女川君は女性運が悪い〜俺は普通の高校生なのにいつも女性に絡まれている。もう放っといてくれないかな〜

片野丙郎

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3章

罪の記憶12

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 片桐くんたちの背を追っていくと、視聴覚室の前までたどり着いた。

「先生、ここです。この中に犯人の女川君がいます」

「わかりました」

 ここで透が初瀬さんを……!

 ダメよ、私……!

 透に話を聞くって決めたじゃない!

 それまでは……泣いたり挫けたりしちゃダメよ!

 扉を開けて、先生と片桐くんが視聴覚室へと入っていく。やじ馬のクラスメートたちも片桐くんたちを追って、どんどんと中へ入っていく。

 私も中へ入らなくちゃ。

 今も中へと入るクラスメートの波に乗って、私も中へと入っていく。

 中に入ると、そこには初瀬さんと透が向かい合う形で立っている。透も初瀬さんも友好的な雰囲気は少しも感じ取れない。

 中に入ると、不意に透と目が合う。

 透……。嘘だよね。

 本当はやってないんだよね?

 今にも透に話し掛けたい気持ちをグッと抑えて耐える。透へ万感の思いを込めて、視線をぶつける。

「……!」

 透の眼を見て、私は凍りつく。

 透が私を見る眼は驚くほど冷たく、なにより私に対する強い失望を感じた。

 この眼には見覚えがある。

 私が以前、透を傷付けてしまった時の眼だ。

 私に対する深い絶望と失望。敵意を向けるでもなく、まるでなにかを諦めたような眼。

 どうして、透?

 なんで、私にそんな眼を向けるの?

 やめて……! 私をそんな眼で見ないで……!

 透の冷たい眼に数年前の記憶が蘇る。
 私がやり直したくて仕方ない数年前の苦い記憶。

 わけが分からない。あの時から、私は透を裏切らないって決めたのに……。

 どうして、またその眼を私に向けてくるの?

 頭の中で尽きない疑問に動揺する。しかし、狼狽する私を置いて、事態は先へ進む。

 透に一歩近づいた先生が口を開く。

「女川君! 話は聞かせて貰いましたよ!」

「そうですか。だったら話は早いですね。実はーー」

「アナタッ! 初瀬さんに乱暴しておきながら、罪を認めないなんて恥を知りなさいッ!」

「は?」

 強い口調で先生が透を責める。

 先生は透がやっていると確信しているみたいだ。強い口調で透を糾弾するさまはまるで、詰問しているみたいだ。先生の詰問はまだ終わらない。

「罪を認めないだけならまだしも、乱暴を止めた片桐くんに暴力まで振るったそうじゃないですか!」

「ッ!」

 先生の言葉に透がたじろぐ。
 次いで、すぐに片桐くんに視線を移す。その顔は傍目から見ていても、酷く驚愕していることが理解できる。

 透があんなにハッキリと表情に出しているところなんて初めて見た。

 いつもは掴みどころの無いボーッとした表情を崩さないのに、今の透は慣れている私で無くても動揺が目に取れる。

 でも、さっきから透は容疑を否認している。

 もしかしたら、本当に透はやっていないのかも知れない。

 私の心に一筋の希望が差す。しかし、初めから疑って掛かる先生は、さらに透を責める。

「先生、俺は初瀬に乱暴なんてしてませんし、片桐に暴力も振るってません。すべて誤解なんです」

「まだ言い訳をするつもりですか! 片桐くんのスマホで撮った動画を見せてもらいましたよ! 確固たる証拠があると言うのに、罪を認めないつもりですか!」

「ッ! いっ、いやその動画の件もおかしーー」

「言い訳はやめなさい!」

「……!」

 先生の一喝に透の発言が遮られる。もはや、これ以上聞くことは無いとでも言いたげな語気だ。

 どうして、先生は透を信じてあげないの?

 こんなに否定してるんだから、話くらい聞いてあげてよ!

 今や、透を見つめるクラスメートの中に透の主張を信じている人間はいない。誰も彼もが、透が犯人だと思って疑わない。

 このままじゃ、透が犯人ってことになっちゃう!

 この場で透を助ける人間は一人もいない。

 そうよ……! 誰も助けないんなら、私が透を助けなくちゃダメなのよ!

「みんな、待っーー」

「もういいです……」

 透を助けようとした発言は、透自身によって遮られる。

 もういいって……。透、どういうこと?

「……もういいです。……俺が悪かったんですね。今、やっと分かりましたよ、ハハハ……」

 透が諦観のこもった目で周囲を見渡す。

 片桐くん、初瀬さん、先生、クラスメートと順番に視線を移し、最後に私に移る。

 やめてよ……。

 また、その眼を私に向けないで……!

 私は透のことを信じているって言いたいのに、あの眼で見られると途端に、喉元まで出掛かっていた言葉が出てこなくなる。

「……申し訳ありませんでした。俺が初瀬さんを襲いました。片桐くんも殴ってすみません。今回は誠にすみませんでした」

 淡々と、非常に淡々と無表情で透が謝罪の言葉を述べていく。

「……そうですか。やはり、アナタがやっていたんですね。私はこの事を大事にするつもりはありません。この件は私が預かることにします」

「はい。すみませんでした」

「初瀬さんも片桐くんもそれでいいですか?」

「……ボクはかまいません」

「私も大丈夫です」

 透の裁量が勝手に目の前で決まっていく。口を挟みたいのに、なんて言えば良いのか分からない。

 透が罪を認めてしまったのだ。ここから、いったい、どのように申し開けばいいのだろう……。

「それでは女川くんには後ほど、初瀬さんや片桐くんのご両親にも説明と謝罪を行ってもらいます。放課後は職員室に来なさい。よろしいですか?」

「はい」

 結局、私が一切、言葉を挟む余地もなく透の処分が決まってしまった。

「ではみなさん、早く教室に戻りなさい!」

 先生の指示に従って、やじ馬のクラスメートたちが続々と教室を去っていく。

 数分後にはクラスメートたちも先生も去り、教室には私と透だけが残る。

 なっ、なにか話し掛けなくちゃ……。

「とっ、透ッ!」

「ん? なんですか? 白雪さん・・・・

「ッ!」

 どうして……白雪さんなんて言い方で呼ぶの?

 昨日までの透は、私のことを白雪とは呼んでも、白雪さんなんて他人行儀な呼び方はしなかった。

「なっ、なんで白雪さんなんて呼び方するの!? 今まで通り、白雪でいいんだよ……?」

「そんなぁ。俺ごときが白雪さんのことを呼び捨てに出来ませんよ」

 長い付き合いの私だから分かる。

 透は今、本気で言っている。

 透との距離を縮めようと思って、逆に離れてしまった。

 これは一瞬でも、透のことを疑ってしまった私への罰?

 透を助けられなかった私への断罪なの?

 もし、そうならこんなのって無いよ……。

 さらに開いてしまった透との心の距離は、現実の距離以上に遠く、遠く離れている。

「それじゃあね」

「……!」

 透が教室を去っていく。しかし、私には透の背中をじっと見つめることしか出来なかった。
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