七虹精神隔離病院~闇は誰もが持っている!!~

白雪 鈴音

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蠢く闇

黒い蝶は空を舞う―Ⅲ―

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「大失態だ……まさかあんなに酔っ払うなんて……」

痛む頭を抑えながら廊下を歩く。
午前八時。
巡回の時間だ。

巡回とはいっても白亜達からは避けられているため余計な恐怖心を煽らないよう一時的に担当を外してもらった。
これから向かうのは鈴良の病室だ。

「失礼しまーす」

コンコン。と子気味よく音を立てると返事など返ってこないことを知っているため勝手に開けて中に入る。

「なんだ。元気じゃん……。」

いつも通りに入ってくれば鈴良はどこか安心したように呟いた。
鈴良がこの病院に来てからしばらくが経った。
鈴良は元々のメンタルの強さからか目覚しい回復をみせ、もうじきに通院治療へと切り替わる。
 
「鈴良君も元気になったね~」

よかったよかったと鈴良の頭を撫でる。
鈴良は満更でもなさそうに視線を逸らした。

「いいから。次、行けば?」

そういえば次の海陽の方へ行け、と邪険にする。

「えぇ?!冷たいなぁ。鈴良君とも話がしたいんだけど……」

「あ、じゃあ結局有耶無耶になってたあの件、どうするの?」

「あぁ。安心して。ちゃんと刑事さんともお話して、退院前には合える手筈になってるから。」

そう雪成が言えば鈴良は”そう……”とだけ答えた。
あの件というのは、秋良と一悶着あったご主人様に会わせる会わせない事件の事だ。
また他の面々に悟られると面倒な事になるのでお互いあの件、と言っている。
明原の説得はとても困難だったが、いくつかの捜査に協力する、ということを条件に約束を取り付けた。

「鈴良君、この間お母さん来てたよ。鈴良君とすごくそっくりで綺麗な人だった!」

「あぁ。会ったよ。ありがとう。きっと母さんもそう言われてるって知ったら喜ぶだろうね。」

ここの子供のほとんどは家族の話題になると途端に普段見せない柔らかい表情を浮かべる。
とても暖かい家庭で育ったのだろう。
雪成には到底理解の及ばないことだが、幸せそうにする彼らを見るのは好きだ。
自分に無かったものを埋めてくれているようで……。

「お母さんとはどう?仲良くやれてる?」

「うん。いつも通りに接してくれてる。父さんは少し気まずいのかさりげなくお菓子くれたりとかするんだ」

子供みたいだよね、と笑う鈴良にはもう暗い影は見えない。
この状態の彼に再び影へと触れさせるのは良いのだろうか、等と考えるも、きっと今の彼なら大丈夫だろう。
鈴良を大切にしている人間が沢山いるということに彼は気づいたようだから。
家族の話題で盛り上がり、話しをしていたら、すぐに一時間がたった。
雪成もういくら新人だからとはいえ医者は医者なのでそれなりに忙しくしている。
キリのいいところで話を打ち切り、次の海陽の病室へと向かう。
その途中で小耳に挟んだ話しなのだが、どうやら今日はまだ恋歌は出勤して来ていないらしい。
そんな話しに嫌に胸騒ぎを感じながら、海陽の病室に辿り着いた。
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