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第1章:はじまり
はじまり
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「はは………結局、最期までダメな兄貴だったな…」
俺は震える体を留めることができなかった。
すると、風になったように…地面に引き寄せられるように…
俺は " 生 " という文字から、手を離した…
「はーるっきくーん!あれぇ?今日も1人ぃ?俺らと一緒に遊ぼうぜぇ!」
そう言いながらニタニタ近付いてきたのは、2年D組の西川、竹井君、笹村の3人だ。
「や、やめてくれよ。そう言うの。いつも言ってるじゃないか。」
「あ?なになに俺らに歯向かうっての?笑えるんだけどぉ…w w 」
「これでもまだ逆らえる…?」
一瞬、顔を曇らせた3人は一気に俺に殴りかかってくる。
「ぐはぁ…うぐ…げほっ…がはぁ……」
10分くらい経っただろうか…
俺を殴ったり、蹴ったりしてた3人は
「じゃぁね、陽葵君、また明日ぁ…」
と言いながら、帰っていった。
朦朧とした意識の中…
「帰らなきゃ…」
そう俺は呟きフラフラと歩き出した…
「…ただいま……」
そう言いながら俺は家の玄関を開けた。
「陽葵、こんな時間まで何処ほっつき歩いてたんだ。しかもなんだそんなに汚れて。」
「おかえり」よりも先に飛んできたのは、荒々しい口調の父の言葉だった。
「……足滑らせて、土手から落ちたんだ。足を痛めたから、少し遅くなったんだよ。」
そう言い、俺は部屋へ戻ろうとした。
すると…
「そんな汚い格好をして…我が家の恥晒しめ…勉強もろくにできないで、どうせまた遊んできたのだろう…そんなんだから勉強ができないのだ。」
また始まった…
はぁ…正直、父と話すのはあまり好きではない。
話してもどうせ褒めてくれたことは1度もないし、ただただ怒られるだけ…
毎日毎日同じ様なことを言われ続けてるこっちの身にもなってくれよ…
「おい、陽葵!聞いているのか?父親の話もろくに聞けないのか、お前は!」
……パシンッッッ……!!!
「…っ……」
父は大きく手を振りかぶり俺の頬を叩いた。
「我が家の恥さらしめが!!お前も陽華を見習ったらどうなんだ!勉強もろくにできない、運動もできない、人ともまともに関われない。そんな人間が我が家にいていいわけがないだろう!」
そう言うと、父はまた大きく手を振り上げた。
すると…
「と、父さん!やめてあげて!兄さんだっていろいろ大変なんだよ…だから、もう……ね?」
部屋から出てきた陽華が慌てて止めに入った。
「……はぁ…とっとと部屋に戻りなさい!」
と父は怒鳴った。
とっととって言うけど、帰ろうといたのを妨げたのは父さんじゃないか…
そんなことを思いながら部屋に入った。
「はぁ…」
俺はベットにダイブした。
コンコンコンッ
「兄さん、失礼するよ。」
そう言いながら、陽華が入ってきた。
「あぁ……どうしたんだ?」
陽華は不安そうな顔をして部屋に入ってきた。
「傷、大丈夫?またいつもの奴らにやられたの?」
陽華は俺の顔を不安そうに覗いていた。
人と話す時に寝っ転がってるのは失礼か…
俺はそう思い、ベットに座った。
「違うよ、ただ土手で足滑らしただけ、気にすんなよ。」
陽華は少し寂しそうな笑顔を浮かべ「そっか」と呟いた。
「それにしても、父さんさ、僕を見習うなんて…見習うのは僕の方なのに……」
お前は見習うことなんてねーだろうよ…
2年生にして、学校一の成績で生徒会長を務めている。運動神経も良く、人当たりもいい、まさに完璧人間と言っていいだろう。しかも、人を思いやることの出来る優しい心の持ち主で、ホントに俺と血が繋がっているのかわからないくらいだ。
「お前は、頭も良くて、運動もできて…見習うことなんてないだろ…w」
「そんなことないよ!」
と、急に大きな声を出した陽華。
「僕は、兄さんのことを尊敬しているんだよ?兄さんみたいになれたらいいなって…僕は全然ダメで…兄さんはたくさん努力しているし、僕はちゃんとわかってるよ。きっとこれから成績だって伸びてくるよ!」
