悪辣令嬢、媚薬を盛る

宵の月

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悪辣令嬢、策に溺れる 前編

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 アシェラはグラードから許可をもぎ取って、実家の公爵家に来ていた。
 はちみつ色の柔らかいの髪の毛。サファイアかと見紛う煌めく瞳。陶器のように艶やかな白い肌に、薔薇色に色づく唇。線が細く華奢な体躯。
 目の前で怯える弟のリンデンは、容姿だけなら確かに自分とよく似ていた。容姿だけなら。
 三歳年下の成人を迎えたばかりのリンデンは、アシェラの様子を伺うように縮こまっている。
 
「リンデン、どうして私が来たか分かっているかしら?」
「……いえ、全く分かりません。姉上」

 バサリと扇を開き、アシェラは呆れて、ため息をついた。小動物のようなリンデンのまるで変わらない気弱さに、アシェラはうんざりと扇を揺らす。

「しゃんとなさい。リンデン」
「は、はい。ごめんなさい、姉上」
「まあ、いいわ。今日、私が来たのは、貴方が私に似ているからよ」
「…………」

 分かるわけがない理由を堂々と言い放つアシェラに、リンデンは唇を引き結ぶ。
 姉の理不尽に長年耐えてきたリンデンは、こういう時は黙っているのが安全だと熟知していた。

「……姉上に似ていてすみません」

 とりあえず謝ったリンデンに、アシェラはにっこりと笑みを浮かべる。

「許すわ。それに、似ているからこその使い道もあるの」
「それはどういう……?」

 顔をあげたリンデンは、アシェラの表情に青ざめる。ろくなことを考えていない時の表情だった。リンデンはそろりと、退路を探して部屋の扉を見やった。
 それを嘲笑うようにアシェラは、パチリと扇を閉じる。アシェラ付きの侍女が、ザッとリンデンを取り囲んだ。

「あ、姉上……! 一体……」
「始めて」
「うわっ! ちょ、やめて! 姉上! いやーーーーー!!」

 侍女が一斉にリンデンに襲いかかる。リンデンの悲痛な叫びが公爵家に響き渡ったが、救いの手が差し伸べられることはなかった。

※※※※※

「アシェラ、ご機嫌だな」
「ええ、久しぶりに実家に顔を出せたので……」
「そうか。皆息災だっただろうか」
「はい、つつがなく」

 夫婦の寝室で美しく笑みを浮かべて見せたアシェラを、じっとグラードが見つめる。どこか探るようなグラードの視線を、笑顔で躱わしながら、アシェラは水差しに手を伸ばした。
 香炉に垂らした水がジュッと音を立てると、紫がかった煙が沸き立ち始める。
 漂う紫煙にぴくりと唇を震わせ、グラードが額を抑えて声を絞り出した。

「ふっ! ア、シェラ! なぜ、《龍の目覚め》を……!!」

 指の隙間から覗く龍の末裔の証である金の瞳が、瞳孔を急激に縦にするのを確認したアシェラは嫣然と微笑んだ。
 
「妃教育で学んだのです。《龍の目覚め》には覚醒後は媚香の効果もあると。一度も正しく使えませんでしたでしょ? ですから試して……んっふぅ……」

 さらいとるようにアシェラを引き寄せ、奪う激しさでグラードが唇を貪る。強制的に起こされた龍化に、理性が溶けたグラードから龍の気配が溢れ出す。
 龍専用に作り替えられたアシェラの身体が、ぞくりと最奥を震わせた。
 食われるかと思うほどに深く侵入した舌に、口内を無遠慮に舐め回される。やわやわと吸われる舌が甘く痺れて、脊髄に官能が駆け抜けた。

「ん……あぁ……グラード……」

 濃く漂う龍の気配にアシェラが喘ぎながら、熱くうねり始めたソコをもどかしげにグラードに押し付ける。
 鷲掴むように握り込まれた豊かな乳房に、グラードの指がめりこみ、じわりと広がる快楽にアシェラはグラードの肌に縋る。
 体温を上げた肌が焼けるように熱く、重なる素肌に熱が触れる心地よさにため息が漏れた。

「アシェラ……アシェラ……俺のアシェラ……」
「ふぁ……あぁ、グラード……龍の、目覚めで……そんなに興奮しているの……?」

 うわごとのようにアシェラの名を呼びながら肌を貪るグラードに、笑みを浮かべながらアシェラは満足げに瞳をとろりと細めた。
 応える余裕もないグラードの左腕が誘うように揺れる腰に回され、乳房を弄んでいた右手が下腹部を弄りぐずぐずに溶けた秘裂を一気に貫く。

「ああっ! ああ……あっあっ……!」

 ぐちぐちと音を立てて掻き回されると、アシェラの声からも余裕が消えた。
 自ら腰を揺らしながら欲しい刺激を求めて、淫らに肢体をしならせる。
 棍棒ほどに膨れ上がり、脈動しながら血管をゴツゴツと隆起させたアルティメットが、獲物が仕上がるのを待ち侘びて先走りを滴らせている。

「グラード……! グラード……! 足りない……足りないのぉ……!」

 全開の龍の気配。龍の女の身体が満たされないもどかしさに涙を浮かばせる。欲しい、欲しい、欲しい。身体の一番深いところまで。
 ドラゴンさえ魅了する美貌にむき出しの欲望の晒し、痴態を惜しげもなく披露するアシェラ。
 細くつながっていたグラードの最後の理性がぶつりと音を立ててちぎれた。
 乱暴に寝台に押しつけられると、いきり立つ魔物で卑猥に熟れてひくつかせた、アシェラの秘部が一気に刺し貫かれる。

