どうもー。美波の彼氏です。」
と電話越しの男にそう言った。
男は「は?!どういうことだよ?!」
と怒鳴っている。
美波が「やめて!やめろ!」と怒鳴って携帯を取ろうとするが、俺の身長に彼女の身長では届きやしない。
俺は無視して続ける。
「いやー。お互い知らない間に浮気されてたみたいですね。ま、俺はもう別れますけどね。」
と言った後に携帯を美波に返す。
美波は
「弘樹?違うの!浮気なんてしてないのよ!」
と必死に言い訳をしているが、向こうに切られたのか、「もしもし?もしもし!」
と言っていた。
携帯を切ったあと、美波は俺を睨みながら
「なんてことしてくれたのよ!最低!」
と言った。
こいつは一体何を言っているんだ?
浮気をした本人が逆ギレである。
俺も流石にイラつき彼女を睨み
「最低なのはどっちだよ。裏切ったやつが偉そうに言うな。」
と言った。美波は納得いかないのか睨み続ける。
俺は少し冷静になった。
結局お互いに酷いことをしていたようだ。
「まあ、俺もお前のことを本気で好きになれなかったからな…お互い様ということで、もう終わりにしよう。」
俺がそう言うと美波はまだ納得いかないような顔をしていたが、しばらくして、
「ふん!分かったわよ。別れれば良いんでしょ?
どうせ、あんたなんかお飾りでしかないんだから。」
と言った。ずいぶんと偉そうな感じだが、別れられるならそれでいい。お互いにその方がいい。
ただ、胸が何だか変な感じだった。
身体的な意味ではなく、精神的にだ。
ああ…悲しいんだ…俺は
そう思った。
初めて裏切りを目の当たりにして悲しかったんだ。
美波とはこれで終わりだ。彼女とその場で別れ、駅に向かい、電車に乗って自分のマンションの最寄り駅に着く。
現在16時47分。駅を出て歩いてマンションに向かう。途中雑貨屋さんがあり、そこに辰支くんがいた。
何かを見ている。
「こんにちは」
俺が辰支くんに挨拶すると辰支くんが振り向き笑顔で挨拶を返してくれた。
やっぱり癒されるな…
「何を見ていたの?」
と俺が聞くと、辰支くんは雑貨屋さんの展示コーナーに星型と花型のキーホルダーや天球儀と桜の花のネックレスとなどの星と花関連の商品が置いてあった。
とても綺麗だと感じる。
「綺麗だね」
と俺が自分の気持ちをそのまま口にすると、辰支くんは笑顔で「綺麗ですね…」と言っていた。
綺麗だと言いながら見ている割には表情が暗い。
まるで、虚しさと悲しさを見ているようだ。
俺が「どうかした?」と聞いてみると、
「いえ、なんでもないです!それより、今日はどこかお出かけだったのですか?」
と答え、俺に質問をし返してきた。
俺は正直に今日のことを話す。
彼女と会い、話はしたが、やっぱり自分は彼女を本気で好きではなかったこと、彼女が浮気をしていて別れることになったこと。
全て話終えると辰支くんの表情はわかりやすいくらいに悲しそうだった。
「大丈夫ですか?」
と唐突に彼がそう聞いてきた。俺はどうしてか聞くと、
「だって、浮気をされたんですよ?裏切りは最大の罪だと思います…だからあなたは大丈夫なのかなと…」
少し彼は暗い顔になり、そう言った。
俺は何でか分からないけど、彼を安心させたくて、
「俺は大丈夫。元々本気で好きではなかったからね。」
と言った。すると彼は少し安心したように
「良かった」と言った。
心配してくれたのかな?
と思っていると、
「これで次に進めますね。あまり無理はなさらないよう、ゆっくりと頑張ってください。」
と辰支くんは言ってくれた。
そして俺は、何故美波が浮気をしていること自体を冷静に分析できたのか気づいた。
この子だ…辰支くんがあの日優しい笑顔と口調で俺の不安などを取り除いてくれたおかげだ。
そのお陰で俺は前に進めるんだ。
人と話し合うって本当に大事だな…
それも喧嘩とかではなく、ゆっくりとした会話が。
そう考えていると、辰支くんが今日はもう帰るそうなので、その場で別れた。
彼が帰った途端に何だか虚しくなる。もっと一緒にいたいと思う。
この気持ちはなんだろう…
今日は初めて本当の悲しみを知った。
だが、また何かよく分からない感情が芽生えてきた。
この感情は一体何なのか…
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