「は?なにがわかってるだよ!なんにもわかってねーじゃんか!ふざけるな!お前は、俺より何でもできるじゃないか!勉強も、運動も、人間関係も!俺より、全部上手くやってる。父さんだって、母さんだって…俺の存在は認めてくれない。お前はいいよな。父さんとも、母さんとも、笑顔で話せて!俺は、なにをしても怒られて…なにをしても認めてもらえなくて…お前が俺を見習う?バカにするのもいい加減にしてくれ!」
はぁ…はぁ…はぁ…
「あ…陽華…ごめ…」
俺がそう言いかけると、陽華の目から涙がこぼれた…
「僕は…兄…さんに…元気になって…ほしかったから……」
そう言うと陽華は走って部屋から出ていった。
「はぁ…」
つい感情的になってしまった…
俺は、陽華になんて酷いことを言ってしまったんだろう…
そんな気持ちが下がったまま、俺は眠りについていた…
翌日、起きてすぐに2階から降りてリビングに向かう。
辺りを見渡すと誰もいなかった。
いつもなら母さんと陽華がリビングにいるんだがな…
まだ朝5時、父さんも母さんも仕事ではないはずなんだが…
陽華はまだ部屋にいるのか。
そう思い、陽華の部屋を覗いて見たが陽華の姿もない。
不思議に思い少し外に出ると、家から少し離れたところに人だかりができている…
ちらほら警察らしき人も見えた。
事故でもあったのか…?
気になったので俺は見に行くことにした。
「あ、あのぅ…どうしたんですか…?」
お向かいの原口さんがいたので、恐る恐る聞いてみた。
すると原口さんは、慌てて
「あ、あら、陽葵君じゃないの!事故があったよの!」
「は、はぁ……?」
なぜ、そんなに慌てて言うのかよくわからないな…
「あなた知らないの!?事故に遭ったのは陽華君よ!お父さんかお母さんから聞いてないの?」
「え……」
陽華が事故…どうして…
もしかして昨日の夜…あの後、一人で外に行ったのか…?
俺の……せいだ……
「原口さん!何処の病院いったかわかりますか!」
「たぶん、お父さんの病院じゃないかしら」
「わかりました、ありがとうございます。」
俺はそう言うと軽く会釈をして、タクシーを止めた。
「伊集院病院まで、お願いします。急ぎで!」
俺のせいで、陽華が事故に…
どうすればいいんだ…
陽華…陽華……どうか…死なないでくれ……
そう考えていると、タクシーは病院へ着いた。
急いで階段を駆け上がり、陽華の病室へ向かう。
そこには、父と母の姿があった。
「父さん、母さん…陽華はどうして…」
「あぁ…陽葵か…陽華は昨日の夜、泣きながら家を飛び出して行ったんだ…夜中家に帰る途中に事故にあったらしく、3時くらいに病院から電話がかかってきてな。陽華がうちの病院に運ばれてきたと…」
やはり…そうか…昨日の夜……
「昨日の夜、陽葵が陽華になにかしたんじゃないの?じゃなきゃ、この子が事故に遭うなんてありえないわ!」
そう泣きながら母が言った。
「お、俺…?少し陽華とは喧嘩しちまったけど…」
「やっぱり…貴方のせいだわ!陽華がこんなになってしまったのは、全部貴方のせい!後遺症が残ってしまったら、貴方はどう責任取るのよ!陽華は将来有望だったのに…いっそ貴方が事故に遭えばよかったのに……」
「こら、喜美子。公共の場で大声を出すんじゃない…」
やっぱり…俺の…せいか…
俺の…俺の…
「俺…帰るわ…」
俺のせいで…陽華が……
俺の…せいで…
そう考えながら俺は何故か病院の屋上にいた。
もういっそ、飛び降りてしまおうか…
俺が死んで悲しむ人なんていない。
「兄さんのこと尊敬してる!」
そう言ってくれた唯一の弟も、もしかしたらもう…この世からいなくなってしまうかもしれない…
それならいっそ…俺も死んでしまおう…
そうだ…死ねばいいんだ…
…死ねば…楽になる…
全てを捨てて死んでしまえば…この苦しみからも解放される…
「はは………結局、最期までダメな兄貴だったな…」
そう言い残し、俺は屋上から飛び降りた。
落ちていく体、震える手。
俺は意識を手放した。
これで俺の人生は幕を閉じた。
