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1章
校舎裏の騒動
しおりを挟む俺が早足で白雪さんが待っているという校舎裏に行くと、白雪さんと茶髪の男子生徒が一緒にいることを確認する。茶髪の男と白雪さんの距離は近く、見た感じ男の方から迫っているように見える。その男子生徒はネクタイの色から3年生であると判別できる。
ははーん。さては、白雪さん、俺に彼氏を紹介するつもりなんだな? この前、俺が昔、白雪さんの彼氏だったことは誰にも言わないって言ったから、俺なんかの存在なんて関係なく、私は彼氏が作れるって伝えに来たんだな?
なんて律儀な人なんだ、白雪さん。
でも、俺みたいな通行人が来るかもしれないから、学校でイチャつくのはやめた方がいいぞ? いや、もしかしてそういう趣味の方? まあ、今はいいや。早く白雪さんに話しかけよう。
「おーい、白雪さん」
彼氏と話すことに夢中になっている白雪さんに、気づいてもらえるように俺は手を振りながら話しかける。白雪さんは俺の姿を確認すると、パッと顔を明るくする。
「透……!」
しかし、隣の彼氏の方は途端に顔を曇らせ、俺のことを不満げな顔で見る。まぁ、自分の彼女に俺みたいなヤツが近づいてきたら、誰でも警戒するか。安心してください、NTRませんよ。
そうこうしているうちに、白雪さんの彼氏の方から俺に話しかけて来る。
「お前だれ? 今は俺が話してんだけど。すっこんでろよ」
そんな喧嘩腰で来ないで欲しい。とりあえず、誤解を解かねば。
「いやぁ、実は俺、白雪さんに今日、ここに来るように呼ばれてたんですよ。ところで、あなたは白雪さんの彼氏でーー」
「違う!!!」
言い切るより前に、白雪さんが俺の言葉を遮る。俯いているから表情は見えないが、あまり良い雰囲気ではない事は分かる。
かろうじて見える口は、口の端の方を噛んでおり、お世辞にも機嫌が良いとは言えない。よほど強く噛んだのか、口端から血が滲み出る。
ん? どういうことだ? 彼氏ができた報告じゃなかったのか? そうじゃなければ、白雪さんが俺に用なんてないと思うけど……。
「どういうことなんだ、白雪さん? 今日は俺に彼氏ができたことを報告しにきたんじゃないのか? 隣の人は彼氏じゃないのか?」
「違う! この男がしつこく話しかけてきただけ!」
「うーん?」
更に頭が混乱する。どういうことだ? 目の前の状況がまだ理解できてないぞ?
いまだに頭の整理が追いつかず、首をひねる俺を無視し、男は眉間に皺を寄せ、ハッキリとした敵意を俺に向けてくる。ボク、わるい1ねんせいじゃないよ。
「おい、お前どっか行けよ!」
「はぁ? なぜ?」
不思議に思い、俺は聞き返す。
「なぜって、俺が今、白雪ちゃんと話してたからだよ!」
「なんだ、まだ話が終わってなかったのか。それは失礼しちゃったな。それじゃあ、お二人さん、話の続きをどうぞ」
「コイツと話すことなんてない! さっきからずっとコイツが一方的に話しかけて来ただけ!」
そう言って、白雪さんは勢いよく何度も首を左右にしきりに振る。うーん、白雪さんがこう言ってるしなぁ。
「すいません、先輩。白雪さんがこう言ってるんで今日のところはこの辺でーー」
断りを入れる俺の言葉も無視し、先輩の男子は俺に掴みかかって来ようと両手を突き出す。俺は掴みかかる先輩の懐にスルリと入り、そのまま懐から先輩の後方に流れるように先輩の背中を押し、掴みかかる手から逃れる。
ふぅー、危ないじゃないか。掴み掛かられた時に怪我でもしたらどうするんだ! 医療費は払って貰うぞ!
見舞い品はバウムクーヘンでお願いします。
「ちょっと先輩、いきなり掴み掛かって来ないで下さいよ。もしかして、俺、怒らせちゃいました? だとしたら、先輩、もう少しカルシウムをとーー」
言い切る前に、また先輩は掴みかかってくるくる。俺は先ほどの要領でもう一度先輩の後方に流れるように避ける。避けられた先輩は息を切らしながら、こっちを睨む。
おーこわっ! そんな怒んなくてもいいじゃん! こっちにはまったく悪気はないんだからさ! それにしても、今日は最後まで言いたいことを言わせてくれない事が続くな……。これは俺に口を開くなっていう神からの啓示か?