「ああああーーーー!!」

 絶叫をあげて絶頂したアシェラを押さえつけ、醜悪なほど禍々しい魔物は、残酷に龍の女を抉った。
 絶頂した身体を容赦なく抉られ続け、アシェラがボロボロと涙をこぼす。ギラギラと欲望に輝く龍の瞳で、組み敷いたアシェラを見据えながら、繋がってもまだ足りない渇望のままに、グラードは白い肌に歯を立てる。

「アシェラ! アシェラ! 俺のアシェラ!」

 不吉なほど寝台を軋ませ、深すぎる絶頂に声も上げられないアシェラをグラードは、肚の奥で暴れ回る欲望のまま犯した。

「愛してる……アシェラ……お前は俺の全てだ……アシェラ……アシェラ……」

 何度最奥に白濁を叩きつけても、湧いて溢れる渇望と愛しさを、グラードは瀕死のアシェラに囁きかける。
 今もなお揺らされ続けながら、アシェラは《龍の目覚め》にちょっと水をかけすぎたことを悟った。でも必要だった効能は確認できた。
 断続的に途切れ始めた意識。全身を抜け出せないドロドロした快楽に浸されながら、意識が白む寸前アシェラが小さく笑みを浮かべる。

(ああ、これなら……)

 寝台の軋む音を聞きながら、アシェラはそのまま意識を手放した。

※※※※※

 アシェラは鋭い目つきでじっくりとを眺める。やり遂げた満足感を滲ませている侍女達と、怯える完成品。
 アシェラはにっこりと笑みを浮かべた。

「私には数段劣るけど、悪くはないわ」
「あ、姉上……どうしてこんなことを……」

 羞恥と状況が掴めない恐怖に、リンデンは不安げに視線をアシェラに縋らせた。その様子にアシェラがムッと眉根を寄せる。

「リンデン、私はそんな顔をしたりしなくてよ?」
「僕は姉上ではありません! なんでこんな……」

 無理やりさせられたリンデンが、アシェラを涙目で見つめる。血を分けた姉弟なだけあって、その美貌は非常に似通っていた。
 ただ楚々とした美貌に仕上がったリンデンには、アシェラのような高慢さが足りない。パッと見は騙せても、グラードならばすぐにバレてしまうだろう。

「《龍の目覚め》の増量でなんとかなるわよね……」
「あ、姉上……こんな……お願いです。どうか家に帰してください……」

 実家を襲撃したアシェラは、侍女姿にしたリンデンを拉致してきた。ある目的のために。
 改めて着飾らせたリンデンの可憐でたおやかな姿に、侍女達は興奮気味に頬を染めている。

「用事が済んだら帰してあげる」

 ふふんと鼻を鳴らしたアシェラに、リンデンは絶望的な表情を浮かべて項垂れた。アシェラは機嫌よく嗤うと、扇をバサリと広げる。

「ここで大人しく待機して、人が来たらこの小瓶を渡す。それだけよ」
「……どなたが来るのですか? どうして僕はドレス姿に……こんな格好は嫌です!」
「黙りなさい?」

 ひくりと口を閉じたリンデンに小瓶を押し付け、アシェラは立ち上がると部屋の隅の香炉に水を注ぐ。リンデンは押し黙って、不安そうにアシェラを見つめた。
 香炉から揺らめく紫煙が立ち上り、部屋の中に行き渡りはじめる。アシェラがニヤリと口元を歪めた。

「弱みがないなら作ればいいのよ……」

 歪めた口元でアシェラは呟くと、実家から連れてきた侍女達を続き部屋へと下がらせる。
 祈るような視線を向けてくるリンデンに、アシェラは脅しつけるように念を押した。

「じゃあ、リンデン。言った通りにするのよ」
「……姉上! 行かないで!」

 必死に声を縋らせたリンデンを無視して、アシェラはそのまま廊下へと出た。
 しばらく待つと一人の侍女が通りかかる。アシェラは侍女にグラードを呼ぶように伝えると、リンデンのいる部屋の続き部屋へ入っていった。
 先に下がらせた侍女達は、すぐさま椅子に腰掛けたアシェラへと紅茶を注ぎ始める。

「泣かぬなら泣かせるまでだわ、ホトトギスってね……ふふっ」
 
 貞淑を重んじる王族の不貞は、この上ない弱みになる。今度こそ主導権を取り戻してみせる。

「リンデン様は大丈夫でしょうか?」

 心配そうな声音とは裏腹に、ウキウキツヤツヤの侍女の言葉に、アシェラはカップを傾けてにっこり笑った。

「尻ぐらいどうってことないわ」

 大変なのはリンデンの尻であって、アシェラの尻ではない。そして弟の尻など、心の底からどうでもいい。
 《龍の目覚め》の効果は、指南書通りと確認した。問題だったのは龍の本能。美醜に超絶うるさいグラードが、お気に召す令嬢はいなかった。
 龍が気に入る相手以外だと、あの強烈な《龍の目覚め》の効果も、簡単に沈静化されてしまうのだという。わがまま。
 確実に主導権を取り戻すためには、不貞の真っ最中を取り押さえたい。それなのに《龍の目覚め》の効果を保てる令嬢は、さっぱり見つからなかった。
 そこでアシェラは自分によく似た、リンデンを拉致してきたのだ。姉の役に立てるなら弟も本望だろう。リンデンがアシェラに似ているのが悪い。

「ふふふ。早く来て、グラード。私が直接浮気現場を押さえてあげる」

 アシェラは高慢に高笑いを響かせると、夜鍋して作った覗き穴に艶然と微笑みかけた。



 
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