はずだった……
「う゛ぅ…う゛……」
目が覚めると、俺は知らない部屋にいた。
俺は震える体を留めることができなかった。
すると、風になったように…地面に引き寄せられるように…
俺は " 生 " という文字から、手を離した…
「はーるっきくーん!あれぇ?今日も1人ぃ?俺らと一緒に遊ぼうぜぇ!」
そう言いながらニタニタ近付いてきたのは、2年D組の西川、竹井君、笹村の3人だ。
「や、やめてくれよ。そう言うの。いつも言ってるじゃないか。」
「あ?なになに俺らに歯向かうっての?笑えるんだけどぉ…w w 」
「これでもまだ逆らえる…?」
一瞬、顔を曇らせた3人は一気に俺に殴りかかってくる。
「ぐはぁ…うぐ…げほっ…がはぁ……」
10分くらい経っただろうか…
俺を殴ったり、蹴ったりしてた3人は
「じゃぁね、陽葵君、また明日ぁ…」
と言いながら、帰っていった。
朦朧とした意識の中…
「帰らなきゃ…」
そう俺は呟きフラフラと歩き出した…
「…ただいま……」
そう言いながら俺は家の玄関を開けた。
「陽葵、こんな時間まで何処ほっつき歩いてたんだ。しかもなんだそんなに汚れて。」
「おかえり」よりも先に飛んできたのは、荒々しい口調の父の言葉だった。
「……足滑らせて、土手から落ちたんだ。足を痛めたから、少し遅くなったんだよ。」
そう言い、俺は部屋へ戻ろうとした。
すると…
「そんな汚い格好をして…我が家の恥晒しめ…勉強もろくにできないで、どうせまた遊んできたのだろう…そんなんだから勉強ができないのだ。」
また始まった…
はぁ…正直、父と話すのはあまり好きではない。
話してもどうせ褒めてくれたことは1度もないし、ただただ怒られるだけ…
毎日毎日同じ様なことを言われ続けてるこっちの身にもなってくれよ…
「おい、陽葵!聞いているのか?父親の話もろくに聞けないのか、お前は!」
……パシンッッッ……!!!
「…っ……」
父は大きく手を振りかぶり俺の頬を叩いた。
「我が家の恥さらしめが!!お前も陽華を見習ったらどうなんだ!勉強もろくにできない、運動もできない、人ともまともに関われない。そんな人間が我が家にいていいわけがないだろう!」
そう言うと、父はまた大きく手を振り上げた。
すると…
「と、父さん!やめてあげて!兄さんだっていろいろ大変なんだよ…だから、もう……ね?」
部屋から出てきた陽華が慌てて止めに入った。
「……はぁ…とっとと部屋に戻りなさい!」
と父は怒鳴った。
とっととって言うけど、帰ろうといたのを妨げたのは父さんじゃないか…
そんなことを思いながら部屋に入った。
「はぁ…」
俺はベットにダイブした。
コンコンコンッ
「兄さん、失礼するよ。」
そう言いながら、陽華が入ってきた。
「あぁ……どうしたんだ?」
陽華は不安そうな顔をして部屋に入ってきた。
「傷、大丈夫?またいつもの奴らにやられたの?」
陽華は俺の顔を不安そうに覗いていた。
人と話す時に寝っ転がってるのは失礼か…
俺はそう思い、ベットに座った。
「違うよ、ただ土手で足滑らしただけ、気にすんなよ。」
陽華は少し寂しそうな笑顔を浮かべ「そっか」と呟いた。
「それにしても、父さんさ、僕を見習うなんて…見習うのは僕の方なのに……」
お前は見習うことなんてねーだろうよ…
2年生にして、学校一の成績で生徒会長を務めている。運動神経も良く、人当たりもいい、まさに完璧人間と言っていいだろう。しかも、人を思いやることの出来る優しい心の持ち主で、ホントに俺と血が繋がっているのかわからないくらいだ。
「お前は、頭も良くて、運動もできて…見習うことなんてないだろ…w」
「そんなことないよ!」
と、急に大きな声を出した陽華。
「僕は、兄さんのことを尊敬しているんだよ?兄さんみたいになれたらいいなって…僕は全然ダメで…兄さんはたくさん努力しているし、僕はちゃんとわかってるよ。きっとこれから成績だって伸びてくるよ!」