「早くどこかに消えてください! 私は透に用があるんです!」
「ああ?」
ちょっと白雪さん! あんな状態の先輩にそんなこと言ったら……。
俺の予想通り、先輩は標的を変えたようで、今度は白雪さんの方に向かって掴みかかろうとする。言わんこっちゃない……。
「生意気な女だッ! ちょっと可愛いからって調子に乗んじゃねえぞ! まずはテメェから分からせてやるぜ!」
はぁ、しょうがない……。俺は心の中でため息を吐きながら、白雪さんの前へ出る。
「ちょっと失礼」
白雪さんの前に出た俺は、今にも白雪さんに掴みかかろうとする先輩の腕を捻り上げ、そのまま先輩の体を地面に押しつけ、馬乗りになる。
「イデッ! イデデデデデデデッ!」
腕を極められた先輩はその痛みから、自由になっている方の腕で地面を何度も叩く。3カウントを取れば、間違いなく勝利できるが、残念ながら今、この場にレフェリーはいない。
「先輩、話し合いましょうよ。俺は先輩と争う気なんて毛頭ないですよ? だから、ここは一旦、冷静に話し合いましょうよ?」
「わっ、分かった! 分かったから、早く腕を離してくれ! イダッ! イダダダダッ!」
「ハハッ、分かってもらえて嬉しいです」
先輩の要望通り、極めていた腕を解放し、先輩の背中からどく。解放された先輩は、極められていた方の肩を押さえ、顔を苦渋に歪めている。
「それじゃ、えーっと……何の話してたんだっけ?」
一騒動あったせいで、俺は先輩が掴みかかる前後の記憶を忘れてしまっていた。えーっと、そうだ。白雪さんが俺に話しがあるから、先輩に帰ってもらおうとしてたんだっけ。先輩のせいで忘れちまってたぜ!
「ということで先輩、申し訳ないですけど、今日のところはこの場から退席してもらってもいいですか?」
「……分かった。帰らせてもらう」
先輩はまだ俺に何か言いたげだったが、とりあえず帰ってくれることになった。やったね! やっぱり人間、平和が一番ですよ。
先輩が帰ったことを確認し、俺は後ろで呆然としている白雪さんに話しかける。
「それで、白雪さん。俺に話したいことってなに?」
俺は当初の目的を白雪さんに訊ねる。こんなことになってしまったが、元々、何かを話したいってことで待ち合わせてたんだしな。とりあえず、その内容を聞かないとな。
「うっ、うん……。えっとね、透……私が伝えたかったのはーー」
白雪さんが口を開こうとした瞬間、タイミング悪く一粒の雨粒が俺の額に落ちて来る。
「あっ……」
最初はポツポツとしか降っていなかった雨だったが、時間が経つごとにその勢いを増し、今では土砂降りの雨にまでなっていた。当然、外にいた俺と白雪さんの服が雨に打たれ、濡れていく。
「「……」」
俺と白雪さんの間で沈黙が流れる。このままではいけないので、俺はとりあえず沈黙を破り、口を開く。
「とりあえず、風邪引いちゃうといけないからさ……帰ろっか?」
「………………うん」
しばらく黙っていた白雪さんだったが、名残惜しそうにしながらも俺の提案に同意してくれた。何を話すつもりだったのかは結局分からなかったけど、とにかく明日、風邪を引くというルートは回避できそうだな。
まだ、今の時期は肌寒い。完全に制服が濡れてしまえば、風邪を引いてしまう可能性が高いだろう。いや、むしろ風邪をひけば学校を休めるじゃないか!
「白雪さん、傘持ってる?」
「うっ、ううん。持ってない……」
「じゃあ、俺の折り畳み傘を貸すよ。返すのはいつでもいいから!」
「……ありがとう。あっ、でも透の分の傘は……」
「大丈夫! 俺は走って帰るから!」
よし! 風邪を引く大義名分ができた。女子に傘を貸して仕方なく雨に濡れて風邪を引く。これなら、誰も文句など言いようがないロジックである。学校を休むと同時にクラスメートの好感度アップも狙える一石二鳥の手だ。あっ……好感度上げる相手がいないや。
俺は上着を脱ぎ、両手で傘がわりに頭上に広げる。一応、格好だけでも雨に濡れたくないように見せないとね。そして、白雪さんに別れの挨拶を済ませ、校門の方へ走り出す。
「じゃあ、さようなら白雪さん」
「うっ、うん。さようなら……」
雨は激しさを増し、周囲の音を掻き消す。
遠くなる背中をその場から動くことなく見つめ続ける彼女の呟きもまた、激しい雨の音に掻き消されるのだった。
「透……いかないで……」
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