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3章
突然の訪問
しおりを挟む「源三さんがここに来る?」
宇佐美家本家で宇佐美の恋人として挨拶をした約2週間後、俺は宇佐美から宇佐美家当主、宇佐美源三さんがこの家に来ると突然聞かされた。何でも俺にどうしても頼みたいことがあるとか。
「源三さんが俺に頼みを?」
「私も詳しくは分からないんだけど、ハル君じゃないとダメなんだって」
日本のみならず世界にも大きな影響力を持つ宇佐美家の当主に俺が何か役に立つとは思えないが……。どんな頼みかは分からないが、頼ってくれている以上は全力を尽くそう。
「それで、いつここに来るんだ?」
「大体14時頃にはこっちに来るって言ってたよ」
「となると……」
今は11時過ぎ。源三さんが来るまであと3時間しかない。一応俺は設定上、宇佐美の恋人という事になっている。源三さんが来た時に失礼があったら、宇佐美に対して迷惑がかかってしまう。
突然の訪問で俺に頼みがあると言う。字面では向こうが下のように見えるが、そう思って対応したら痛い目を見る気がする。ここは宇佐美家本家に挨拶しに行った時と同じ位、気を引き締めなければ!
ーーーーーーーーーー
源三さんが訪問してくるという14時。俺と宇佐美は源三さんが来るのを今か今かと玄関の前で待っていた。俺たちの後ろにはメイドと執事が直立不動の態勢のまま3列に並んでいる。
一見、普段宇佐美を見送る時と同様に見えるが、よく見るといつもより人数が増えている。おそらく、普段は見送りに参加せず、仕事をしている使用人たちも今回の見送りに参加しているのだろう。
控えるメイドや執事の中には顔が強張っている者も拝見できる。それだけ、宇佐美家当主という人物がこの家に来るというのはメイドや執事たちには大きな出来事だという事だろう。
かくゆう俺もさっきから、いつ来るのか、いつ来るのかと気持ちが落ち着かない。身体も意識して力を入れないと、途端に震えてきそうで恐ろしい。
それから源三さんの到着を待つ事15分ほど。実際は15分でしかないが、永遠にも感じた15分を耐えていると、今となっては見慣れてしまったリムジンが正門から入ってくるのを確認する。
やっ、やっと来た……。誰かを待つだけでこんなに緊張したのは初めての経験だ。
完全に敷地内に入った源三さんの乗っているリムジンはゆっくりと旋回し、ドアが俺と宇佐美に相対する位置でピタッと止まる。リムジンのドアが開く。
中からは宇佐美源三さんがゆったりとした動きで出てくる。完全に外に出た源三さんは着用していたスーツを両手でピシッと整える。そんな所作も源三さんがやると、とても絵になる。
「出迎えご苦労。待たせてしまったかな?」
「いいえ、お祖父様。全然待っておりませんわ」
「そうか……。では、早速中へ案内してくれないか?」
「はい、お祖父様。こちらへ」
宇佐美が源三さんを中へと案内していく。俺はというと、一応設定上は恋人同士なので宇佐美と腕と腕を絡めるようにして一緒に歩いている。
宇佐美と腕を絡めた時、一瞬源三さんの眼が鋭くなり、思わずビクッと反応してしまったが、それ以外は多分問題なく出迎えられている……と思いたい。
程なくして源三さんの為に急遽用意された部屋へとたどり着く。部屋に着くと、すぐに源三さんがーー
「周王君と杏以外は出て行ってくれ」
と命じたので、部屋は俺と宇佐美、源三さんを除いて誰も居なくなった。
「さぁ、2人とも座るといい」
この家の主人は宇佐美のはずなのだが、完全に源三さんに空気を支配されている。椅子だって本来なら宇佐美から勧めるのが普通なのだが、源三さんの前では宇佐美もタジタジである。
「ふぅ……。さて、周王君」
「はっ、はい!」
俺たちに遅れるように椅子に腰掛けた源三さんは俺の方へ顔を向ける。
「君に頼みたい事というのは、他でもない。とある人物と勝負をして欲しいのだよ」
「勝負……ですか?」
「うむ」
俺が誰かと勝負? どういうことだ。全然話が見えてこないぞ。
「実は君がうちに挨拶に来てくれた数日後、とある家から苦情が来たのだよ」
「……苦情」
「知っての通り、杏には複数の家からお見合いの話が舞い込んでいた。しかし、急遽、お見合いを申し込んできた家、全てに断りを入れなくてはならなくなった」
「……!」
断りを入れなければならなくなった理由、もしかして……
「そう。君と杏が恋人であるという事が発覚したからだ」
やっぱり、俺が原因か!
「私はお見合いを申し込んで来た家、全てに誠意ある謝罪と菓子折りを送った」
「菓子折り?」
俺が「お金持ちでも謝罪には菓子折りを持っていくんだなぁ」と思っていると、宇佐美が小声で「菓子折りっていうのはお金の入った入れ物の事ですよ」と教えてくれる。
眼前では、源三さんが説明を続ける。
「しかし、たった一つだけ苦情を言ってきた家があった」
「どこですか?」
「千本院家だ」
千本院……。確か宇佐美が教えてくれたクラスメートの中に同じ苗字のヤツがいたな。
「千本院家は言った。その男が本当に杏の婚約者として相応しいのか確かめる、と」
「そこで確かめる方法として春樹君とその誰かを勝負させるという事ですか、お祖父様?」
「うむ」
宇佐美の婚約者になっただけでこんな事になるなんて……。いや、それだけお金持ちの世界は複雑という事か。
「それで、その勝負の相手とは誰なんですか、お祖父様?」
「杏、お前も知っている相手ーー」
源三さんは言葉を少し溜めたあと、言い放つ。
「お前たちのクラスメート、千本院帝だ」
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