「は?なにがわかってるだよ!なんにもわかってねーじゃんか!ふざけるな!お前は、俺より何でもできるじゃないか!勉強も、運動も、人間関係も!俺より、全部上手くやってる。父さんだって、母さんだって…俺の存在は認めてくれない。お前はいいよな。父さんとも、母さんとも、笑顔で話せて!俺は、なにをしても怒られて…なにをしても認めてもらえなくて…お前が俺を見習う?バカにするのもいい加減にしてくれ!」
はぁ…はぁ…はぁ…
「あ…陽華…ごめ…」
俺がそう言いかけると、陽華の目から涙がこぼれた…
「僕は…兄…さんに…元気になって…ほしかったから……」
そう言うと陽華は走って部屋から出ていった。
「はぁ…」
つい感情的になってしまった…
俺は、陽華になんて酷いことを言ってしまったんだろう…
そんな気持ちが下がったまま、俺は眠りについていた…
翌日、起きてすぐに2階から降りてリビングに向かう。
辺りを見渡すと誰もいなかった。
いつもなら母さんと陽華がリビングにいるんだがな…
まだ朝5時、父さんも母さんも仕事ではないはずなんだが…
陽華はまだ部屋にいるのか。
そう思い、陽華の部屋を覗いて見たが陽華の姿もない。
不思議に思い少し外に出ると、家から少し離れたところに人だかりができている…
ちらほら警察らしき人も見えた。
事故でもあったのか…?
気になったので俺は見に行くことにした。
「あ、あのぅ…どうしたんですか…?」
お向かいの原口さんがいたので、恐る恐る聞いてみた。
すると原口さんは、慌てて
「あ、あら、陽葵君じゃないの!事故があったよの!」
「は、はぁ……?」
なぜ、そんなに慌てて言うのかよくわからないな…
「あなた知らないの!?事故に遭ったのは陽華君よ!お父さんかお母さんから聞いてないの?」
「え……」
陽華が事故…どうして…
もしかして昨日の夜…あの後、一人で外に行ったのか…?
俺の……せいだ……
「原口さん!何処の病院いったかわかりますか!」
「たぶん、お父さんの病院じゃないかしら」
「わかりました、ありがとうございます。」
俺はそう言うと軽く会釈をして、タクシーを止めた。
「伊集院病院まで、お願いします。急ぎで!」
俺のせいで、陽華が事故に…
どうすればいいんだ…
陽華…陽華……どうか…死なないでくれ……
そう考えていると、タクシーは病院へ着いた。
急いで階段を駆け上がり、陽華の病室へ向かう。
そこには、父と母の姿があった。
「父さん、母さん…陽華はどうして…」
「あぁ…陽葵か…陽華は昨日の夜、泣きながら家を飛び出して行ったんだ…夜中家に帰る途中に事故にあったらしく、3時くらいに病院から電話がかかってきてな。陽華がうちの病院に運ばれてきたと…」
やはり…そうか…昨日の夜……
「昨日の夜、陽葵が陽華になにかしたんじゃないの?じゃなきゃ、この子が事故に遭うなんてありえないわ!」
そう泣きながら母が言った。
「お、俺…?少し陽華とは喧嘩しちまったけど…」
「やっぱり…貴方のせいだわ!陽華がこんなになってしまったのは、全部貴方のせい!後遺症が残ってしまったら、貴方はどう責任取るのよ!陽華は将来有望だったのに…いっそ貴方が事故に遭えばよかったのに……」
「こら、喜美子。公共の場で大声を出すんじゃない…」
やっぱり…俺の…せいか…
俺の…俺の…
「俺…帰るわ…」
俺のせいで…陽華が……
俺の…せいで…
そう考えながら俺は何故か病院の屋上にいた。
もういっそ、飛び降りてしまおうか…
俺が死んで悲しむ人なんていない。
「兄さんのこと尊敬してる!」
そう言ってくれた唯一の弟も、もしかしたらもう…この世からいなくなってしまうかもしれない…
それならいっそ…俺も死んでしまおう…
そうだ…死ねばいいんだ…
…死ねば…楽になる…
全てを捨てて死んでしまえば…この苦しみからも解放される…
「はは………結局、最期までダメな兄貴だったな…」
そう言い残し、俺は屋上から飛び降りた。
落ちていく体、震える手。
俺は意識を手放した。
これで俺の人生は幕を閉じた。
はずだった……
「う゛ぅ…う゛……」
目が覚めると、俺は知らない部屋にいた。
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