啼いて僕らは息をする

白雪 鈴音

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禿編

絢爛豪華

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大門を潜り、僕ら二人は売人の手からこれから暮らす上月楼のやり手の元へと渡された。

「はい。代金、確かに受け取ったぜ。んじゃお前ら頑張れよ」

そう言って売人は金だけを受け取るとさっさと門をくぐり出ていった。

「全く……品のない方ですね」

ため息を零しながら眼鏡をかけ直す男は妙に整った顔立ちをしている。
マジマジと見つめてしまったせいか、男と目が合った。
慌てて目を逸らしたが、男はクスリと微笑み、二人の頭を撫でた。

「初めまして。やり手の……貴方がたの生活のお世話をする水無月と言います。辛い思いをしてきたでしょうけど、これからは少しは安心して暮らせると思いますよ」

未来はビクッと肩を揺らし、怯えた表情をしていたが、それも初めだけで、優しい人なのだと認識したのか、ありがとう、とお礼を言った。
僕は他人をそんなに簡単には信用出来ない。
けれど怒らせるのも良くないなと思えば何も言わずにそっぽを向いたままじっとしている。

「さて、今日は少し忙しくなりますよ。ついてきてください」

「どこに行くの?」

未来が問う。

「私たちの暮らすお家の中で、一番偉い人に会いに行くんです」

「怖い人?」

「そうですね……少し、怖い人かもですね。なので、大人しく言うことを聞いてくれたら嬉しいです。行きましょうか」

そうして水無月に腕を引かれ、着いた所は楼主の部屋だった。
中に入れば畳の部屋には似つかわしく無い豪華な調度品や椅子や机が置いてあり、楼主の両脇には黒服の男達が厳つい顔で構えている。
楼主の前に突き出された僕らは楼主を見上げる形となった。
楼主の風貌は三十代手前といった所だろうか。
紺のスーツに身を包み、煙草を吸っていた。

「そいつらが今日から入る奴らか?」

一度灰皿に灰を落とし、煙草を手に持ったまま立ち上がると、楼主は僕らの前に来て、視線を合わせるようにしゃがむ。
フゥ、と息を吐き出すと、未来はその煙にコホコホと咳をする。

「ネザーとレプスか……」

楼主は僕らの亜兎の耳をマジマジと見ると立ち上がり、席へと戻りつつ言い放った。

「剥け」

その言葉とともに黒服の男達が僕らに近づき、無理やり服を脱がせていく。
僕も未来も多少の抵抗をしたものの、何倍も体格差のある体ではどうすることも出来ず、すぐに一糸まとわぬ姿にされてしまった。
泣き始めた未来を抱きしめ、足を組み座っている楼主を睨みつけた。

「ほう?なんだその目は。」

「僕らはすぐにこんなとこ出て行ってやる。……こんな狂った世界なんて!!」

花街に来る途中、面白半分に売人によってここで何がなされているかを教えられた。
多少の脚色はあったものの、幼いながらにここがどういう場所なのかを理解した為、好戦的にそう言って。
しかし、言葉は途中で遮られた。
楼主に口元を押さえつけられたのだ。

「言葉には気をつけろよ。Ωで亜兎の出来損ないが。そこまで言うならやってみせろ。今日からお前の名は夕霧だ。夜に堕ちるその姿、楽しみにしているぞ」

乱暴に手を離されれば、コホ、コホと噎せる。
優しく僕の背中を摩ってくれた未来は朝霧という対の名を受けた。
それから楼主の前での身体検査が始まった。
二人の逸物の大きさや、後孔の締まり具合、胸の感度に至るまで、調べ尽くされた。


一通り検査が終了すると、二人は着慣れない着物を身にまとい、これから生活をする廓へと連れていかれてる。

「二人とも、先程は怖がらせてしまいすみませんでした。売人の男から何を吹き込まれたのかは知りませんが、ここは決して怖い所でも、苦しい所でもありませんから」

水無月は微笑んだ。
朝霧は水無月の言葉に「はい」と安堵の表情を浮かべ、夕霧はまだ疑心の面持ちだった。


まず廓の子達に挨拶をしなさいと案内されたのは、この楼で一番の売れっ子、傾城と呼ばれる霜月花魁の部屋だ。

「霜月花魁、入りますよ」

そう一声掛けた水無月は豪華で厚い襖を開く。
襖を開ければふわりと香るホワイトムスクの香りが鼻先をくすぐった。
上品な香りの奥で、見事に着飾った白髪の長い髪を揺らし一人の娼妓がこちらを振り返る。
紅を引いている最中だった。
コトリ、と紅を鏡台へ置くとこちらへと向き直る。
この部屋は楼主の部屋のように豪華だが、部屋の家具全てが和物でいかにもな雰囲気だ。
霜月と呼ばれたその娼妓は夕霧と朝霧の姿を見ると、その美しい表情をポカン、とさせた。

「なんだい水無月。最近見かけねぇと思ったらついにはガキこさえてお戻りかい?」

そう霜月ケタケタと嘲るように笑う。
水無月はそんなはずないでしょう、と軽く睨み付けると、悪びれる様子もなく霜月は肩を竦めてみせた。

「この子達は今日来た子達です。ほら、挨拶をしなさい」

そう言って夕霧達を霜月の前に引っ張った。
朝霧は綺麗、と思わず零した。
慌てて朝霧は口を覆ったが、霜月は微笑みながら頭を撫でてくれた。

「おやおや、嬉しい事を言ってくれるねぇ」

優しいながらにも威厳のある言葉に、世界に呑み込まれそうになる二人を、水無月が引き戻す。

「いいから、次もあるんですから手短にお願いします」

「ご、ごめんなさい」

どちらともなく謝れば、二人で名乗り、よろしくお願いしますと頭を下げる。

「へぇ。夕霧と朝霧か……いい源氏名なまえだな。」

紅く塗られた唇が弧をかいた。
 
「さ、もう行きますよ。支度の邪魔になりますから」

「はい」

「……花魁、後で私の部屋に来なさい。大切な話があります」

水無月が立ち上がれば、続いて僕らも立ち上がる。
水無月は夕霧達を部屋の外へ出し、自身も出ようとした所で手短にそう言って霜月を後ほど呼び付けた。
霜月は悪い予感を感じつつも”わかった”と頷いては襖が閉まるまで笑顔で僕ら二人に手を振ってくれた。
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