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1章
転落2
しおりを挟む《綾川冥視点》
クソッ! クソッ! クソッ! 今日は本当に最悪な一日だったわ。これも全部、アイツらのせいだわ!
綾川冥は自宅への道を歩きながら、内心で春樹達に対する恨みを募らせる。彼女は周囲を見ながら、その視線から学校外まではまだ写真のことが広まってないと安心する。しかし、すぐに自分がなぜこんなにビクビクしなければいけないのかという思考に置き換わる。
帰ったら、パパの力で学校のこと揉み消してもらわなくっちゃ! 大丈夫、少しおねだりすればパパなんてイチコロよ! 春樹~、アタシ相手に調子に乗ったことを後悔するといいわ!
彼女は内心から来る正体のわからない焦りのようなものを誤魔化すように、未来の春樹達の姿を想像するのだった。ほどなくして、彼女は自宅である立派な一軒家の前までたどり着く。彼女が自宅の中へ入ろうと歩みを進めると、彼女は庭に黒い高級車が停められていることに気づく。
しめた! パパが家に帰ってるわ! アイツらのあることないこと吹き込んで、破滅させてやるわッ!
そうして、彼女は意気揚々と自宅の玄関の扉を開ける。しかし、彼女は疑問に思うべきだった。なぜ、普段は帰ってくるのが早くても19時なのに、まだ17時ちょっと前に父親の車が家にあることに……。
彼女が自宅に入ると、リビングの電気が付いており、そこから父親の声が聞こえることに気づく。
パパはリビングね! と彼女が勢いよくリビングへの扉を開くと……そこには見たことないほど憔悴し、やつれ切った表情で電話を持ち、ペコペコと頭を下げる自分の父親の姿だった。リビングに入ったことにより、先程までは明瞭に聞き取れなかった父親の声が否が応にも彼女の耳に入る。
「先生、お願いします! このままでは私は破滅です! どうか、先生の力で今回の件、揉み消してはくれませんか!? えっ、上から圧力がかかった? どういうことですか!? 先生! 先生!」
見たことない父親の姿を目にし、彼女は思考が停止し、同時に体もリビングの扉を開いた状態のまま止まっていた。父親の方はといえば、しばらく頭を抱えて蹲った後、やっとハッとしたように彼女の姿に気がつく。
「やっ、やあ。おかえり、冥。もしかして電話の話、聞こえちゃったかな?」
彼女に訊ねる父親の目には光が宿っておらず、どこか生気がなかった。そんな父親の姿に狼狽しながら、彼女は父親の問いに答える。
「うっ、うん。最後の方だけだけど」
「そっ、そうか……。もうパパが黙ってても冥の耳に入って来るだろうから言うけど、パパ、告発されちゃってね。政務活動費の不正受給で刑事告発されて、近いうちに検察から取り調べを受けることになっているんだ。だから、しばらく家に居れないかもしれないんだ……」
父親から聞かされた内容に彼女の頭は酷く混乱する。自身の予定では、これから春樹達の悪行を父親に吹き込み、2人をドン底に落とす予定だったのだ。しかし、蓋を開けてみれば、頼みの綱の父親はこれから検察から取り調べを受けるという。急転直下のできごとに唖然とするしかない。
しばらく、唖然としていた彼女だが、当然といえば当然の疑問が浮かぶ。
「パパ……ホントはやってないんだよね?」
「あっ、ああ……! やってるわけ、ないじゃないか!」
嘘だ! 彼女は直感的にそう感じた。彼女が父親の言葉を嘘だと感じ取れたのは、血の繋がった実の父親だからか。それとも、彼女自身が息を吸って吐くように周りに嘘を吐き続けてきたからか。とにかく、彼女は自分の父親の言葉が嘘だと感じ取った。
父親はこれから役に立たない、瞬時にそう判断した彼女は残った母親を頼ろうとする。
「パパ、ママはどこへいるの?」
瞬時に父親を切り捨てることを選んだ彼女は、母親の所在を父親に聞く。
「ママ? ハハッ、ママなら私の話を聞いた途端、いなくなったよ。ふと、気になって預金通帳の額を見たら、綺麗さっぱり無くなってたよ……。パパがこんな風になった途端、ポイさ」
そう言った後、父親は狂ったようにハハハハハハハハハと笑い続ける。目の前の父親の発狂と母親の失踪を聞き、彼女は心配よりもまず、実の両親への怒りを激しく感じる。そして、母親が逃げた先を思いつく。
あの女ァァァ~~~! 浮気相手のところに行ったのね! パパがピンチになった途端にお金を持って逃げるなんて、とんでもない女ね!
彼女は自分が春樹のことを裏切り、浮気相手とよろしくやっていたことを棚上げし、自らの母親に対して、怒りを募らせる。母親が浮気をしていると知っておきながら、放置していたことからも、そもそも綾川家自体が狂っていたことがよく分かるだろう。
母親への怒りではらわたが煮えくりかえりそうなのを我慢しながら、彼女は顔に笑顔を作り、父親に向ける。
「大丈夫、冥はパパが無実だって信じてるよ!」
「冥……! パパを信じてくれるのは冥だけだよ~!」
そう言って、彼女に抱きついてくる父親を彼女は優しく受け止める。しかし、父親からは見えない彼女の表情は驚くほど冷酷な顔をしていた。
これで、とりあえずの金づるはできたわ。生活に困ることはとりあえず、これでない筈……。
自らの父親を手のひらで転がし、当面の生活を確保した彼女は、すぐにここにいない2人へ、春樹達へ憎悪を燃やす。
アイツら~、やってくれるじゃない!
何の証拠もなかったが、直感的に春樹達の仕業だと感じた彼女は春樹達への復讐に胸を燃やす。もう、親は頼れないと感じ取った彼女は、春樹達に復讐するため、別の手段を考える。
そっ、そうだ! 亜久津先輩達なら!
彼女は、自分が付き合ってきた平気で犯罪も犯す悪い先輩が仕切っているグループを思い出し、彼らを復讐に利用することを考えつく。
見てなさい、アイツら! 必ず効果させてやるんだから!
そう心の中で呟いた彼女は、先輩達が根城にしている廃ビルへ向かうため、家の外へ出るのだった。
ーーーーーーーーーー
「ハァ……ハァ……ハァ!」
急いで走ってきた彼女は、息を切らせながら廃ビルの前に立つ。もう時刻は18時を回っており、空には徐々に夜の帷が下りてきていた。息を整えた彼女は、急いで階段を上り、悪い先輩達が普段、たむろしている屋上へと駆け上がる。
ハァ……ハァ……! もうすぐ、着く!
階段の最後の段を駆け上がった彼女が見たのは……何人も倒れている人間の姿だった。薄暗くてよく見えない人間達の姿を目を凝らして見た彼女は、倒れている人間達が自分が頼りにしていた悪い先輩達であることを認識してする。
なっ、何よコレ!? なんで先輩達がみんな倒れてるのよ!
不意に、目の前に広がる光景に混乱する彼女の耳につい最近、聞いた女の声が聞こえる。
「ご機嫌は麗しいですか? 綾川さん」
彼女が勢いよく振り返った先には、物陰から出てきた宇佐美杏の姿があった。
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